表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を奪われた聖女は、それでも王子に恋をする  作者: しろねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/9

第1話:婚約者としての日常、幼い頃からの絆

王宮の庭園に、鐘の音が静かに響いていた。


セレスティアが暮らす聖女宮は、王宮の敷地内、本殿から少し離れた場所に建っている。六歳でこの地に引き取られて以来、後見人と侍女長の監督のもと、ここが彼女の家だった。庭園は、聖女宮と王宮を繋ぐ、二人にとって一番なじみ深い場所だ。


「セレス」


名前を呼ばれて、セレスティアは本から顔を上げた。木漏れ日の下、ディートリヒがこちらに歩いてくる。


目が合う。


それだけで、胸の奥がすっと温かくなるのを、セレスはもう何年も前から知っていた。


「勉強中に、悪いな」


「ううん。大丈夫」


セレスは本を閉じて、隣の空いた椅子を軽く叩いた。ディーンは少し口の端を上げて、その隣に腰を下ろす。


沈黙。


風が二人の間を通り抜けていく。花の香りと、ディーンの纏う静かな空気が混ざり合った。


「……何、見てるの」


セレスの視線に気づいたディーンが、静かに聞く。


「ん……別に」


「嘘だな」


ディーンはくすりと笑って、セレスの頬に軽く触れた。指先が、ほんの一瞬だけ、髪を耳にかける。


心臓が跳ねる。


こんなことは、もう何百回とされてきたはずなのに、いまだに慣れない。


「そういう顔、あんまり人前でするなよ」


「どういう顔?」


「……可愛すぎる顔」


「な、ちょっと」


思わず赤くなるセレスを見て、ディーンは満足そうに目を細めた。婚約者になって十年以上経つのに、彼はいつも、こうしてセレスの反応を楽しんでいる。


「なあ、セレス」


ふいに、ディーンの声が少しだけ真剣みを帯びた。


「大聖堂での儀式が近い。正式に、婚約から先の話が動き出す」


「うん……分かってる」


「不安か?」


セレスは少し考えて、首を横に振った。


「ううん。ディーンと一緒なら、大丈夫」

その言葉に、ディーンは一瞬だけ驚いたように目を見開き、それから、いつもよりずっと優しい表情を見せた。


「……その台詞、俺の方が言いたかったんだけどな」


ディーンはセレスの手を取ると、そっと自分の口元へ運んだ。


「絶対に、離さない」


短い言葉に、けれど確かな重みが込められていた。セレスは頷きながら、この穏やかな時間がずっと続いていくのだと、疑いもせずに信じていた。


庭園の向こう、王宮の窓の一つから、その様子をじっと見つめている影があったことに、二人はまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ