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世界のために戦った勇者と魔王は転移した世界ではのんびりと暮らしたい!  作者: 月影之命
第六章 ゴブリン、神獣、そして……魔人の子?
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ゴブリンー3

 後ろを振り返った俺はすぐさま聖剣を抜く。

 投げナイフで先制が取れなかったのは痛い。

 そして躊躇なく聖剣をゴブリンへと――


「ちょ、ちょっと待て!」


 振りかざしたが途中で止める。

 ゴブリンの眉間ギリギリで止めた聖剣をそのままにし、ゴブリンへと話しかける。


「お前話せるのか?」

「あ? 当り前だろ」

「ふむ」

「とにかくその危ない剣をさっさとどけてくれねぇか?」


 ゴブリンの眉間の汗を見て今の状況は交友関係を築くのにまずい状況だと悟る。

 聖剣を鞘に仕舞い警戒しつつ話を切り出す。


「なんでこの遺跡に住んでるんだ?」

「こんな所で立ち話もなんだ……俺っちの家に来いよ」

「家? 下の広場のあの麦わらでできた奴か?」

「ああ、ここの広場は晴れの日はいいが雨が降ると直接かかるからな」

「そこで俺達を袋叩きにでもするのか?」

「ハハッ、おもしろいことを言うな。それができたら苦労はしないさ。お前相当強いだろ?」

「一目見ただけでわかるのか?」

「当り前だ。野生の勘がビンビンに反応してやがるぜ」


 どうやら嘘は言ってないようだ。

 しかし気になるのはその麦わらでできた家の数だ。

 一つ二つではなくまるで集落のようにいくつかある。

 そのど真ん中に行くとどうなるか……袋叩きにしないと言うが確証がない。

 このまま下に行くか迷う所だ。

 下手に言葉に従い下に行くと罠でしたって可能性を捨てきれない。

 て、おい! 俺を無視して他の連中がゴブリンに連れられて既に階段を降りているんだけど!

 俺は慌ててまーちゃん達を追いかける。

 そしてリスティの隣まで駆けていき小声で、


「お前ら何考えてんだ! これは罠かもしれないだろ」

「え? 罠? どういう事ですか?」

「お前ら……待ち伏せとかあるかもしれないだろ!」

「ですがゴブリンさんはとても友好的でしたよ?」

「そうやって甘い声で誘って下に着いたところをゴブリン全員で襲って来るとも限らんだろ」

「大丈夫な気はしますが……」

「ゴブリンは狡猾だ。小さい体躯を駆使して頭を使い生き延びるんだ」

「ええ!」

「しっ、声が大きい。もうここまで来たからには引き返せない。戦闘準備だけはしとけ」

「は、はい」


 仕方なく階段を降りて集落の所まで行く。

 俺は聖剣に手を添えいつでも抜ける準備をしておく。

 ゴブリンは集落を抜け一つの家へと足を運び、その家の前で立ち止まりこちらに向き直りつつ親指を家の方へと向けて、


「ここが俺っちの家だ。人間には狭いが我慢してくれよな」


 ゴブリンがニヤリと笑う。

 その純粋な笑みには人間を罠に嵌めようとする意図が見えなかった。

 どうやら俺の思い過ごしか……。

 その小さな家は中腰にならないと入れないほどで仕方なく屈みながら中へと進んでいく。

 そしてテーブルのように配置された石とその周りにある椅子と思われる石に座る。

 他の連中も余っている石の椅子に座り落ち着いたところでゴブリンも椅子に座る。


「おーい、お客さんだ。お茶を入れてくれ。俺っちを入れてひー、ふー、みー、全部で五人分だ」

「はーい、すぐに持って行きます」


 外にいるゴブリンへと声を張り上げお茶の支度をさせる。

 もしかしたら攻撃の合図かもしれないため、俺はまた聖剣の鞘に手を添える。

 そんな俺の警戒心を悟ったのかゴブリンが、


「そんなに警戒しなくてもなにもしねぇよ」

「ふん、ゴブリンの言葉を素直に信じるほど馬鹿じゃない」

「ちっ、まぁ仕方ねぇか」


 ばつの悪そうにボリボリと頭を掻くゴブリンを見ていると警戒している自分が馬鹿みたいに思えるな。

 それにしても臭いがない。

 普通ゴブリンやオークの巣であれば汚物や動物臭等が立ち込めるはずなのだがそれがなく清潔な香り……恐らくはなにかの花の香りだろうか? それが漂っている。


「それで? お前達はなんで遺跡に住み着いているんだ?」

「ああ、まずは自己紹介をさせてくれ。俺っちの名前はグーラー・ノウン。見ての通りのゴブリンさ」

「グーラーか、それで? なぜお前達はここに住み着いているんだ?」

「それがな……数か月前までは俺っち達は森の奥で平和に暮らしてたのさ」

「ほぉ、それで?」

「数か月前に冒険者達が神獣を討伐しようと森の奥の更に奥……神獣の住む聖域へと足を踏み入れたのさ」

「きな臭くなってきたな」

「お茶お待たせー」

「おう、置いといてくれ」


 入ってきたのはグーラーの奥さんだろうか? 一丁前(いっちょうまえ)にエプロンなんかしてやがる。

 下にはなにも着ていないから人間で見たら裸エプロンなんだろうがゴブリンだからなぁ……。

 その奥さんらしきゴブリンがお茶を差し出す。


「ありがとう」

「いえいえ」


 人当たりがいいな、このゴブリン。

 お茶を配り終えたゴブリンは会釈をしながら出て行く。


「どうだ? 俺っちの嫁は。美人だろ?」

「ああ、お前にはもったいないな」

「ハハッ、言うじゃねぇか。あんちゃん」


 当然嘘である。

 ゴブリンの顔なんぞ見分けられる目を俺は持ってないんていない。

 全員同じ顔に見える。


「それでさっきの話の続きなんだが……」

「ああ、その件か……後で知ったことなんだがその冒険者達はクエストで神獣の森に行ったのではなくただの腕試しで神獣に挑んだらしい」

「どうやって知ったんだ?」

「あ? なに言ってやがる」


 そう言いながらグーラーは自分の鞄からなにかを取り出しそれを机の上に置き俺の元へと滑らせる。

 スルリと石机の上を滑らかに滑走してきた物を俺はキャッチし見てみるとそれは紛れもなく勇者免許だった。


「まじかよ……」

「なにがだ?」

「いや……ゴブリンも勇者になれるなんてな……」

「なに言ってやがる。ちゃんと話せる知能があって読み書きもある程度できればアンデッドだろうが悪魔だろうがモンスターだろうが勇者免許を取得できるだろうが」

「そうなのか……リスティは知ってたのか?」

「ええ、昔父に連れられて行った国にドラゴンが人に化けて教師をしているのを見た事があります。その人も勇者免許を持っていましたよ?」

「ドラゴンが教師……世も末だな」

「それより酒はないの? お茶じゃ満足できないわ!」

「話を戻そうか。その神獣は勇者免許を持っていないのか?」

「持っているはずだ。だからこそ今まで襲われなかったんだ」

「なのになぜ今襲われたんだ?」

「知らんよ、その冒険者達に聞いてくれ」

「ふむ……おかしい事だらけだな」

「なにがおかしいのですか?」

「リスティ……考えてみてくれ。勇者免許を持った神獣を殺せばその冒険者達はどうなる?」

「ええと……」

「犯罪者になるのん」

「さすがフェリス、その通りだ」

「犯罪者になれば冒険者組合のクエストは受けれなくなる」

「そうなんですか」

「恐らく期限付きだから数ヵ月から数年程だとは思うがな……」

「お酒ーリンゴ酒飲みたい!」

「そうだ、そこでリンゴ酒だ……違う! まーちゃんちょっと黙っててくれ!」

「なんでよ! さっき酒屋みたいな所があったじゃない! ちょっと買ってきなさいよ! ゴブリン!」

「なんて姉さんだ……仕方ない。久しぶりの客人だ……おーい、酒屋で上等な酒を買ってきてくれー」

「はーい」

「ひゃっほい!」

「すまんな。グーラー……お前いい奴だな」

「へへ」


 グーラーが照れながら鼻の下を人差し指で擦る。


「それでだ、犯罪を犯してまで腕試し……しかも神獣相手にだ。もし神獣を狩れば名誉にはなるだろうが犯罪者にもなり生態系も壊れるだろう。神獣の加護のおかげで森が豊かなのかもしれない。もし神獣の加護のおかげで森が豊かなら殺した場合どうなる?」

「森が枯れる?」

「森が死ぬのん」

「さすがフェリス、賢いな」

「あたりまえなのん!」

「むぅ」


 ぷくっと頬を膨らますリスティを放っておいて話を続ける。


「生態系を崩してまで自分の腕を試そうなんざ正気の沙汰とは思えんな」

「その通りだ。俺っち達もただ神獣観光くらいにしか思ってもいなかったんだが冒険者達が入ったその夜神獣が聖域から出てきて俺っちの村を襲ったんだ」

「どういうこった」

「負けたのさ」

「神獣が?」

「ああ……」


 グーラーの顔が暗くなるのが目に見えてわかる。


「手負いの神獣が餌を求めて俺っち達の村を襲ったのさ」


 ブルブルと震えだすグーラー。

 襲われた時の恐怖を思い出しているのだろうか……。


「冒険者達はどうしたんだ?」

「わからねぇ……後で冒険者組合に行ったがファルス王国の冒険者組合ではそんなクエストを発行した覚えはないといわれたさ」

「なら違う国の冒険者組合じゃないのか?」

「いや……あそこはファルス王国の管轄だ。他の国の冒険者組合でクエストを発行できないはずだ」

「なるほどな……その冒険者の容姿とかは見てないのか?」

「村の近くを通った時に少しだけ見ただけだ」

「詳しく教えてくれ」


 グーラーは腕をさすりながら、


「確か……そう、五人組だ。やばいオーラを全員が纏っていたな」

「他は?」

「いや……すぐに気配を気付かれて睨まれたんで逃げてきた」

「ふむ……腕の立つ五人組の冒険者か……」


 ファルス王国の冒険者組合では見た事がないな……。

 恐らく他の国の冒険者か。


「それでその神獣はとどめを刺されなかったのか?」

「ああ、すでに瀕死だったにも関わらずとどめは刺さなかったみたいだ」

「それじゃ、その神獣は今頃元の森に戻っているんじゃないか?」

「いや、森を見に行ったが焼け野原状態だ。相当な激戦だったんだろうな」

「冒険者の死体も無かったと」

「その通りだ。目的がなんなのか未だにわからねぇ。名誉……称号が欲しければとどめを刺すはずなのにそれもせずに瀕死にだけして帰る意味が俺っちにはわからねぇ」

「ふむ……」

「お酒買ってきましたよー」


 入り口から酒瓶を持った裸エプロンのゴブリンが入ってきたと同時に「待ってました!」と言わんばかりにまーちゃんが前のめりになる。

 そしてその酒瓶をまーちゃんが受け取るや否やすぐに酒瓶の栓を素手で開けグイッとラッパ飲みを始める。

 そのせいか酒の臭い……ハチミツ酒だろうか? 甘いハチミツの匂いがほんのりと俺の鼻腔をくすぐる。

 ゴクリを唾を飲みこみまーちゃんの方へと目が行ってしまう。

 お茶を飲み干しそのコップをまーちゃんの方に無意識に突き出していた。


「ゆ、ゆーくん!」

「ちょっと味見を……」


 まーちゃんがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、


「欲しいの? 欲しいの? なら土下座しなさいよ! どっげっざ!」

「こいつ……いいから注げよ!」

「嫌よ! どっげっざ! どっげっざ!」

「こいつ!」


 俺は狭い家の中でまーちゃんと酒を中心に取っ組み合いになる。

 リスティが止めに入るが止めれるわけもなく……。

 やっとの事で酒瓶を奪い取りコップへと注ぎ、酒瓶をまーちゃんへと返す。


「もうやんないからね! もうこれ以上は私のもんだかんね!」

「わかったわかった」


 コップから漂うハチミツの甘さと……あとは果物か?

 ワインのような色の酒を少しだけチビリと一口飲む。

 ふわりと口の中にブドウの匂いが口の中に広がりそれに追従するかのようにハチミツの甘さが舌にとろける。


「うまぁ」


 俺は無意識に言葉が出ていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

よろしければブクマや最新話の一番下にある評価をしてもらえると原動力になります!

感想も受付中です!(これも最新話の一番下から書けます)

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