「人工人と人間」
提督室ではエディが話を始める前にTX機関の管理責任者のシュミットが彼女の現在までの経過をランドーに説明する。そこにはランドーが知らなかったエディの超常的な能力についても語られる。傍らでドローンオペレーションで得られたデータ―をSAI(艦統合AI)で解析するロバートソン。
CICへ戻ったロバートソンが目にしたものは艦長のランドーを巡って問題を起こしている各科士官の姿だった…
「人工人と人間」
ここでシュミットがエディとランドーの間に入りランドーに言った。
「これから彼女が話す事は架空の物語ではない。艦長、貴方にはそのつもりで聞いて欲しい…彼女が話す前に私は彼女について話しておきたい事がある、が…」
シュミットはそう言うとフスター大尉の方へチラッと視線を向けた。フスターはそれに気が付いた。
(これは何か訳が在りそうだな…)
私がフスター大尉に声を掛ける前に彼は席を立った。
「提督、艦長。私は必要な事項は確認しました、CICへ戻ってもよろしいでしょうか?」とフスター。
私は頷いて退室を許可した。フスター大尉はザッと敬礼した後、部屋を出た。
(彼は賢い人間だな…)と私は感じた。
「ありがとう、気を使わせてしまったな…」
シュミットはフスターの行動に対し感謝した。そして、続きを語った…
「先ず、彼女の経歴について艦長はよく知っていると思う。君(AH-01)が作られた時に君の予備体として彼女(AH-02)も並行して作られた。暫くはジェネラルバイオエレクトリック社に君も居たが君はSCV-01(リベレーター)の専用指揮官として軍へ、彼女はTX機関の操作員として社に残った。 その間は暫く疎遠になってしまったな…。今日に至るまで彼女には多くの変化が有った、これは君が知らない事だ。TX機関の開発過程で彼女は “Thing X” と同期を繰り返すうちに超常的な能力を発現させて行った、例えば予知、時空間認識(高次元意識)、テレパシーや非常に簡易なテレポーテーション等だ。TX機関のサブシステムである人工生体脳AQB-09は彼女のそういった超常的な力以外の部分を補強するために作られたものだ。艦に対応する高密度な計算等だ。TX機関の核となる “Thing X” の力を百パーセント出し切るには彼女(人間体)でなければ出来ない。」
それを聞いたランドーは訝しんだ。
「彼女の超常的な能力はまるで夢のような話ですね。私はTX機関について、その様な説明は聞いていませんが…」
「勿論だ、その事は私が隠して来たからね。」とシュミットはハッキリ言い、さらに続けた。
「艦長、君が自分の出自を秘匿しているのと同じだよ。人は与えられた事に必要な分を働かなければならない。これが今の社会だからな。」
ランドーは溜息を吐くと彼女に話すよう頼んだ。それに対しシュミットは承知したが念を押した。
「今から彼女が話す事は真実だ、どうか信じてやって欲しい。」そう言ってシュミットはエディの方を向いて説明を促した。
エディはランドーに話し出した……
私はその間に先に見た画像に対しSAIに幾つかの質問をしてみた。二人の会話の邪魔にならないよう壁のモニターを切り、机の小型モニターとキーボード画面で質問のコマンドを出した。
(先ずは…画像に写っている者が人間であるかどうか……それと、メンタリティの比較…)
暫くしてSAIから回答が出た。
[【回答】80~96%の確率で外見は人間と判断。
メンタリティは凡そ人間と同等。特に注視する部分:画像被写体右の行動は人間に於ける羞恥心の表現とも言える。被写体左は右に対して困惑している場面が想定できる。これ等の行動予測は人間を基準とした場合、98%の確率で適合する。
《総評》
外見上の判断で人類の確証は無いが人間と同レベルのメンタリティを有すると判断できる。
〈SAI. AMR....Q : JC.R....32/16/06 ST : 20:47..... 〉 ]
(………形、仕草は人間……身体の中までは分からない、か…)
私は立ちあがるとCICへ行く事をランドーに伝え、部屋を後にした。
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CICに入ると、どのエリアも特に変化は無いようだった…が火器管制エリアにはアンドロイドが座っていて、フスター大尉、少尉が航法管制エリアに出張って飛鳥大尉と何か話していた。
私は彼等に近づき、何を話しあっているのか後ろから声を掛けた。
「何を話し合っているのだね。フスター大尉?」
「あっ、提督…いえ、個人的な事です!」とフスターは少し慌てた感じで答えた。
「警戒態勢は解かれていない、どちらか持ち場に戻り給え。」と私が言うとマーベリット少尉がそそくさと火器管制エリアに戻った。
「マーベル少尉、ドローンオペレーションで得られたデータ―を作戦司令部へ送って置いてくれ! 恐らく山元一等宙将から通信が入るはずだ。その時は提督室へ回してくれ。」と私は彼女に指示した。
「了解しました!」と少尉は答えた。
私は向き直り、飛鳥大尉の顔を見ると彼女は目を真っ赤に腫らしていた。
「何か有ったのか?」と私は聞いたが彼女は口を噤んだままだ。
「いえ…個人的な事……だそうです」と歯切れの悪い感じでフスター大尉は言った。
私は飛鳥大尉に言った。
「何が有ったのか言ってくれないかね。CICの担当にこのような事が有るのは看過できない…君が言わなくてもSAIの艦内記録データーを見れば分かってしまう事だ、飛鳥大尉。」
それを聞いた飛鳥大尉はハッとした表情で私を見た、そして小さな声で答えた。
「実は…艦長が身体の調子を崩したので…艦長室へ様子を見に行ったのですが……」
「行った時に何か有ったのかね?」と私。
「具合を聞いたら自分より艦に気を配れと…」飛鳥大尉は尚も言いにくそうに答えた。
「艦長としては全うな答えだが……それだけかね?」と私は突っ込んだ。飛鳥大尉は手の甲で目の辺りを拭うと次のように言った。
「私はこの艦と同じように艦長の事を大切に思っていますと……」
「それは、君の艦長への好意、と捉えて良いのかな?」私は何となく話の筋が読めて来た。
「はい……」と飛鳥大尉はか細い声で答えた。
「彼は何と答えたかね。」
「君は厚かましい……と」飛鳥は思い出したように顔を俯け体を震わした。
私はウゥ~ンッと唸るとパイロットシートに片手を掛け、その場にしゃがみこんだ。
(ランドー、君は……何て不器用な男なんだ、艦長なら下士官の気持を汲んでやるのも仕事だろうがっ!)と私は内心怒りに似たような感情を覚えた。
隣に居たフスター大尉が次のように言った。
「実は前に、それに関係する話が私たちの間で有りまして…艦長の事で…私は難しいんじゃないかと言ったのですが…」
「大尉、まさか君が火を点けたのか⁉」と私は聞いた。
「…申し訳ありませんっ!結果的にそうなってしまいました。艦長はあのような感じの人なので……自分と同じように、何か人間の匂いがしないと言ってしまったんです…」とフスター。
(人間の匂いがしない…か。何という事か…)と私は思った。
「安心し給え、フスター大尉。君は自分で思っているような者ではない……艦長もな。仮に人間の匂いかしなくても、この艦に乗っている以上仲間だ。例えるならSAIやアンドロイド達がそれだっ!」と私はフスター大尉に言った。
それを聞いたフスターはハッとした。
(気が付かなかった…自分はそれ等をただの装備品だと思っていた)フスターは内省した。




