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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
執行部と領主の仕事

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イツキ、学生する(4)

 春大会最終競技であるリレーマラソンは、いよいよ最終ランナーにたすきが渡ろうとしていた。

 イツキの前走者であるフォスキンは、4位をキープしてイツキにたすきを渡した。


「イツキ君、頑張って!」(エンド)

「イツキ様、頑張ってください!」(親衛隊の走り終えた人達)


 イツキは声援を受けながらスタートする。元々エンドのチームは5位入賞を狙っていたので、予定通りの頑張りをみせ健闘していた。

 正門前をスタートし上級学校の外周を回る途中には、1年生が散らばって待機し、大きな声で声援を送っている。


「イツキ先輩頑張れ!」と発明部の1年生が手を振る。

「イツキ先生、優勝してくださいよー!」と、医療コースの1年生から声が飛ぶ。

 

 イツキの前を走っているのは、親友のナスカ、風紀部隊長のヤン、風紀部副隊長のミノルである。

 1位のミノルはぶっちぎりで先行しており、2位、3位のチームも間隔が空いていた。イツキと3位のナスカの差は15メートル近くあった。

 2・3年生はイツキの運動神経の良さを知っていたが、1年生は応援しながらも、体格的に小柄なイツキは不利だと思っていた。


 コースを4分の3走った所で、イツキは自分の前を走っていたナスカをスッと抜いた。ナスカにとってそれは突然のことで、後者の足音も息遣いも、殆どの聞こえてこなかったのに、いつの間にかイツキが隣に並んでいたのだ。そして、ハッと驚いた時にはイツキは前に出ていた。

 ナスカはイツキに追い付こうとピッチを上げようとするが、ほんの30秒足らずでイツキとの差は開いていた。


 ゴールまで300メートルを切った所で、イツキは前を走るヤンを捉えた。その差は10メートルである。

 1年生の「イツキ先輩がんばれ!」という声援がして、思わずヤンは後ろを振り向いた。すると、ヒタヒタと迫ってくるイツキが見えた。

 ヤンが前走者からたすきを受け取った時、3位との差は20メートル以上あった。これなら絶対に追い付かれることはないだろうが、ヤンは気を抜かず走っていた……はずなのに……いつの間にかイツキは直ぐ後ろに迫っていた。

 当然ヤンは負けるわけにも、抜かれる訳にもいかず、残りの距離を全力で走る。


「ハッハッ・・・えっ・・・なんで」と、全力で走っているヤンは、自分の横をスッスと抜いていったイツキに、息を切らしながら思わず声をあげた。


 ゴールまで150メートル。イツキは前を余裕で走っていたミノルの足音を捉えて、ニヤリと笑い全力スイッチを入れた。

 ミノルはゴールを目前にし、ゴール付近で声援を送っている学生達から、「ワーッ!」と驚いたような声が一斉に上がったので、まさかヤンが全力疾走でもしてきたのかと思い、思わず振り向いてしまった。

 そして、僅か3メートル後ろを独特の走り方で、イツキが迫ってきているのを見てしまった・・・!

 その時、ゴールまでの距離は残り50メートルを切っていた。


「ミノル先輩あと少し!」(ミノルのチームの2年)

「ミノル、死ぬ気で走れー!」(3年体育部部長)

「イツキ君!行けー!」(エンド)

「イツキ様がんばれー!」(イツキ親衛隊の皆さん)


ゴール前に居た全員が、全く予想していなかった展開に大声援を繰り広げる。

 トップを走っていたミノルは、自分がたすきを受け取る寸前に、体育教師から22年前の最高記録と同じタイムくらいだと聞いていた。だから、絶対に記録を塗り替えようと自分を鼓舞し、持てる力の全てを出して走っていた。


 リレーマラソンは頭脳戦であり、全力で走ったり、大会記録を狙うことを目的とはしておらず、上位チームの駆け引きで入賞を競うことが当たり前になっていた。

 しかし昨年は上位を狙うチームが、何故か第1走者から全力で走るという、例年とは違うレース展開となっていた。

 その流れからなのか、イツキにいい格好を見せたかったのか、負けたくなかったのか、今年も上位チームはタイムを競うように全力で走っていた。

 そこに、体育教師から最高記録が出るかも知れないと話が出た。ここは頑張るしかない!と、先頭のチームが思うのは当然のことだったし、その自信もあった。



「がんばれー!」「行けー!」「あと少し!」と、ゴール前にいた学生も教師も、2人のデッドヒートに熱くなり、大声を上げて応援する。

 ゴールの瞬間に全員の視線が集中する。

 真横でゴールを見ていた者も、どちらが早かったのか判定出来なかったくらい、2人は揃ってゴールに入ってきた。

 どっちが勝ったんだ?

 あれほどの大声援も静まり返り、皆は体育教師に視線を向け判定を待つ。


「同着!」と体育教師は大声で判定を告げ、「最高記録だ、最高記録が出たぞー!」と嬉しそうに大声で叫んだ。

「「「ワーッ!」」」と皆は右手を振り上げ、大歓声を上げ、飛び上がって喜んだ。


 そこに、何事?と、キョロキョロしながら3位のヤンがゴールしてきた。

 続いてナスカもゴールし、大騒ぎしている仲間から事情を聴き、イツキの元に駆け寄ると「イツキやったな!」と言って抱き付いた。


「イツキ様、優勝、そして、最高記録達成おめでとうございます。イツキ様は、我らイツキ親衛隊の誇りです」


ナスカはつい親友の癖が出てしまったが、ハッと気付くと直ぐに姿勢を正し、ゴール前に居た親衛隊員に目配せし、ズラリと並ぶと親衛隊長らしく祝辞を述べた。

 だんだん親衛隊長が板に付いてきたナスカである。


 その後イツキは、途中から変えた走り方を質問されたり、1周目は本気を出していなかったのか等の質問に答えながら、タオルや水を差し出され笑顔で受け取った。


『またひとつ、楽しい思い出ができたな。あとは上級学校対抗武術大会と夏大会だ。もう少し……もう少しだけ、学生で居させて欲しい』


イツキは走りながら視えた光景を思い出し、フッと息を吐き沈みそうになる気持ちを押さえて、祈るように心の中で呟いた。




 あっという間に楽しかった春大会も終了し、夕食時間は成績発表や表彰式で盛り上がった。

 自分には関係ないと思っていた表彰式で、リレーマラソンの最高記録チームとして賞状を受け取ったイツキは、とっても嬉しそうに笑っていた。

 その笑顔がなんだか自然過ぎて、でも、どこか寂しそうで、執行部部長でありイツキがリース(聖人)様だと知っているヨシノリは、不安な気持ちになった。


 上位10チームは、3月にレガート城に職場体験に行くことが出来る。

 今回の入賞は無理かと思われていたパル、ルビン、デイルのチームは、マラソンでも健闘し総合4位に入り、執行部や風紀部の面々、親衛隊のリョウガのチームも入賞し、レガート城に職場体験に行く権利を獲得していた。



 皆で騒ぎながら盛り上がっているところに、1年生数人がイツキ組のテーブルにやって来た。


「イツキ先輩、質問があります。イツキ先輩の挑戦状ですが、解答はプレゼントの内容だけを答えればいいのでしょうか?それとも宝の内容や、スープについても答えなくてはいけませんか?」


勇気を出して質問してきたのは、発明部の後輩であり、先日自分の母親が男爵家の令嬢だと知ったスコールだった。

 その様子を見ていた……というか聞いていた者たちは、急に話すのを止めイツキの回答を聞こうと耳をそばだてた。


「そうだね。ヒントから連想されることを1つに纏めると、完全に正解かな……はっきりしない部分は、想像でいいよ。僕以外の者に質問するのも構わないよ」


イツキはにっこりと笑い、一緒に宝探しに行こうなと質問に来た1年生に言った。

 イツキのその言葉を聞いたスコールは直ぐに行動を開始し、イツキ親衛隊2年部代表のルビン坊っちゃんの所へ行って、何やら質問を始めた。

 その様子を見たイツキ組であり、執行部庶務のケンとリバード王子も席を立ち、同じイツキ組であり風紀部2年部隊長のホリーの所へ行き、ヒソヒソと質問を始めた。


 だいたい食事も終わり掛けていたが、今夜は9時まで食堂が開いているので、挑戦を受けようと思っていた学生や教師までもが、イツキの出した挑戦の謎を解こうと、ヤマノ領出身の貴族(教師や学生)に向かって移動し始めた。

 全員が1番先に疑問に思ったのは、イツキがわざわざヤマノ領の伯爵名を使っていたことだった。


 暗号の答えは【夏大会は宝探しに行く】である。

 そしてヒントは4つ(1)絶景(2)腕試し(3)スープ(4)袋またはカゴ。


 それでは宝探しに行く場所は何処かと考えた時、ヤマノ領で絶景の場所?と殆どの者が考え付いた。

 その場合、ヤマノ領の伯爵でもあるイツキの領地が何処なのかが、重要な手懸かりとなるはずだと思い至った。


 そもそも夏大会とは、さまざまな資源を使って、何かを作ったり新しい産業を考えたりする、経済・産業コース【通称宝探しコース】と、町で起きた問題を探し、解決する又は解決策を考える、治安・法令コース【通称問題解決コース】の2つに分かれ、国民のために役立つ活動をする大会である。


 昨年は薬草不足を解消するため、ラミル領内で住民・教会と力を合わせて、薬草採取を行った。

 今年も薬草は不足する可能性がある。それならば・・・と皆は思案し想像する。

 ヒントの4番目《袋またはカゴ》、これは昨年も薬草採取で使った物である。だから今年も、イツキ君は薬草採取をする可能性が高いと皆は考える。


 でも、何故ヤマノ領なのかが分からない・・・わざわざ薬草採取をするためにヤマノ領へ?そして、ヒント2番目の《腕試し》とは何だろう・・・と首を捻る。

《腕試し》と言うからには、武術の腕を試すために誰かと対戦でもするのだろうか?……などと考えていた者たちは、イツキの領地が【レガート大峡谷】だと知り、答えはレガート大峡谷に薬草採取に行くで間違いないだろうと思った。


 解答がほぼほぼ分かったところで、「よし分かったぞ!」とあちらこちらから喜びの声が上がった。が、しかし、それを認めたくないような、行きたくないような……複雑な気持ちになった。

【レガート大峡谷】・・・そこは未開の地であり、魔獣や見たこともない獣がおり、人が足を踏み入れることが困難な場所だと言われている。


 わくわくドキドキのプレゼント……それは、未開の【レガート大峡谷】での薬草採取?

 確かにヒント1番目の《絶景》は、見たことはないが絶景で間違いないだろう。

 2番目のヒントの《腕試し》も、魔獣や獣と戦うのだと思えば間違いない……

 はて、3番目のヒントである《スープ》とは何だろう?

 残った疑問の答えを探そうと、1年生は先輩たちに、2・3年生はイツキ組のメンバーに質問に向かう。

 だが、向かう足取りは重い。【レガート大峡谷】にかなりビビっているのだ。


 当然イツキの従者であるパルの所には、質問者が集中する。

 イツキの指示により、質問者以外には聞こえない声の大きさで答えるようにと言われていたパルは、「イツキ様はスープを作られるのが得意です」と答えていた。

 それを聞いたイツキ親衛隊やファンの皆さんは、にっこりと微笑むと嬉しそうに解答を書き始めた。


 考えてみれば、自分達はイツキ君の領地に招待されるのだ。

 そして夏大会の間、一緒に寝食を共にし手作りスープをご馳走になる。

 想像してみれば、誰も見たこともない未開の地に、一緒に冒険に行くのである。


『やっぱり、わくわくドキドキなプレゼントじゃないか!』と、ファンの皆さん()()は喜んで解答を書き終えていく。

 逆に教師たちは、どんどん顔色が悪くなる。そして、本当なんですか校長?と、確認するような視線を向ける。

 そんな未開の地に、学生を引率するなんて・・・命懸け?本当に?と、責めるような視線で校長を見る。

 居たたまれなくなった校長は「ごちそうさま」と言って、そそくさと食堂から逃げ出していく。いつものことながら、気の毒な校長である。


 校長が逃げ出したので、『本当なんだ!』と教師たちはガックリ肩を落とした。

  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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