神獣ー1
「ふーむ」
ハチミツ入りブドウ酒を味わいながら少し悩む。
「これはいい葡萄だな」
「そりゃ俺っちの村の酒屋は薄めたりしないからな」
「なるほどな」
「そ、それより話を戻しましょう!」
「おお、そうだったな」
「俺っちの出せる情報はさっき言った通りだ」
「腕試し……か、逆を言えば瀕死であれば犯罪者にならない。とても迷惑な話だがな」
「そんな事のために俺っちの村は……」
「でも称号を取れる千載一遇のチャンスを逃すなんて本当に腕試しだけだったんだろうか……」
「わかんねぇ……死体もなかったし食われたのかもしれねぇな」
「ふむ……その神獣はまだお前達の森に居座っているのか?」
「ああ……もうあの森には近づけねぇよ」
「わかった。俺が行こう」
「ゆーくん! 本気ですか?」
「なに焦ってるんだよリスティ、なにか不都合でもあるか?」
「神獣ですよ! 人間がおいそれと話しかけていい相手ではないと思うのですが……」
「話を聞かないようなら一発ぶん殴るだけさ」
ブドウ酒をチビチビと飲みながら説明する。
「し、神獣と一戦交えると?」
「交えるかどうかは相手次第だな。それに森の近くに前にオークが住んでいた地下の巣があるだろ? あそこにゴブリン達を移住させればいい」
「どういうこった?」
「俺達はな、ここにゴブリンが巣を作ったから討伐しろとクエストを受けてきたんだ」
「なんだって!」
「安心しろ、冒険者は殺せない」
「ふむ……やっと生活も安定してきたんだがな」
「ちょっと前にオークを殲滅してその巣がまだ健在ならそこに移り住んでくれないか?」
「ここじゃだめなのか? ここは広いし日差しがとても気持ちいいんだ」
「うーん……それなら定住するためにこの土地の領主か国に金を渡さないと問題があると思うが、そのあてはあるか? あるなら一度帰って冒険者組合に掛け合ってもみるが……」
「俺っちに人間の金なんてないよ」
「そうだろ? なら移住しかないな」
「仕方ないか」
グーラーが肩を竦め俯く。
仕方のない事だ。
数ヵ月前に急に冒険者が神獣を手負いにし、その神獣が村を襲う。
そして命からがら逃げて来た場所で村を復興しようとしたら出て行けと言われるのだ。
こちらが悪人と言われても不思議ではない。
「ところでお前達しか生き残らなかったのか?」
「いや……他にもいたが四散して逃げたからそいつらの事まではまだ探せていない」
「ふむ……よし! ちょっくら神獣様にでも会って来るか!」
「ええ! 本気ですか!」
「そんなに驚くなよリスティ……。グーラー、少し待ってな。俺達がなんとかしてやるよ」
「おお、すまねぇな兄さん、俺っちはもうあの森には行きたくねぇ」
「気にするな、乗りかかった舟だ」
そう言いながら俺は中腰に立ち上がり家を出る。
そこには人間のように生活をするゴブリン達がいた。
「パパー話終わったの?」
「パパーあそぼー!」
「ああ、後で遊んであげるよ、ちょっと待ってな」
グーラーに纏わりつく子供ゴブリンですら会話が可能……どうやら相当知能が高いらしいなここのゴブリン達は……。
グーラーと一緒に階段を上がりながら村のあった場所を地図を見せて確認する。
オーク達と戦った巣からさほど遠くないな。
そんな事を確認しながらグーラーにオークの住んでいた巣があった場所を教える。
地図を指差すとグーラーは「ああ、そこのオークか。昔から困ってたんだ」と言いながら顎を撫でていた。
「そこにこれからは住んでくれ」と言うと渋々だが「わかった」と返事が返ってくる。
その後は遺跡から出てグーラーはオークの巣へ、俺達は神獣がいるであろうグーラーの村跡へと向かう。
森の中に入りそこそこ経った頃に廃村を見つける。
客観的に見てもひどい有様だ。
「ここがグーラーの村か……想像以上に壊されているな」
「ゆーくん、やっぱり帰りましょう」
「なんだ? 怖いのか?」
「それは……」
「だーいじょうぶよ! 私がいるわ!」
「うちもいるのん」
「まーちゃんは少し酔ってるから気をつけろ。すぐに喧嘩売るぞ」
「まーちゃん! 大人しくしましょうね!」
「なによ! 神獣に無闇やたらに喧嘩なんて吹っ掛けないわよ。それにまだそんなに酔ってないわ! こんな美味しい酒を一気飲みなんてするわけないじゃない!」
「ほーん」
まーちゃんは大事そうに酒を抱えてこちらを見る。
「まぁ大人しくしてろよ、最初は交渉からだからな」
「わかってるって」
まーちゃんの返事と同時にズルリという何かが這う音が聞こえる。
すぐさま俺は警戒態勢を取る。
他の連中は気付いていないのか俺がなぜ戦闘態勢を取っているのか不思議な顔で見てくる。
辺りを見回していると、
「そこにいるのは誰じゃ? またわしを襲いに来たのか?」
また……ということは神獣のご登場か。
「話をしたい、前に来た冒険者は食べたのか?」
「忌まわしや! 忌まわしや! あの者達はわしを襲った後どこかに行ってしまったわい」
「姿を見せてはくれないか? 話がしたいんだ」
「あの……もしかして神獣ですか?」
「リスティの考えている通りだ。俺達はすでに神獣に補足されて狙われている」
「そ、そんな……」
リスティがきょろきょろと辺りを見回す。
しかし姿どころか気配すらない。
神獣なら大きく強力な気配があるはずなのになぜ――
「どうした! 姿を見せないのか!」
「むぅ……忌まわしき人間共め!」
森からズルリと白い大蛇が出てくる。
「話をすると言ったな? なんの話だ?」
チロチロと下を出しこちらを睨みつけてくる大蛇。
姿を現した大蛇は大きなオーラを一気に放ちこちらを威嚇する。
普通なら驚き怯え逃げる事だろう。
「この森から出て行って欲しいんだがダメか?」
「ククッ、なにを言い出すのかと思えば……わしの住んでいた森は戦闘で焼け野原よ、もう住めぬ。そこでこちらに移動してきただけだ。なにか問題があるか?」
「大ありだ。この村を見てみろ。ゴブリン達が丹精込めて作った村が滅茶苦茶だ」
「それは仕方ない。傷を負い餌を求めていたからな」
「餌ってゴブリンの事か?」
「うむ、弱肉強食の世界では仕方のない事だ」
「ならお前も狩られても文句は言えないよな」
「ほぉ……わしと戦おうとでも?」
「それは避けたいが数ヵ月前に来た冒険者達はその弱肉強食に従ってお前を狩りに来たんじゃないのか?」
「むぅ……ああいえばこういう、忌々しい人間め!」
ベキベキと音を立てながら大蛇の後ろの木が尻尾により数本薙ぎ倒される。
怒らせてしまったのだろうか?
「ここを出て行くか戦うかどっちかだ」
俺は強気で大蛇に迫る。
「むぅ……今の冒険者はどいつもこいつも忌々しい……せっかく勇者免許をとって平穏に過ごせると思ったのに全然平穏に過ごせんではないか」
「どうする? 戦うか?」
「ちゃっちゃとしなさいよ! 私は早く帰ってコカ肉とこのお酒で悦に浸りたいのよ!」
「まーちゃんちょっと黙って!」
「むぅ……その瓶の中身はなんじゃ? なにやらいい匂いがするが……」
「酒だよ」
「ほぉ酒か……にしては甘味な匂いが漂っておるのぉ」
まーちゃんがすぐさま抱きかかえていた瓶を隠す。
「これはお前が襲ったゴブリンのグーラーから貰った酒だ」
「ほぉ……ゴブリンが酒を作るのか」
「お前に少しだけなら飲ませてやってもいいぞ?」
「いやよ! これは私のよ!」
「ふぅむ」
「ただし人間に化けてはくれないか? 神獣というからには化けれる程の力はあるだろ?」
「むむぅ……」
「そんな大きな体で飲まれたら酒がいくらあっても足りない。人間の姿になってはくれないか?」
「…………わかった」
咄嗟に大蛇から大きな光が放たれ俺は目を腕で覆う。
すると大蛇がいた所には褐色の肌に白くなびくロングの髪、その髪の隙間から除く金色の瞳の中で縦一直線に伸びている瞳孔が特徴の女性が裸体で現れた。
「約束だ、飲ませてもらおうか」
「せめてなにか着ろよ」
「むぅ……いちいち煩い人間め!」
両手を合わしそこから服を生み出すさまはまるで神が創造しているかのような錯覚さえ起こる。
「それは布か?」
「鱗の一部を変化させたものだ」
「なるほど」
鱗を変化させた洋服を着てこちらに歩いてくる神獣。
「さぁ、その瓶をこちらへ」
「いやよ! なんであげなきゃならないの!」
「まーちゃん! もっといい酒買ってあげるから! しかも一本なんて言わず十本でも買ってあげるから!」
「…………本当?」
「もちろんだ、だから今はそれを神獣に渡してくれ」
「…………わかった」
渋々抱きかかえている酒を神獣へと渡すまーちゃん。
瓶を手に取りそれをグイとラッパ飲みし始める神獣。
そして――
「うまぁ」
口を離し開口一番とろけきった顔で涎を垂らしながら感想を口にした神獣は、もはや神獣とは呼べない有様だった。




