朝、起こそうか
「おはようございます! さぁゆーくん! 冒険に出かけましょう!」
バタンと大きく扉が開かれるや否やそんな事を言ってくるリスティに俺は起こされた。
二日続けてのサイレンはなかったがあまりいい寝覚めとは思えない。
上半身を起こし――
「今何時だ?」
「今はもうお昼前ですよ?」
「そうか、おやすみ」
俺は上半身を元いた場所に戻す。
「な、なにを言っているんですか! 冒険に行きましょう!」
「昨日あれだけ飲んだんだ。もう今日は休みでいいじゃん」
「なにを言っているのですか! 今も誰かがどこかで困っているんですよ!」
「そうか、ならその困ってる人には冒険者組合で依頼を出すように言っておくんだな、おやすみ」
「ちょ、ちょっと! 本気で言っているんですか? 起きてください!」
リスティが俺を揺するがその揺すり具合が中々心地よく俺を眠りに誘う。
「もう! これでどうですか!」
コチョコチョと脇をくすぐられるが俺は微動だにしない。
当り前だ。
元いた世界で勇者として力をつけるための修行で、どれだけスライムに捕食されたと思ってるんだ。
むしろこそばゆさが更に俺の眠気を高める。
「し、仕方ありませんね……せっかく下にコカ肉とリンゴ酒、それにワイバーンプリンを用意したのに……」
俺はそれを聞き少しだけ目が覚める。
「持って来てほしいな」
「……まさかここに?」
「うん」
「いえいえ、ちゃんと起きて下に行きましょう」
「着替えるのが面倒臭い」
「それくらいパパっとできるでしょうに! どこまで堕落するんですか!」
「できるところまで……」
「――っ」
ベッドから立ち上がり何やら魔法を唱えだすリスティ。
そして――
「<火球>!」
なにを考えたのか俺のベッド目がけて火の球を放ちやがった!
すぐに飛びのき難を逃れる。
「お、おま――ふざけんじゃねぇぞ! 殺す気か!」
「おはようございます」
「いやいや、おはようじゃねぇよ!」
「おはようございます」
目が笑っていない……こいつは怒らせると面倒だな。
そんな事を思いつつ渋々床に散乱した服を着る。
その間に水魔法で消火するリスティ。
俺は自分のベッドの焦げ跡を見ながらリスティに尋ねる。
「ベッドはちゃんと交換しておけよ」
「わかってますよ、ふふっ」
「それで? 冒険冒険って昨日も散々走り回っただろう? 今日くらい休んでもいいんじゃないか?」
「冒険者に休みはありません! 毎日が冒険です!」
この世界に労働基準法とかないのだろうか? ないだろうな……。
そんな事を思いつつ下の階へと降りていく。
その間もリスティは「冒険冒険」とリズミカルに唱えていた。
食堂につき席に座り朝食を食べる。
いつものコカ肉にリンゴ酒、そしてデザートには甘くとろやかなワイバーンプリン。
そのワイバーンプリンを食べつつリスティに尋ねる。
「他の連中は?」
「クリスですか? 今ちょっと私用で出かけています。今日はゆーくんと二人きりですね!」
「いや、フェリス達の事なんだけど」
「今日は二人で行きましょう!」
「起こして来いよ」
「大丈夫です! 二人でもなんとかなりますよ」
「変な噂が立つだろ? 嫌じゃないのか?」
「変な噂……ま、まぁ私は別に気にしませんよ? そんなの……」
「なんで俺だけ起こしたんだ? 他の連中は?」
黙り込むリスティ……恐らく昨日みたいに悲鳴が起こるほどの大惨事が起こるからフェリスやまーちゃんを起こしたくはないのだろう。
「仕方ないな……ワイバーンプリンをもう二つ程持って来い」
「なにをするのですか?」
「二人を起こすんだよ」
「そんな……無茶です!」
「大丈夫だ」
ワイバーンプリンを二つ用意し、まずはフェリスの部屋へと向かう。
フェリスの部屋に着きドアを軽くノックする。
当然返事は皆無だ。
元いた世界では朝八時には俺を起こしに来てくれていたのに堕落したものだ……人の事は言えないけど……。
「入るぞーフェリス」
そっとドアを開き中を確認する。
当然の如くベッドから起き上がらないフェリス。
ベッドに近づきそっと座る。
刺激すればこの子猫ちゃんは獰猛なキメラになるからだ。
リスティに持たせておいたワイバーンプリンを一つ渡してもらいフェリスの元へと近づける。
「フェリス、おやつの時間だぞ。ほら、ワイバーンプリン持ってきたぞ」
その言葉にフェリスの目がゆっくりと開かれる。
そして雛鳥のように口だけを開く。
「ほら、おいしいぞ」
スプーンで一口分をフェリスの口の中にそっと放り込む。
「どうだ?」
「甘いのん」
「そうか、そろそろ起きようか」
「わかったのん」
のそりと起き上がり俺はワイバーンプリンをフェリスへ渡す。
一口、また一口となくなるまで待つ。
全てを食べ終えた事を確認し、
「そろそろ起きようかフェリス、冒険に行きたがっている変な子がいるんだ」
「その変な子はゆーくんの後ろに立ってるリスティなのん?」
「変な子とはなんですか! 冒険者は冒険に行くのが仕事でしょう!」
「確かに変な子なのん」
「だろ?」
「ムキー! どうしてそんな目で見られなければならないのですか!」
「冗談だよ。真面目だなぁ……さて、フェリスは準備をして下に行っておいてくれるか?」
「わかったのん」
ベッドから立ち上がり空の容器をリスティに渡し次の場所へと向かう。
魔王が住む部屋、そうまーちゃんの寝室だ。
ノックは……不要かな。
バタンと蹴りをかましてドアをぶち破るように開ける。
「おはよう、まーちゃん! 起きないのは知っている!」
当然ベッドで寝ているまーちゃんは起きない。
「だろうな、リスティ! 例の物を!」
「は、はい」
手渡されたのはワイバーンプリン。
まーちゃんの目の前にワイバーンプリンを持って行き鼻の所でゆらゆらと揺らす。
「ほーらほらほら、ちょっとお高いワイバーンプリンだぞー」
ピクピクとまーちゃんの鼻が動き出し――
パクリ! それみたことか! この食い意地の張った魔王め!
容器ごと口の中にプリンを捕食した姿は、さしずめ動物というより爬虫類に近いかもしれない。
容器をそっと口から引き抜く。
引き抜いた容器にはまーちゃんの汚い涎がべっとりとついていた。
そしてすぐにまーちゃんの目が見開かれ――
「うんまい!」
上半身を起こし見たくもない乳首を晒けだす。
「だろうな、起きたか?」
「酒をもってこーい!」
「いやいや、まだその時間帯じゃないから……つっても下にはリンゴ酒が用意されてるようだが……」
「それじゃ下にいきましょうか! リンゴ酒リンゴ酒!」
「はいはい、まずは洋服を着ようね」
「必要ないわ! さぁ下に行きましょう!」
そう言いながら立ち上がったまーちゃんは裸だった。
「ななな、なんて恰好で寝てるんですか!」
「まぁ魔王だし仕方ないんじゃないか? ほれさっさと着ろ」
「面倒だわ! このまま行く!」
「下にはフェリスもいるんだ。真似されたら困る」
「はぁ……仕方ないわね。着てあげるわよ」
「それじゃ一足先に下に行ってるからな?」
「了解したわ」
俺はベッドから立ち上がり、リスティの所まで歩いて容器を渡す。
「さて、リスティ行くぞ」
「ゆ、ゆーくんは、その、なにも思わないんですか?」
「なにが?」
「なにがって……女性の裸体を見て……その……」
「…………ああ、まーちゃんの?」
俺は着替えてるまーちゃんに目線を戻す。
なにかって言われてもな……三百年同じ屋敷で暮らした仲だし裸位なんとも思わないな……。
「まぁあれだ……もう家族みたいなもんだからな」
「そ……そういうものでしょうか?」
「そういうもんだ、さぁ下に行こうぜ」
「はい! それでは食堂でちゃっちゃと朝飯を食べて冒険に出かけましょう」
「はいはい」
そういいながら下に行きコカ肉を食べてるフェリスの横に座り頬を撫でながらまーちゃんが来るのを待つ。
「ところで今日行く冒険とやらはなにをするんだ?」
「まだ冒険者組合に行ってないのでなんとも……」
「クエストはまだ請け負ってないのか」
「はい」
「楽な仕事がいいな」
「なにを言うのです! 人助けをしましょう!」
「コカ養殖場でコカトリス狩りしようぜ」
「待たせたわね! リンゴ酒はどこ?」
まーちゃんが到着した。
俺もリンゴ酒を頼み喉を潤す。
「あまり飲み過ぎるなよ? まーちゃん。これからクエスト受けるんだからな?」
「わかってるわよ! それよりワイバーンプリンはデザートにあるんでしょうね!」
「さっき食べたじゃん」
「あれはあれ、これはこれよ!」
「こいつ!」
「わかりました用意させます」
「えっまじで? なら俺も……」
「うちもなのん!」
「ふふっ、みなさんも気に入ったのですね! 少し待っててください。私の分も用意させますので」
「リスティも気に入ってたのか」
まぁ当然と言えば当然か。
確かにデザートとしては少し高いが納得のいく美味しさなのだから……。
リスティが厨房から帰ってきて、フェリスとまーちゃんが食べ終えた頃に全員分のワイバーンプリンが食卓に並べられ、それをゆっくりと口に運びとろける食感と甘さを残したままリンゴ酒を口に運ぶ。
甘さをさらに新しいリンゴ酒の甘さで上書きし喉を軽やかに押し流す。
「プハー、朝からこんな贅沢して罰が当たっちまうぜ」
「罰の一つや二つ跳ね返すわ! プハー!」
「おいしいのん!」
俺はおもむろに立ち上がり、
「それじゃ寝るわ、おやすみ」
「ちょちょちょっと! 冒険へ行くんじゃないのですか?」
「いやーなんか眠くなっちゃった……」
「私も眠くなってきたわ」
「うちもなのん」
「もう! みなさんちゃんと冒険者らしくしてください!」
「仕方ないなぁ……」
「仕方ないのん」
「それじゃ私はもう自室に帰っていい?」
「まーちゃんも行くんですよ!」
「ええー」
俺達は食事を終え冒険者組合の扉の前に立つ。
「言っておくがややこしいクエストは受けないぞ?」
「なんでですか!」
「当り前だろ? のんびりとできるクエスト希望だ」
「そんな都合のいいクエストがあるとお思いですか? それに困っている人を助けるのが我々冒険者の勤めですよ! さぁ、人助けです!」
「コカ牧場のコカトリス狩りでいいかなー」
そんな事を言いつつ扉の取手に手をかける。
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