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7話

「いつまでも地下の牢に閉じ込めておくわけにもいかないわね。彼の処遇についての新たな提案を長老たちに通すわ」


収穫祭から数日後、地下牢の冷たい空気を払うように、セレネは真剣な面持ちでそう切り出した。

彼女から伝えられた長老会議での合意事項は、シンにとって大きな変化を意味していた。それは、「村の監視」という名目を厳重に維持することを条件に、日中だけは牢の外に出ることを許可するというものだった。


なぜそのような決定が下されたのか。経緯を聞けば、牢の中で見せたシンの手仕事や、衛兵たちとのささやかなやり取りの報告が大きく影響していた。無論、人間の侵入者を激しく嫌う長老や村人たちからの反対意見は根強く存在した。しかし、


「いつまでも牢に閉じ込めて様子を見るだけでは何も変わらない。いっそ、ある程度動ける範囲を増やして自由を与えれば、そのうち馬脚を現して本性を表すのではないか」


という現実的な、あるいはあわよくば罪の証拠を掴んでやろうという思惑を持った意見が押し切り、今回の許可へと結びついたのだった。

そして、日中の限られた時間、シンはセレネや交代の衛兵を付き添いにつけた状態で村のあちこちを回り、傷んだ建物の修繕や、人手の足りない雑用を手伝うことになった。

初めて地下牢から外に出たシンを、エルフの村人たちはまるで魔物でも見るような冷ややかで怯えた目で見ていた。それも無理はない。この精霊の森に隠されたエルフの村には、過去に幾度も邪な欲望を抱いた人間たちが侵入してきた歴史があった。

外の世界の人間たちは、村の宝を奪い、あわよくば村の女子供を攫って売り飛ばそうと企て、その度にセレネや衛兵たちが命がけで返り討ちにしてきたのだ。村人たちにとって人間とは、恐怖の対象であり、底知れぬ嫌悪を抱くべき害獣に他ならなかった。

だからこそ、どれほど無害そうな雰囲気をまとっていようとも、村の中心に人間が歩いているという事実そのものが、彼らの神経を逆撫でしていた。

作業を始めて間もない広場でのことだった。通りすがりの若いエルフが、シンの姿を見るやいなや激しい敵意を剥き出しにした。


「おい、そこの人間……! お前みたいな不審者がこの村をうろついているだけで吐き気がする。過去にどれだけの仲間が人間どもに傷つけられ、奪われてきたと思っているんだ!」


怒りに我を忘れたその若者は、足元の地面から小さな尖った石を掴み取ると、周りの静止を聞かず、叫び声を上げながらシンめがけて力任せに投げつけた。

乾いた破裂音が響き、石はシンの頬を鋭くかすめて地面へと転がり落ちた。わずかに皮膚が裂け、そこから一筋の赤い血がツーと痛々しく伝い落ちる。


「っ……!」


周囲で控えていた衛兵が即座に腰の武器に手をかけ、セレネも急ぎ足で振り返って、手にした杖を地面に強く突き立てた。彼女の美貌には、凍てつくような怒りの色が鮮烈に浮かび上がっている。


「そこまでよ! 彼を外に出したのは長老会議の正式な決定に基づくものよ。私と衛兵が厳重に監視しているのだから、いくら相手が人間と言えど勝手な暴力を振るうことは許さないわ!」


しかし、村人たちの間に根深く巣食う嫌悪と恐怖は、セレネの制止の言葉ごときで簡単に鎮まるものではなかった。


「長老たちの決定だからって何だというんです! あんな人間のせいで過去にどれだけの仲間が……あなただって本当は人間を嫌っているはずではないですか、セレネ様!」


若いエルフがさらに声を荒らげ、こともあろうに血を流すシンへと直接詰め寄ろうと一歩を踏み出す。不穏な殺気が瞬く間に周囲の空気を歪め、集まってきた他のエルフたちからも同調するような殺気立ったざわめきが波のように広がっていった。一触即発の極限状態だった。

そんな緊迫した空気の只中で、頬から血を流したまま、シンはその場に微動だにせず静かに立ち尽くしていた。

彼は自分に石を投げつけた若いエルフを怒りの色を浮かべて睨み返すこともなければ、恐怖に駆られて後ろに逃げ出すこともしない。

ただ、目の前の青年が纏う怒りの奥底にある、仲間を守りたいという強い恐怖と悲しみの感情を、驚くほど静かな瞳でじっと見つめていた。

セレネは冷徹な眼光を周囲に向け、張り詰めた声で村人たちを圧倒するように言い放った。


「下がりなさい! 誇り高きエルフが、武器を持たない無抵抗の相手を大勢で攻撃するなど、あるまじき恥ずべき行為よ。私の監視下にある彼に手を出す者は、私に対する反逆とみなすわ」


その毅然とした態度と圧倒的な魔力の気配に気圧され、若いエルフは悔しそうに歯噛みしながらも、一歩を引き下がった。

周囲のざわめきも、徐々に押し黙るように鎮まっていく。

騒ぎが収まったあと、シンは静かに自分の頬に手を当て、指先に付いた赤い血をそっと拭き取った。

そして、自分のためにここまで声を荒らげてくれたセレネと、未だに自分に対して敵意を隠さない村人たちの姿を交互に見つめる。


シンはこの村が抱えている重い歴史と、自分という存在が背負わされている立場を、痛いほど正確に理解した。人間の身勝手さがどれほど彼らを傷つけてきたのか。

そして、自分がこの村で受け入れられるためには、単に無害を装うだけではなく、その深い溝を真っ正面から見据えなければならないのだと、シンは静かに心に刻み込むのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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