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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第一部 [火星、月地球間軌道戦闘編 ]
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「ロバートソンの決意」

提督室内で今後の戦闘の方向を話しあうロバートソンとランドー。その後、ロバートソンは地上の作戦司令部とのコンタクトで司令の山元一等宙将と話し合う。そこでは政府と月の異星人との交渉を急ぐ事と戦闘に際し、交戦規程の適用が求められたが、山元一等宙将は後者については現場の判断に委ねる事を告げた。

ロバートソンは艦内の核兵装をウェポンズフリーの状態から除外する事を艦長のランドーと火器管制のマーベリット・フスター少尉に命じた後、艦内の状況視察を行うためCIC下層の居住エリアへと下って行った…

「ロバートソンの決意」



暫くしてランドーがCICへ戻って来たが、余り良い顔はしていなかった。


「どうだった、得るものは有ったかね?」と私は彼に聞いた。

「はい…二人にはTX機関の動力室へ戻るように言っておきました。彼女の説明は聞きましたが……難しい話です。」とランドー。



彼はまだ十分に納得できていないようだった。私はランドーを連れて提督室再びへ戻り向かい合った。



「今後の方向を話しておきたい。今回得られた情報は既に作戦司令部へ送ってある。恐らくだが司令部は間もなく我々にコンタクトを求めてくるはずだ……そこで話を進めようと思っている。」と私は言った。


「どのように話を進めるのですか?」とランドーは聞いた。



私はポケットから電子煙草を取り出し吹かした…それを見た彼は、また吸ってるな、と言う顔をした。




「悪いな、極力控えたいが、こういう状態が続くとどうしてもな……話の続きだがエディから聞いた通り月には人間らしきものが居る、ドローンの偵察で物的証拠も揃った。彼等は我々の “Thing X” の類でUFOを建造している、その運用は遥かに先進的だ。これ等を相手に正面から立ち向かうなら、我々に勝算は無いのは明白だ。これが私の意見だが、君が思うところを聞きたい。」と私は一端、話を区切り彼に思うところが有るか尋ねた。




戦術OPオプションは幾つか考えられます。本艦最大の戦術兵器BS(ブレイクショット:指向性破壊波動放射)と重粒子線砲、それと巡航ミサイル、宇宙艦発射弾道弾(SSLBM:Spaceship Launched Ballistic Missiles)、後はAGM弾頭の核換装など‥‥これらの使用に於いて制限は設けられていません。オープンファイヤの状態です。」とランドーは言った。



「そこだよっ! 対異星人戦闘はもはや土俵の違う戦いだ。例えるなら手漕ぎボートで弓矢か槍を持って現代の攻撃型潜水艦に挑むようなものだ。このような状態で交戦規程など設けていないのも頷ける…だがっ!」と私はそこで話を止め、煙草の加熱器に新しいカートリッジを差し込んだ。そして、フウ~ッと深く吸い込んだ。



「相手が人間ならどうか…交渉すら行っていないなら。」と私は言った。

「いきなり戦闘に踏み切る事はないでしょう…」と彼は答えた。


「そうだ、しかし政府はそれを踏み越えて攻撃を許している。我々は多大な犠牲を払う事になるだろう…それは現場に居る者として絶対に避けたいっ! 私は作戦司令部と軍総本部(ペンタゴン)を通じて、先ず交渉を行うよう政府に勧めるつもりだ。」と私。


「政府が聞きますかね…」ランドーは疑心暗鬼に言った。



「これには時間が掛かると思う。その間、本艦は先制的且つ壊滅的な攻撃は極力避けたい。向うが本気で我々を潰しに掛かってくれば話は別だが…」と私が言い掛けたところでCICから声が入った。




{CICより提督、作戦司令部よりコンタクトを要求して来ました。}


(来たか…)と私は思った。




私はランドーをCICへ戻るよう指示を出した後、通信回線を開いた。壁のモニターに山元一等宙将の姿が映る。私は敬礼すると椅子に掛けた。


{ドローンオペレーションの結果は確認した。この情報は機動宇宙軍のカーネル・リードマン大将を通じて軍総本部(ペンタゴン)へ送られる…ここから先はまだ分からない、時間が掛かると思う。次の指示が出るまで貴艦は通常通り戦闘を展開するように。}と山元一等宙将は言った。



「司令、先ず通常の交戦規定を適用して欲しい。今の状態、ウエポンズフリーであれば核を使うような壊滅的な攻撃も可能な状態にある。しかし相手は人間だっ、しかも科学的格差は開き過ぎている。先制攻撃を仕掛ければ我々は確実に負けるっ!」私は司令に向かって叫んだ。



{現在の状況で交戦規程の適用は出来ない。作戦司令部の判断でそれ(核兵器等)を使え、とも言えない、これは現場の判断に委ねる……ロバートソン准将、今私が言えるのはそこまでです。}と山元一等宙将は答えた。



「現場の判断で良いのですね。分かりましたっ! それでは本艦は自艦の安全を優先しつつ戦闘を継続します。  早い段階で次の良い指示を待っています!」




私は山元一等宙将は互いに敬礼した後、通信回線を閉じた。




    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥




CICに戻った私は直ぐに艦長のランドーと火器管制のマーベリット少尉に指示を出した。



「艦内兵装で戦略、戦術核弾頭の使用は現在のウエポンズフリーの状態から除外する。攻撃に際しては通常弾頭及び重粒子兵器、TXエネルギー兵器に限定する。作戦司令部とコンタクトの結果、運用は自艦の判断に委ねる、と言う事だ。  他の理由として月面環境では地上ほどの破壊効果が出ない事と月面と月軌道上に放射性残留物による汚染と長時間の電磁障害を起こす可能性が有る!」



二人とも私の指示を了承した。


「提督、優れた状況判断です!」とマーベリット・フスター少尉は言った。


ここで私は動力管制に居たマーク少尉に艦の復旧状況を聞いた。

「修理可能箇所に限り、凡そ70%が修理を完了しています。」とマーク少尉は答えた。


(残り三割…まだ戦えるな)と私は思った。


「私は艦内の状況を巡察してくる、艦長、君は引き続きCICで指揮を頼む……」私はここで飛鳥大尉の言った事を思い出した。


「体調を崩したと聞いている。緊急以外はSAIに任せよ!」と私は言ったがランドーは次のように答えた。

「既にラインは引ける状態ではありませんよ。」




私は警護のアンドロイドを四体伴ってCICを出た。


まず最初に下層部の航空、陸戦団の居住エリアを見て回った。最初に陸戦団の居住エリアの通路を歩いていたが部屋からは時々、悲鳴や奇声が聴こえて来た。それを聞いた私はエリア責任者のシャーマン・ライト少佐の部屋を訪ねたがそこに彼の姿は無かった。


(何処だ?)そう思った私は警護のアンドロイドに尋ねた。


「SAI、陸戦隊のライト少佐は何処か⁉」

アンドロイドはSAIリンクで彼の居場所と同時に陸戦団員の所在、今どの辺りに集中しているか答えた。


「ライト少佐はエリアラウンジに居ます。陸戦団員の約30%は各個室、35%は艦内各所、5%は陸戦団作戦室に…」

「もういい、ありがとう」そう言い私はアンドロイドの口を塞いだ。



陸戦団と航空団のエリアに挟まれる形でサービスエリアがある。様々な店の中に一際広いラウンジが在り、その中へ私は入った。多くの者の声で溢れていたが、気が付くと全員が私を注視し立ち上がると敬礼した。


「皆、ご苦労。続けて寛いでくれ!」そう言うと全員椅子に座り、元のように会話を始めた。


私は奥へ進み、そこでライト少佐が一人で居るのを見つけた。彼の顔色はとてつもなく悪かった。

「ライト少佐…」と声を掛けると、彼は今気が付いたみたいに私の方を振り向いた。



「ご苦労、巡回で通りかかったものでな。 あまり気分が良くなさそうだが…例のアレか?」と私は聞いた。

「酷いものです…陸戦隊では三割近くが衛生科へ係っています。私もですが…酷い者は衛生科の方で隔離されている者もいます…」とライトは答えた。


「君たちが一番不安に思っている事は起きないから安心してくれ。私がそうさせないからだ! ほかの隊員にも伝えてくれ。」


私は彼等の見る悪夢の月面進攻という直接的な言葉を回避しながら彼に伝えた。それを聞いたライトは表情が次第に緩んでいった。



そこへ注文を受けにサービスアンドロイドが来た。機体番号は023号――とても綺麗に仕上げられたアンドロイドだった。


「提督、ラウンジへようこそ。ご注文は…」途中でライトが割って入った。

「サンディ、提督は現在、艦内を巡回中だ。」


「サンディ…サンディか、良い名前だ。 それでは少佐、私は行くとしよう。」


私は腰を上げると023号と入口の方へ足を運び、そこで023号へお願いをした。


「サンディ、お願いがある。ここへ来る陸戦団と航空団へ奢ってやって欲しい。」そう言うと私は胸ポケットからシップカードを取り出して彼女に渡した。


「こちらで預かりっぱなしですか? 提督が困るのでは…」とサンディは言った。


「必要な物は提督室で定期的に交換補充されている。私には此処へ来る機会は殆ど無い……そうだな、戦闘が落ち着いたら、また来よう!」




私はラウンジを後にした。





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