83話
乗合馬車を乗り継ぎ、数日かけて再びリプルズへと戻ってきた二人の目に飛び込んできたのは、かつての壊滅的な被害が嘘のように思えるほど、急速に活気を取り戻しつつある街並みだった。崩壊していた建物の修復が進み、往来を行き交う人々の表情にも以前のような暗い影は薄れている。
「すごいわね……。あんなにボロボロだった街が、こんなに短期間ですっかり綺麗になってるわ」
「そうですね。復興支援に入っている商人の人たちや、現地の住民たちの頑張りもあるんでしょうけれど、想像以上の復興スピードです」
シンが感心したように周囲を見渡しながら頷く。せっかくここまで戻ってきたのだから、まずは今回の目的であるレリックとの面会について相談するため、現地の事情に詳しいミズキを探すことにした。二人はそのまま街の中心部へと足を向ける。
中心街の一角に差し掛かると、以前は荒れ果てていた広場の敷地内で、ひときわ大規模な建造作業が進められているのが見えた。真新しい石材を積み上げて作られているそれは、まぎれもなく新たな神殿の基礎だった。
そして、その工事の指揮を執るようにして現場を走り回っている、見知った少女の姿をシンは見つける。
「あ、ミズキさんじゃないですか」
セレネがパッと顔を輝かせ、大きく手を振りながらその名前を呼んだ。
「ミズキ!」
その声に反応して振り返ったミズキは、二人を見つけるとぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべ、トコトコと小走りでこちらへ駆け寄ってきた。そして、言葉を発するよりも早く、まっすぐにシンの胸元へと飛び込み、ぎゅっと抱きついた。
「わっ……!?」
突然の不意打ちに、シンは両手を宙に浮かせたまま完全に硬直する。
「もう、ミズキってば相変わらずね……。ほら、シンが困ってるでしょ、離れなさい」
セレネがやれやれといった様子で軽くため息をつきながら、ミズキの肩を掴んでグイッと引き剥がした。
「い、いやあ、驚きました……。ミズキさん、お元気そうで何よりです」
シンが顔を引きつらせながら冷や汗を拭うと、ミズキは名残惜しそうに唇を尖らせながらも、きょとんとした顔で首を傾げた。
「えへへ、ちょっと驚かせちゃった? それにしても、二人とも少し前にヴェリタスに行ったのに……どうしてまたすぐにこのリプルズに戻ってきたの?」
ミズキの素朴な疑問に、シンとセレネは顔を見合わせた。
「実は、少し調べたいことがあってね。あの時捕らえたレリックに直接話を聞きに来たのよ。面会させてもらうことはできるかしら?」
セレネが真剣な表情で尋ねると、ミズキは「あぁ、なるほどね!」と大きく頷いた。
「それならちょうどよかった。警備の者にも話を通しておくし、私も一緒に地下水路の牢まで案内するよ」
こうしてミズキを加えた三人は、街の地下へと続く重い鉄の扉を抜け、厳重に警戒された地下水路の奥底へと足を踏み入れた。湿った冷気が肌を刺す薄暗い通路を進み、最奥にある頑丈な鉄格子で仕切られた牢の前に到着する。
「……お客さんだよ、レリック」
ミズキが声をかけると、奥の暗がりからガタリと重い鎖の音が響いた。やがて、わずかな灯りのもとに姿を現したのは、かつて街を恐怖のどん底に陥れた知性を持つ魔物、レリックその人だった。
しかし、鉄格子の向こうに立つレリックの様子は、以前の余裕を含んだ不気味な笑みを浮かべていた頃とは似ても似つかなかった。シンの姿を認めた瞬間、レリックの全身がビクリと激しく震え、恐怖に満ちた瞳孔が大きく見開かれる。本能的な恐怖を思い出したかのように、彼はガタガタと身体を震わせながら壁際に身を縮こまらせた。明らかに、目の前にいるシンに対して尋常ならざる恐怖感を抱いている。
「……っ、お前……、なぜここに……!」
そのあからさまな怯えっぷりに少し面食らいながらも、セレネはスッと一歩前に出て、鋭い視線を格子越しに向ける。
「レリック、あなたたち魔物が最近になってこれほどまでに活性化し、あちこちで暴れ回っている本当の目的は何なの? 知っていることをすべて話しなさい」
セレネが問い詰めるが、レリックはブルブルと頭を横に振り、かたく口を閉ざしたまま答えようとはしない。いくら追及しても、恐怖で顔を引きつらせるばかりで要領を得ず、全く埒が明かなかった。
(このままじゃ、いつまで経ってもまともな証言は得られそうにありませんね……)
痺れを切らしたシンは、ゆっくりと一歩、鉄格子へと歩み寄った。
その瞬間、シンの背後から、かつてレリックを圧倒したあの禍々しい赤黒いオーラの残滓が、ほんの一瞬だけ陽炎のように揺らいだ。
「……っ!? ひっ……! や、やめろ、来るな……っ!」
レリックは恐怖のあまり床にへたり込み、情けない悲鳴を上げながら両手で頭を抱えて丸くなった。その異様な怯え様に、ミズキが「わっ、すごい怯え方……」とわずかに引いた目を向ける。
シンは冷徹な眼差しを鉄格子の向こうの魔物に向け、低く冷たい声で言い放った。
「僕たちの質問に答える気がないなら……その時は、あの時のようにあなたの身体を内側から徹底的に破壊します。あなたの細胞一つ残らず、二度と再生できないほどの治癒魔法でね。……さあ、どうします?」
「ひっ、ひいいいっ……! わかった、話す! すべて話すから、あの化け物みたいな力をこっちに向けるな……っ!」
死よりも恐ろしい恐怖を叩きつけられたレリックは、正気を失ったかのように早口で喚き散らしながら、魔物たちの隠された恐るべき目的の数々を次々と捲し立て始めたのだった。
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