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アバランジェ-1

 昨晩は屋敷で何処を自分の部屋にするかでまーちゃんと揉め、俺は仕方なく一番いい部屋をまーちゃんへと譲る事になった。

 そして朝一番に一人で冒険者組合へと向かう。

 目的は冒険者組合でオークションに出して貰っている「金トカゲ」の金をもらうためだ。




 冒険者組合前、まだ朝も早く、少し肌寒い。

 だが、小鳥がさえずり良い一日だと思わせるには十分だ。

 ギィと扉を開け中へと入る。


「いらっしゃいませー」


 ウェイトレスの心地よい声を聞きながら俺はコカ肉とリンゴ酒を頼む。

 そして受付へと足を運ぶ。


「おはよう受付嬢」

「これは……勇者様、ご用はやはり例の……?」

「ああ、その通りだ。冒険者組合のオークションで売ってくれたか?」

「はい、いい値段が付きましたよ! なんでも貴族がペットとして飼いたいとか」

「ほぉ……それで値段は?」

「手数料を差し引いて約六百金貨というところです」

「六百! なかなかいいじゃないか!」

「ええ、その通りです」

「よし、元の世界で六百万か……よし、よし! これでいい盾が買えるな」

「盾をご所望だったんですか?」

「そりゃ片手剣だけで世の中渡り歩けるわけがないだろう」

「ですが、ガストさんなんかは盾はかさばるからと持っていませんよ? 勇者様もかさばるから持たないのかと……」

「そういう選択肢をとる人もいるが基本は片手剣に盾が普通だろ?」

「まぁ確かに」

「それじゃあ六百金貨貰おうか」

「はい」


 ドスリと受付に置かれた革袋、そしてまたひとつドスリと置かれる。


「ちょっと待ってくれ」

「はい?」


 考えてもみれば六百金貨ともなると相当な重量だ。


「二百金貨だけ今貰うよ、あとの四百金貨は預けといてもいいかな?」

「ええ、構いませんよ」


 俺は二百金貨を手に取り腰へとぶら下げる。


「この革袋は貰ってもいいのか? それとも有料か?」

「それはサービスです。ですので気にしなくてもいいですよ」

「ありがたい」


 そう言いながら適当な席に座りコカ肉とリンゴ酒が運ばれてくるのを待つ。

 コカ肉の香ばしい匂いがだんだんと近づいてくる。

 それと同時に俺の腹がギュルと一鳴きする。


「お待たせしました」

「待ってました!」


 机に置かれたコカ肉とリンゴ酒を眺めながらゴクリと唾を飲み込む。

 俺はすぐさまリンゴ酒を煽りつつコカ肉を口へと運ぶ。

 コカ肉を半分程食べ終わったあたりだろうか? 後ろに人の気配を感じ振り返る。


「やはりここにいましたね」

「おうリスティ、朝早いな。どうしたんだ?」

「冒険に出かけようとゆーくんの部屋まで行ったんですよ」

「ほー」

「中をのぞいたらゆーくんがいなかったのでここかなと思いまして」

「勝手に部屋に入るんじゃねぇよ、プライバシーの侵害だぞ」

「ぷらいばしぃ?」


 一王女には難しい単語だったか……。


「とにかく俺は冒険になんて当分行かねぇよ」

「ええ! なんでですか!」

「だって金には結構余裕出来たしな」

「だからって冒険に行かないなんて! 私は行きたくて仕方ないんです!」

「なんか最近我儘になってないか?」

「そうですか? 冒険へ行きたいだけですが……」

「今日は冒険より以前言っていた「アバランジェ」って店に行ってみようと思うんだ」

「そういえば盾がほしいんでしたっけ」


 その言葉を聞き俺はおもむろに腰に手を当て革袋を少し持ち上げ離す。

 するとジャラジャラと金貨が擦れる音が鳴り響く。


「結構な金額がありそうですね。上等な盾が買えそうですね」

「ああ、「金トカゲ」が中々にいい値段になったからな」

「えっ、売っちゃったんですか?」

「当り前だろ? 売らない手はない」

「それなら私が買い取りましたのに……」

「まじで…………おいくらくらいで?」

「一千金貨くらいなら出せますけど」

「くっ!」


 俺はすぐさまリンゴ酒を喉に入れ込む。

 さすがは王女、ポンと一千金貨ときたもんだ……。

 四百金貨も損した気分をリンゴ酒を飲んで忘れ去ろう。


「ちなみにアバランジェへの道がわからないんだが教えてくれないか?」

「ええ、いいですよ」

「まぁその前に朝食を食べろよ」

「そうですね、そうします。今日は冒険は諦めてゆーくんの装備を見に行きましょう」


 そんな会話をしながら朝食を頼むリスティを見つつコカ肉の味を楽しむ。




 朝食を食べ終わり一息ついた後、デザートのワイバーンプリンを頼み口へと運ぶ。

 この店でも一番高いデザートだ。

 ワイバーンの卵なんて普通なら滅多に手に入らないだろうがこの世界ではどうやら養殖ワイバーンというものがいて卵が簡単に手に入るらしい。

 鶏かよ! というつっこみは置いておくとして、ワイバーンの卵を使ったデザートは味はなめらかかつ濃厚、そしてふわふわしていた。

 六百金貨も得たのだ、少しくらいの贅沢はいいだろう。

 リスティはそんな俺を見ながら――


「おいしそうですね、私も食べようかな」

「王女なんだから好きに頼めよ」

「すいませーん」

「はーい、今お伺いしまーす」


 トタトタとウェイトレスが近づいてくる。


「お待たせしました、ご注文は何でしょうか?」

「このワイバーンプリンを一つおねがいします」

「ワイバーンプリンですね! すぐにお持ちします!」


 ウェイトレスがすぐにワイバーンプリンを持って来てそれを口に運ぶリスティ。

 そんなリスティを見つつ俺もワイバーンプリンを口に運びつつアバランジェの情報を聞くことにする。


「なぁ、アバランジェにはどんな武器や防具が置かれているんだ?」

「アバランジェはこの王都でも随一の品揃えと言われていますね。近衛騎士団の武具も卸して貰っています」

「ほー、中々でかい店なのか」

「ええ、そこで揃わないなら闇市場にしかないと言われる程の品揃えですよ」

「それは楽しみだな」


 ワイバーンプリンを食べ終え、リスティが食べ終わるのをただ眺める――

 そして食べ終わったリスティは満腹気にお腹をさすり笑顔を浮かべる。


「ワイバーンプリンおいしかったです。また食べましょうね」

「ああ、それよりもそろそろ行こうか」

「まーちゃん達は待たなくてもいいんですか?」

「二人でいいだろ、どうせあいつらまだ寝てるし……」

「二人……二人っきりですか……」

「なにか問題があるか?」

「い、いえ……問題なんてそんな……い、行きましょうか」

「ああ」


 重い腰をあげそのアバランジェという店へと向かうため冒険者組合を後にする。




 郊外を三十分程歩いただろうか……とても大きな施設の前に俺は立っていた。


「ここがアバランジェです」

「ほ、ほぉ……中々にでかいじゃないか……」


 予想していた店よりかなりでかい。

 普通は一軒家の下を改造して店にするもんなんじゃないのか? 今目の前にしている建物はゆうに一軒家をこえてリスティの別宅の屋敷程ある。


「どこぞの貴族が家を改造して商売でもしてるのか?」


 ボソリと呟く俺に――


「よくわかりましたね、この店の主人は貴族ですよ」

「ほ、ほぉ……武器が好きそうな貴族だな。こんな店まで出すなんて……」

「そうなんですよ、趣味で武具を集めてたみたいなんですけど、それが功を奏して店まで開き始めて……」

「なら盾についても詳しそうだな、入るか」


 少し緊張しながら店のドア……というより門らしき扉をゆっくりと開ける。


「いらっしゃいませー」


 中はとても明るく色々な種類の武器、そして防具、アクセサリーまで置かれていた。

 確かにここになけりゃ闇市場くらいにしかないといわんばかりの品揃えだ。

 カウンターにいる若い女性は店主の娘だろうか? いや、貴族の娘が店員なんてやるだろうか?


「ええと、ここの店主はいないのか?」

「店主ならあそこに――」


 店員が指差した先には仕切りで囲まれた防具をまじまじと観察し髭を撫でている貴族風の初老の男性がいた。


「あの人がここの店主で貴族なのか?」

「ええ、間違いありません。オーギュスト様です」

「ふむぅ」


 俺は渋々その初老の男性に近づき声をかける。


「あの……店主のオーギュスト様ですよね?」

「ん? お客さんかな?」

「ええ、少し買い物をしたいんですが……」

「おお、それはそれは……なにが欲しいのかな?」

「盾なんですけど」

「ほほぉ、それならこっちだ」


 無造作に手を繋がれ、まるで親に引かれる子供の様に俺はオーギュストに盾のある場所に連れていかれる。

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