『首脳会談の盗聴』
カインとの会談を盗聴器で傍聴するランドー。そこには日立宇宙工廠で脱走した風早志門と、その妻であるカインの女性ミカと元リベレーターのTX機関操作員、エディ·スイングの姿が在った。
ランドーが傍聴する中、カインとの意見は折り合わず、アメリカ政府は遂に力の外交へとカードを切り出すが、その時、先の空間接続で行方不明となった日本防衛省の副大臣、和泉総司郎が姿を現す。
『首脳会談の盗聴』
特使たちが全員、白く光る靄の中へ消えるとランドーはコックピットのサブシートに腰を下ろした。彼の頭の中では、既にアメリカ政府とロシア連合大使がカイン側の者と話す声が、カイン側の空間に突き出した棒の中の量子受信機からニューラリンクを通して聴こえていた。
ランドーはその声に集中する為、五十鈴宙佐をキャビンで休むように言った。
「五十鈴宙佐、君は後方のキャビンで身体を休めてくれ
、君は働き詰めだ、本当に申し訳ない……」、ランドーがそう言うと五十鈴は承知して艦橋後方のキャビンへ向かった。
(これで向こうの会話に集中できる、……カインは何を話すのだろう、……エディは居るのか…)
ランドーが聴くところ、彼等は何処かの会議場のような所に連れて行かれたようだった…
(しかし、奇妙だな、……足音以外、ドアを開ける音も無いし、会話の声しか聴こえないというのは?…)
その内、カイン側の声が聴えてきた……、それは中心者の代表の女性以外の声で数名が部屋へ入り、椅子のような物に腰を下ろす音だった。
[ こちらはアベルの特使たちだ。これらの者は志門、ミカ、お前たちの旧世界で行った事と、現在の世界が新しく創り出された事を 既に情報で知っている。今回は先の会談で窓口を一つにするよう私は伝え、彼等はその様にした、……ここから先は重要な会談になる、その為に君達も呼んだ……]
(司会者か議長かっ?……声は若いが威厳のある声だ。……志門?、あのTR-3Dの中で拘束した男かっ!? それとミカというのはカインの女で彼のワイフだったな……)、とランドーは心の中で呟いた。
[ それと、………もう一人、証人を呼んで置いた。エデ·スイ………、何とかだったな? アベルの名前は分かりにくいっ!]
[ いい加減に覚えてくださいよっ、エステル政務執行長官!! ]、とミカの声。
(カインの代表者はエステルという女か……)、とランドー。
その後、別の女性の声が聴こえた…
[ 私は元、アメリカ統合機動宇宙軍のSCV-01、リベレーターのTX機関操作員をやっていたエディ·スイングという者です。 ]
(エディッ!! エディーッ!……)、彼女の声を聴いたランドーの胸は思いで熱くなった。それは彼がリベレーターでエディに行った事とは真逆な気持ちだった。この時、ランドーは土星宙域で高次干渉を受けたときの自分の言葉と気持ちが現在と被った。
(エディは確かに此処にいる…)、ランドーは直ぐにでもエディに会いたい気持ちを抑えた。
(すぐ隣の空間にエディは居る、………だけど自分は聴かなければならない重要な事がある、それは政府がどう対応するかだっ!)
エステルという女の声が聴こえた…
[ 我々の提言に素早い対応をしたのは一定の評価は出来る、………だが、それは本物なのか、アベルよ。 ]、とエステルの冷たい声が響いた。
[ アメリカ政府の置かれている状況、敵性異星人の脅威はロシア連合でも同じです。その為、我々アメリカ政府は急ぎロシア連合と連絡を取り、両連合の大使を立てた…… ]、とクラウディア。横に居たアメリカ政府の高官が言った。
[ 私は大統領の命を受けて此処に来た、……私は副大統領のエバンスです。私は大統領から全権を託されています。 ]、と政府の高官で副大統領のエバンスはエステルに答えた。
(あの政府の高官は副大統領だったのかっ!)、とランドー。
エステルはフゥーンッ、といった感じで聞くと、更に横に居た者に尋ねた。
[ で、そっちは? …]
[ 先ず、こうしてお会い出来た事に感謝を申し上げたい。私はロシア連合大統領から大使を委任されたルフシェンコです。先にアメリカ政府の代表が言ったように、我々も国から全権を託されて此処に来ました… ]、とルフシェンコの声。
[ 其々の代表が並んだだけか、………これでよく窓口を一つにした、と言えたものだなっ!困っているから取り敢えず妥協したんじゃないかっ。 ……志門、お前は何か言うことはないか、お前が創った世界だ、…]、エステルが冷たく響く声で言うと、志門が腰を上げる音が聴こえた。
[ あのぅ、………クラウディアお姉さん、もう、やめない、戦争…… ]、と志門の声。それを聴いたランドーはハァッ、といった感じになった。
(こいつっ、何かメチャクチャ頼りない奴だな!?)
[ 久しぶりね、風早志門。今の言葉、我が国が一方的に戦争しているって感じ、気に入らないわね、坊や、… ]、とクラウディア。
[ いや、だから坊やじゃないんだけど、……結婚して子供も居るし… ]、と志門。
ここでロシア連合の特使であるルフシェンコの声が割って入った。
[ この場で言いたくはないがハッキリさせておくために敢えて言おうか、……我々ロシア連合はアメリカ政府が仕組んだ戦争に踊らされただけだっ!我が国は自国の主権を守る為に戦ってきたのだっ!! ]
[ ………ミカ、それとエディ、お前たちはコイツらに何か言うことはないか ]、と少し呆れたような声でエステルは言った。
[ ………こんな事が無ければ私は志門と、……果南と一緒に楽しく暮らせたのに……… ウゥゥ…ウワァ…ァァ…]、とミカの嗚咽か聴こえた。この嗚咽にランドーは何かの違和感を感じた。
(こんな事、…無ければ!? 果南、……確か風早空佐は孫と言っていたな、この背景に何が有るんだっ?)
[ ミカさん、………貴方たちっ‼、アメリカもロシアもどれだけ人を不幸にしたら気が済むのっ! 戦争に自由と平和も主権も無いっ!これから亡くなる者の命を返せっ!! 今、戦争が終わらなければ亡くなる者は二度と生き返らないっ!]、とエディの激怒の声が室内に反響した。
霧壁から微かなノイズが漏れ、幻聴のようにエディの声が重なる‥‥
(これから、……亡くなる? 一体、どういう意味だっ?!)、とランドーは思った。
暫くの間、沈黙が漂った……
[ 戦争を………止めるつもりが有るのか? ]、とエステルは特使たちに聞いた。だが、特使たちは答えなかった…
[ なるほどな、………止めれるかどうか、迷っていて答えが出せないのだな。来たときに、お前たちの額に埋め込んだクロスライザー(交感器)がそう伝えている。アベルの遅れた社会では武器を放棄 出来ない、と言う事だな………哀れだ。]、とエステルは続けて言った。
パンッ、と誰かが膝を打つ音が聞こえた。
[ エステル政務執行長官、我々は既に此処に居るのだよ。 ]、と副大統領のエバンスは言った。
[ 何が言いたい? ]、とエステル。
[ 我々はカインと空間接続を果たした。既にその技術は確立している。 ストレートに言うっ、カインは開国しなければならないっ! ]、とエバンス。これを見たロシア連合のルフシェンコは手で頭を押さえた。
(アメリカ人の頭はアップデートしないのか…終わりだ。)、と彼は思った。
エステルは眉間に皺を寄せた。
[ それは力で開かせるという意味かっ! ]
[ そんな事は言っていない。我々はいつでも来れるっ、という意味だ。 これは広範な意味で受け取ってもらいたい。]、とエバンスはニヤリとして返した。
エステルは目を細め、やや青い顔は更に青くなった。そして唇を震わした。それは周りの者の目にも明らかだった。
ここでカツッカツッという革のビジネスシューズの足音が聴こえた。ランドーはそれを聴いていたが、その音質は女性ではなかった。
[ エバンス副大統領、アメリカは相変わらずパワー外交ですね。 ]
(この声はっ!?)、とランドーは思った。
[ 貴方はっ、……Mr.和泉!! ]、とクラウディアの驚いた声が聴こえた。
[ いやぁーっ、この前は事故で迷子になっちゃってw ……こっちの方に助けてもらったんですよぉーっw]、と笑いながら彼は更に続けて言った。
[ アメリカとロシア、そしてカインもお困りのようだ、…… 私は良い提案を持っています、これは此処に居る者にとってメリットしか有りません。私を日本政府の代表者として、この話を聞いて頂けますか?]、と和泉。ロシア連合のルフシェンコは頷いた。
[ ウムッ…こういう時、第三国の仲介は必要だ。聞こうじゃないか、アメリカ政府はどうか? ]
[ ヴゥ、…日本政府の正式なコメントとして認めないが、………一応、聞こうか。 ]、とエバンスは言った。
[ さすがは政府の首脳、そう来なくてはっ! ]、と和泉。
ランドーは彼の話そうとする事に聞き耳を立てた。




