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USSF機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『USSF機動空母リベレーター戦記』第四部 [ 最後の夢編 ]
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『黄泉がえり』

TXコンデンサーの異常事態に騒然とするSCV-01〈リベレーター〉CIC。艦長のランドーは直ちに軌道ドック〈しきしま〉から離脱し、大気圏内でTXエネルギーシステムをフル稼働させ、コンデンサー内のエネルギー放出を試みるが、尚もエネルギーの上昇は止まらなかった。遂にランドーは艦を宇宙空間へ戻し、BS(Break Shot:指向性破壊波動放射)発射によってコンデンサー内エネルギーを無くす事に成功する。一先ず異常事態を乗り切ったSCV-01〈リベレーター〉はアリゾナのエドワーズ工廠へ帰還する。

報告を行う為、統合機動宇宙軍本部へ向かうランドー。彼を待っていたのはグアムアンダーソン工廠の責任者、M·アンダーセン中将だった。


『黄泉がえり』




全球スクリーンに映し出された、TXコンデンサー内サーモグラフの余りの異様さにランドーは額から汗を垂らした。


「なっ、…なんなんだっ、これは…」、思わず声を上げた。動力管制のパイロットシートに着いていたマーク中尉も腰を浮かせ、それを凝視しながらバートルとランドーに言葉を発した。



「コンデンサー内のTXエネルギーはこんな偏りを示した事は有りませんっ、……温度は一定で、分布も均一な筈です…」、とマークは言ったが、映し出されたサーモグラフは、明らかに蠢く人型に熱密度が集中していた。ランドーはマークにコンデンサーのエネルギー充填率を確かめさせた。


「現在、87%、…上昇中っ!」



ランドーはマーベリット大尉に〈しきしま〉に発光信号を打つよう命じた。


「緊急離脱っ、リベレーターをドックから射出させるんだっ!!」


マーベリットは直ちに発光信号を送り、〈しきしま〉から返信が入った。


「〈しきしま〉より応答っ!直ちに出渠させるっ!」、とマーベリットは復唱した。同時に〈しきしま〉のガントリーロックが解除され、リニアトラクティングにより、リベレーターはドックから押し出されるように射出された。



ランドーはアスカに全速でリベレーターを大気圏へ降下させるように言うと、火器管制のフスター少佐にTXエネルギーの防御フィールドを最大に保つよう指示を出した。加えてTXエネルギーによる艦体推力の切り替えをバートル大尉に命じた。



「艦体推力っ、反動推進、主機、TX推進へ切り替え確認したっ!! 速度上がるっ!!」、とアスカ。

「TX防御フィールド最大出力展開っ!!」、とフスターは発した。


既に大気圏へ突入したリベレーターの防御フィールド外縁は大気との摩擦で白く輝き出した。


「対気速度上昇っ!現在、12000km/hっ!!」、と叫ぶアスカ。


「速度、高度固定っ!!」、ランドーはアスカに命じるとバートルにTXコンデンサーの状況を聞いた。全球スクリーンにオンボードされたサーモグラフはエネルギー密度が下がったのか、赤色から、薄い緑色へ移行していたが、依然人型は蠢いていた。


「コンデンサー内エネルギーッ、72%っ、僅かに降下中っ!!」


「クソッ、放出が追いつかないっ!!」、ランドーは吐き捨てるように呟くと、フスターへBS発射シーケンスを命じた。それを聞いたフスターは慌てた。


「BSをっ!?、平時でBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)を撃つんですかっ!?」


「コンデンサーから、あの得体の知れないものが艦内へ出て来てもいいのかっ!! BSを最大で放射しろっ!コンデンサー内を空にするんだっ!」、そう言うとランドーはアスカに大気圏離脱を命じた。ランドーは何か言いようのない恐怖を感じていた。



リベレーターが大気圏を離脱すると、フスターは直ちにBSシーケンスへ入った。ランドーは周囲への影響を鑑み、BSを無指向性で発射するように命じた。


「BS指向性、基本ポイント、…ゼロに設定、破壊密度設定完了したっ、火器管制ターゲットインターセプトキャンセルッ!!…艦体同心円放射…」、BSシーケンスが進み、艦内のエネルギーが熱核へ切替わると、一瞬艦内の照明が揺らいだ。



「BS、放射せよっ!!」、とランドーはエネルギーの放射を下令した。



リベレーター艦体中央に在るTXコンデンサーは溜め込んだエネルギーを爆散させるように、無指向性の眩い光を放ち、リベレーターを中心にして、一瞬で宇宙の深淵へ放たれた。



「コンデンサーのエネルギー密度はっ!?」、とランドーは叫んだ。マーク中尉はサーモグラフを見ると、その色は青色で、ほぼ空の状態を示した。


「コンデンサーエネルギーっ、無くなったっ!!」、とマークは上を向いて叫んだ。全球スクリーンにオンボードされたサーモグラフを確認したランドーはフゥーッと大きく息を吐き、エリアの手摺を握ったまま、その場に膝を崩した。彼は肩で息をしていた…


「ハアッ、ハアッ……、クソッ、何故、こんな事が…」



ランドーは顔を上げるとSAIに、この事象と敵性異星人の干渉の可能性を問うたが、SAIはそれを否定した。


”「敵性異星人の高次干渉はTXエネルギーには無効…、TXエネルギーを扱えるのは人間だけです。」“


「……これも思考の物質化なのか…」、ランドーはその事は聞いていたが、心の奥底でそれを肯定出来ない自分がいる事に気が付いた。



(……自分は”死者の復活“を望んでいないのか……)




ランドーはエドワーズへ帰投をSAIに命じると、指揮をフスター少佐に任せ、後部の艦長室へ引っ込んだ。



艦長室へ戻ると彼は椅子に掛け、机に肘を突いて頭を垂れた。今回の事象と彼の慌てぶりは、頭で理解はしているが魂の奥底が全く追いついていない事を示していた。



(誰よりも深い情報を持っていながら、…自分は心の底では否定していたんだ……、何故、………)



この時、唯一人、人の形として生き返れない風早果南の顔が浮かんだ。それと両親の志門とミカの悲しい顔…、それを無理やり引き離した自分の行為を思った。




      ◆




SCV-01〈リベレーター〉がエドワーズへ帰還したのは4時間後…



ランドーは戦傷者とKIA、そして今回の異常現象の事を報告する為、本部へ向かった。軍用通信は思考の物質化の件で使用は出来なかった。



本部の司令官室のドアは開け放たれていた。


「SCV-01艦長、R·ランドー、戦傷者回収報告のため参りましたっ!」


「入りたまえっ、こっちだ!」、その声はボイス指令ではなく、以前どこかで聞いた声だった。



部屋の奥にいたのは、ボイス指令とグアムアンダーソンの統合機動宇宙軍工廠の責任者M·アンダーセン中将だった。彼はにこやかな表情でランドーを迎えた。



「久しぶりだっ、ランドー艦長。SCV-01の活躍はリードマン大将から聞いたよ。今回の宙戦で中心的な役割を果たしたそうじゃないかっ!」、とアンダーセン。


「………いえ、期せずしてその立ち位置に居ただけです。中心はアトランティスのカートライト提督とロバートソン少将でした…」


アンダーセンは目を閉じフゥーッと溜め息を吐いた。


「ロバートソン……」、と彼は呟いた。横に居たボイス指令は次の事をランドーに伝えた。


「ランドー艦長、私は軍総本部へ転属になった。リードマン大将が政務官(国防長官)に就くそうだ、……私が行くのは穴埋め人事さ。……此処の司令にはアンダーセン中将が就く。彼なら安心だ…」、ボイスはアンダーセンに、よろしく頼む…、そう言うと司令官室を出て行った。



ランドーがボイスの後を見送っている時、アンダーセンが声を掛けた。


「ランドー艦長、君は若いな、……いや、外見の話だ、侮っているわけじゃない。あの巨大な最新鋭戦闘艦を君や若い乗組員たちが操っていた、……そう考えると私は色々思うところがある…」


ランドーは執務用の机に近づき、先に報告書を彼に渡した。彼は、チョッと待ってくれっ…、と言うと先に報告書に目を通した。


「フムッ……、コンデンサー内の人影、か…。皆、あっちの世界から戻りたがっているのかも知れないな…、思考の物質化と死者の復活の事はリードマン大将から聞いている。君はどう思っている…」、とアンダーセンはランドーに聞いた。


「自分は……、まだ理解が追いついていません。」



アンダーセンは立ち上がると、部屋の隅のサイドボードの上にあるコーヒーメーカーで、自分とランドーの分を淹れた。


「飲みたまえ。」、そう言うと彼はコーヒーを机の上に差し出した。ハッ、と言ってランドーは畏まった。再び椅子に座ったアンダーセンは次のように話した。


「この事象は私のように、古い考えに固まった頭では到底理解できない、……私に出来ることは……、そのまま受け容れる事だ。日本政府が掲げてきたムーンショット計画が現実になれば、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会が実現する、……病気も無くなって、高度なインフラも必要なくなる……、現在までAIやニューラリンクを使ってそれをやって来た、…たが、それは科学のこじ付けだと私は思う。最良なことは自然な状態でそれが出来る事なのだよ…、今回、それが全て整う。もう死人も出ない、君たちのような若者が戦場で亡くなることもない、……私はいい話だと思うが、君はどうだね?」



この時、ランドーは自分の気持ちを包み隠さずにさらけ出そうと思った。いや、隠すことが出来ないほど多くの思いが彼を弾けさせようとしていたからだ…



彼は自分の思いを語っていった…、その中心の話は、新しい世界の礎となり、二度と人の形で現れない風早果南、そして、彼女の両親の間を引き裂いた自分に、新しい世界へ入る資格が有るのか……等、余りにも自責と自虐の念に溢れていた。



アンダーセンはランドーの自責の念に対し、一つの話を語った。


「君は聖書の話を知っているかね?聖書の物語の核心は?」、それを聞いたランドーは首を横に振り、知りませんっ、と答えた。


「…なるほど、今では完全に物語化されて考古学の対象にしかなっていない。偶に見るのは形骸化された儀式の様な物ばかりだ。………聖書の物語の核心は勿論、死者の復活だが、それは何によってそうなるのか……、『イエスの御名』によって全ての者が黄泉がえるんだろ…、今回の事はそれとよく似ている。新しい世界の人柱……、か。飽くまでも私個人の考察だよ…」、そう言ってアンダーセンは話を閉じた。




ランドーはアンダーセンの話を聴いたあと司令官室を退室した。







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