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「ただいま!」
もうあまり和音と背が変わらない洋子が玄関を開けた。
「おねえちゃん!」
純一が駆け寄って洋子に抱きついた。
「純くん、ただいま」
「おかえり、洋子ちゃん」
「パパ! ただいま」
賢治の後ろで美弥子がニコニコ微笑んでいる。
「今日はカレーよ」
「あ……慎吾くん?」
「正解。洋子ちゃんの好きなエビフライもあるけどね」
「やった!」
洋子が弾ける笑顔を浮かべた。
六人で囲むテーブルは、もう見慣れた風景だ。
ただ違うのは、洋子が買ってきた修学旅行土産が並んでいることだろう。
「どうだった? 広島は」
「うん、思っていたより高いビルが無かったね。でも、すごくきれいな街だったよ」
「行った?」
慎吾の声に洋子が頷く。
「うん。慎吾くんに教えてもらった場所は全部行ったよ」
「食べた?」
「お好み焼きも、辛いつけ麵も食べたよ」
慎吾がなぜか自慢げに鼻を膨らませる。
洋子が包みを賢治に渡した。
「はい、パパ」
「ありがとう、洋子ちゃん」
「で、これはママね」
「まあ! ありがとう」
「これは純くん」
純一が嬉しそうに猫の鳴き声のような歓声を上げた。
三人がガサゴソと紙包みを解く。
賢治には折鶴の形をしたガラスのペーパーウェイト。
美弥子には同じデザインの写真立てだ。
「広島って感じね。素敵だわ」
二人の目がほんのりと朱を帯びた。
「だめ! 純くんの!」
純一の土産を見ようとした賢治の手を、純一の小さな手が阻止しようとしている。
「見るだけだよ」
そう宥めながら、賢治がひょいと持ち上げる。
「これってけん玉?」
「けん玉は広島県の廿日市市ってところが発祥なんですよ。へぇ、最近は幼児用のもあるんだね」
洋子の代わりに慎吾が答えた。
「お前には聞いてないぞ」
「はは……すみません」
この暖かな空気が和音の心を重たくしていた後悔の残滓を洗い流していく。
「この洋子は、ただ唯一の洋子なり」
「え? お母さんなあに?」
「ううん、なんでもないよ」
「はい、これは慎吾くんに」
「俺にも? 嬉しいなぁ。まさか生まれ故郷の土産を貰うとは思ってなかった」
「ははは! だからすごく悩んだもん。でもこれなら嬉しくない?」
包みを解いた慎吾が真顔で頷いた。
「うん、めちゃうれしい」
「なに? これ」
美弥子が慎吾の箱を覗き込んだ。
「揚げもみじを自分で作れるキット」
「すごい……あの味が作れるの? 今からやろう! すぐ作ろう!」
美弥子はすでに立ち上がりかけている。
「まあ……いいか。みんなで食べた方がおいしいものね。いい? 洋子ちゃん」
「うん、もちろんそのつもりだったよ」
「ははは……そうか……」
慎吾が少しだけ悲しそうな顔をした。
「はい、これがお母さんのよ」
千代紙で包まれた小さな箱が和音の掌に載せられた。
丁寧に包装紙を開けていく。
「まあ……素敵」
小さな万華鏡だった。
「俺にも見せて」
慎吾が手を伸ばす。
「うん、すごくきれいだ。いろんな色の紅葉がたくさん入っているね」
洋子が笑った。
「慎吾くんだけ無くなっちゃうものだから、たまには覗かせてあげてね、お母さん」
「うん、わかった」
慎吾が絵葉書を指さして洋子の顔を見た。
「うん、これは洋子ちゃんに。みほちゃんとかずちゃんと相談したの。一緒に宮島に行こうねって言ってたのに転校しちゃったから。だから三人で台湾に送ることにしたの」
「そうか、いい友達なんだね」
慎吾が洋子の頭を優しく撫でた。
「うん、もうあまり会うこともないと思うけれど、洋子ちゃんとはいい友達だよ」
洋子の言葉にギュッと目を閉じた和音の背中を、慎吾が優しく擦った。
終




