カルート国資金調達計画(2)
イツキは始めにポムについて説明をする。
見本として発明品のペンとポルムを見せ、ポムに関する発明品を販売する場合は、必ず利益の4分の1をブルーノア教会に納める決まりがあることを説明する。
そして、ポムを使い壊れ難く乗り心地を良くした馬車の車輪を作り、ランドル大陸中に販路を広げていくつもりだと言った。
産業部副部長ホーエンもユリス商会のセルトも、レガート国の発明品を見て、驚きと同時に自国との技術格差を思い知った。
しかもポルムは、発明者がロームズ辺境伯で、作ったのはラミル上級学校の学生だったのだ。その衝撃たるや……3分は口が開けっ放しになっていた。
商会を経営しているセルトは、ポムのもたらす経済効果はどれ程のものだろうかと考える。その有用性はあらゆるものに応用出来そうなのだ。どれだけのお金が動くのか、容易に想像することすらできない。
「もう1つ、ポムに関係する発明品は、全て僕が管理します。何故なら、僕が居ないとポムは作れないからです。これからは、不平等にならないよう各国に特産品を作る許可を与えますが、今年はカルート国、来年は……そうですねえ……ミリダ国になるでしょう。そしてポムに関する発明品において、ブルーノア教会に納めて残った利益額の1割を、僕個人に納めていただきます」
イツキは無表情なまま淡々と、事務的な口調で利益配分について語る。
「ロームズ辺境伯様は、大陸一の大金持ちになられるのですね」
セルトは壮大な計画にうっとりとしながら、イツキの受け取るお金は莫大な額になるだろうと、羨ましそうに視線を向けた。この場に100人の人間が居たら、100人全員が同じことを考えてしまうだろう。
「フッ、僕個人に入ったお金の半分は医療のため、残りの半分は世界平和のために使います。数年後には、ギラ新教はダルーン王国とハキ神国、そしてイントラ連合国を巻き込み、大陸を2分する大戦を仕掛けるでしょう。その時までに民を救うためのお金を貯えておく必要があるのです」
イツキは鼻で笑うように微笑んでから、一段と厳しい表情に変え、とんでもない爆弾を落とした。
「「「「な、なんですって!」」」」
イツキの話を聞いていた、ランカー、店長のベスビオ、ホーエン、セルトは、立ち上がりながら叫んだ。
「この話は……まだバルファー王にもしていない。だが、その日は必ず来る。みんな、心しておけ。個人の力などちっぽけなものだ。だが、お金があれば僕以外の者でも、食料を調達したり薬を処方したり、住む場所を与えることだって出来る。・・・僕としては2度と大陸戦争を起こさせたくない。そのために国力を上げておく必要があるんだ」
イツキは難しい顔をして真剣に話をする。それはまるで予言のようにも聞こえ、そうなると断言しているかのようでもあった。
パルを含む5人は、あまりの話の内容に目をパチパチさせたり絶句したり、反応は様々だが衝撃が大き過ぎて、何も言葉を発することが出来ない。
パルはイツキがリース様だと知っているので、どんどん顔面蒼白になっていく。ランカーもイツキは教会の重要人物だろうと思っているので、ゴクリと唾を呑み込み青ざめていく。
「まだ時間はある。先ずは自国の資金調達からだ。話を戻すが、ポムで作るのは馬車の車輪だ。価格はこれから試作品が出来てから決定することになる」
イツキは簡単な図を描きながら、何処にも存在していない車輪の説明をしていく。
そして車輪は、レガート国のマキ領で生産する予定だと告げる。
3年後にはカルート国内に工場の場所を移すが、情勢が不安定なカルート国での製造は無理だとハッキリ言う。
「試作品作りはレガート国の技術開発部で行い、製造はマキ領。でも素材となるポックの木の栽培はカルート国のサナ領で行う。栽培についてはレガート国農業開発部が協力してくれるだろう。レガート国からの資金援助が確定したら直ぐ、ホーエンは専門家と一緒にサナ領に向かえ」
「はい、ロームズ辺境伯様。・・・しかし、カルート国の為に技術開発部や農業開発部が協力してくれるでしょうか?」
借金までした上に、技術協力や専門家までタダで貸して貰えるとは思えないホーエンが、恐る恐る質問する。
「カルート国のため?フフ、そうじゃない。これはレガート国のためでもある。車輪の開発で、カルート国は貴族用の馬車や小型の馬車、荷馬車に人力の荷車用の車輪を作るが、レガート国は辻馬車用の車輪を作る。車輪全てをカルート国が作る訳ではない。それにレガート国は貸した金を回収しなければならない。双方に得のある話でなければ、交渉のテーブルにつくことなど出来ない。なによりも、レガート国はカルート国の崩壊を望んでいない」
「あの~、ロームズ辺境伯様は、本当に上級学校の学生なのですか?それほどの知識や駆け引きを、いったい何処で学ばれたのですか?」
31歳のセルトは、イツキの発明以外の知識に驚き、つい疑問に思ったことを質問した。
セルトはイントラ高学院の、経済学部(4年間)を卒業したエリートだった。だが、イツキが話すような国と国との駆け引きや経済協力など、学んだ記憶がなかった。
「僕は孤児で、教会の養い子として育った。だから、貧乏人の考え方や商人の考え方ならよく分かる。逆に貴族の考え方は理解できないことが多い。だが、国王の考えることは推測できる。王とは、常に国の安定や発展を考え、民が餓えぬようにし、少しでも国を豊かにしようと考えるものだ。そうでない王は、王としての務めが果たせない愚王でしかない。僕は12歳から13歳の間、大陸中を商隊と一緒に旅をした。だから、全ての国の経済状況や特産品を知ることが出来た。学びの場とは、決して学校だけが全てではない。こうしてレガート国に来ただけでも、2人は既に多くのことを学んだはずだ」
今日のイツキは雄弁だった。今年に入って医学大学や上級学校で教壇に立ち、教育者として話をすることが多くなったので、つい、口調が教師のようになり、分かりやすく説明しようとする結果、雄弁になってしまったのだ。
上から目線の話し方は、9歳くらいから変わっていない。大切な人に対しては、特に厳しい口調になる。リースとして育ったことも要因なのだろう。
いわゆる【教え】であったり【諭し】であったり、教会的な要素が大きかった。
「さて、もうひとつの資金調達の方法は、ご婦人用の高級ドレスと安価な既製服の製造だ。デザインはレガート国の女性が担当し見本を作る。それをロームズとその隣のカラギで製造する。そして、大陸中に販路を広げるため、年に2回大陸の流行を作るファッションショーを行う。場所は、レガート国ラミルと、ロームズになる」
イツキはそう言うと地図を取り出し、ロームズの立地は情報発信するのには最適であると説明する。
そもそもロームズの特産品は織物である。カラギの町に雇用も生まれる。
イツキは商品の流通経路を書き込み、全ての販売はユリス商会が手掛けると言った。
「ええっ!全てをう、うちの商会が行うのですか?」
へーぇ凄いなあと他人事のように感心しながら説明を聞いていたセルトは、突然自分に話を振られ、驚いた顔のままイツキに確認する。
「なんのために呼ばれたと思っていたんだ?当たり前だろう。そして、1番大切な要だが、馬車の車輪も服も、全ての商品製造をレガート国に発注するのは、カルート国の伯爵である、フィリップ・ロム・カラギである。カラギ伯爵の依頼を受けるのがユリス商会で、ユリス商会がレガート国に製造を発注する」
「ええ~っ、そ、そ、そんな大仕事を・・・」
セルトは嬉しいを通り越し、自分の肩にカルート国の明暗が乗るのだと思うと、怖くて体が震えてくる。
「心配するな。今からランカー商会がしっかり指導してくれる」
「はい?私の今回の仕事は、ユリス商会の指導ですかイツキ様?」
「そうだよ。でも、レガート国で車輪や服を売る時は、ランカー商会が代理店として販売する。利益は大きくないが、そこそこ儲かると思う」
イツキはニヤリを笑うと、レガート国での販売価格は、カルート国より2割くらい高くても大丈夫だろうと、しれっと儲けの割合を伝える。
「2割でも、うちは確実に儲かると……フムフム、なるほど……新しい店を建てるか」
商会長であるランカーは、店長のベスビオと顔を見合わせ、にっこりと笑った。そして、新商品を売るための店舗が必要だと考え始める。
製造場所はマキ領とロームズである。関税もかからず運賃もロームズからの服だけを考えれば済む。
「早ければ2年後、遅くても3年後には、カルート国内に製造拠点を移す。それを目標にしなければ、カルート国は生き残れないぞ。いつまでも大国レガートの技術に甘えていては、特産品とは言えないからな!」
「「はい、ロームズ辺境伯様、肝に命じます」」
ホーエンとセルトは、立ち上がってイツキに誓う。そして頭を深く下げた。
考えてみれば、何から何までロームズ辺境伯が段取りしてくれるようなものだ。自分達は指示に沿って動けばいい。いや、そうじゃない。2年後にはカルート国内に製造拠点を移さなくてはならない。それは大事業であり国策として取り組むことだったと、ホーエンは改めて自分に活を入れる。
セルトは考える。大陸中に販路を広げるために何をすべきかを。
自分が売り上げたお金が、借金の返済に充てられ、カルート国の国金になるのだ。責任は重い。本当に死ぬ気でやらなければ、カルート国は生き残れないのだと心に刻む。
「それでは早速、返済計画書を作成するぞホーエン。そしてセルトは、売上げ目標と、具体的な販売方法と販路について書き出してくれ。正式な数字は、実際に製品を作ってみないと分からない。だから、仮に○○エバーだとした場合……という仮定で書類を作成する。仮の数字は明日までに出すので、書式だけは完成させておくこと。ランカーさん、指導をお願いします」
「「「承知しました」」」
3人は覚悟を決めたようで、引き締まった表情で応えた。
「ああ、借用書の借り主は、カルート国王の名前ではなく、カルート国の貴族であるカラギ伯爵の名前にする。残念ながら、国王の名前では、レガート国の議会は承認しないだろう。どうしても国王にするなら、国王自ら頭を下げに来ることになる。その場合は領主や大臣5人以上の保証人も必要だろう。大至急、書簡をシルバ皇太子に送れ」
カルート国の現状を知ったら、議会は承認しないだろうとイツキは思っている。
だから、フィリップの名前で借り、全てのお金はフィリップが管理する。1エバーたりともカルート国の貴族に任せることは出来ない。シルバ皇太子や側近は信用できても、他の貴族のことは全く信用していないイツキだった。
ホーエンとセルトは考える。国のために保証人になる領主や大臣が居るだろうかと。
頭に浮かぶのは国務大臣のマリアノ様と、産業大臣のガウル様くらいである。
考えてみれば、今の上位貴族たちに愛国心なんてない。
いつの間に……こんな国になってしまったのだろうか?そう考えると2人は暗い気持ちになった。
イツキは昼まで今後の計画を話し合い、日程を調整する。
「ああランカーさん、車輪の製造をエイダモ商会に任せようかと思うのですが、どう思われますか?」
「えっ、エイダモ商会に?あそこは宝飾品や金属の加工が主ですが・・・人間的には信用できると思います。私とエイダモは中級学校の同期生なんです。考えてみれば、ポムの工場なんて、領主が運営するホンとカワノとマキくらいにしかありませんから、初の……いえ、ペンの製造に続く2番目の工場になるので、本人がやると言ったらやると思います」
ランカーは何だか嬉しそうな顔をして答えた。
『エイダモ、お前もイツキ様の元で苦労してみれば分かる。どんなに大変かが。フッフッフ、ずっと私を羨ましいと言っていたが、やっと私の苦労を分かち合える者ができた』と、ランカーは珍しく黒く微笑んだ。
「では、早速エイダモさんをラミルに呼び出してください。到着したら学校に知らせをお願いします」
「了解しましたイツキ様。必ず説得してみせます」
イツキとランカーはにっこりと笑うと、これから忙しくなりそうだと覚悟した。
「さて、これから王宮に向かうぞパル。侍女長に人材を確保して貰おう」
イツキはそう言うと、面接が大変なことになりそうだと溜め息をついた。
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