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世界のために戦った勇者と魔王は転移した世界ではのんびりと暮らしたい!  作者: 月影之命
第六章 ゴブリン、神獣、そして……魔人の子?
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ゴブリンー2

 迷惑な客と化した俺は値引き交渉の末、原価ギリギリの値段で装備を買った。

 そしてアバランジェを出てゴブリンが住み着いたという遺跡へと歩を向ける。

 到着するまでの間に装備を整えて準備をしておく。

 投げナイフ用ポーチをベルトに着け、歩きながら邪魔にならないか等を確かめる。

 そのついでにフェリスにも声をかける。


「フェリス、どうだ? 杖は使えそうか?」


 結構な値段はしたが、フェリスが使う魔法の事を考えれば仕方のない出費だ。


「大丈夫なのん、これなら何発でも好きに打てるのん!」

「そうかそうか、今回も期待しているぞ」

「任せるのん!」


 ムフーと鼻息を荒くし自分の背丈ほどある新しくなった杖を両手に掲げる。


「今回はうちが全滅させるのん!」

「おお、気合十分だな」

「試し打ちなん!」

「そうかそうか、ただ遺跡は傷つけないでくれよ」

「わかってるのん」

「がんばってくださいね!」

「リスティもがんばるんだよ! 今回のクエストはお前のせいで受ける事になったといっても過言ではないんだからな」

「わ、わかってますとも! 任せておいてください!」

「まーちゃんも頼むぞ、その腕輪高かったんだからな。その分くらいは働いてくれ」

「むふふ、わーかってるって」


 スリスリと腕輪をさすりながら答えるまーちゃん、本当にわかってるんだろうか?

 そんな事を考えつつバッグから地図を取り出し遺跡の位置を再確認する。

 まだまだ遠いが、ピクニックと思えば軽い気持ちになる。




 地図を確認し、遺跡に近づいている事を確認する。

 その間にも時折、腕輪の魔法を使い透明化して俺にちょっかいをかけてくるまーちゃんにイラつきながら辺りを見回す。

 少し遠目ではあるが遺跡らしきものがあり、その入り口を見つける。


「あれが入り口か?」


 他にそれらしき入り口は見えない。


「そのようですね」

「ゆーくん! 私はどこでしょう!」

「ちょっと休憩するか」

「そうですね、体力を回復させてから突入しましょう」

「ゆーくん、ゆーくん。私はどこでしょう!」

「さっきからうるせぇな! その腕輪叩き折るぞ」

「なんでよ! ちょっとくらいかまってよ!」

「こんの、かまってちゃんが!」


 一分間の魔法の効果が切れたまーちゃんの頭上に拳を突き立てる。


「いたぁ!」

「お前も休憩しとけよ! 戦力の頭数に入ってるんだからな」

「それならもっと優しくしなさいよ!」

「うるせぇ!」


 俺達は遺跡からゴブリンが出てきてもばれないように、近くにあった森に隠れリスティが持ってきた昼食を食べ休息をとる。


「コカ肉のサンドイッチか、だがなにかが違う……マスタードか!」

「その通りです。マスタードを他国の物に変えたのです」

「なるほどな、トマトの味にとてもよく合っている。このマスタードはなかなかにいけるな」

「はい、トマトの甘さとマスタードの辛さ、そしてコカ肉の甘さがマッチしておいしいんですよ」

「コカ肉につけている甘辛いタレもいつもと少し違うな?」

「さすがはゆーくん、そこまで見破りますか!」

「ふふっ、こっちに来てからコカ肉にはお世話になっているからな」


 そう言いながらコカサンドを一口もう一口と口に運び、リスティが持って来ていたリンゴジュースを飲む。


「いつもの甘辛いタレもいいが今回の香ばしいタレもなかなかにいいな」

「はい、なんでも焼いた後の油を使いこのタレを作るそうです」

「ほぉ、コカ肉を焼いた後の油か……普通なら捨てるだけだがそれをタレとして再利用するか……今度料理長にお礼を言わないとな」

「きっと喜ぶと思いますよ」


 そんな会話をしながら新しい味のコカサンドを食べつつ遺跡の入り口を警戒する。

 いつゴブリンが出てきてもおかしくないからだ。




「そろそろ……か」


 全員が昼食を食べ終え、片付けをしているのを見てボソリと呟く。

 遺跡の入り口にはゴブリンの斥候すら立っていない。

 本当にゴブリンが中にいるのだろうか?

 妙な静けさが辺りを覆う。


「そろそろ進むか」

「はい!」

「わかったのん」

「透明化して見てこようか?」

「いや、一分であそこまで行って帰って来るには短すぎる……それよりもゆっくり全員でいくぞ」

「そうですね、ゆっくり行きましょう」

「仕方ないわね」


 全員で行く事になりゆっくりと歩を進める。

 入り口に着き緊張が走る。

 先程落ちていた木の棒をバッグから取り出しフェリスの方に向く。


「フェリス、この木の棒に火を点けてくれ」

「わかったのん、<火球(ファイアー)>」


 片手に持った木の棒の先に火が灯る。

 それをかざしながら通路を進んでいく。

 不意の遭遇戦に向けて投げナイフの入ったカバンに手を添えつつ先を進む。

 気配が一向にない事に不気味さを感じつつ奥へ奥へと進む。


「全然いませんね」

「ああ……本当にここを根城にしているのか?」

「もう引っ越したとかじゃないの?」

「あり得るのん」

「となると……出ますか?」

「いや、もう少し進もう」

「そうですね……もう少し探索しましょう」


 少しずつ、少しずつ前へと進む。


「これは?」


 目の前に現れたのは左右に分岐した通路、そしてその真ん中にある何者かが作ったトーテムらしき物……おそらくゴブリンが作った物に違いない。


「どっちにいくべきか……」

「右よ! 私の勘がそう言ってるわ!」

「よし、左に行こう」

「なんでよ!」

「お前の勘が当たったことがあるか?」

「今度こそ間違いないわ!」

「ああ、間違いない。左だ」

「なんでよぉ!」


 まーちゃんの叫びを聞きつつ左へと歩を進める。

 松明いつ切れるかわからない。

 通路の先に光が見えてくる。

 そして広場の二階部分に俺達は出た。

 天井はなく空がみえていてとても明るい。


「ここが本拠地か?」


 松明を消し木の棒を鞄に入れつつ二階部分から下を覗き込むとゴブリンが生活をしていた。

 食事を作ったり洗濯ものを干していたり……人間とさほど変わらない暮らしをしていた。


「驚いたな……社会生活を営んでいるぞ」

「ええ、これではまるで人間ではないですか」

「どういうこった?」

「わかりません」

「それじゃ、そろそろ私の出番ね」

「なにをする気だ?」

「<隕石落下(メテオ)>を撃つに決まってるじゃない! 一網打尽よ!」

「だから……遺跡は潰しちゃダメなんだって。それにこんなに人間に近い生活をしているなら話し合いだってできるかもしれないだろ? おい見ろよ、あそこは酒屋ぽいぞ」

「行きましょう! おっさけ! おっさけ!」

「お、おい……不用意に行こうとするんじゃない!」

「なんでよ」

「当り前だろ! 一応はゴブリンだぞ! モンスターに変わりない、酒に惑わされるな!」

「むぅ、私を誘惑するとは中々に賢いゴブリンのようね」

「お前は酒さえあればどこにでも行くだろうが」


 そんな会話をしながら身をかがめ階段を探す。


「おい、あそこの階段から下に降りれるんじゃないか?」

「ゆーくん、どうします? 下に行きますか?」

「下に行ってどうするか……だな。下手に行くと驚かれて戦闘になりかねない。できたら交渉してここから出て行ってもらう方が得策なんだが……」

「皆殺しでいいんじゃない?」


 まーちゃんは魔王だけあり、しれっと皆殺しという単語を言ってくる。

 俺は勇者としてできれば平和的解決を望む。

 そこが俺とまーちゃんとの差か……。

 いや、戦闘で一気に片づけるまーちゃんと、戦闘が面倒だから交渉で済まそうとする俺……という見方もできるな……。


「とにかく交渉してみたい、そうすれば戦闘にもならないかもしれないだろ?」

「面倒くさいわね!」

「リスティはどう思う?」

「できれば平和的な方が……」

「だよな……」


 そんな事を話していると――


「誰だ! そこにいるのは!」


 声がした方向に振り返ると一匹のゴブリンが後ろに(たたず)んでいた。

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