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英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
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死神戦・幕間 ー天使の双剣ー

「……何ですそれは」


 死神は重々しい声で廊下の外から人間が手にしているものについて問いかけた。その声は先ほどまでより低く、怒りを押し殺しているようだった。先ほど殴られたことに対して苛立っていたのだ。


「これかい? これは努力の賜物だよ。ね、空」


 死神の気持ちなど全く気付いていないようにリギラは底抜けに明るい声で答えた。リギラの返答は死神をさらに苛立たせる。


「そうではなくてですね、その短剣の正体は一体何なのかと聞いているんです。どこから持ってきて、どういったものなのか、その詳細を聞いているんですよ」


 死神は高まる苛立ちをぎりぎりで押さえて質問の意図を明確に伝えた。先ほど死神が三階まで追ってきた時から立場が逆転していることに死神自身、気が付いていなかった。


「ああ、そういうこと。これはボクの天使のエネルギーを具現化させて作ったものなんだ。特訓ではこれを使って戦いの練習をしていたからね」


 リギラは死神の質問に答えた。


「特訓?」


 死神は怒りを抑えながらリギラに聞き返した。


「そう特訓。キミを倒すための特別な、ね」


 リギラは死神の疑問を払拭するために、今日まで、空が過ごした一週間のことを説明し始めた。





「今日から一週間、あいつらで特訓しよう」


 一週間前の火曜日の放課後、地下駐車場でリギラは空に提案した。


「そもそもS級の悪魔を倒した空が今更、A級で何を特訓するのかって感じなんだけどね。それで空、リエガと戦った時に出したあの白い盾のこと覚えてる?」


 リギラは空にリエガ戦のときの話を持ち出した。白い盾というのはリエガが口から吐き出したビームのような黒い光を防いだ盾のことを指し示していた。


「あの白い盾はボクの天使のエネルギーを体外に放出して押し固めたものなんだ。エネルギーの基本的な使い方は体内に巡らせて、使う部位に合わせて濃度を変化させて攻撃力や防御力を高めたり、あるいは足に一瞬だけ力を溜めて瞬発力を高めたりするものなんだ。要は運動能力を大幅に上げることを目的としたものなんだよ」


 リギラはエネルギーの基本的な使い方を真面目に話し始めた。


「もちろん基本があれば応用もできる。あの白い盾がそのわかりやすい例だね。エネルギーを体外に出して役立てること。リエガが放ったあの黒い光もエネルギーを外に放出したんだよ。他にもエネルギーの使い方はボクが知らないものまでいっぱいあるんだ。自分だけの使い方を見つけるのも結構楽しいんじゃないかな。まぁでもそれは追々だね」


 リギラはエネルギーの応用について軽く話した。その後、リギラはさらに真面目な調子で話し始めた。


「ただ、今回空にはすぐに練習してほしい応用技があるんだ。今回は時間もないし恐らく素手じゃ厳しい相手だからね」


 リギラの会話の内容は死神との戦闘を見越したものだった。リギラの話は続く。


「空、この前のように盾を出すことはできるかい?」


 リギラは空に指示をした。空はリギラに従い手を前に翳して天使のエネルギーを放出した。エネルギーは光を放ちながら、徐々にその姿へと変貌させていった。


「⁉ 誰だ⁉」


 薄暗い地下駐車場の中、白く光る盾は物陰に隠れていても悪魔が発見するには十分な光量だった。A級の悪魔は呼びかけた後じりじりと光源の方へと近づいて行った。迂闊に飛び込むほどA級悪魔の知能は低くなく、また悪魔にとって、見慣れた天使の持つ光は悪魔に警戒心を抱かせた。


「おっと、ばれちゃったね」


 天使は悪魔にばれても特に慌てる様子はなく、むしろ想定していたようにも見られた。


「じゃあ、パパっと説明を終わらせよっか。今出してる盾を今度は剣に変えることはできるかい。剣を強く想像するんだ。具現化するにはイメージ力が大事だからね。強くイメージして。刃が鋭く、自分が扱いやすそうな、そんな剣を」


 空は盾が剣になるイメージを強く持った。すると、白い盾は徐々にその姿を変え光の短剣へと形を整えていった。


「おい‼ 早く出てこい‼」


 悪魔の怒鳴り声が駐車場に響く。


「短剣か。それだけだとちょっと心もとないね。その短剣を二本に増やすことはできる?」


 リギラは悪魔の声を無視して空にさらなる指示を出した。リギラは空が剣を具現化できたことに驚かず、想定通りと言わんばかりの態度だった。


 空は再びリギラの指示に従い短剣二つ分を具現化するイメージを持った。白い盾の時同様に、目の前の何もない空中に短剣を具現化させてみせた。空は二つの短剣を両手に握りしめた。


「出てこねぇなら……」


 悪魔は近くに停めてあった車を両手で軽々と持ち上げ


「こうするまでよ‼」


 空が隠れているであろう場所に投げた。投げられた車は空が隠れていた物陰ごと砕き、車そのものも大破した。


 空は巻き添えを喰らわないようにいち早くそこから離れ、悪魔の前に体を出した。悪魔と空が対峙した。


「なんだ? 誰かと思えばただのガキかよ。天使の光が出てるもんだからてっきり天使様かと思って身構えちまったぜ。なんで人間のお前が天使の力を使えるのかは謎だが所詮は人間。悪魔に敵うはずねぇだろ」


 悪魔は人間である空の姿を見るや否や饒舌になり、明らかに相手を舐めたような態度になった。当然、人間に憑いた天使の存在にも気付いていた。


 しかし、普通の人間にも天使と悪魔が憑いているという常識が思考の邪魔をして、目の前の人間が天使と意思疎通できていることにまで気が回らなかった。また、A級悪魔へと成り上がった自信と傲慢さが彼の目を眩ませ、目の前の人間が普通とは違うことに気が付くことができなかった。


「てめぇを殺してとっととずらからせてもらうぜ」


 悪魔は人間に余裕で勝てる前提で話を進めた。


「さっき空に言った特訓っていうのは武器を具現化することじゃないんだ」


 リギラはまたも悪魔の言葉を無視して空に話しかけた。無視された悪魔の怒りゲージが少し上昇した。


「おい」


 悪魔が無視した人間と天使に向かって話しかけた。


「空、キミ相手を倒すための本物の武器を使って戦ったことないだろう」


 リギラはさらに悪魔を無視して話を続けた。悪魔の怒りゲージがさらに上昇した。


「おいっ!」


 悪魔は今度は先ほどより大きな声で呼びかけた。


「そう! 今回の特訓っていうのは剣を使った実践訓練! 剣の扱いに慣れることが目的なんだ!」


 リギラは今度も悪魔の言葉を無視して話を続けた。リギラの明るいトーンと併せて無視され続けた悪魔の怒りは限界を迎え、悪魔は人間に向かって大声を上げた。


「いい加減にしやがれ‼ 耳付いてねぇのかてめぇら! ていうか無視するだけじゃなくてさっきから聞いてりゃオレで特訓だと⁉ ふざけんじゃねぇ‼ あんまり舐めてっと承知しねぇぞ‼」


 悪魔は怒りの言葉を空にぶつけながら拳を近くにあったコンクリートの柱にぶつけた。柱は砕け、さらに柱の奥にあった壁にまで穴が開いた。穴はコンクリートの破片が飛んでできたものではなく、悪魔が放出したエネルギーによって作られた穴だった。


 空とリギラはそのエネルギー放出を見逃さなかった。


「見た、空? 今のもエネルギーの応用技だよ。エネルギーを拳に集めてそれをそのまま体外に放出しているんだ」


 リギラは悪魔の行動に怯まず、相手の行動を空に解説した。リギラの態度は悪魔の堪忍袋を壊すには十分だった。


「そうか。もういい。出方によっちゃ楽に殺してやろうと思っていたが、そんな考えも吹っ飛んだ。苦痛を与えてなぶり殺してやる」


 悪魔は空をターゲットとして捉えた。先ほどまではなかった殺気を身にまとい、両手に力を蓄えた。悪魔の両手が黒く光る。


 悪魔の動きに合わせて空も臨戦態勢を整えた。両手に短剣を持ちそれを前に構える。


 両者が向き合い敵として認識する。


「それじゃあ、始めるよ。今日から一週間、武器を使ったシミュレーションだ!」


 リギラが話す。その言葉と共に両者一斉に飛び出し戦闘が始まった。





 リギラはこの一週間をどのように過ごしていたかを死神に伝えた。リギラが死神に話している間に空は体に刺さったガラスを抜いていた。


「つまり、この一週間修業しただけで私の鎌捌きを受けきれるようになったと?」


 死神の声は震え今にも怒りが面にむき出しそうだった。死神は自身の怒りを、相手は普通の人間ではなくポテンシャルが高い人間であるためここまで追いやられた、という意識で何とか抑え込んでいた。


「そうだよ?」


 しかし、死神の気持ちを逆撫でするようにリギラは考えなしに答える。それでも死神はギリギリで耐えていた。すべては目的遂行のために。


「それよりもこっちも聞きたいことがあるんだけどさ」


 死神の心中葛藤の中、リギラが質問の要求をする。


「……また時間稼ぎですか」


 死神は少し呆れ口調で問いかける。自身で投げかけたその皮肉さえも、自身を苛立たせるものだった。内容がまるで相手が自分を舐めているようなものだったからだ。


「違うよ!」


 リギラの意気揚々とした声が死神を逆撫でする。死神は怒りを抑えた。とにかく抑えた。


「……何です」


 天使の言葉の中に煽る要素がなかった、この天使はこういう性格だと言い聞かせ死神は普通な受け答えを意識した。


「さっき空がキミを吹き飛ばした後、何が起こったの? あの後瓦礫とか調べたんだけどな何か違和感があるんだよね。それに壁にぶつかる前に変な音もした気がするし」


 リギラは、死神が怒っている理由である吹き飛ばされたことを質問に含めて死神に問いかけた。リギラの言葉を聞いて死神はキレ出すかと思われたがそのようなことはなく、死神は普段の口調に戻り受け答えをした。


「あぁ、そのことですか。至ってシンプルなことですよ。我ながらあれは機転が利いたと感心しています」


 死神は元の口調で話した。吹き飛ばされたことへの怒りは収まり自身の良き回想に思いを馳せていた。


「うっとりしてないで早く教えてよ」


 死神の様子を見たリギラはずけずけと言い切った。


「……あなた本当に礼儀を知りませんね」


 死神は少し重い口調でリギラに言葉を発した。その口調だけでなく表情からもリギラに殺意を向けていることがわかる。


「ヒッ‼」


 リギラは死神の殺意に怯えて少しばかりの悲鳴を上げた。


「……まぁいいでしょう」


 死神は怯える天使を見て気分が晴れたのか天使の発言を許容した。


「それで、さきほど起こったことの説明でしたか? 本当にシンプルなことですよ。壁にぶつかりそうになる直前に透過して壁をすり抜けたんです。その後すぐに壁の外側から鎌で壁を切り壊して、壁に激突したように見せかけたんですよ」


 死神は壁に衝突した、正しくはしそうになったときの詳細を丁寧に説明した。死神の怒りが収まったように感じた。


「いやしかし、何度思い返してもなかなかの身のこなし、大変すばらしいですねぇ」


 死神はぼそぼそとひとり呟き、高く自己評価していた。


「おっと、また脱線してしまいましたね。あなた方は私の気を反らすのが本当に得意ですね」


 死神はふと我に返り、空達に言葉を投げかける。


(今のはキミが勝手に余韻に浸ってただけだと思うけど)


 流石のリギラも呆れて言葉が出てこなかった。


 リギラが呆れている間に死神は鎌を翳して空のもとへと突っ込んだ。死神は空めがけて鎌を振り下ろす。


「わっ!」


 リギラは驚きの言葉を発すこと以外何の反応もできなかった。死神の攻撃に対して空は持っていた双剣で鎌を受ける。金属がぶつかる鈍い音が誰もいない校舎に響き渡った。


 死神は鎌を押し込もうとする。空も対抗して必死に押し戻そうとする。両者の力に差分はなく、刃が混じりあう音だけがカタカタとなる。


「私の攻撃をまたも…… つくづく気に入らないですね、あなたは……!」


 死神は人間の反応に再度苛立ちを覚えた。


 空は死神の言葉に反応せずただ双剣を両手でぐっと握り、死神の鎌を受け止める。


「ッ、反応しろよ‼」


 死神は人間の反応に苛立ち声を荒げた。同時に鎌を斬りつけるように腕に力を入れた。空も反応して腕に力を入れて死神の鎌を返した。三つの刃は互いの刃の上で滑り空振りとなる。再び鈍い音が鳴り、その衝撃で両者は後ろに後ずさりした。


「ええ、いいでしょう。あなたが一週間ぽっちの修行で身に付けた剣戟とやらで私を倒せると思うのならやってみなさい。そんなお粗末な攻撃、私の鎌の錆にしてあげますよ」


 死神は煽るように言葉を掛けた。言い終えると、死神は鎌にエネルギーを込め臨戦態勢を整える。


 空も死神の言葉に答えるように双剣にエネルギーを込め、臨戦態勢を整える。


「……ねじ伏せてやる」


 死神は素人の双剣使いに舐められていると思い、さらなる怒りがこみ上げる。死神の言葉を合図に両者は相手に攻撃を仕掛けた。

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