セバスの日常-1 平和な世界
私はセバス。かつて魔王様に仕え、お世話係や身の回りの事をしていた者です。
魔王様が勇者様と異世界へ旅立ち数日が過ぎました。
魔王様と勇者様は元気でやっているのでしょうか……。
やはり魔王様の「セバスはセバスの幸せを見つけなさい」という言葉を聞かず私も行けばよかったと少々後悔中です。
なぜなら私の幸せは魔王様の役に立つことなのですから……。
ふぅとため息をつきながら自分が築き上げた会社の最上階――役員室で紅茶を一口飲みながら窓の外へと視線を下ろす。
魔王様が魔王城から出た際に不便がないようにと作った会社ですが今になっては虚しいだけです。
世界でトップクラスまで育った会社よりも魔王様の「よくやったわ。セバス」という言葉の方が価値がある事に今更気づくなんて皮肉ですね。
そんな事を思っていると机の上にある電話が鳴る。
仕方なくその電話を取り頭を切り替える。
「誰でしょうか?」
「親父! いや、役員、大変なんです!」
私の息子……今は社長の権限を与え仕事の半分を任せています。私にも劣らぬ優秀さ故、比較的若いにもかかわらず誰もが社長と認め反対の意見はあまり出ませんでした。
「そんなに慌てずに一から説明しなさい」
「あ、ああ……一から、か……かいつまんで説明するがよろしいでしょうか?」
「ええ、結構です」
「我々の傘下にある研究所が妙な研究をしていると社内から告発がありました」
「妙な研究?」
「それが……その研究員が言っていることが意味不明で……でも嘘ではないかと……」
「その根拠は?」
「……私の勘とその研究員の慌てふためきよう。そして研究費が不自然に膨れ上がっているのです。私はこんな決算見た覚えがありません。それに提出されるはずの研究資料も一つもあがってきていないのです」
「決算書の偽造にこちらにあがってこない研究内容……妙ですね」
「ええ、研究員が言うには……神を降臨させるとかなんとか」
「神……ですか。一体何を考えてらっしゃるのか」
「調べてみた結果その周囲のエネルギーが昨夜一斉に研究所に集められて停電していました。それほど長くない時間。そして深夜だったので影響はしくなかったですが……それ以外にも数日に一度このような現象が深夜に起こっているとのことです」
「確認はさせましたか?」
「ええ、確認に向かった者たちは研究所内を少し案内された後エネルギーの件は無関係、決算はちゃんと社長……つまりこの私直々に下している。研究内容も提出済みでほしいなら持って帰れと言われたそうです」
「ふむ、嘘の匂いがプンプンしますね」
「それで親父……役員に行ってもらおうかと……ダメでしょうか?」
「役員というのは建前で私はとうに引退した老体ですよ。まぁ暇なのでいってもいいですが……」
「すみません。役員……」
「気にしなくてもいいですよ。それより神の降臨の話が本当ならば私は神と対峙せねばならないのでしょうか。ふふっ少し退屈していたので気晴らしにはいいでしょう」
私は顎髭を撫でながら目を捕捉しニヤリと笑う。
できることなら職員が抵抗して私の鬱憤晴らしに付き合ってくれるとありがたいのですが……。
「そんな気軽に言わないでください。もし役員に何かあったら……」
「その時は社長が全権を握り会社をうまく立ち回れるようにしてください。そのための資料も既に役員室においてあります」
「……わかりました。ですが親父……役員、危険なことはしないでくださいね?」
「わかりました。できる限り穏便にすましますよ」
「親父が穏便に済ませたことなんて一度もないでしょう」
はぁと電話口から大きなため息が聞こえてくる。
「それではその研究所の資料を私のスマートフォンに送っておいてください」
「わかりました。ご武運を……」
ガチャリと電話が切られ私もそっと電話を置く。椅子に座り外を眺めていると私のスマホにメールが届く。私はそれを取り出し眺める。
行先は……旧王国の研究所があった場所。
今そこには魔法学院があるはず……。
その地下に我々は研究所など作った覚えなどない。
「きな臭いですねぇ。少し賢者殿に相談してみますか」
私はスマホから賢者殿に連絡を入れる。
「ほい、こちら賢者じゃが?」
「おお、勇者殿の仲間の賢者様、お久しぶりでございます」
「ふむ、セバス殿が連絡するとは珍しい。何かあったのかいの?」
私はかいつまんで説明する。
「何かお心当たりは?」
「ふーむ、神を降臨……そんなことが人の身でできるとは思わんがのぉ」
「ですよね。一体何の研究をしているのやら」
「旧王国がしていた研究も所詮魔人の解剖や魔人に効く攻撃は何か等そこまで大げさな研究ではなかったからのぉ」
「そこでなんですが……魔法学院で賢者殿は大変人気だと聞いております」
「わしに囮になってほしいと?」
「ええ、正面切って行くよりも部外者として秘密裏に動いた方が本当の姿を捉えやすいかと」
「仕方ないのぉ……」
「それでは今からご一緒にランチをして魔法学院に行くというのはどうでしょう?」
「ふぉっふぉっふぉ、寿司がいいのぉ」
「いつも欲望を隠しませんね。賢者殿は……」
「それがわしじゃ」
電話はそれで終わる。私はジャケットを着て賢者殿が指定した高級寿司屋へと向かうことにする。
さて、研究所ではなにを行われているのか……。
しかしこの後、私は経験したことのない人への嫌悪感とそして人の愚かさ欲深さ。なぜ魔人と人間が争っていたかを思い出すことになる。




