ウォー・タイフーン-1
宴会を行った次の日、聞き覚えのあるの音で目が覚める。
「なんなんだ一体……」
そう、その音はサイレンだ。
俺の二日酔いの頭をガンガンと揺らすその不愉快な音を聞きながら上半身を起こす。
ドタドタと廊下から足音が聞こえ扉が勢いよく開かれる。
「た、大変です! ゆーくん!」
「なんだ? またトレジャーキーパーでも来たのか? それよりもノックをしろよリスティ……」
「そんな事を言っている場合ではありません! この国の食糧事情に関わる問題です!」
「食糧事情?」
一体リスティはなにを言ってるんだ? コカ養殖場からコカトリスでも逃げだしたか?
「タイフーンです! ウォー・タイフーンが来ましたよ!」
「タイフーン? 一体なにかと思えばただの自然現象かよ」
「なにをいってるのですか! ゆーくん! ウォー・タイフーンですよ!」
「何回も聞いたよ。それがどうしたんだ?」
「この国の重要な海鮮食品の収穫源ですよ!」
「どういうこった? なんで自然現象が海鮮食品と繋がるんだ?」
「ええと……そうでしたね。ゆーくんはこの国の人間じゃないから知らないんですよね。どこから説明したものでしょうか……」
「慌てなくていいから一から説明してくれ」
「はい……そうですね。それでは一から説明させて頂きますね」
「まぁそこの椅子にでも座れよ」
俺はベッドから起き上がりベッド横にある小さな机へと向かう。
「な、ななな! ゆ、ゆーくん! なぜ下着だけなんですか!」
リスティの方に振り返ると顔に手を当て耳が少し赤みを帯びていた。
「ん? なんでって……普通寝る時は下着姿だろ?」
「いえいえいえいえ! 普通は服を着るでしょう!」
「まぁな、普通なら緊急事態の為に服を着て寝るだろう……しかし、だ! 俺は金もそこそこ溜まり今は自由だ! そんな俺が緊急事態に備える必要はない!」
「いえ! ありますよ! とにかくなにか着てください! 目のやり場に困ります」
「仕方ないなぁ……」
俺はしぶしぶベッドに散乱している服からズボンを手に取り足を通す。
既に堕落した事のある俺はこっちの世界に来て少し金銭に余裕が出るとやはりと言うべきか……堕落していたのだった。
俺はため息交じりにベッド横の小さな机の上に置いておいた水差しから鉄製のカップへと水を注ぐ。
それを一気に飲み干しカップを机の上に戻しリスティの座っている机へと向かう。
「それで? タイフーンとやらが一体なんだって?」
「上も着てください! 全く!」
「面倒だ、このまま話を続けないなら俺は聞かないからな」
そう言いながらリスティの対面にある椅子にドカリと腰を下ろす。
「くっ! 仕方ありませんね……」
リスティはしぶしぶ了承し、顔をこちらに向けず話を続ける。
「ウォー・タイフーン……確かに自然現象です。ですがその竜巻は海から来るのです。そしてその竜巻は海の幸を運んでくるのです!」
「意味がわからん!」
「ええ!」
「だってそうだろ? 竜巻が海から発生するのはいい、それが海の幸を運んでくるのもいい、だがな……なんでサイレンまで鳴らしてるんだ? 普通は道中でその海の幸は落ちるだろ? そんな落ちたものをお前らは食べるのか?」
俺の言葉にリスティは首を傾げる。
なにかがおかしい……。
「ゆーくんは一体何を言っているのですか?」
これでも前の世界で勉強を少しした俺に「何を言っているんだ?」ときたもんだ。
「リスティこそなにを言っているんだ?」
「いえいえ、ウォー・タイフーンは海の幸を落としませんよ?」
「は? いやいや……重力とか遠心力とかあるだろ」
「じゅうりょく? えんしんりょく?」
こっちの世界では魔法が盛んでまだ科学が進んでないのか……それにしてもなんで海の幸は落ちないんだ? なにか特殊なモンスターなんだろうか……。
「まぁいい……そのタイフーンが海の幸を連れてくるのになにが問題なんだ?」
「飛ばしてくるんです!」
「なに?」
「だから! 海の幸を飛ばしてくるんですよ!」
「うん! 言ってる意味がさっぱりわからん!」
「ええと……どういえばいいのか……タイフーンは年に数回、この国の周辺に来ると手前で何故か止まり海の幸を飛ばしてくるんです」
「なんて迷惑な!」
「いえ、そうでもないんです。不思議な事に海の水も一緒に運んできてくれるのでその中で海の幸たちは生きているんですよ」
「それで新鮮な海の幸が飛ばされると?」
「はい」
「なんていい奴なんだ!」
「ですから我が国の海の資源は流通もありますが新鮮な物はウォー・タイフーンから得るのです」
「それと国防レベルのサイレンとどう関係してるんだ?」
「ですからこの国の海鮮食品の収穫源なので冒険者のみなさんに手伝ってもらっているんです」
「つまり……冒険者に拾わしているのか?」
「拾わしているというよりは受け取ってもらっていると言った方が正しいですね」
「ふむ……そんな雑用で国防レベルのサイレンを鳴らしているのか。なんてお気楽な国なんだ……」
「雑用ではないですよ! 冒険者にとっては立派な仕事です!」
俺は腕を組み考える……。
ウォー・タイフーンの「ウォー」はどこから来たんだろうか?
もしかして「魚」だったりしてな……。
それよりも最近食しているものといえば……肉ばかりだ。
そろそろ新鮮な海鮮料理も食したいところではある。
「よし、そのタイフーンが飛ばす海鮮食品を取りに行くか!」
「乗り気になりましたね! ゆーくん!」
「最近肉ばっかり食ってるしそろそろ海の幸を食べたいしな」
「そうと決まれば早速冒険者組合に行きましょう!」
「まーちゃん達を起こしてきてくれ。俺はその間に準備をしておくよ」
「わかりました! 行ってきます!」
その言葉と同時にリスティは椅子から立ち上がり颯爽と駆けていく。
「せめて扉くらい閉じろよ……」
俺は立ち上がりベッドに座り上着や靴下を着々と着ていく。
その間に何度かリスティの悲鳴が屋敷に響き渡る。
まーちゃんを起こそうとして殴られたのか……それともフェリスを起こそうとして殴られたのか……はたまた両方か……。
数分くらい経っただろうか、のんびり着替えを終え、広間へと向かう事にする。
廊下に出てそのまま広場へと向かう最中でさえもサイレンが外で鳴り響いている。
二日酔いの俺にはきつい音だ……。
広間に到着した俺は周りを見渡す。
服がよれよれになって疲れ果てているリスティ、そんなリスティを心配そうに見ているクリス、俺と同じ二日酔いで頭を抱えているまーちゃん、不機嫌な顔を覗かせているフェリス。
「よし! みんな準備はできているな! これから冒険者組合に行きクエストを受けるぞ!」
「一体どういう事よ! 意味がわからないわよ」
「眠いのん」
「リスティ! 説明してないのか!」
「え、ええ……起こすので精一杯でしたので……」
「仕方ない……説明してやる! ちゃんと聞けよ」
「それよりサイレンをどうにかしなさいよ! うるさくて仕方ないわ」
「それには同意だ。それよりもこれから受けるクエストの説明をするぞ」
「了解なのん」
「なんでも海で発生した竜巻が海水と共に海の幸を吸収しながらこのファルス王国までやってきて親切にも手前で止まり海の幸を放出してくれるらしい」
「へー、それで?」
「乗り気じゃないなーまーちゃんは……。それで、だ……その放出される海の幸を俺達が拾うというのが今回のクエストだ! そうだな? リスティ」
「拾うというより受け取るというほうが正しいです」
「だそうだ! 受け取った海の幸を今日の晩飯にしようと思う! 今日は海鮮料理だ!」
「別にコカ肉でもいいじゃない」
「まーちゃんよ。考えてもみろ! 新鮮な海の幸にリンゴ酒をクイッと一杯、そして貝類を網で焼き、その香ばしい匂いを嗅ぎながら口へと運ぶあの時の幸福感!」
俺の話を聞きまーちゃんは口の端から涎を垂らし始める。
「お金にも余裕があるしリンゴ酒で足りなければ他にも美味い酒を頼んでいいぞ」
この言葉をきっかけにまーちゃんの目がみるみるやる気に満ちていく。
「さぁ! 行きましょう! 今日は新鮮な海鮮料理よ!」
「まーちゃんもやる気になったか」
「さすがゆーくん! 凄いです」
「やるのん!」
「行きましょうか」
そう言いながら俺達は屋敷を後にする。
戦争前にこのうるさいサイレンの緊急クエストを終わらせるとしようか!




