ゴブリンー1
冒険者組合のドアを開け待っていたのは――
「勇者様! こちらです!」
受付で身を乗り出し手を振る受付嬢だった。
なにか問題でもあったのだろうか?
受付嬢の言葉に目を輝かせて歩き出すリスティ、それに合わせて俺も頭を掻きながら受付嬢の元へと向かう。
「それで? なにか用か?」
「用もなにも受けて欲しいクエストがあるんですよ」
「俺にか?」
「はい」
俺は辺りを見回す。
冒険者は他にも多数いる。
「なんで俺なんだ? 他にも冒険者はたくさんいるじゃん」
「それが……ウォー・タイフーンの報酬で皆さん懐が潤ってクエストを受けたがらないんです」
「それは俺も同じなんだが……」
「早急に解決してほしい依頼がありまして勇者様ならと……」
「ま、まさしくこれですよ! ゆーくん! 私が待ち望んでいた展開です!」
「リスティさん凄い乗り気ですね! さすがは勇者様のお仲間! やる気抜群で助かります」
「いやいや、やる気があるのはこいつだけだよ」
「そんな! ゆーくんもやる気になってください!」
「えー」
そんな会話をしていると受付嬢がゴホンと咳払い一つし、真剣な眼差しでクエスト用紙を差し出してくる。
仕方なく俺はそのクエスト用紙に目を通す。
横から輝かせた目でその用紙を覗き込んでくるリスティ、正直邪魔だ。
「なになに……森の手前の遺跡にゴブリンが住み着いたので排除せよ、か」
「ゴブリン討伐ですね! 行きましょう!」
「少しリンゴ酒を飲んでからにしないか?」
「なにを言っているのです! その住み着いたゴブリンが街に攻め込んでくるかもしれないじゃないですか! 早く手を打たないと!」
「まーちゃんもリンゴ酒飲みたいよな?」
「もちろん!」
「フェリスもゆっくりリンゴジュース飲みたいよな?」
「飲みたいのん」
「多数決で少し休憩します!」
「そ、そんなぁ……」
「受付嬢、クエストは受けるがゆっくりやらせてもらうぞ?」
「はい! お願いします!」
席につきリンゴ酒二つとリンゴジュース二つを注文する。
もちろん酒は俺とまーちゃん、ジュースはリスティとフェリスだ。
「クリスは今日不参加か?」
「ええ、私用でちょっと来られないのです」
「そうか……前衛二人か、ちと厳しそうだがなんとかなるか」
ゴブリンとはいえ遺跡内が狭ければ剣も振るいにくく暗闇であると予想されるため魔法攻撃の方が有利な場合がある。
その時はフェリスを前衛として俺は後衛で挟み撃ちの危険性を警戒するべきだろう。
家にいるムーラも今日は母親の所に行くと言っていたしこのメンバーで行くしかないか……。
俺は久しぶりにバッグからモンスター図鑑を取り出しゴブリンの項目を探す。
前の世界の常識がこちらでも同じかどうか検証するためだ。
リンゴ酒を煽りながらパラパラとモンスター図鑑を捲る。
同時に横から覗き込んでくるフェリスとリスティの頭が俺の視界で揺れてとても邪魔である。
「あった」
「これがゴブリン!」
「なんて書いてあるのん?」
「体は主に緑色だが、砂漠等では肌の色が若干変化し様々な色のゴブリンが世界には存在している。これは元の世界と同じだな……」
「元の世界?」
「気にしないでくれ。そして……中には言葉を喋る頭の賢いゴブリンもいる……と」
「言葉を喋るんですか! ゴブリンが!」
「らしいな、知能が高いゴブリンか……罠の事も考えて盗賊職のムーラ辺りがいてくれたらなぁ」
「罠……ですか」
「ああ、罠は下手な魔法よりも危険だ」
「どうしましょう……誰か知り合いに罠を見破れる盗賊職はいないのですか?」
「だからムーラがいればって言ってるだろ! それ以外には……スカーレットか?」
辺りを見回しガストを探すが珍しくいない。
当然姉妹の姿も見えない。
「スカーレットもいないんじゃなぁ……罠に用心しつつゆっくりと探索するか」
「そうですね、慎重に行きましょう」
「あとは……集団で行動し、寝床は遺跡や廃墟等……か」
「となると警戒されてると思った方がよさそうですね」
「だろうな」
リンゴ酒を一気に飲み干し出かける準備を整える。
「投げナイフがもっとほしいな」
「投げナイフ?」
「先手必勝の投げナイフだ。数が少ない。せめて二十本くらいほしいな」
「でしたらアバランジェに行きましょう」
「ふむ……アバランジェなら色々と揃うか」
「では行きましょう!」
「アバランジェとうちゃーく!」
元気ハツラツなリスティを無視してアバランジェの扉を開く。
受付の隣にいたオーギュストがこちらに気付き駆け寄ってくる。
「おお、同士よ! 鎧を見に来たのかね?」
「いや、投げナイフを購入しに来たんです」
「ふむ、そうかそうか、残念」
あからさまに肩を落とすオーギュスト。
「安くて使い捨てれる投げナイフ売ってますかね?」
「なにを言う! ここで揃わん物なんてないよ! 君!」
「それじゃ買わせてもらいますね、ついでに色々と見ていきます」
「おお、どんどん見ていってくれたまえ!」
「オーギュスト様は鎧でも見ていてください」
「ハハッそうするよ」
オーギュストが鎧の方向に歩いて行くのを見つつ中に入り投げナイフのある位置を探す。
ついでにおもしろいものがないかも探しながら店内を物色する。
「ねぇねぇ! これなに!」とかまーちゃんが質問してくるが無視をして適当な物を物色する。
そしてやはりというべきか……盾の所で足が止まる。
「やっぱ盾いるよなぁ……狭い遺跡内だし……仕方ないよなぁ」
適当にあった安い盾に腕を通す。
懐かしい重みを感じ体がジンと熱くなるような錯覚さえ起きる。
「よし!」
腰にぶら下げた袋の中身を確認する。
投げナイフを買ったとしてもまだ余裕がある事を考慮し安い盾を購入しとくか……。
盾を片手に投げナイフのある場所を探す。
投げナイフ一つとっても王都で一番大きい店となると数種類あった。
毒の塗っておいた投げナイフ等暗殺者ご用達のようなものまである。
俺は展示されてある一番安く質素で使いやすそうな投げナイフを一本持ち受付へと歩を進める。
リスティが困惑の顔をし、まーちゃんとフェリスがなにやら受付で騒いでいた。
こっそりと近づくと、
「なんでもっと安くならないのよ!」
「安くしてなのん」
「もうこれ以上は原価が割れるので無理ですよ!」
「二人ともやめましょう! 店員さんも困っています!」
「なんでよ! 値切るのは客としての当然の権利よ!」
「ですがこれ以上は無理だといってらっしゃいますし……」
「無理を押し通すのが魔王よ!」
「さすがまーちゃんなのん! もっとやるのん!」
値切る事に命でもかけているかのようなまーちゃんと悪乗りしたフェリス、それを止めようとするリスティに「それ以上無理」と連呼する店員がいた。
「おい、なに騒いでんだよ」
「いい所に来たわ! ゆーくんも言ってやってよ!」
「なにをだよ」
「この受付嬢全然まけてくれないのよ!」
「ですから! それ以上はもう値引きできません!」
「だ、そうだが?」
「嘘言ってるのはわかってるわ! 私の目は節穴じゃないのよ!」
「もう! 本当に値引きできませんってば!」
「もっと値引きするのん! 値引きするのん!」
「ゆーくんも言って下さい、店員さんが困っています」
俺はため息をつきながら――
「お前らはそもそもなにを買おうとしてるんだよ」
「魔法の腕輪よ!」
「魔法の杖なのん!」
「ふむ……」
すでに希少な首飾りを所持しているまーちゃんに腕輪は必要だろうか? 杖はフェリスの攻撃力を高めそうで一考しなければならないだろう……なにせフェリスの装備している杖は学園で使っていた杖だからだ。
簡単に言えば子供用の杖で上級魔法をパカスカ打つと折れてしまう。
こちらの世界に来て上級どころか最上級魔法も打った杖はそろそろ耐久度も限界に近いだろう。
「腕輪はいらないから杖とこの投げナイフを二十本、それとこの盾を下さい」
「は、はい! すぐに用意します」
「ちょっと! なんで私の腕輪は買ってくれないのよ!」
「お前は既に希少な首飾りがあるだろ? 今更魔法の腕輪なんてなにに使うんだよ?」
「一分間透明になれるのよ! これで夜中メイドに見つからずお酒をゲットできるわ!」
「別にメイドに頼んで用意させればいいじゃん」
「ばれないのがいいのよ!」
「仕方ねぇな……」
ここでまーちゃんをのけものにすると拗ねる可能性がある。
ゴブリン討伐で仲たがいは不味い。
それに価格を見たが能力のわりに安くも感じた。
そしてなにより値引交渉が済んでいるのでさらに安く購入できる。
受付が戻ってきて全部の金額を聞いてみる。
そして――
「もっと値引きしてくれ!」
「ええ!」
俺も迷惑な客と化した。




