第9話 残された者達
〜『疾風の旅団』メンバー上沢春人視点〜
「皆聞いてくれ!穂村がダンジョンに1人で行ってしまったッ!」
「「はあ?」」
まずい…ダンジョンは無謀に挑んだ探索者を生かして帰さない。
「おい!穂村がいったいどうしたんだよ!」
「わからない…だけど何やら正気の沙汰じゃなかったよ。」
「嘘…でしょ?」
雫が崩れ落ちる。無理もないだろう。あいつと雫は幼なじみで互いに信頼し合っていた。
穂村とも仲が良いからね。あいつが無謀にいってしまうなんて信じられないだろう。
僕だって全然理解できない。急に謎の質問をしてきて…まあ確かにここ最近の穂村はおかしかった。まるで許容し難い何かがついたみたいに。
それはダンジョンの中だってそうだった。よく見ないと分からないがモンスター全員が後衛を狙うように動いていた。
穂村が放つ謎の雰囲気に当てられたのだろう。
あながち階層中からモンスターがやってくると言うことも嘘じゃあないかもしれない。
「雄也…ゆうくん…!」
「大丈夫だ。あいつのことだからすぐに帰ってくるさ」
「なんで…!なんでそんな軽いこと言えるの!?」
「…俺だってあいつのことが心配してるに決まってるだろ!」
今のパーティのコンディションは最悪だ。ギルドに捜索依頼を出そうとも思ったがそんなことしてなんになるって言うんだ。
落ち着け僕。まだ何か手立てはあるはずだ。
なんで僕は止められなかったんだ…
僕は穂村が背負っていた"物"を何も知らない。
それでも何か聞けた筈だ
_どうしてそんなに思い詰めているんだ?_
一言、たった一言発していれば穂村も何か思いとどまったかもしれない。
そんな事もできないで何ができるって言うんだ…
勿論探しはした。
事実僕の友人達でダンジョン内を捜索したが穂村は見つからなかった。
僕たちはどうすれば…
「甘ったれるな!」
僕の心の声を読み取ったかのように放たれるパーティへの言葉。
「今は俺たちしかいねぇっていうならそれで頑張るしかねぇだろ!」
頑張る…?
…そうだ。僕たちはまだ経験が足りなかったんだ。
ダンジョンは僕たちに恵みをもたらす。
一方でダンジョンは僕たちに過酷な現実を齎す。
どっちもダンジョンなんだ。
僕たちはその事実を受け入れなければいけない。
ダンジョン内で失踪は死と同義だ。
「…そうだね。今はモンスターの動きが活発化している。予期せぬ事態が起こるかもしれない。感傷に浸っている暇なんてないんだ。」
「…まさか高原に教えられるとはね。今日は厄日だわ。」
「ははっ!違いねぇ!」
「さあ。今日のアタックは50階層までいく気合で挑むぞ!」
「「おお!(はい!)」」
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
『ギルド内にいる探索者へのお知らせです。現在モンスターの活性化でステータスが著しく上昇しています。挑戦の際はパーティでお越しになられるように…』
やっぱりか。時期的にもそうだと思っていたが
「聞いたか?全モンスター1ランク上昇だろ?かなり危なくないか?」
「なあ。そこの人、俺とパーティくまねぇか…。」
耳をすませば今日からダンジョンアタックを控えるかやらソロプレイヤーの人たちのパーティへ誘っている人の声が多数聞こえる。
「ふふっ。いいじゃない。今日はモンスター達のランクが上がって稼ぎやすくなっているわ!早く行きましょ!」
「珍しく雫が荒れているな!まあ、俺も早く行きたくて仕方がねぇが」
「2人とも落ち着きがないね。…準備は整った?」
勿論完璧だと元気な声が返ってきた。
「ここは遠足しにきたんじゃないんだぞ。気を引き締めていけ。」
「わかってるわよ。それより早く受付に出発申請をしに行きましょ。」
「ああ。そうだな。少し待っててくれ。すぐ戻る」
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
「本当に強かったわね…」
僕たちはダンジョンアタックを始めてから5時間経過した。
ダンジョン内では、モンスターがスポーンしない休息領域が存在する。
僕たちは39階層のちょうど中間にある休息領域にモンスターの物量から逃れていた。
どうもこの領域にはモンスターが近寄らないのでそれを利用して休憩しながらちょくちょく休んでいた。
なんでこんな微妙な階層にあるかが理解できないがそれもダンジョンだからという事で解決してしまう。
「どうする上沢?このまま続けてもいいが帰る頃には倒れているぜ。」
「でもあと1階層で転移できるようになるわよ?」
「それもそうだな。よし!今日はあと1階層探索しよう!」
休憩を終えて1時間が経過した。
「…妙だな。」
「なんか不気味だな。」
そう。ここに来るまでモンスターの数が非常に少なかったのである。
こういう時は逃げた方がいいと僕の勘が告げているが一方であと少しで次の探索が楽になるというのもあり中々探索をやめられなかった。
「仕方がない。今日は急いで39階層を攻略してダンジョンを出るか。」
「モンスターが落とした迷宮産物はどうするの?」
「今日のところは放置で良い。攻略を急ごう。」
僕たちは探索スピードを上げたおかげかあと少しというとこまできた。
そう。あと少しまでは。
ドスンッ ドスンッ
「うん?」
「…なあ。何が聞こえないか?」
高原の質問に僕は何も返せない。
僕たちが今いる状況がわかってしまったから。
今、たった今僕たちは、ダンジョンから出ることが困難になったから。
進んでいくと天井がドーム状になっているルームに出た。
そこの中心にいたのは
「あれは…大量の悪魔?」
そこにいたのは徒党を組んだ悪魔の軍勢がいた。
「…やってしまった。」
「まさか…『魔王の再誕』?」
「は?それってやばくないか?魔王が出現すると次の階層に上がれなくなるんだよな?」
「…全力で撤退だ!」
僕たちが必死に撤退しようとしたら
『そこの小さなニンゲンよ。止まれ。』
その瞬間、僕たちは動けなくなった。
『これが肉体とやらか。クックッ、良いじゃないか!』
推定魔王が新しく誕生したことに喜び配下がそれに跪いている。
そして僕たちにその赤い眼の焦点が向いた。
『…本来ならニンゲンなど抹殺するところだが我は気分がいい。特別に逃してやろう。』
「それは本当なのか!」
『ああ本当だとも。ただしこの輝かしき我の誕生を貴様らニンゲンらに伝えておけ!この時から地上に侵略する事を!』
それから僕らは強制的に高度次元魔法の転移を仕掛けられた。
『ああそうだ。貴様らも抗うというなら我らは全力で叩き潰してやる。覚悟しておけ!』
クックックッという魔王の笑い声を残して僕らは地上に帰還した。




