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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
リース探しの旅 ダルーン王国編

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215/222

ブルーノア歌劇団(1)

少し長くなりました。

「なんだこのバイト募集は?」

「指導員って何をするんだろう?」

「教会がこんなバイトを募集するのは初めてだよな。しかも、2年生以上の学生で、専門分野の指導員としての仕事を含むって、どんな内容なんだろう?俺たちはまだ学生だから、教師としての資格は持っていないのにな」


 芸術学校の掲示板に貼り出されたバイト募集要項の前で、多くの学生が立ち止まって話をしていた。


「しかも、採用試験ありと書いてある。バイトなのに・・・」

「でも、他のバイトより値段がいいわ。期間は10日間で人数は10人以上だなんて、誰を指導するのかしら?」


 芸術学校は夏休みに入っていたが、貧乏で家に帰らず寮に残っている学生は多く居た。もちろん、課題が終わらず残っている者も居た。

 試験日は明日。試験会場はチート正教会。

 集合場所は、声楽科の学生と演劇科の学生は礼拝堂。時間は午後1から。

 美術科の学生は中庭、演奏科の学生は裏庭が集合場所で、時間は午前9時から。


「特に舞踏学専攻者と作曲学専攻者は優遇……って、何をするのかしら?」

「教会のバザーは来月だよな?」

「授業料値上げに伴う退学者の就職の斡旋ありって……えっ? 授業料値上げするの!」


貼り出されたばかりの募集要項の、最後の部分を見た学生たちの顔色が変った。そして、ことの真偽を確かめるため、学生たちは事務室に向かって移動していく。


「後期から授業料は、1か月金貨2枚(20万円)になるところだった。

 だが、教授や我ら事務官が抗議し、なんとか銀貨5枚の値上げに抑えた。特待生(推薦入学者)は銀貨3枚の値上げだ。

 我々の力では・・・それが限界だった。

 1年生については特例として、後期の値上げはしないが、来年から新入生と同じ金貨2枚になる。特待生は金貨1枚だ。来年の2年生は……可哀想だが半分も残れないだろう。

 新校長がバッカス王子に代わり、逆らった者はクビにすると言われた。

 演劇科のスミス教授は・・・クビになった。

 金のない2年生は残り5ヶ月間、懸命にバイトして卒業するしかない」


勤続30年の事務官は、悔しそうに顔を歪め、すまないと頭を下げた。

 お金がなくて困っている学生に、いつも野菜を分けてくれる優しい事務官が、悔しそうに唇を噛み下を向いている。値上げは本当のことで、決定事項なのだと学生たちは知ってしまった。

「そんな・・・」と言って全員が絶句する。

 特待生にとって1か月銀貨3枚(3万円)の増額は、絶望的な金額だ。卒業までの5か月間、食事を一日一食にしたとしても厳しい。

 がっくりと肩を落とした学生たちは、再び掲示板の前まで戻ってきた。


「やるしかない!何が何でも卒業しなければ、これまでの時間が無駄になる」


なんとかギリギリでも、男子学生は力仕事のバイトがある。無理をすれば頑張れそうだと拳を握る。


「あたしは無理。これ以上親にも頼めない。これ以上……頑張れそうにない」


声楽や演劇を専攻している女学生は、給仕の仕事くらいしかないので、とても銀貨5枚や3枚は稼げない。

 それでも掲示板を見て、明日のバイトの試験を受けてみようと考える。そして就職の斡旋という文字を、涙を滲ませながらもう一度見る。





 同日夜、ファリス(高位神父)のオーベルトはイツキを伴い、会議室に身を寄せている特待生として入学する予定だった20人に向かって、バイトの斡旋をしていた。


「明日から10日間、芸術学校の学生のバイトと共に、新しく教会が創る劇団の構想を練ることになった。

 そこで、曲がりなりにも芸術学校を受験しようとした諸君に、1日2食付き、宿泊代無料で、小銀貨1枚(千円)のバイトを斡旋しようと思う。

 宿泊は特別に、教会の4人部屋の客室を提供する。

 この会議室は、明日の夜から練習場となるので、断る者は申し訳ないが、明日の午後3時までに退去して欲しい」


「10日で銀貨1枚……辻馬車代はできるな」(シュバル・演劇)

「芸術学校の学生と一緒に働けるんだ」(ドロス・演奏)

「教会は劇団を作るのね。凄いわぁ。劇団で働けるなんて夢ね」(ミーア・演奏)


20人の若者は、バイトを斡旋してもらえるとは思っていなかったので驚く。

 そして劇団という言葉を聞き、捨てるしかないと思っていた夢を、再び思い描いて熱い息を漏らす。

 20人全員が、今後のことを決めかねていた。帰るしかないと結論は出ているのだが、どうしても王都から離れたくないと思ってしまう。

 教会が許してくれる間だけでも、同じ夢を持った仲間と一緒にいたい。そんな想いを捨てられず今日まできてしまったが、ファリス様から最後通告を受け、決断するしかないのだと現実を受け入れていく。


「どうせ帰るんなら、何か思い出を残したいよな」(ルルニクス・美術)

「あと10日、悪あがきをしてもしてもいいんじゃない」(キャシー・演劇)


「そうだな」「そうよね」と、全員が前向きにバイトをすることに同意していく。

 

「分かった。全員がバイトする方向で部屋を準備しよう。それでは紹介する。今回、仕事を与えてくださるランカー商会のイツキ様だ」


ファリスのオーベルトは、一歩下がって皆にイツキを紹介する。


「レガート国の王都ラミルから来たランカー商会のイツキです。私は教会専属の仕事を主として働いています。

 この度、ブルーノア教会で劇団を創るという話があり、若輩者ではありますが、私がサイリス(教導神父)様より立ち上げの準備を任されました。

 芸術といえばダルーン王国。そしてチート芸術学校です。ですから私は、本場の芸術や演劇を参考にしようとやってきました。

 早速学校見学に行った私は、見学するのに銀貨1枚が必要だったことに驚きました。

 受験料や授業料が値上げされることや、皆さんのことをファリス様から聞き、この国の、そして芸術の未来が心配になりました。

 そこで少しでも助けになればと、皆さんや学生たちに、新しい劇団作りの一部を担う仕事を斡旋することにしました」


イツキは商人として皆の前に立ち、劇団を創るという話を出すことで、在学生の一部と目の前の20人を救うための作戦を開始する。

 20人は、自分たちの境遇に同情し、芸術の未来を心配しているという若き商人の話を、真面目に聞いていく。




 翌日の午前、フィリップが中庭で、美術科の学生に試験の課題を発表していた。


「これから君たちには、舞台で使用する背景を描いてもらう。画材はこちらで用意している。

 これは試験ではあるが、上手く描けていた場合、バイト料を払うこともできる。

 課題は8つ。遠くの丘の上に立つ城。深い森の中。王都の町並。剣と槍を持った騎士が10人。田舎の村の風景。舞踏会で踊る貴族たち。馬が3頭。礼拝堂。以上だ。

 8つの課題は10人で話し合い、騎士の絵と舞踏会で踊る貴族は2人で手分けし、全ての絵を描いて欲しい。

 それから、ここに居る5人は、後期の推薦受験に来た者だが、受験料の金貨1枚と2か月分の授業料金貨1枚が払えず、入学できなかった者たちだ。

 悔しい思いをしている5人に、君たちの実力を見せてやってくれ」


フィリップは大きな舞台背景用の板と、5色のペンキ、大きな直線が引けるスケールの代用板等を指差しながら説明する。

 制限時間は夕方7時までとし、昼食はこちらで用意すると言って試験を開始させた。

 学生にとって舞台背景画を描く機会はあまりない。

 1日を試験で使うなんて……と思わないでもないが、材料費がタダで、大きな板に大作を描くことが出来るチャンスなんて、二度と訪れないかもしれない。だから誰も文句を言うことはなかった。


「推薦受験なのに受験料が金貨1枚? 分かった。全力を尽くそう!」


本来なら後輩になったであろう者たちに、全力で描くと全員が誓って、瞳を輝かせながら担当を決めていく。

 早速構図を考え始める学生たちを見て、入学できなかった5人も、10人の学生から技術を学ぼうと、準備を手伝うため駆け寄っていく。


 


 一方、演奏科の学生でバイトの試験を受けに来た8人は、得意な楽器を持って裏庭の椅子に座り、試験の開始を待っていた。

 そこへ、今回特待生として入学するはずだった、声楽科7人、演奏科5人、演劇科3人の合計15人と、雇い主であるイツキが現れ前に並んでいく。

 バイト希望者8人の楽器は、トランペット2人、弦楽器3人、フルート2人、打楽器1人だった。


「ここに居るのは、推薦受験で入学するはずだったけど、受験料の金貨1枚が払えず、入学できなかった者たちですです。

 私は、今回皆さんにバイトを斡旋するイツキといいます。

 バイト採用の合否を決める、試験官でもあります。

 これから、声楽科に入学できなかった7人が短い曲を歌います。その5分後、もう一度歌うので、皆さんは伴奏してください。もちろん楽譜などありません。

 できる範囲で構いません。ただ、最後の1人が歌う曲は、一人ずつ演奏していただきます。では始めましょう」


イツキはいつものように微笑み、バイト希望者8人と、入学できなかった声楽科希望の7人の試験を同時に開始していく。

 声楽科に入学できなかったのは、男3人、女4人で、それぞれが短くて得意な曲を歌っていく。

 5人は既存の曲を歌ったが、ヤバル20歳と最後に歌うエレニア17歳だけは、自分のオリジナル曲を歌った。この2人は上級学校を卒業しており、基本を学んでいた。


 バイト希望の学生たちは、知っている曲が多かったせいか、5分後には問題なく伴奏できていた。

 歌う方の7人も、領主の推薦を受けるだけあって声もいい。

 ただ、最後に歌ったエレニアは群を抜いていた。何が素晴らしいかと言えば、その声量もさることながら、透き通るような声質と声域の広さは、確実に天から与えられたものだった。


 ……なるほど・・・これは幸運だったな。全ては神のお導きなのだろう。


「それでは、バイトの合格者を発表します。

 演奏科の8人は全員合格です。

 これから10日間、特待生として演奏科に入学するはずだった5人に、みっちりと演奏の指導をしてください。

 指導する曲は、始めの3日間が大陸中で歌われている有名な曲を中心に10曲、残りの7日間は、これから作る曲を中心に指導していただきます。

 バイト料は最低でも、1日小銀貨3枚(3千円)を保証します。10日間で銀貨3枚(3万円)ですが、指導した5人が、全ての曲を演奏出来たら、最終日に追加で銀貨2枚を出しましょう」


 イツキは黒く微笑みながら、バイト希望者全員に合格を言い渡し、バイト料の金額と最終日の追加金の話をする。


「「「やったー!合格だ!」」」

「銀貨3枚プラス銀貨2枚……たった10日で銀貨5枚(5万円)!」

「なんて豪儀なバイトなんだ!やるしかないじゃないか!」


 1日小銀貨3枚は、かなりの肉体労働で得られる金額で、得意分野の演奏の指導で小銀貨3枚なんて、これまで聞いたこともない美味しいバイトだった。

 合格したことも嬉しかったが、夢のようなバイト内容に8人は飛び上がって喜ぶ。

 早速8人は、入学できなかった5人の実力と楽器を確認するため、打ち合わせを始めていく。




 イツキは残った声楽科と演劇科に入学するはずだった10人を、礼拝堂に連れてゆき座らせると、祭壇の前に立ちとんでもない話をし始める。


「残った10人の皆さん全員に、声楽と演劇と舞踊の練習をしてもらいます。

 声楽科希望だったエレニアさんとヤバルさんは、皆が声楽の練習をしている間は、曲作りをしてください。

 演劇科の3人も、必ず声楽科の学生から発声を習ってもらいます。

 そして声楽科希望だった7人も、演劇科の学生から演技と舞踊の指導を受けてもらいます。

 あなた方が目指すのは、演じながら歌い踊れる新しいタイプの役者です。

 これからの10日間で、どれだけ頑張れるかを見せていただきます。

 もしもこの中に、私が合格を出す程の者がいれば、ブルーノア歌劇団の一員として、正式に雇う可能性があります」


とても15歳とは思えない貫禄と、まるで舞台監督か何かのようなオーラを放ちながら、完全に上から目線で爆弾を投下する。


「ブルーノア歌劇団?」(シュバル・演劇)

「貧乏な私達に与えてくださる10日の仕事って、歌劇団の入団試験だったのですか?」


女子のリーダー的存在のエレニアが、驚いたように立ち上がり、これはバイトではなく試験なのかと問う。 


「もちろんバイト代は、約束通り支払います。ですが私は、皆さんに大きなチャンス()与えたいと思っています。私を感動させる演技を期待しています」 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

仕事は自粛になったけど、体調を崩してしまい、更新が遅れました。

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