『高次元精神干渉の恐怖』
異星人の高次元精神干渉がグアム統合機動宇宙軍工廠とSCV-01リベレーターの乗組員を襲う。ランドーは艦長室で豹変した航法管制の飛鳥大尉に襲われるが警護のアンドロイドによって難を逃れる。ランドーは格納庫へ走り、TR-3Dを起動させると大出力で高次ジャマーを発信し、高次元の干渉から艦を守る。
事態が収まった後、メディカルセクションで軍医のS·マーティン中佐が高次の精神操作と飛鳥大尉の容態についてランドーに語る。
『高次元精神干渉の恐怖』
艦長室の状況を監視していたSAI(艦統合AI)は危険と判断し、直ちにCIC警護のアンドロイドコンパートメントを開放して数体を艦長室へ走らせた。
艦の乗組員は殆どが下艦しており、ランドー自身も艦長室に居た為、警護はまだ無かった。
艦長室へ走り込んだ警護アンドロイドは二人を引き剥がした。それは強力にくっついているマジックテープを無理やり剥がす様な感じだった。
暴れ、奇声を上げる飛鳥大尉に警護アンドロイドは彼女の首筋にスタンガンを押し当てた。“バシッ”と音がすると、ようやく彼女は体をグッタリさせた。
ランドーは片手を床に突き、もう片方の手で喉を押さえていた。
「グェッ、ゲヘッ、………ゴホッ、ゴホッ………SAI、艦内警報発令っ、これは……グホッ、………異常事態だっ!」
対し、SAIは直ぐに警報を発令し、艦内各セクションにSSG(shipboard security Guard)を展開させた。
ランドーは警護に飛鳥大尉の拘束監禁を命じるとCICへ走り全艦の状況をSAIに確認させた。すると、艦内の六ヶ所で同時多発的に似たような事例が確認された。
「これは………高次元干渉だっ!艦の高次ジャマーは機能していないのかっ?!」、とランドーは叫んだ。
SAIはジャマーが人為的に切られたことを報告した。
{ 飛鳥大尉が火器管制エリアでジャマーを切っています。艦長がCICを出た直後です }
「ジャマーを発信しろっ、急げっ!」、ランドーは大声で発した。
{ システムに異常コードを確認。このままだと制御発信が出来ません!}
「クソッ!」、とランドーは吐き捨てるとCICからTR-3D格納庫へ走った。
ランドーはTR-3Dに乗り込み、起動させると高次ジャマーを大出力で発信した。
これにより艦内で暴れていた乗組員は崩れるようにその場に倒れた。
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この事はリベレーターの他、工廠内に於いても多発した。高次干渉防御装置を装備した機動宇宙軍の地上陸戦隊が駆けつけ、ジャマーを搭載した車両で基地(工廠)を囲い込む事でようやく事態は収まった。工廠内の設備被害は小規模なものだったが、高次干渉で精神操作された者の中には元の状態に戻らない者もいた。
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これらの報告を受けた統合機動宇宙軍本部は基地と外部との接触を制限した。
問題を起こした兵士、艦の乗組員は高次ジャマーで高次元からの干渉から守られた基地の外で、高次元からの精神操作を受け、そのプログラム通りに基地内に戻り、基地を防御するための高次ジャマーを停止させ、その隙を突き、更に高次干渉で多くの者を惑わした事が判った。
事態が落ち着いた後、ランドーはメディカルセクションへ行き、飛鳥大尉の状態を伺った。状況を受けた衛生科のS·マーティン軍医(中佐)は急ぎリベレーターに戻っていた。
「彼女の具合はどうだ、中佐?」、とランドーは尋ねた。
「分からない………暫く音響治療を続けた方がいい。精神操作された時の影響は後で出るかも知れません。」
マーティン軍医は深刻な表情で次のように説明した。
「高次元の精神操作は人間の思考を変えてしまう。本人の人格を書き換える………例えで言うと小説家が登場人物の性格を好きなように出来るのと同じです。高次ジャマーは一時的な防御手段に過ぎない。TXジャマーのような指向性の攻撃エネルギーじゃない………」
マーティン軍医は顔を上げるとランドーの方を向いて聞いた。
「あの状況で艦長は大丈夫だったのですか?」
「私はグレムリン(高次多用途センサー)を持ち歩いていた。高次干渉を受けると自動でジャマーを発信する………偶々だが運が良かった。」、とランドーは答えた。
「もう一つ、艦長に訪ねたい事が有ります。彼女と艦長が揉み合う前、彼女は何か言っていませんでしたか?」、とマーティン。
「確か彼女は、艦長は私が嫌いですか?…………と言っていたと思う。」、とランドーは言った。
マーティン軍医はフウ〜ッとため息を吐いた。
「艦長、今から私の言う事をオカルトと思わないで下さい。高次元からの精神操作に最も影響を受けやすい状態は無意識状態か、逆に何かに没頭している時なんです。これは軍総本部の高次元医療対策チームの研究結果で裏付けられています………私が思うに彼女、飛鳥大尉は艦長の事が何かの理由でずっと心に引っ掛かっていたんじゃないですか?」、とマーティンはランドーの目を見て真剣な面持ちで語った。
「言った鼻先を折るようで悪い………まるで昔の悪魔憑きみたいな話だが………彼女に対して私はどう対応すればいいんだ?」、とランドーはマーティンに尋ねた。
「出来るだけ彼女の言う事を受け入れて下さい。あの時、彼女が艦長を襲ったのは、恐らく………拒絶か否定された部分に精神操作が激しく行動として発動したんじゃないかと………」
「分かったよ、中佐。」
そう言うとランドーはテーパーで仕切られた隣のベッドスペースへ移動した。
ベッドで横たわっていた飛鳥はランドーの気配で、ゆっくり目を開いた。
「ランドー、………艦長。私………何であんな事を………」、と飛鳥は力無く呟いた。
ランドーはこのとき飛鳥に対し、艦長ではなく個人として自分の言葉を伝えた。
「君にはすまなかった………私は艦長の肩書でずっと自分の気持ちを欺いてきた。 だけど、目が覚めた。飛鳥、君が本当の私を呼び起こしてくれたんだ。」、ランドーは飛鳥の目の奥へ語るように、静かだが確かな声で言った。
二人の間に無言が続いた。それに終止符を打ったのは………
飛鳥はそっと両手を差し出し、ランドーもそれに応じた。
「今度、あんなこと言ったら、私の意思で貴方の首を絞めますからね………ランドー艦長。」、と飛鳥。
「分かった………」、とランドーは彼女の耳元で囁いた。
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日立宇宙工廠にはランドーによって拘束された風早志門と、その妻で月の者であるミカ·エルカナンの審問の為、アメリカから軍総本部と政府の特別チームが訪れていた。




