剣を探そうー5 ジェンキンスの訪問、そして提案
扉を開けたのはローブで見えにくいが青白く光るスケルトンのジェンキンスだった。
「失礼するよ」
「珍しいな、ここに来るなんて」
ガタリと音を立てて椅子から立ち上がったのは盗賊の兄貴だった。
「なぜモンスターがここにいるでござる!」
「兄貴、こいつは元人間だよ。知能もある。いきなり戦闘態勢にならないでほしい」
「そ、そうなのかでござるか?」
兄貴を見ればすでに後ろの腰にかけてある刀に手を置いている。
「まぁ初対面はいつもこうなんで慣れているよ」
「すまないな」
セバスをみると状況を察しているらしく落ち着いている。
「ジェンキンスさんもお茶を一杯……といっても飲めませんね」
「ああ、すまないなセバス殿」
あれ? もう二人知り合いなのか?
俺の意思とは関係なくジェンキンスは椅子へと座る。
「少し相談したいことがあるのだが……」
「相談? 金ならないぞ?」
「いや、ゆーくんの剣についてなんだが……」
「直せるのか?」
「いや、はっきり言って無理だろう。おそらく直せるのはドワーフの名工か……それでも直せるかどうか怪しいと思う」
「ふむ……」
ジェンキンスがちらちらと聖剣を見る。
何がそんなに気になるのだろうか?
「ジェンキンス、聖剣がほしいのか?」
「いや……聖剣自体には興味がない。むしろあの怨念が気になるのだ」
「怨念?」
「うむ……前見たときには感じない気配を感知しここに来てみれば聖剣から怨念の……それもとてつもない恨みの気配がしていてな……それに興味がわいた」
「実験でもするのか?」
「……そうだな。中身を確かめてみたい」
「中身?」
「怨念を調べる」
「もしかして除去できたりするか?」
ジェンキンスが聖剣を見つめ――
「恐らくそれは無理だろう。だが私には興味惹かれるものなのだ」
「ふむぅ……」
実際聖剣を手にしようとは今はとても思わない。手にしても嫌な予感しかしないからだ。
むしろ今は少しでも遠ざけたい気分だ。
「少しだけなら貸してもいいが……」
「本当か!? それなら助かる!」
「お、おう……」
身を乗り出し表情は読めないが声の抑揚からかなり嬉しいらしくとても興奮しているジェンキンスは俺の横を通り聖剣の前で座り込む。
「ふむ……ふぅむ。興味深い」
「どれくらい貸せばいいんだ?」
「そうだな……一日……いや三日程貸してほしい」
「ん……いいぞ。その代わり何かわかったら教えてくれ」
「了解した。ついでになにか困りごとがあればお礼ではないが相談には乗るよ」
「そうか。その時は頼む」
「それでは借りていくとしよう」
聖剣を手に取り胸元に抱きかかえ俺に一礼するジェンキンス。そしてセバスと目配せをし部屋から出ていく。
ジェンキンスが去りセバスが俺のカップに紅茶を足しながら――
「なにかわかればいいですな」
「だなぁ。あのままじゃどうせ使い物にならないし……あんなの使いたくないわ」
「よかったでござるか? 聖剣は神より賜りし神器。それを安々と……しかもモンスターに貸すのはどうかとおもうのでござるが……」
「でもジェンキンスはいいやつだぞ? それに怨念……というより嫌な気配がプンプンするんだよ。今の聖剣からは……」
「ふむ。それなら仕方ないでござるか……。それで? 武器はどうするでござる? 聖剣の代わりはあるでござるか?」
「ああ、それには当てがある」
「さすが勇者様。お手がお早い事で」
「まぁ武器がないとやっていけないしな」
実際問題セバスの支援で生活できたとしてもなにかのきっかけでクエストに行かなければならないという事態が起こりえる確率は高い。
この国に来て何回緊急クエストに出かけただろうか? それが物語っている。
その後はフェリスと一緒に読書をしたり盗賊の兄貴と会話したりしながら夕食時まで過ごした。
そして夕食を食べ終え風呂に行こうとすると――
「私もよろしいですか?」
「ん……セバスと一緒か。そうだな……こっちに来てから男の知人と一緒に入るのは初めてか……色々と積もる話もあるだろうし一緒に入るか」
「ありがとうございます」
そう言いながら俺は自分の部屋に着替えを取りに行き部屋を出るとセバスが待ち構えていた。
「話しながら風呂場まで行きませんか?」
「ああ、そうだな」
それからは適当に話しつつ風呂場へとやってきてお互いタオル一丁で風呂場に乗り込む。
そして湯気の立つプールのように無駄に広い風呂へと近づきかけ湯をしてからザプリと入る。
「ふ~落ち着くな」
「はい、左様で」
「ところでセバスは向こうの世界に未練はなかったのか?」
頭にタオルを乗せながら聞いてみる。
「未練……でございますか……そうですね。息子がちゃんと社長業をできているかが心配です」
「ふむ。大企業の社長だったんだもんなセバスは……」
「ええ。世界一位のグローバル企業でしたからね。私がいない今大変でしょう」
「……えっ、今なんて?」
セバスが不思議そうな顔で俺を見つめる。こいつ今なんつった?
「私が今いないと大変でしょうね。でしょうか?」
「その少し前」
「世界一位のグローバル会社……でしょうか?」
「そう!! そこ! なにそれ! 聞いてないよ!」
「ふむ。魔王様は知っておられたはずですが……」
「そんな有名企業ならまじ俺就職させてくれよ! てか教えてよ!」
「私はてっきり魔王様から聞いているものかと……」
「聞いてないよ!! つうか社長やってるって聞いたのもここ来る少し前だから!」
「そうなのですか? 言ってもらえれば勇者様なら課長クラスのポストを開けておきましたのに」
「くっ!! 俺の面接一年間の苦労は一体……」
「ですがそのおかげもあってこの世界にこられたわけですし」
「来たくて来たわけじゃないよ!」
「そうなのですか? 転移前夜魔王様からは「ゆーくんめちゃノリノリ! 仕方ないから私がおもりについていくわ!」と仰られてましたが……」
「ノリノリじゃねぇよ! 仕方なくだよ! つうかノリノリだったのはまーちゃんだし!」
「まぁいいではありませんか、ここで一から……いえ、ゼロから始めましょう」
「なにそのラノベみてぇなコメント……」
そんな会話をしていると俺たちの前に湯気で見えないが誰かがいることに気づく。
「セバス……誰かいるぞ」
「ええ、左様で」
「そこにいるのは誰だ? まーちゃんか?」
「私でござる」
湯気がふんわりと消え頭だけ出ているが何故かローブにマスクをつけている盗賊の兄貴がいた。
「盗賊の兄貴……さすがにその恰好はお風呂ではどうかと……」
「心配ご無用! ローブは頭だけ! マスクもちゃんと首半分から上だけのものにしているでござるよ!」
「そういう問題じゃ……苦しくない?」
「大丈夫でござる」
「さすがは盗賊様ですね」
「しかし少し熱くなってきたでござるな」
ザパリと体を湯から出し腰掛ける。あれ? なんか体つきが兄貴ぽくない。胸が膨らんでる。蜂に刺されたんだろうか? それに股間についてる一物が見当たらない。極小なのだろうか?
「盗賊の兄貴……もしかしなくても女?」
「なにを今更でござるか?」
「えっ――」
四百年ずっと兄貴と思ってた俺に衝撃が走る。そして――
「ごめん、姉御だったのか……」
「別にどちらでもいいでござる。私には性別など大したことではないでござるに」
「ふむふむ――まさかとは思いましたが盗賊様が女とは……勇者様パーティは実はハーレムだったのですな」
セバスの言葉に背骨に稲妻走る――
「まじじゃねぇか! じいさん以外女プリースト、女戦士、女盗賊ってハーレムじゃねぇか! それなのに俺まだ童貞!! なして!?」
「堅実さを体現しておりますな」
ふぉっふぉっふぉっとじいさんを真似してセバスが笑う。
俺は絶望に顔を風呂に漬け込む。
まさか兄貴と信じていた人が姉御だったとは……。




