戦争開幕ー1 競技が本物の戦場へ、そして――最強の魔王
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
戦闘開始の笛が鳴るや否や戦場がうなり声に飲み込まれる。
そして――
「うおおおぉぉぉ!」
――俺も叫んでいた。
それを見てか、
「うぉぉぉ! なのん」
「う、うぉぉぉ! こ、これでいいかいのぉ」
「主様はなんで叫んでおるのかわからんな」
「それよりお酒ないの? お酒!」
仲間からも怒号が飛ぶ。
「ちょ、ちょっと! 「王の剣」の役目は最後ですよ! 何で今叫んでるんですか!」
「いや、だって……なんか叫びたくなるじゃん」
「そ、それだけで?」
「うん」
「ちょ、前を見てください!」
「ん?」
「「王の剣」が叫んだことによって「突撃」と勘違いして中央から突っ込んでますよ!」
「ああ……まぁいいんじゃない?」
「で、ですが……中央が薄くなれば……」
「冒険者を引かせて両脇からの挟撃で作戦は決まっただろ? むしろいい事じゃないか」
「そ……それは……」
「まぁ、焦るなよ。通信機器とかないのか?」
「ええと……これですか?」
リスティがポケットからゴソゴソと何かを取り出し見せてくる。
手に持っていたのは紫色の水晶のペンダントだ。
「ちょっと貸して」
「はい」
渡されたペンダントに魔力を通してみる。
ペンダントが光輝く。
「これで通信できるんだな?」
「ええ」
「左側面担当と右側面担当は誰だ?」
「ええと……ウィンタール将軍とアズリエル将軍です」
「その二人と通信したらいいんだな?」
「ええ」
俺はふむふむと考え込む。
いくらこの国の兵士が強いとはいえ冒険者も強いか? と言われると分からない。未知数だ。
もしこの国の冒険者が散々な結果を出せばこの戦争の後に冒険者組合主催の合同合宿でも開いて冒険者の実力の底上げをしないといけないだろう。
そしてその選択肢は必ず軍部からも出て俺の――「王の剣」のところまで話がくるのは目に見えている。
だからこそ散々な結果になってもせめて表だけでも「健闘しました」という結果が必要だ。
それには挟撃のタイミングが重要となる。
俺は中央冒険者が白いベルトを巻いている敵へと突っ込むのを眺める。挟撃のタイミングを見失わないように慎重に。
だが、敵と味方がぶつかる前に出来事は起こった。
「待たれよ、諸君!!」
敵軍中央からのどでかい声――拡声器を使っているのだろう。
その言葉に敵軍はピタリと行軍を止める。
それを見てこちらの中央冒険者達も足を止める。何かの罠だろうか?
「私はクローゼ王国の伝説級冒険者ルーク。五傑のルークと言えば早いかな? 諸君らはこんな戦争でいいのか? 命の危機の心配もない、ただ金儲けだけの戦闘――それになんの意味がある? そんな事で戦闘のスキルがあがるか? 否!! あがるわけがない! 実力をあげるのはいつも死と隣り合わせの戦場! そうは思わないか?」
誰も賛成はしないだろう、だってここには金儲けに来ている冒険者がほとんどだ。
だが――敵軍中央を「視認拡張」で拡大してみると冒険者達がニヤニヤしている。なんだ? 一体……。
「あ……あやつじゃ! あやつがわしを殺そうとしたんじゃ!!」
「なに?」
シロを見るとわなわなと拳を震わし眉間にしわを寄せている。
「あの喋っているルークという輩とその周りにいる四人じゃよ! わしの森に土足で入りわしに攻撃してきたのは!!」
「ふむ……おい、ルーナ」
「ふぁい!!」
急に呼ばれへんな声を出すルーナ。
「あの中に神器持ちは何人いる?」
「どの中です?」
「さっきの話聞いてなかったのか?」
「す……すいません。間近で見る戦場に圧巻されていました」
「やれやれ……あの拡声器をもってる奴と取り巻きだ」
「ちょっとまってくださいね……ふん!」
ルーナを見ると片手を筒の形にして目に押し合て覗き込んでいる。
そんな事をしないと見えないのか? この女神……。
「ええと……中央の人とあの大剣二本持ちの人、それに……ダガーの人、あとは隠していますがあの青いマントを羽織った黒装束の人も持ってますね。唯一持ってないのはお爺さんくらいです」
「五人中四人が神器持ち……つうかすげぇな!! じじい! 神器持ちの中で唯一神器なしかよ!」
「忌々しい! 忌々しい!」
シロが怨念を込めて繰り返し言葉を口ずさんでいる。言の葉で人を殺せるなら確実にあの五人は死んでいるだろう。
「ルーナ、つまりあの五人の神器を回収すればいいんだな?」
「は、はい! お願いします! どうか神器を神界へ戻してください!」
「ふむ」
俺は考え込む。どうやって奪うか……。その最中またもルークとやらが叫ぶ。
「私はこれよりこの戦場を本物の戦場へと変えようと思う。もし命が大事ならすぐさま撤退してほしい。もう一度言う、これから始まるのは本物の戦場だ!」
誰もが理解できない。だが、敵軍のニヤつきは止まっていない。
パチン!!
ルークが片手をあげ指を鳴らす。その音は響き渡り俺の耳にも直に聞こえてきた。
その瞬間五人の後ろにいた黒いドレスの女が空中へと飛び――そして姿を変える。
「な、なんだありゃ!」
「一体なにをしようとしてやがんだ!」
一斉に味方軍がざわつき始める。
そう、敵軍の中央の空にドラゴンが現れたのだ。
俺はそのドラゴンをじっと見つめ、
「ブラックドラゴンか……体の大きさからしてかなりの強さだな。そして角が長い……エンシェントクラスか?」
俺の前いた世界ではエンシェントクラスまで成長したドラゴンは世界を放浪し自分の縄張りを決め、そこで過ごすはずだ。こんな戦場になんて出てくる筈がない。こっちでは違うのだろうか? なんて考えてるとそのドラゴンはこちらへ向かってくる。
そして救護所をことごとくブレスで焼き尽くす。
味方軍から「なにやってるんだ!」「まじかよ!」という声が飛び出す。
そして一番焦っているのは……冒険者組合だ。
通信機器を取り出し「どういうことだ」「クローゼ王国の冒険者組合は何を考えているんだ!」「今通信がつながりました! 寝耳に水という事です!」そんな言葉が冒険者組合員達の間で交差する。
どうやら冒険者組合は関係なさそうだ。
ドラゴンは救護所をことごとく破壊し敵軍へと戻り元の姿へと戻る。
「五傑のルーク……奴は一体何を考えているんだ」
ボソリと呟くクリス。
「お前は知っているのか? ルーク達の事」
「もちろんだ。クローゼ王国の騎士団からの誘いを断って冒険者として名を馳せたパーティだ」
「ふむ……これはこのままいけば死人がでるな。リスティ、撤退の合図を出すぞ?」
「…………」
「リスティ?」
リスティの方を見やると口が塞がっていない。思わずその口の中に指を突っ込みたいくらいだ。
「おい! リスティ!」
「ひゃい!」
「とにかく、救護所が潰されたんだ。一時撤退を進言する」
「そ、そうですね! そうしましょう! 戦争は一時中断になるでしょうし」
その言葉と同時に笛が二回なる。おそらく中止の合図だろう。だが……その笛と同時に敵軍が猛突進してくる。雄たけびをあげて……。
その異常事態に対処できない冒険者達がさっきルークの話した「命の危機」の言の葉に惑わされ蜘蛛の子を散らすように撤退してくる。
先手は完全に敵軍有利。それも「命の危機」という単語を冒険者の心に刻んだあのルーク、そして敵軍は冒険者組合の事など最初から知ったことではないといった行動だ。
これで作戦は完全に無意味と期した。
さてどうするか……。
そんな事を考えていると天空から轟音を立てて稲妻が落ちる。
またルークが何かしたのか?
砂塵を巻き上げ戦場中央が見えなくなる。
そしてその中に一つの人影が現れる。
それを視認し俺は叫ぶ。
「髑髏騎士!?」
最強の魔王のご登場だ。




