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英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
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死神戦・第一幕 前編

 死神は今か今かと握っていた鎌を空にめがけて斜め上から振り下ろす。死神が突っ込む速さや鎌を振り下ろす速さはリエガと同程度、あるいはそれ以上の速度だった。さらに、二人の間合いはリエガ戦の開戦のときよりも狭く、空との距離を詰める時間は極めて短かった。


 しかし、空は死神の動きを捉えていた。空が死神の動きを捉えることができたのは死神のことを警戒しすぐに対応できるように動ける体勢を保っていたこともあるが、この一週間A級悪魔で特訓して成長していたことが大きかった。


 左右の逃げ道を机に阻まれていた空は後ろに避けるしかなかった。難なく死神の鎌を後ろに飛び避ける。


 振り下ろされた死神の鎌は近くにあった机や椅子を粉みじんにすることなく綺麗に切り裂いた。机や椅子も劣化していたわけではなく壊れるにはまだまだ新しく、綺麗に切り裂かれるほど柔軟でもなかった。


 空は死神のエネルギーが関与していることを悟った。


 後ろに下がった空は背中に何かが触れるのを感じた。ちらりと後ろを見ると黒板前に配置してあった教卓だった。すかさず前を見ると死神が振り下ろした勢いのまま体を回転させ、次の攻撃の予備動作を行っていた。


 死神は一回転し、空の腰に狙いを定め片手で鎌を振り切った。


 空はその場でバク転を行い後ろにあった教卓に片手で立った。


 死神は何かを切った手ごたえを感じたがそれが人間のものではないと一瞬で判断し、すぐさま次の攻撃モーションへと移り変わった。


 空は切られた教卓からすぐに手を放し、黒板を背に付けながら死神の方を向くと、死神が次の攻撃を行う動作に入っていることを視認した。


 死神は切った教卓を越えて、空へと猛突した。死神は門の鍵を切った時と同じように、しかし攻撃速度は速く、空にめがけて鎌を振り上げた。


 背後への退路を阻まれた空は、教室の入口側へと飛び避けた。


 後ろで何かが崩れる音がした。空がすぐさま振り返ると、そこには鎌を持った死神と真っ二つに割れた黒板、さらに隣の教室まで開通した穴があった。


 開始の合図と共に、両者の激しい戦術がせめぎ合う。たった数秒しか経たないうちに、両者の間でどれほどの攻防が行われただろうか。人間離れしたその凄さを、教室の床に散りばめられたかつて勉強机だったものが、物語る。


 死神は一度攻撃をやめて、鎌を自身の肩に担いだ。それからゆらりと空の方を見る。窓から漏れ出す薄暗い光と相まって死神の姿はさらに恐怖を駆り立てていた。


 いつもならリギラが怯えた声を出す場面であったが、リギラにその様子は一切なく、全く反応がなかった。


「……そんなに教室を壊してもいいのかとお思いですか?」


 死神が人間の方を見て話しかけた。こんな時は、いつも何かしらの対応をするリギラだったが、今回はなぜか反応を示すことはなかった。死因を聞いてからリギラに音沙汰がない。空も当然問いかけに答えることはなかった。


「心配しなくても大丈夫ですよ。もともと改装予定の校舎ですので少しくらい壊れていても問題ありません。ここに通う人間も今だけは別の場所に通学しているみたいですし」


 死神は一人で問いかけに対して答え始めた。敬語を使った死神の口調は丁寧だったがその態度、その声から殺気が消えることはなかった。


「校舎の心配よりも自分たちの心配をした方がよろしいのではないですか⁉」


 死神は言い終えると同時に空めがけて突っ込んできた。


 空は後ろに転げるように避けると入口から教室を抜けて廊下に出た。後ろから今度は何かが切り裂かれる音がした。空はすぐさま振り返りしばらく様子を伺った。それと同時にリギラからの指示を待った。


 しかし、リギラから何かを言われる気配はなく、指示よりも先に死神が入口から出てくる場面を捉えた。空は合図がないと死神に対抗する術がないと判断し、死神に背を向けて距離を取るように元居た教室から離れて校舎内を走り出した。


(……これも避けますか。思った以上にやりますね。期待が高まります)


 死神は空をすぐには追わず、廊下で一人、空の強さを噛み締めていた。そして、小さく不敵に微笑んだ。


 空は廊下を走っていた。死神に攻撃を仕掛けず、しかし逃げるでもなく、空はリギラの反応をただ待っていた。リギラのもともとの作戦は死神を屈服させて死を乗り切るものだった。本来、リギラの合図と共に死神に攻撃を仕掛ける予定だったのだ。


 しかし、死神の一声で新たな選択肢が生まれる。それは、死神から十九時まで逃げ回るというもの。


 リギラからの攻撃の合図もなく、新たな選択肢が生じたもののどちらを選択することもできなかった空は死神の攻撃を避けるしかなかった。しかし、死神の攻撃は鋭く素早いもので、あのまま避け続けるだけでは先に殺されてしまうだけだった。


 空は合理的思考の元、距離を取った。


 空が走っている間もリギラはずっと考えていた。十九時まで凌ぐか死神を倒すかの二択についてではなく、死神が人間を直接殺すと言った一言について、にである。


 リギラの話では死神は直接人間を殺すのではなく魂を刈り取る形で死の手助けをする、というものだった。今回の空の死因はそれに反するものでかなり異例なことだった。


 リギラは深くため息をついた。それは、考えたことを諦めたようにも見当が付いて呆れたようにも見て取れた。リギラは考えることに集中し、空が死神に反撃していないことに気付いていなかった。空の死因はリギラに攻撃の合図を忘れさせるほどには衝撃的な理由だったのだ。


 リギラが考え事に一区切りついて我に返ると空が廊下を走っていることに気が付いた。


「ちょ、空、なんで廊下走ってんの⁉」


 リギラが空に話しかけて、ようやく空の足が止まった。リギラが辺りを見回すと死神の姿は見当たらず、近くにある教室も先ほどとは別物であることを確認した。また、リギラが廊下から窓の外を確認すると少し視点が高くなっていることに気付いた。


「ここは……向かい校舎の三階?」


 リギラは自身がいる場所を確認した。廊下の窓から外を覘くと、一番下には中庭があり、さらにそこから目線をずらすと先ほどまで居たはずの校舎が見える。窓越しに切り裂かれた教室のドアは発見できたが、そこに死神の姿はなかった。


「なんで逃げたのさ空!」


 リギラが文句を垂れる。その態度は八つ当たりにも似たものだった。空は怒っているリギラを見るのは初めてだった。しかし、怒られていても空の態度は一点して、無反応・無表情だ。


「ボクの合図で死神に攻撃って……あ」


 リギラは自身の発した言葉で、ようやく自分が攻撃の合図をしていないことに気が付いた。リギラの慌てふためく様子が頭に響く。


「ま、まぁ誰にだってミスはあるよね、仕方ないよね」


 自身のミスをごまかすかのように言い訳をした。いつも通りに謝らないところは、リギラの少しばかりの余裕が垣間見えた。理不尽なことで怒られたあげく、謝られなかったことに対しても空は反応を示さなかった。


「空がそういう性格で助かった」


 リギラはボソッと呟いた。空はリギラの声が聞こえていたが反応しなかった。リギラは落ち着いたのかイライラする様子は見られなくなっていた。


「さて気を取り直して、死神を探しに行こうか。次に会ったら問答無用で攻撃していいからね。空なら一時間耐えることはできるかもしれないけど、サクッと終わらせちゃった方がいいでしょ?」


 リギラはリギラらしさを発揮しながらリギラらしい作戦を発言した。完全にイライラは無くなっていた。


「よーし、じゃあ死神探しにしゅっぱーつ!」


 リギラが元気に前進の号令をかけた瞬間、空はその場に素早くしゃがみこんだ。しゃがみこんだ空の頭上を大きな鎌が勢いよく通り過ぎる。通り過ぎた鎌は勢いのまま近くにあった教室の窓を壁ごと切り裂いた。


「うわぁ!」


 リギラの驚く声がまたも響き渡る。空はリギラの声を気にも留めず、すかさず左拳にエネルギーを集めながら後ろを振り向き、死神目掛けて拳を突き出した。


 死神は空の動きにすかさず反応して鎌の持ち手の部分を自身の体の前に出した。空の拳は死神の鎌の持ち手部分に当たった。


 空はそのまま死神を突き飛ばした。


 死神はふわふわと浮かびながら後ろへ飛ばされた。


「っ‼」


 死神は驚いた。空の背後は完全に死角で、空から死神の姿を捉えることは不可能だった。しかし、それでも空は死神の攻撃に反応した。


 死神は背後を取られた人間が攻撃を避けるどころか反撃するとは思ってもみなかった。加えて、死神自身の戦闘能力は強くはなくとも人間に太刀打ちできるほどには弱くはないと自負していた。


 しかし、目の前の人間は鎌の攻撃を避けた、そして反撃した。


「い、一体どこから現れたの⁉」


 攻撃を避けた人間に代わり、天使が驚いた反応を示す。死神は天使の言葉に反応せず殴られた取っ手の部分を見つめていた。死神はその反応こそが正しいものだと思っていた。


 しかし、目の前の人間は一切その反応を示す気配がない。恐れを抱くことも興味を示すこともない。ただ目の前の相手を倒そうとしている。死神は皮のない面で複雑な表情を浮かべた。


「ね、ねえ?」


 目の前の人間のことについて考えていると天使の声が聞こえてきた。その声は戸惑いと少しの恐怖が混じっているように聞こえた。死神は人間のことについて考えることを一度止めた。


「ああ、すみません。避けられたことに少々驚いてしまって。まさか避けられるとは思ってもいなかったものでして」


 死神はリギラの投げかけに返答しなかった理由を述べた。続けて面を上げて人間の方を見た。人間は既に戦闘態勢を取っていた。


(この人間は本当に……)


 死神は再び複雑な表情を浮かべた。自身の攻撃を避け、反撃しただけに留まらず次の攻撃に備えて体勢を整えていた。人間が本気で打ち勝とうとしている。その反応に驚き困惑した。


 しかし、すぐに冷静になり、死神はその後、リギラの質問の答えを回答した。


「それでどこから現れたか、でしたか? それは当然、壁を透過してきたんですよ」


 死神は先ほど驚いた様子を微塵も感じさせることなく、淡々と答えた。


「そうじゃなくて! どうして空の場所がわかったのかを聞きたいの! ここはすぐに見つかるような場所でもないし目立つ場所でもないよ!」


 リギラは再び死神に質問をした。これがリギラの聞きたかった本来の意図を示すように丁寧に話した。リギラは先ほどから死神に驚かされているせいか、少し苛立った口調で話していた。


「そのことでしたか。それでしたら私たち死神に備わる特徴と関係しているだけですよ。我々死神は人間の魂の波動を感知できるんです。たとえ壁越しであってもね」


 死神は答える。同時に少しだけ目を凝らす。死神の目は目の前の人間が灰色に光るように捉えた。


(……灰色?)


 死神は人間の魂の色を見て疑問に思った。


「それじゃあ隠れることや不意打ちができないってこと? そんなのずるい! 反則だ!」


 リギラが死神の話を聞いて怒った様子を見せる。しかし、リギラの態度は本当に怒っているものではなく野次を飛ばしているかのようだった。


「ずるいと言われましても生まれ持ったものだから仕方ないでしょう。人が肺で呼吸すること、二足歩行をすること、他の動物と比較して知能が発達していることと同じ。それが当たり前のことなんです」


 死神はリギラの文句に真摯に受け答えた。


「それに不意打ちはできないことはないですよ。私たち死神は魂の波動を視覚的、つまり目で直接捉えているんです。ですので、後ろから攻撃されれば当然死角となり、反応も遅れてしまうでしょう」


 死神は死神特有の弱点まで話した。先ほどの空の攻撃で気が高ぶってしまっているのかと言われれば、そのような様子はなく、話し方、態度はいたって冷静で、殺気の無さはむしろ不気味さを醸し出していた。


「……それ、話していいの?」


 リギラは当然の疑問を死神に投げかけた。リギラは少し困惑しているようだった。


「問題ありません。急所ということは当然警戒が強くなりますから」


 死神が答える。


(しかし、灰色の魂を持つ人間。魂の色はその人間の生きた道筋によって変わりますが、このような色は初めて見ますね。天使が憑いている影響か、それとも……)


 死神は目の前の人間の魂の色について考えた。初めて見る人間の魂の色は死神の興味を引いたのだ。しかし、死神はここで熟考しても埒が明かないと判断し、人間について考えることをひとまず止めて切り替えた。死神は一呼吸おいて再び口を動かした。


「おしゃべりはここまでにして、続きを始めましょう」


 死神は一言放つと再び殺気を纏った。空気が変わったことを感じ取った。感じたのは言うまでもなく空でなくリギラだ。リギラは死神が発する殺気を感じて固唾を呑んだ。死神は近くの教室の中に目を向けた。


「ふむ……」


 死神は一言だけ呟いた。空も続けて視線だけを動かし教室の中を見た。先ほど争った教室同様に黒板の上に時計が掛けられていた。時刻は十八時十分を示している。


「あと五十分」


 死神が何かを言っている声を聞いて、空は死神の方を向いた。放課後の薄暗い学校の廊下に浮かぶ死神の様子は誰の目から見ても不気味な雰囲気だった。


 しかし、空は不気味さも異様さも恐怖も感じることはなく、ただ目の前に骸骨が浮かんでいる描写として捉えていた。


「このまま逃げたり、会話を挟んで時間を稼ぐつもり、なんてことはありませんよね?」


 死神のトーンは変わらずに淡々としていた。死神自身も変えているつもりはなかった。しかし、時間と場所はその言葉の意図を変えてリギラの耳に届く。


 リギラは死神の言葉を、圧を掛けるための挑発として捉えた。リギラは冷や汗をかいた。


「ご心配なく。ちゃんと十九時までには倒してあげるから」


 リギラは死神の問いかけに挑発するように返す。挑発するほど余裕があるように見えるが実際はリギラの声は震えて、心の内も不安感を抱いていた。


「空が‼」


 死神に挑発を仕掛けた後、リギラは三文字の言葉を声高らかに言い放った。その声は震えがなく、また、恐怖や不安感も一切なく、空に対する信頼だけを感じさせる、そのような言い方だった。


「……そうですか。それは安心しました。私も仕事を早く終わらせられそうです」


 死神の発言は自身の勝ちを確信した物言いだった。


 少し間を置いて死神はいきなり人間のもとへ突っ込んだ。空もすかさずこれに反応して死神のもとへと突っ込んだ。


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