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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『戦場の使節団』

アメリカ政府とロシア連合の特使をカインへ送るため、再び超次元空間へ飛び立つ〈あまてらす〉。ランドーは政府の交渉とカインの情報を得る為、〈あまてらす〉が空間接続をした時、物理安全検査に使用する金属棒に通信受信器を仕込む。そして、〈あまてらす〉から政府の要人を送り出すとき、ランドーは発信器を仕込んだ1セント硬貨をアメリカ政府の補佐官、クラウディアの上着のポケットの中へ忍ばせる…


『戦場の使節団』




「また飛べと言うのですかっ?! しかもカインにっ!此処は戦闘宙域ですよ。」、と五十鈴はモニターを覗き込む様にランドーへ迫った。


{ その辺りはアトランティスの作戦司令部が調整を行う筈だ。カインとの会見時間は三時間に設定して置いてくれ、発進は40分後だっ。 }




ランドーはチャンネルを閉じると使節団の方へ向き、準備が整い次第案内すると伝え、部屋を出た。


ランドーは急いで〈あまてらす〉へ走り、艦橋内の五十鈴に次の事を聞いた。


「〈あまてらす〉には私も同行する、リベレーターの指揮は一時、火器管制のフスター少佐に任せる、………五十鈴宙佐、空間接続の時にどんな手順を踏むか教えて欲しい。」


五十鈴は少し頭を傾けたが、次の様に答えた。


「空間接続時には物理的な安全を確かめるために、先ず金属製の棒でオーバーラップする、……凡そ1500mm程の空間に棒を突っ込んで確かめます。金属棒に異常が無ければ……」、五十鈴が言い終わらない内にランドーは言った。


「その棒を貸して欲しいっ!」、ランドーの要求に五十鈴は訝しがったが、取り敢えずコックピットの後方へ走り検査用の棒をランドーへ渡した。受け取ったランドーは棒を確かめると、チョッと借りるっ!と言い艦橋を出て行った。



棒を持ったランドーはデッキステーションを尋ね、ライトニング中佐を呼んだ。


「急ぎだっ、AIMD(Aircraft Intermediate Maintenance Department :航空機中間整備部)のIM-1 (Staff Division : 生産管理スタッフ)に至急次に言う物を作らせてくれ、30分以内だっ!」


「この棒の先端に小型の量子通信受信器を組み込んでくれ、それと小型の発信器も要るっ!」、とランドーは急かした。


ライトニングは此等の製作の意味が分からなかったが、直ちにAIMD部門を呼び出し、ランドーに言われた物を作らせた。それほど時間は掛からず、2台の量子レシーバーの内、1台を分解し、必要な部品をドリルで穴を開けた棒の中に埋め込み、穴を金属で塞いで研磨した。もう1台は必要部品を取り出し、1セント硬貨を加工した薄い円形のケースの中へ仕込んだ。



正確に機能するか確かめた後、ランドーは再び〈あまてらす〉へ走り、棒を五十鈴へ返すと使節団の居るCIC後部の特待室へ向かった。



CICへ入ったランドーは、自分も〈あまてらす〉へ同乗してカインへ飛ぶ事をフスター少佐に伝えた。


「エッ! 艦長ご自身がですか?他の者に任せた方が………」、とフスター。


「〈あまてらす〉はリベレーターの機関だ、〈あまてらす〉が出ている間は当然、リベレーターはTXジャンパーは行えない。母艦のFAIとの連携を怠るな。3時間くらいで終わると思うが、その間は君がリベレーターの指揮を執ってくれ。……中島少佐も頼む!」、ランドーはフスターの肩を軽く叩くと、航法管制へ走り、中島少佐にも同じ様にした。




  ……………………………




特待室で待っていたクラウディアたちとロシア連合の特使は其々が持って来た資料の確認を行っていた。そこへランドーが戻って来た。



「〈あまてらす〉の準備が整いました、移動願います。」、とランドーは要人たちを引率してCICへ入った。CICに居た者は、いったん手を置き全員敬礼した。その中で動力管制のバートル大尉は要人たちが行き過ぎると、チョッと頼むっ!といった感じで、横に居たマーク中尉(少尉より昇格)に対し片手で合図した。



全員が〈あまてらす〉艦橋へと続くボーディングブリッジを進み、ランドーは入口の横に立って要人たちを誘導した。その時、一緒に付いてきたバートル大尉はランドーの横に立った。


ランドーは要人たちが艦橋エレベーターカプセル内に入ったのを確認するとバートルに言った。



「どうしたっ、バートル大尉?…もう出なければならん。」


「艦長、TX機関の操作員だったエディが向こう(カイン)に居ると聞いています。どうか彼女を…」、とバートルはランドーに縋るようにしてお願いした。



「………分かった、出来るだけ情報は集めて来る。」、そう言うとランドーは踵を返し、カプセルへ走った。



要人たちですし詰めになったカプセルへ入ったランドーは、直ぐにドアを閉鎖し、カプセルを左側へ回転させてドアを開いた。カプセルは雪崩を打つように入っていた要人たちを艦橋内コックピットへ吐き出した。




あまりの狭さに要人たちは驚いた。


「Сможет ли один человек управлять таким огромным кораблём? Удивительно!」


(こんな巨大な船を一人で操縦できるのか!すごい!)、とロシア連合特使のルフシェンコは思わず声を大きくした。



「〈あまてらす〉は今から超次元空間へ向かいます。」、とランドーは五十鈴に発進を促した。




  ………………………………




CICへ戻ったバートル大尉は管制シートにドサッと腰を下ろし、背を仰け反らせて頭の後ろで両手を組んだ。


「大尉、何か有ったんですか?」、とマーク中尉は聞いてみた。


「いや、………お姉さんの事が…」


「お姉さん?……あっ、前に遁走したTX機関の操作員、エディ·スイングの事ですか?!……カインに寝返ったって聞いていますが。」、マークがそのように言うとバートルはマークの方を向き眉をひそめた。


「寝返った……かっ、………確かに艦から出たのは確かだ。だけど自分はずっと彼女を見てきた。自分は今でもお姉さんが好きだ、遁走したのはリベレーターの実戦に耐えられなかったから、と聞いている。リベレーターを恨んでカインに付いた訳じゃないっ、と俺は考えている。」、マークはフゥーンッといった感じで聴いていた。


「好きな人、……ですか。大尉が羨ましいな。自分は病気持ちだから……」、そう言ってマークは胸ポケットにしまい込んでいたマーベリット大尉の黒い下着を出してそれを見た。バートルはマークに近付くと、それを余り表に見せるなっ、と注意した。


「マーク、それは自分の部屋で楽しめ。この事は兄ちゃんのフスター少佐には言っていないそうだ。」


マークの顔は血の気が引くように青くなった。




      ◆




超次元空間へダイブした〈あまてらす〉はカインの波動の検出に成功し、次に空間接続のシーケンスへ入った。


「波動検出、……案外簡単に見つけれた。超次元の深度も前と変化なし、………空間接続、シーケンス開始っ!………接続点、周囲を確認、……障害物無し、…空間オーバーラップッ、1350で固定。接舷開始、……空間ドッキングON !!………艦橋右舷ハッチ開口!」、チェックリストを一通り確認した五十鈴は、後を向いて空間接続完了をランドーに知らせた。


ランドーは接続の物理的な安全を確かめる、と言うと例の金属棒を持って五十鈴と共にエレベーターカプセルへ入った。


カプセルのドアが閉鎖され、カプセルが右側へグルンッと回転し、再びドアが開かれた。3m先には白く光る靄の壁の様なものが、外殻のエアロック開口部を埋めるように在った。


ランドーは五十鈴に安全確認手順を尋ねた。


「先ず、持っている金属棒を白い靄の中に突っ込んで、ゆっくり掻き回して下さい、絶対に手は突っ込まないで下さいねっ!空間に断層が有ると、手を持って行かれますから。」、と五十鈴。


ランドーは言われた通り慎重に作業を行なった。引き出した棒の表面に傷や材質の変化が無いか、五十鈴は慎重に確かめた。ここでランドーは次の事を尋ねた。


「この白い靄は通信を通すか?」


「このオーバーラップ空間は波動です、物理空間じゃないので多分、…通信は出来ない…」、と五十鈴は答えた。ランドーは頷くと五十鈴が持っていた金属棒を取り、それを再び白い靄の中へ深く差し込み、棒を床へ置いた。


「これで良いか、………五十鈴宙佐、悪いがこれは触らないでくれ。」、とランドー。五十鈴は先の会話でピンッと来たが指示に従った。


その後、ペリスコープで外側を調べ異常の無いことから、ランドーと五十鈴は艦橋内で待っていたアメリカ政府とロシア連合の使節団をカインに送り出した。ランドーはクラウディアの後ろに着くと足元がよれてふらつく様な仕草で、意図的にクラウディアに寄りかかった。このときランドーは例の1セント硬貨の小型量子通信器を彼女の上着のポケットへ滑り込ませた。



この時、クラウディアの視線が一瞬鋭くなった。




(………見つかったかっ?!)、ランドーは一瞬固まった。




「チョっと、……何やっているのっ!!」


「失礼、……狭いので足が縺れてしまった………では気を付けて!」、とランドー。



一人づつ白く光る靄の中へ消えて行く特使たちをランドーと五十鈴は敬礼で見送った。







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