『SCV-01 リベレーター大改修』
乗組員たちは過去の記憶を胸に、遂にSCV-01リベレーターの大改修が始まった。
SCV-01は、超次元の連続航行が可能な、防衛省の最新鋭艦〈あまてらす〉と、艦長、五十鈴 摩利香一等宙佐と、リベレーターCICでは、新しく科員を迎え、深宇宙へ向け、出撃の準備が始まる。
『SCV-01 リベレーター大改修』
リベレーター改修の決定は日立宇宙工廠とグアム統合機動宇宙軍工廠に伝えられた。
これを受け、日立宇宙工廠の赤松三等宙将は〈あまてらす〉の艦長、五十鈴一等宙佐と工廠技術部の寺坂 巧二等宙佐と合議を行なった。
〈あまてらす〉自体は殆ど改修する部分は無かった。もし、有るとすればSCV-01リベレーター側、厳密に言えば艦統合AI(SAI)とのインターフェースとリベレーター艦体との接続固定と艦体形状の超次元波動再設定が〈あまてらす〉側に求められた課題だった。
「リベレーターとのインターフェースは概ね問題は無いと思います。同期できない部分はイベントドリブンとして自動起動するように出来ます。 殆どが向こう側の改修要件に当てはまります。」、と五十鈴は言った。
隣に居た寺坂二等宙佐は次のように説明した。
「既に〈あまてらす〉の艦体形状データーはグアムの統合機動宇宙軍工廠に送っています。 〈あまてらす〉との接続は、日立工廠内の物と同じにする必要が有るのでガントリーの情報も含んでいます。」
赤松はフゥーッと深く息を吐いた。
「こうも簡単に向こうの言い分をのみ込むとはな………政府(防衛省)の役人め!…………〈あまてらす〉は超次元技術を用いた固定砲台の筈だった。それは日本の深宇宙防衛ガイドラインにも合致するものだ。 それを別の船に乗せて戦うなど、自分たちも前衛的に戦っています、と言うのと同じだ、………それが、例え動力であってもっ!」、と赤松は不満を漏らした。
「まさか、艦自体を動かす事になるとは、…………寺坂さん、接続作業は慎重に行なうよう、グアムの技術者たちに伝えてください。〈あまてらす〉の艦体外殻はTXマテリアルでコーディングされています。僅かな傷でも、安定した超次元航行は不可能です。」、と五十鈴は不安を吐露した。
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一方、グアム統合機動宇宙軍工廠では、責任者のM·アンダーセン提督(中将)が待っていたかのように、リベレーターの改修作業を開始させた。
日立宇宙工廠から送られた〈あまてらす〉のデーターを工廠内の作業AIとリベレーターの艦統合AI(SAI)にリンクさせ、最適な改修プロセスを構築させた。この結果、SCV-01リベレーターの改修は僅か三週間足らずで完了する、……………だが、それに対し要員の習熟訓練は艦の改修期間を軽々と超えた。
リベレーターの乗組員の殆どの者は、SAIや艦内機器のニューラリンクに対応する為、頭部に特殊なチップを埋め込んでいる。今回は〈あまてらす〉に対応するため、情報のバージョンアップが行われた。しかし、実際のワークとして時間が充てられない状況では、完全な習熟とは言えなかった。
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改修作業開始と同時に、乗組員たちはリベレーターに戻り始めた。改修作業の中で一斉に帰還すると艦のシステムに問題が出る為、各科責任者から順次、艦へ戻る事がSAIによって伝えられた。
CICでは動力管制のレオン·マーク少尉とスタンリー·バートル中尉が居たが、中尉は、誤射による肩の銃創が完全には癒えていなかった。
また、改修に伴い、航空団の編成が大幅に変わった。
月、地球間の静止軌道上の戦闘で、高次元UFOに対して戦闘攻撃機のSF-51GムスタングⅡの性能が及ばない事から、殆どの噴進式航空機が艦から降ろされた。同時にパイロットの多くが艦を降ろされた。
元が航空団所属のバートルとマークの心境は複雑だった。
火器管制には、前と同じく、フスター兄妹のマーベリック少佐とマーベリット大尉が就く…………、二人には戦績を鑑み、階級が進められた。
続いて、操縦航法管制はルカ·中島大尉が引き続き着任したが、飛鳥 麗大尉の姿は無かった………
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CIC後方の艦長室では、ランドーと新しい航法科員が話し合っていた。
「元、イギリス防空軍、………階級は大尉………軌道型支援空母〈ハンプトン〉の航法管制の実務経験、…………ESTAC(European space Airlift Capability)の辺りからか………リリー·イングリット大尉、本艦の改修完了まで数週間だ。それまでに艦を動かせるようにしておいてくれ。余り時間は無い………」、とランドーは彼女に伝えた。
「はっ!」、そう言うと、イングリット大尉はランドーに敬礼した。その後、彼女は前任の飛鳥大尉の事について尋ねた。
「ランドー艦長、前任の飛鳥 麗大尉は統合機動宇宙軍のパイロットの中でも、相当優秀な人材、と聞いています、…………何故、席が空くわけですか?」
ランドーはフフッと笑い、イングリット大尉に聞いた。
「君は気になるのか?」
「相応の理由が有ると、私は見ています………」、とイングリット。
ランドーは椅子から立ち上がり、理由を話した。
「彼女は異星人の高次干渉を受けた………精神に、まだ問題が残っている。このまま、続けさせる事は出来ない。」
それを聞いたイングリット大尉は複雑な面持ちで言った。
「申し訳ありませんっ、余計な事を聞いてしまいましたっ!」
「構わない、艦を宜しく頼む。」、ランドーは彼女の肩に手を置くと揺すった。
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改修作業で先ず初めに行われた事は、TX機関動力室とシステムの解体撤去だった。
セクションを管轄しているバートル中尉は現場へ赴き、解体撤去の状況を確認していた。
かつて、機関操作員のエディ·スイングが入っていた操作カプセルと、その補機である人工生体脳(AQB-09)が入ったカプセルはレーザーで切断された。09は既に機能停止で生物学的に死んでおり、腐敗していた。
(エディ………、エディ、君は、今どこにいるんだ………)
本人が気付かない間に、彼の頬には涙の跡ができていた。
作業アンドロイドによって、撤去されるTX機関の残骸を見ながら、彼は心の奥底で失意と悲しみを禁じ得なかった。
彼はCICへ戻る途中、航空団のデッキステーションに立ち寄った。そこではチーフアンドロイドたちがセントラルデッキの改修作業を指揮していた。
その中に紛れて、二人の人間が居るのに気が付いた。
航空団の責任者、ジョン·F·ライトニング少佐とジャック·ハミルトン大尉だった。同時に目が合った………
「少佐………」、とバートル。
「中尉、お前とマークはCICにいて正解だったな、………お前も聞いていると思うが、航空団の三分の二はリベレーターから降ろされる………」、とライトニングは言った。
「機種転換は無いのですか? それでは航空優勢が維持できなくなります。TR-3Dの増機は………」
バートルが言い終わる前、少佐の隣に居たハミルトン大尉が口を開いた。
「噴進式の航空機は、もう時代遅れなんだ。この類の戦闘機の搭載は無い! あとな、………TR-3Dだが、あれは人間が操ることは出来ない。増機は無い!」
「前にランドー艦長とTX機関操作員のエディ·スイングが乗ってましたが………」、とバートルは訝しげにハミルトン大尉に返した。
「………その事は、もう聞くな。」、少佐はそう言うと、大尉と共に作業に戻った。
◆
起工から三週間後、艦内の改修を粗、完了したリベレーターは、日本の日立宇宙工廠から〈あまてらす〉の到着を待つばかりとなった。
艦体中央のセントラルデッキの二つの内、左舷Aデッキは〈あまてらす〉の格納定置のため、航空機の発着艦は完全に出来なくなった。
CICの全球スクリーンは接近する〈あまてらす〉を捉えていた。
火器管制のフスター大尉は識別信号を確認し、後方の統括指揮エリアのランドーに報告した。
「識別信号”F“を確認、SAI、識別目標とコンタクト! 艦体番号、JUDF-077………艦長、〈あまてらす〉です! 3次元基準飛行、毎時600kmで接近………艦の周囲に高エネルギーバリヤを展開しています。」
「かなり慎重だな………艦体自体の機動飛行は初めてらしいからな。………中島大尉、デッキステーションへ〈あまてらす〉の格納、接舷作業準備を下令!」、とランドーは操縦航法管制の中島大尉に発した。
中島大尉は、パイロットシートから腰を上げるとデッキステーションで現場の接舷を確認する旨をランドーに伝えた。
「了解した、イングリット大尉。暫くメインに就いていてくれ。」
ランドーは航法管制のメインに、新しく入ったL·イングリット大尉を就かせた。
今回のエピソードは少し長めになりました。SCV-01リベレーターの新たな物語の展開に期待していて下さい。




