第九話
火葬場。
信太郎、火葬場から出る煙を見上げている、弔問客、色々話をしている。
弔問1「自殺ですって…。」
弔問2「なんでも車が来た時に恋人に突き飛ばされたとか。痴情の縺れってやつ?」
弔問3「あらやだ…」
つかさ、信太郎を探してやってくる。
それと入れ替わりで弔問客達、去る。
つかさ「こんな所にいた。…もう帰るってよ。…信太郎?」
信太郎「あの煙が、睦月なのかな…」
つかさ「たぶんね…」
渚、睦月、現れる。
睦月「…信太郎。」
渚「触れてはだめですよ。私達はこの世界には存在しえない存在。そんな私たちがこの世界に干渉したら、少なからず影響が出てしまいます。…って死神野郎っ!!!」
睦月「えっ?知ってるんですか?」
渚「コイツですよ!私の事を死神とけなした奴は!!あぁ、地獄に落としてやりたい!」
睦月「…どうぞお好きに」
渚「いいんですか?」
睦月「何がです?」
渚「私のメモによると、貴女と死神野郎は恋人関係に…」
睦月「付き合ってなんかいないです。誰がこんな浮気野郎…。ですから、どうぞ地獄でもなんでも連れて行っちゃってください。」
渚「えっと…、なんかとてつもなく怒ってます?」
睦月「怒ってません!」
つかさ「ほら、行こう?」
信太郎「…なんでこんな事になっちまったんだろうな?」
つかさ「え?」
信太郎「別に睦月を裏切ろうだなんてこれっぽっちも思ってなかったんだ…。」
つかさ「…」
信太郎「…睦月はさ、俺にとってのヒーローだったんだ。いつもそばにいてくれて、困った事があると優しく微笑みかけてくれて。何度もその笑顔に救われてきた。俺が教師を目指したのも、あいつの様に、俺もいつか誰かのヒーローになれればと思ったからなんだ。それなのに俺は俺のヒーローを裏切っちまった…死んだのが俺だったら良かったのにな。」
つかさ「(信太郎に掴みかかって)アンタ、本気で言ってんの!?」
信太郎「だって、そうだろ!」
つかさ「…」
渚「なんか、険悪な空気になってきましたよ…」
睦月「信太郎…」
信太郎「はは。なにも言い返せないのは、そう思ってるからだろ?」
つかさ「違う!!」
信太郎「じゃあ、何でだよ?」
つかさ「それは…」
弘志、入ってくる。
弘志「信太郎、これ何?…あれ?…取り込み中?」
つかさ「(信太郎から手を放す) …」
信太郎「…」
弘志「あっ、ごめんな。出直してくるわ。気にしないで続けてくれ。レディー・ファイト!!」
つかさ「ちょっと待て!なにか言うことがあるでしょ?」
弘志「だから、ごめんって!」
つかさ「そうじゃなくて。」
弘志「じゃあ、なんだよ。」
つかさ「友達二人が掴み合っています。アンタはそれを見てしまいました。はい、何て言いますか?」
弘志 「レディー・ファイト!」
つかさ 「アンタに聞いた私がバカだった…」
信太郎 「何しに来たんだよ?」
弘志 「あっ、そうそう。信太郎のバッグあさってたら、こんなの見つけた。」
信太郎 「あさるなよ!」
弘志「これって昔流行ったゲーム機だろう?何で持ってきてんの?」
信太郎「いいだろ別に。それに壊れてんだよ、それ。」
弘志「そうなの?」
信太郎「いくら電源ボタンを押しても、電源入んないんだ。」
渚「(携帯電話を取り出して、)あっ、本当だ。たくさん着信来てますね…。」
つかさ「押し方が悪いんじゃない?もう一回押してみたら…。」
ゲーム機に電源が付く。
つかさ「ほら?」
信太郎「(ゲームボーイを奪って)チェンジ・マイ・ライフ」
信太郎以外ストップ。
渚、睦月、現れる。
渚「あなたの運命…」
信太郎「オイぃぃいいいーーーー!!」
渚「ハイッ!!」
信太郎「なんで直ぐに現れなかったんだよっーー!!」
渚「こっちにだって色々用事があるんです!一方的に呼んでおいて理不尽です!!」
信太朗「…あれ?一人増えた?」
渚「ああ、新しく天使見習いになったム…」
信太朗「む?」
渚「むっ、ムニエルです!」
信太朗「外国人ッ!?」
睦月「はっ、はじめまして。むっ、ムニエルです。」
信太郎「大変だね。魚料理みたいな名前で…。あっ、そんなことより時間を戻してくれ。」
渚「また、何かありました?」
信太郎「俺の大切な人が死んじゃって…。」
睦月「大切な人?」
信太郎「ああ、そいつを生き返らせたいんだ。」
睦月「その人が生きたいと望んでいるとは限りませんよ。」
信太郎「それでも頼むよ。」
渚「ムニエルさん。…わかりました。それでは、望月信太郎に神の御加護があらんことを…。」
渚、睦月、陰で見守る。結菜、待ち合わせにやってくる。
天使見習い達、各々街に溶け込む。
結菜「信太郎、待った?」
信太郎「いや、今来たとこ。」
結菜「またまた。まぁ、いいや。行こう。」
信太朗「行くって…どこ行く?」
結菜「ネコカフェに行きたい。」
睦月「ネコカフェ…」
信太朗「…ごめん。やっぱり皆で呑まないか?」
結菜「あっ、ネコカフェ嫌い?別にネコカフェじゃなくても…」
信太朗「そうじゃなくて…。ごめん。昨日、弘志から呑みに行こうって言われたんだけど、断れなくって…」
結菜「…信太郎は私と二人でどこかに出かけるの、いや?」
信太郎「えっ?」
結菜「信太郎は私と二人だと楽しくない?」
信太郎「そんな事…」
結菜「じゃあ、断って。」
信太郎「それは…」
親子連れが通りかかる。
子供「ねえ、ママ?これが修羅場ってやつだね?」
母親「コラ。子供は見ちゃいけません。」
親子連れ去る。
信太郎「とにかく、今日はみんなで呑もう、な?」
結菜「…選んで?私の方が大事か?それともみんなの方が大事か?」
信太郎「俺にとっては、…皆の方が大事だ。」
結菜「(顔面パンチ)」
結菜、去る。信太郎も弘志に電話しながら去る。渚、睦月、出てくる。
渚「良いパンチでしたね。私の胸もスッとしました。…睦月さん?」
睦月「…。」
渚「私思うんです。人は過ちを繰り返す生き物だって。でも、それと同時に反省が出来る生き物だとも思うんです。いけない事をいけないと思い、反省し、次に繋げることが出来る。そんな生き物だと思うんです。確かに信太郎さんは彼女がいるのに浮気っぽい事をしました。本当にいけない事です。許されない事です。でも、信太郎さんはその事をいけない事だと思い、この世界では結菜さんの誘いを断った。上手くやればあなたに浮気はばれなかったかもしれない。それでも、断ったんです。許せとは言いません。でも、チャンスくらい与えてもいいのではないでしょうか?」
睦月「…でも、どうやって?」
渚「あなたはこれから、この世界の綾瀬睦月さんに戻って、この世界の暮らしをして頂きます。その中で答えを見つけてください。」
睦月「…わかりました。」
渚「それでは綾瀬睦月さん、貴方に神の御加護があらんことを…」
渚、睦月、去る。