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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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神は絶対。しかし人間はそうではない

「……一ついいか」


 そんな中、一人の少年が手を挙げる。神を前にしても臆することなく、堂々としている。


 少年が、神になにかを進言しようというのだ。その姿を見たラキアは、安堵と不安が入り混じった感情に陥った。


「……なにかな、空?」


 穏やかな笑みだ。だが、胡散臭い。というよりも、怖い。勝者の空に笑顔を振りまいても、隠せない圧。敗者に対する冷たい圧が、空に向けられずとも、それを感じ取れるほどだった。


「勝利をもたらした褒美に、なにか欲しいものでもあるのかな? 土地かい? 文明かい? それとも、人かい? 欲しいものを言ってごらん。一人だけ自由にできる権利でもあげようか? なーに、気にすることはない。地球に勝利をもたらした褒美だ。彼らから奪うすべての内、欲しいものをなんでも一つあげよう」


 作り笑いに相応しい、不気味な提案だった。他の惑星のことを一切考慮していない。ゼウスの中では、三つの惑星は既に手中なのだろう。配慮というものが一切ない。


「……」


 それにしても、流石神だ。空の欲しいものをよく理解している。あるいは偶々かもしれないが、人間の欲深さを狙う良い提案だと思う。だが、


「そんなものはいらない」


 空にそのような欲は響かなかった。


「……じゃあ聞こうか。君は僕に、なにを進言するのかな」


 全員の視線が一身に集まる。誰しもが空の言葉に期待した。「あるいは」、「もしかしたら」、そんな枕詞が、敗者たちの脳裏に浮かんだ。


 そして、その思いは叶った。


「同盟を組むのはどうだろうか?」


「!」


 喜びが湧き上がる。少年の口から救いの手が伸ばされたのだ。


 ありきたりな方法だし、突飛な発想なんてものじゃない。だが、それでも、その言葉には希望が満ちて、思わず涙が出そうになった。


 種族たちも、よく言った、という表情で、空とゼウスの生末を見守っていた。


「……」


 一方で、ゼウスはなにも言わない。作った笑顔を一旦取り壊し、黙って人間の言うことに耳を傾けた。


「確かに地球は勝った。すべてを貰う権利はある。けど、わざわざ誰かの所有物として扱う必要はないんじゃないかと思う。手を取り合い、足りない部分を補いあって、共に進んでいく。ただ、それだけでいいんじゃないか」


 周りがざわめき始める。


 「確かにその通りだ」とか、「よくよく考えればそれが一番丸く収まる」とか、負けた惑星だけではなく、地球のメンバーたちも、皆好き好きに話を始めた。


「……流石、地球を救った英雄様は言うことが違う。自国だけでなく、他国の者も救おうとするとは」


 話を聞いたゼウスは、再び作り笑いの笑顔を作り、空に向けた。


 瞬間、作戦は失敗したと悟った。


「だが断る」


「⁉」


 表情を再び崩し、空に言い張る。それを聞いた周りの者たちは、今度は驚きの表情を作ってみせた。


「……」


 今度は空が耳を傾ける番となった。黙ってゼウスの言い分に耳を傾ける。


「君たちは、『財産』も、『土地』も、『人権』も、『誇り』も、『文化』も、『守るべきもの』も、君たちが持つすべての物を掛けて戦ったんだよ? そして、その所有権は戦いに委ねられた。例え勝者である空の言い分であっても、『やっぱり同盟にしよう』っていうのは虫のいい話じゃないかな」


 もっともな言い分だった。確かに、すべてを掛けて臨んだのなら、すべてを掛けて敗北したのなら、すべてを奪われるのは必定である。


 それを、敗者を救いたいがためにこの戦いを否定することは、敗者をなによりも侮辱することであると同時に、勝者の傲慢だった。


 それでも、その傲慢や侮辱にあやかりたいというのが、ここにいる敗者たちの思いだろう。敗者たちは、「そんなことはない!」という目つきでゼウスを睨んだ。


「それに、それができない理由はもう一つある」


 ゼウスは気にすることなく話を続ける。ただ、次の発言を行う前に、神の纏う空気が変わった気がした。


 ゼウスはそっと目を瞑ると、人格が変わったように口調と目つきを変え、下等な人間に言葉を授けた。


「これは神が下した決定事項である。何人たりとも、その決定を覆すことは許さん」


 喉が絡まった気がした。玉状になった糸が喉に引っ掛かって、言葉が出せない気分に陥った。


 そもそも、ゼウスの風格を前にして、誰も発言しようとはしなかった。誰も、希望を持たなくなった。誰しも、助かることを諦めてしまった。


「本当に覆らないのか?」


 別格な存在を前にしても、この男だけは引き下がらなかった。


 全員の視線が一人に集中する。勝者も、敗者も、神も、種族たちも。


「言っただろう。勝者であろうと、神の決定は覆らない」


 こちらも一歩も引かない。引くはずもない。なぜならば神だから。


 神は、ただ淡々と現実を突き付けるだけだった。


 だがこちらも一歩も引かない。目を反らすことも、のけぞることも、喉に糸を絡ますこともない。


 約束を誓った少年は、神を睨みつけ言葉を返した。


「なら、人間おれあんたに勝てば、決定は覆るのか?」


 人間(空)は、ゼウスに喧嘩を売った。




 次章 第三章 思考


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