第三章 第三節
第三節
一
何となく、ゆめは気づいてしまった。
自分が恋をしているからかもしれない。
自分が恋をしている男を見た事があるからかもしれない。
いや、そういうものがなくてもこの人物に関してはわかってしまっていたかもしれない。
「堯湖」である。
旅路では周りの環境と危険に目を配り移動していた為かあまり気にはならなかった。
そもそも「さき」は美人なのでよく人からちらちら見られている。
「堯湖」のそれもその程度のものだと思っていた。
しかしこの平穏長閑な狭い茶屋暮らしの中では、それが目に見えてはっきりと映ってきた。
―――――――この人、結構本気だ。
本人は周りの目に気づいていないのだろうか?
気づいていないのだろう。
「さき」を見る時の好意の色が丸わかりである。
「さき」は気付いているに違いない。
だが関わり合いになる事が面倒なのか、特に何らかの行動を示さず完全に無視を決め込んでいるようだ。
「ねぇ、「さき」気づいてるよね。」
「……何が?」
「「縁」の私にとぼけたって駄目だよ。
わかっちゃうんだから。」
「……それもそうね。」
「さき」が微かに苦笑する。
黒曜石のような鋭さを秘めた美しい瞳がゆめを捕えた。
「それに対して「さき」はどんな感じなの?」
「あいつ、邪魔…・・。
消えてほしい。」
「うわぁ……最悪だね。
ま、わかるけど。」
本人がいないのを良い事にゆめと「さき」は散々な事をお互い口にした。
ちなみにこの時「堯湖」は例のごとく「露歩き」と「厭山」に薪狩りに出ていた。
前の一行のいなくなった今、それはゆめ達一行の、ひいては「露歩き」達のほぼ毎日の仕事となっていた。
「すごいよね、「堯湖」。
何か今までの人以上に何も見えてないっていうか。
「さき」の事何も知らないのにさ。
つまり顔だけで見てるって事でしょ?
最悪よね。」
「…・……。」
「「さき」?」
「勘違いしてる……。」
「え……?
うん!そうだよね、勘違いしすぎ。」
「え?」
「ん?」
ゆめと「さき」の会話が思わぬ所で途切れた。
そしてゆめは自分の意味する所の勘違いと「さき」の意味する所の勘違いに何か違いがある事を感じた。
「さき」はいつも以上に怨みがましい顔をしてゆめから視線を反らしていた。
「さき」を知るゆめにはその表情の意味がわかる。
墓穴を掘った時の表情であった。
「「さき」……「堯湖」と何かあった?」
「何も……。」
頑なな態度の「さき」。
それは否とゆめに告げていた。
けれどこうなってしまうと、「さき」は絶対答えてくれない。
ゆめはこの先の追及を諦める事にした。
しかし、一つ気になる事があった。
「「さき」……まさか……」
「「死人」と「生人」の違いわかる?ゆめ。」
「え……?違い??
冷たくて、死んでるって事?」
いきなり振られた「さき」の質問に、ゆめはあわてて答えていた。
答えて見て少ししっくりこなかった。
確かに「さき」は「死人」だ。
けれどゆめ達と変わらず動いている。
「さき」に関して言えば、違いなど体温の有る無し位のように思える。
ゆめは、うん?と首をひねった。
そこで「さき」は静かに答えていた。
己の胸に手を当てて―――
「そう、死んでいる。
身体だけでなく考え方や心も……。
死んだその時から固まって決して変わる事は無い。」
「ゆめ達の影響で多少揺らぎはあるけれど、愛情なんて根本から変わる様な大きな感情が死んだこの心に芽生える事は絶対にない。」
「絶対にね。」
そう呟いた「さき」の凄惨な顔、その身体に纏わりつく瘴気。
その時ゆめははっきりと、「さき」と己の世界の違いを感じた。
二
暫くすると「くるり」が目を覚ました。
今回は幾分早い目覚めである。
ゆめはそれを「堕烏苑」で夫人と機織りをしている時に感じた。
己の心に「くるり」の心の色がほんのり寄り添う感覚を受ける。
少しだけ重くなった自分の心に、ゆめはひゅっと息をわずかに乱し、小さく息を吐いていた。
苦しさは全くない。
むしろそれが訪れた後、心がやっと完全になる充実感にゆめはしばし満たされた。
「「くるり」ですか?」
夫人がやんわりと尋ねる。
訪れて数日の内に、突然ゆめが息を乱す事を夫人は何度かの訪問で気づいていた。
「うん、今起きたみたい。
ちょっといつもより早いかな。
でももう元気そう。
良かった。」
「そうですか、良かったですね。」
器用に隣りでかたかたと糸を織り込みながら夫人が答えた。
ちなみに今回ゆめは夫人から衣の造り方を習っている。
いつものように、夫人はこれからさらに成長するだろうゆめに合わせて衣を作ろうとしていた。
けれどゆめはそろそろ自分で衣を作ってみたいと思っていた。
それを夫人に言った所、では一緒にという事になった次第である。
けれどこれが中々うまくいかない。
夫人曰く、独特の「天人織」というものらしい。
「稚蟲」という冥獄の虫の糸を使用しているから、そういう事は起こらないが、本来空を舞う事の出来る誣を模様にして編み込んでいるらしい。
天界に縁の無いゆめには骨が折れた。
しかし時間はおよそ三百年とある。
気長に、ゆっくりと、ゆめは夫人に手ずから教わりながら、自分の為の衣をせっせと織り始めていた。
夫人の機織りは、もうすぐ十分な量の織物を造り上げそうな状態になっている。
どのようにそうしたのであろう。
単純な織物から始めているゆめにはそれが、あとどれ位修練を積めば自分に出来るようになるものなのか全くわからなかった。
純白の織物である。
けれど完全な純白という訳ではないらしい。
光の辺り具合で淡色の文様が浮かびあがる。
そこにはこの「堕烏苑」で見る草花や知らない鳥の文様が施されていた。
「綺麗…。
私もそういうの出来るかな?」
「えぇ、きっと出来ますよ。
そうそう、「丸嬰」もこの位のものでしたら出来ますから。」
「え!「丸嬰」出来るの!!
じゃあ頑張んなきゃ。」
ゆめはせっせと自分の織物に集中した。
夫人が愛娘を見つめるような温かい視線を送る。
ゆめの奏でる機織りの音は、堕烏の木の音の中に緩やかに織り込まれていった。
「ゆめ、お帰り。」
茶屋に戻ると、やはりそこに目覚めた「くるり」がいた。
ぱたぱたと駆け寄ってくる「くるり」。
「くるり」はぎゅっとゆめを抱きしめた。
肌のぬくもりをしっかりと確かめているらしい。
「「くるり」もおはよう。
今回は早かったね。」
ゆめは「くるり」の頬に自分の頬を当てた。
存在の淡い「くるり」。
ぬくもりもとても淡く、頬をくすぐるその銀髪もとても柔らかくゆめに触れていた。
人の形をしているけれど、淡く薄い何色にも染まっていない透明な存在。
それが「くるり」に対するゆめの感覚だった。
ゆめの視線が「くるり」の肩越しに見える縁台に腰掛ける「死人」へと移る。
少し前の朝方、戸を開けて外に出てみたら朝日を浴びてもうすでにそこに座っていた「死人」。
朝一で来たにもかかわらず、茶屋の湯が全く受け付けず、後から来た者達にどんどん先を越されて今に至っている。
この「死人」も存在感はなかったが、「くるり」の存在感の感覚とは少し違っていた。
どう言ったらいいのだろうか?
「くるり」の存在感の淡さには、まだ可能性があった。
これから生まれるもの、これから満たされるべき淡さがあった。
けれど「死人」のそれは、失ったものの虚しさがあった。
「さき」にもそれは見られる。
けれど「縁」に生きる「さき」よりもそれは酷く深かった。
もう終わったもの、決して戻る事のない果てがそこにあった。
これが「終わり」だと、まざまざと執拗に、ゆめにそれを見せ付ける。
――――――――シハ、コワイ
ゆめは、この手の平を醜く火傷し、虚ろな視線で遠くを見つめる「死人」の存在が嫌いだった。
三
その日の夕餉の席で「くるり」の「無き原」行きが「丸嬰」によって発表された。
「丸嬰」によればあそこに行って「話をする」という。
誰と話をするのだろうとゆめは思った。
あそこには人どころか、物すらまともに無かった。
しかし「丸嬰」は目的地を「無き原の山」だと言った。
そして、あそこで何かを感じ怯えていた「くるり」にはその山というものが見えていたのかもしれない。
ゆめには全くわからなかったけれど。
「無き原」行きを告げられても「くるり」は全く怯えを見せなかった。
もともと感情の起伏が緩やかな性格だからそうと見えないだけなのかもしれないが、ゆめには「くるり」がすでに何かを納得しているように思えた。
何やらその事で騒ぎ出した「堯湖」を残して「くるり」とゆめと「閼伽注」は、奥の間へと下がりもう寝る事とした。
「くるり」は自分の心配をして声を上げる「堯湖」にすこし申し訳なさそうな様子を見せていた。
しかし自分の文句に酔っているような「堯湖」の物言いは何だか癪に障ったので、ゆめはさっさと「くるり」を寝かしつけるように布団にいざなった。
しばし襖の向こうの騒動に耳を澄ませていたが、「さき」が「堯湖」を落とした所で随分と静かになったので、ゆめは「閼伽注」とくすくす笑い合うと、そっと布団に返して寝る事にした。
「くるり」がすでにぼんやりとした瞳をして布団に入ったゆめを眺めている。
ほとんどその意識はまどろみの中にあるようだ。
けれどぼそりと「くるり」は呟いていた。
本人もあまり意識してなかったのかもしれない。
けれど確かにゆめにも理解できる言の葉を「くるり」は呟いていた。
「大丈夫?」
「堯湖」の事を言いたいのか、自分のこれからの事を言いたいのか、それともまた別の事なのか、ゆめにははっきりとわからなかったが、そっとその柔らかい髪の毛を抱き寄せるとゆめは優しく呟いていた。
「うん、大丈夫。」
それを聞いた「くるり」は小さく息を漏らすと、すやすやとゆめの腕の中で眠りについていた。
その時、その奥の布団に横たわる「閼伽注」の横顔が視界に入った。
起きている時と変わらず表情の無い笑顔を浮かべたまま上を向いて布団の中にいる。
話さないのでまだ起きているのかもう寝てしまっているのか、今いち判断できない。
「閼伽注」は目を開けたまま眠るのである。
その姿を見ると、本当にその顔は面なのではないかと疑いたくなった。
暗闇の中で見るそれは、実はゆめも好きではない。
目を閉じてしっかりと「くるり」を抱きしめると、その香りを確かめながら夢の中へ落ちていった。
――――――――大丈夫、「くるり」がいるから。
――――――――「縁」があれば大丈夫。
四
「まぁ!「くるり」が?
お話をお聞きする限りそこまで大胆な方に思えなかったのですけど…。」
「そうそう!
普段ぼ~っとしちゃってさぁ、ま、本人にしたら何か考えてんのかもしんないけどさ。
何も考えて無いように見える「くるり」がだよ?
まさか初対面の相手を押し倒して接吻するとはねぇ~。
好きにしてこいとは行ったけど、まさかここまで好きにしてくるとは思わなかったよ。
さすがのあたしもびっくりしたね。
いや~「在人」はよくわかんないねぇ、本当に。」
珍しく夫人の所へ行きたいと言った「丸嬰」と共に、ゆめは午後の御茶会を楽しんでいた。
今の話題はもっぱら最近の「くるり」の事である。
「縁」のゆめにも今回の「くるり」の行動はよくわからなかった。
何でも「丸嬰」が今言った通りの事を「無き原」の山にいるという、「ヒト」にしでかしてきたらしい。
とても怒らせてしまったとしょんぼりし、それからしばらく「無き原」行きを控えているといった始末だ。
――――――――そりゃ、怒るわよ。
私だってしていいか聞かれて、う~んってちょっと考えて良いかな?位
なのに。
いきなりじゃねぇ~。
ゆめは時折見せる「丸嬰」の「くるり」の声真似に、吹き出しそうになりながら、何とか紅色のお茶を飲みほしていった。
焼き菓子の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
ゆめは目の前に置かれた皿の上のお菓子を見て、目を輝かせた。
全て「鎖葉詩」が作ったもので、御殿では全く見た事の無い食べ物である。
さくさくとした焼き菓子に、口の中でとろける白く甘い練り物がかけられ沢山の小さな果実が盛り合わせてある。
そこに黒や赤の甘いたれが、まるで絵を描くように施され、さらに白い砂の様な細かい砂糖がまぶされている。
ゆめはこのとても甘く、一度で様々な食感を味わえる魅惑のお菓子がここでの大好物となっていた。
「この感じの、「鎖葉詩」のお菓子の中で私一番好きなの。
有難う、「鎖葉詩」。」
ゆめはぱくりと口に頬張ると、とても幸せそうに表情をとろけさせて「鎖葉詩」にお礼を言った。
「喜んでいただけて私も嬉しいです。」
そう言いながら「鎖葉詩」は「丸嬰」に取り分けて焼き菓子を渡していたが、「丸嬰」はそれを一口で丸飲みするように食して、すぐ皿を「鎖葉詩」につきつけていた。
「「鎖葉詩」!おかわり!!」
「……相変わらず貴女は作りがいがありませんね。」
「何言ってんのさ。
こうして全部平らげておかわりまで欲しいって言ってんだよ。
沢山作ったかいがあったじゃないか。」
「そうですね。」
本当にそうと思っているのか、微妙なところであるが「鎖葉詩」はそれ以上「丸嬰」とやり合わず、すぐに新しくさっきの数倍の量をその皿に山盛りにした。
これには「丸嬰」も満足したようで、ぱくぱくとそれなりに時間を掛けて食べるそぶりを見せている。
「いいなぁ~このお菓子。
ねぇ「丸嬰」!
これ、御殿でも作れないかなぁ。」
「ん~?
無理だね。面倒だからやめときな。
道具とかはまぁ何とかなっても、たぶん材料がそろわないからね。
あっちで育たないもん結構使ってあるから。」
「そっかぁ~、残念。
あ……そういえば「くるり」は大丈夫なのかな?」
ゆめはぽつりと呟いた。
何がと尋ねる「丸嬰」にゆめは少し硬い表情で向き直る。
「どうしたんだい?そんな固い顔して…。」
「ほら……。
あの子素直だから私達の質問に、ぽんぽん答えてたけど。
私の時みたいに、話したら世界が分かれちゃうとか……。」
初めてゆめがここを訪れた時に犯した禁忌。
それは、今もゆめの中に鮮明なものとして深く刻まれていた。
「くるり」にも自分のような思いをさせたくはなかった。
それを受けた「丸嬰」がにっかりと笑った。
その欠けた前歯の間に焼き菓子の果実がすっぽりと綺麗に挟まっているのが何ともおかしい。
「「無き原」の事は別にしゃべっても何ともないよ。
あれはフジンみたいな奴が作ったものじゃないからさ。
ずっと昔からこの世がちゃんと機能するように、ほとんど元からそういう形で自然に作られたもんだから。」
「こいつは特別。」
そう言ってまたいつものように、無礼にも焼き菓子を食べる為の食器の先で夫人の方を指差した。
夫人は少し恥ずかしそうににこにこしている。
「そっか、良かった…。」
ゆめは幾分ほっとした。
「あんたもまさか「くるり」に先越されるとは思わなかっただろ?
ほら~頑張んないと「くるり」の方が先に大人になってっちゃうよォ~?」
「丸嬰」がおどけるような仕草をしてゆめをからかった。
ゆめはそれに対し小さく笑うだけだった。
それは何かしら余裕の表情である。
それは「丸嬰」の気に障った。
「ん?何だい。
今随分大人びた態度取ったじゃないか?」
「マルエイ……ゆめを子供子供と扱ってはいけませんよ?
もうちゃんと恋をわかる年頃なんですから。」
「何それ?!
何?あんた誰かと何かしたの?」
「……マルエイ、その聞き方はあまりに不躾ですよ。」
「あ!まさかあんたあのメガネ―――」
「な訳ないに決まってんでしょ?!「丸嬰」!」
「丸嬰」はまた綺麗にゆめのお茶を顔面に喰らっていた。
夫人と「鎖葉詩」がぷっと笑いを洩らした。
「マルエイ、あなた最近随分と気が緩んでいるんじゃなくて?」
夫人の言葉に静止していた「丸嬰」は動きを見せ、きぃ~~~っと奇声を上げて地団太を踏んだ。
「あ~~、そっか子供じゃないってそういう事か…。」
その日の帰り道、「客死隧道」を抜けた所で、「丸嬰」がわかったというように口を開いていた。
ゆめが不思議そうな顔をすると「丸嬰」が意地悪そうな瞳でにんまりとした。
「あんた子供が産めるようになったね?」
はっきりとした「丸嬰」の発言にゆめはちょっと気恥ずかしくなった。
背けた顔が赤かったのは、決して夕日のせいだけではなかったはずである。
それを見て自分の勘が確かだった事を感じた「丸嬰」は、変に何度もふ~ん、へぇ~と納得の言葉を示して見せた。
「別に夫人の言った事は、そういう事じゃないんだからね。」
「ふぅ~ん、でもそういう事はそういう事につながったりもするよねぇ~。」
「「丸嬰」の助平ッ!」
「はぁん?今頃気づいたのかい?」
ゆめは知らないとばかりにすたすた赤く染まる畦道を歩きだした。
その後をぺたぺた「丸嬰」が行く。
しばらく行った所で、「丸嬰」が呟いていた。
一人言のようであったが、それは明らかにゆめに向けて呟いた言葉であった。
「だから「客死隧道」が騒がしかったんだねぇ。」
その言葉は十分ゆめの興味を引いた。
怒っていた事もとりあえず収めて、ゆめは「丸嬰」の方を顧みる。
夕日にぎらぎらと輝く瞳が、何とも妖しくゆめを捕えている。
それは、残虐な一面を見せる「丸嬰」の姿であった。
「どういう事?」
「そういう事さ。
あそこは墓場だからね。
生の匂いを嫌う。
あんたの中の女は、あそこで眠る者達の魂を呼び覚ますんだよ。」
「私が……呼び覚ます?」
ゆめはそっとお腹の下辺りに手を触れていた。
「丸嬰」がじっとりとした瞳でその指先を視線で追う。
そしてゆっくりとゆめに視線を戻していた。
「特に一つ、変に遺志を持つ御魂があったね。」
――――――――――一つ、遺志を持つ御魂……。
「感じなかったかい?
いや、感じたはずだね。
それを向けらてないあたしにだってわかったんだから。」
「あれは、あんたを見ている。」
――――――――――ヤメテ
「もしかして―――――」
――――――――――ヤメテ、嘘デモ言ワナイデ
「あんたの知り合いなんじゃないのかい?」
――――――――――…・…………・・・…・
これまで…少しずつ少しずつ傷ついていたゆめの心。
それは、あまりに深い所での事であって、そして致命的なものではなくて、ゆめ自身は深く傷ついた事に気づけないでいた。
しかし、ゆめは今回の「丸嬰」の軽口でついに自分の傷を知る事となった。
深く、深く、何かが傷つき、何かが致命的に壊れる音をゆめは確かに心の中に聞いていた。
―――――――――――私ハ、本当ニ「私」……?




