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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
リース探しの旅 ダルーン王国編

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222/222

新しい団員

リース探しの旅 ダルーン王国編は終了し、次話からイントラ連合国編がスタートします。

考えていたストーリーを組み直したいので、7月からのスタートとさせていただきます。

少しでも楽しい内容にするため、これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

 イツキの話を聞いたボルト公爵も王妃もドルトン王子も、意味が分からないと首を捻る。


「暗殺者から身を守るため修行の旅に出て、王に相応しい器になれと私に仰いましたが、国外に出ていては皇太子争いもできないと思うのですが……」


 噂されているような虚弱には見えないドルトン王子28歳は、自分が国王になることなど全く考えていなかった。

 だからダルーン王国にとっての希望だと言われても、生き残ることで精一杯の暮らしをしている自分が、強欲な異母兄弟たちを退け、皇太子に、ましてや王になるなど想像さえしていなかった。


「王とは、民の生活と安全を守り、政治により人を動かし、善悪を判断し、外交を行い、正しく税を納めさせる使命を負える者のことを指します。貴方の兄弟は、その使命を負えるでしょうか?王族や貴族ではなく民のことを一番に考えているでしょうか?」


「確かに……確かに民のことよりも己のことばかり考えているように思います。しかし、それは私も同じです。年々上げられる税のことも、理不尽な王命も、心は痛めていても何も出来ない。逃げることしか出来なかった人間なのです。……私には、王になる資格はありません」


 ドルトン王子は、よく言えば謙虚、悪く言えば放棄することで責任を逃れる現実逃避タイプのようだとイツキは見た。

 本当に国王になろうと思ったことも、異母兄弟たちと戦おうとも思ったこともないのだろう。


 その原因は、恐らく母親である王妃にあるとイツキは思っている。

 皇太子であった長男と次男を原因不明の病気で亡くし、本能的に三男である息子を守ろうとしたのだ。戦うのではなく病弱と見せ掛け、皇太子争いから離脱させることで暗殺から守ろうとした。

 それが間違いだったとはイツキは思っていない。


「資格? なければ得ればいい。王になる資格など、生まれながらに持っている者などいません。王になる資格とは、臣下を含む民に与えられるものです。奪って得られるものでも、親に与えられるものでもない。

 もちろん、たった一人の世継ぎであれば、資格がなくても王になれます。

 ただしそれは、王になっただけで資格を得ているわけではありません」


 ドルトン王子は下を向き、じっとリース様であるイツキの話を聞いている。この王子は【聞く耳】はちゃんと持っていた。


「ドルトン王子、全ての道は学ぶことによって開かれます。

 それは王道とて同じであり、学ばなければ何も身につかず、学ばなければ自信も付けられません。

 28歳という年齢まで王というものについて学んでこなかった貴方に、今だからこそ使える学びの奥の手を、特別に伝授しましょう」


イツキはにっこりと、いつもの如く胡散臭い笑みを浮かべ、王になる道以外は示さず、進むべき道だけを示していく。


「・・・奥の手、ですか?」


 ボルト公爵はキラリと瞳を輝かせ、弱気な王子を王にする方法があるのなら、ぜひ聞いてみたいと身を乗り出す。

 ドルトン王子に王になる気がなくても、国を思うボルト公爵なら、それを望んでいるとイツキには確信があった。だからこそ王子を守り、鍛えていたのだろう。


「そうです。ドルトン王子が王になる方法は2つあります。

 1つ目は、他の王子が潰し合いで全て死んでしまった場合。

 2つ目は、国民が貴方を王に望んだ場合です。

 奥の手、それは、数年後に起こる戦争という混乱に乗じ、学んだ成果を発揮し、民心を味方につけ、時の王に反旗を翻す方法です。

 自分が王にならなければダルーン王国の未来はないと、国民と善良な領主や臣下に働きかけます。

 民を虐げ搾取し、貴族のための国を作ろうとする王など、ダルーン王国には必要ないと叫ぶのです」


「そ、そんな大それたこと……私には……とても出来そうにありません」


 常に強者から押さえつけられ、自分の意見など言えず、日陰の身でいることに慣れてしまった王子には、民心を操ることなど絶対にできないと青くなる。


「そうですね。今の貴方では到底無理でしょう。だから学ぶのです。

 でも大丈夫。時の王に反旗を翻すのは、役者であるドルトンです。

 ダルーン王国の未来をを思い、命懸けで立ち上がるという王子役の俳優です。

 これから貴方には、ブルーノア歌劇団の俳優として学んでいただきます。

 演技をすることで、観客からどう見られるのか、どうすれば感動を与えられるのか、王としての台詞、王としての威厳、民を惹きつける王の語り方を、役者として覚えていけばいいのです。

 2年も演じていれば、民心を掴む台詞など、何も考えなくてもペラペラと湧いて出てくるでしょう」


「「「はい? 」」」


王子と公爵と王妃の声が見事に揃った。


「ドルトン王子、貴方に欠けているもの・・・それは王としての能力ではなく、他者に語り掛ける能力と自信、そして華です」


簡単に言えば、カリスマ性が欠けているのだとイツキは言う。

 だから演劇を通して王や領主の役、弱者や悪役を演じ、素晴らしい王、民に愛される王の見せ方を学ぶ。素のドルトン王子ではなく、役になり切ったドルトンであれば、きっと大丈夫だとイツキは考えた。




 これだけ嚙み砕いて話しているのに、よく分からないという顔をしている3人を見て、イツキは人に与える【印象】の違いというものを教えることにした。

 イツキはフィリップに紙とペンを用意させ、さらさらとショートストーリーを書いていく。


「ドルトン王子、貴方の役は30歳の国王です。敵対する国の使者と会談しているつもりで話してみてください。フィリップ、使者の役を頼む」


 イツキは楽しそうな顔をして、ドルトン王子とフィリップを対面に座らせ、自分は公爵と王妃と一緒に立って観客となる。

 テーブルの上には、王と使者の台詞だけが書いてある紙が置いてあり、それを見ながら即興で演じてもらう。



「お久し振りです国王陛下。本日は貴国のために、敗戦を認め、和議を受け入れることを勧めに来ました」


完全に上から目線の悪人顔で、脅しにかかる使者役のフィリップ。


「これは異なことを。敗戦? 何処の国の話であろう?」


使者に気圧され、ビビりながら返答する国王役のドルトン王子。台詞をそのまま読んでいるので、声に抑揚もなく少し高い。


「今なら我が王も、寛大な心で慈悲をお与えくださり、命まで取ろうとはなされないでしょう」


フィリップの声は少し低くなり、勝ち誇った顔で台詞を言うと、ゆっくりと笑って見せた。

 演技だと分かっていても、ドルトン王子はまるで蛇に睨まれた蛙のように顔色が悪くなる。


「ほう、慈悲とな? ならば貴国の王に伝えるがいい。残念ながら私は狭量ゆえ、王の命を以てその罪を償わせるとな」


負け犬がキャンキャン吠えている訳ではないが、台詞の内容にそぐわない逃げ腰で、ドルトン王子は言い捨てて視線を逸らしてしまった。


「う~ん、ドルトン王子、今度は絶対に戦争に勝つ気でいる王を演じてみてください。声は少し低く台詞はゆっくりと」


イツキは予想以上に大根役者の王子に、少しだけ演技指導をする。

 今度は語気が強まり声に強弱はついたが、とても強国の王の言葉とは思えなかった。


「では、ボルト公爵、貴方が国王役を演じてみてください」


 イツキの指示により、今度は公爵が国王役を演じてみる。

 流石に公爵である。国王として恥ずかしくない台詞回しだが、戦時下の国王としてはまだ弱い。


「この台詞をブルーノア歌劇団で演じるならば、主役の王は使者に負けるわけにはいきません。フィリップ、全力でこい!」

「はい、イツキ様」


 たった2往復の台詞だが、イツキもフィリップも役になり切る。

 フィリップは【王の目】の指揮者として鍛えた脅し方で、イツキは自分のイメージ通りの王の話し方で演技を開始する。


 イツキの国王は、まるで覇王のような眼力を持ち、使者を完全に小物扱いしていた。

 2人の会話には緊張感が生まれ、互いに瞳で腹を探り合い、魔獣同士が睨み合っているかの如く、そこには命の遣り取りがあった。

 イツキの声は全くの別人のように低く、小さな体が厳つい屈強な男のように見える気さえ起こさせた。


 特に最後の台詞で「ほう」と言う時、まるで使者が面白いことでも言ったかのように、少し体を前に倒しながら顎に手を当て、不敵にニヤリと笑ってから「慈悲とな?」と続けた。

 その威圧感に、フィリップを含めた全員が背中をぞくりと震わせ、底知れぬ恐怖感に顔が引きつってしまう。

 この王であれば、本当に敵国の王の首を落とすだろうと思えてならない。


「このように、同じ台詞でも印象が全く違ってきます。ドルトン王子が演技力を身に付ければ、どんな王にでもなれるのです。ダルーン王国の国民は演劇が大好きです。反旗を翻す王子の役を演じるなら、すこし大仰にカッコ良く、手振りも入れた方がいいでしょう」


さっと国王役から切り替え、イツキは教師のような話し方をする。


「演じるというのは、本当の自分を隠すことになりませんか?」


イツキの演技力に畏怖の念を抱きながら、それでは国民を騙すことになるのではないかと王子は問う。


「ドルトン王子、貴方は王に何を望みますか? 

 そしてどんな王でありたいと思いますか? 

 王などというものは、日々王という役を演じている役者と同じです。

 体調が悪くても元気な振りをし、嫌な客にも笑顔を向け、平気な顔をして罰を与える。弱い王とは見られぬよう人前では弱音を吐かず、慈悲を示す。

 本心なんて、怖くて臣下の前で晒すこともできません。


 王とは孤独なものだとよく聞きますが、それは、常に敵か味方かを見極め、弱い自分を見せないようにしようとして、自然と独りになるからです。

 他者に踊らされることのない王は、演技力の高い王であり、自らが目指す王のイメージをきっちり持っている王なのです」


 イツキは王について、ドルトン王子に合った考え方を示していく。

 王になるために生きてきた訳ではない王子には、王としての振る舞いは期待できない。

 見本となるべき父王は、実の兄やその子らを殺し王座を奪った。

 名君からは程遠く、ギラ新教に操られ、目指す王のイメージなど持たない愚王に過ぎない。だからドルトン王子は、あるべき王の姿を知らず、演じることもできなかった。




 そして翌日、イツキは団員の皆に、新しく入団した役者の卵を紹介した。

 芸術の国ダルーン王国の王子なのに、ドルトン王子は暗殺を恐れて城から出ず、観劇をしたことが殆どなかった。

 だから、ブルーノア歌劇団の公演を見学し、目から鱗が落ちるが如く、いや、初めて自我に目覚めた子供のように、演劇に魅了されのめり込んでいく。


 自分という人間に自信が持てなかった王子は、人を感動させることの素晴らしさ知り、歌うことの楽しさを知り、演じることの可能性を知った。

 元々王子として横柄な態度をとることもなかったし、贅沢もしていなかったので、大した心配も必要なく、劇団員の皆とも仲良くなった。


 団員がほぼ10代だったので、ドルトン王子に与えられる役は、40代とか50代の役になるだろう。落ち着いた話し方や、偉そうな話し方が求められる。

 もちろん彼が王子であることは、団員の誰にも知らされてないし、特別扱いされることもない。


 ボトルの街の公演は2回とも大盛況で、公爵領に相応しい立派な劇場には、貴族席や特別席があり、しっかり利益を出すことができた。

 公爵も王妃も観劇し、見たこともない新しい歌劇という舞台に大興奮で、ありがたいことに寄付金までくれた。


 次の目的地は、イントラ連合国の国境の街ヘヤである。

 5人目のリース探しの旅は、予定よりも早く進んでいた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

充電のため、暫くお休みをいただきます。

新しいリースとの出会いが楽しみなイツキです。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり何度読んでも好きだと思いました。以前は好きな箇所を読み返してましたけど、今回はシリーズ4から読み返しました。 いつまでも、続編お待ちしています。
[一言] 一気読み。面白かった。 続きが読めないのは残念ですが、気長に待ちます。
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