神は絶対。しかし人間はそうではない
「……一ついいか」
そんな中、一人の少年が手を挙げる。神を前にしても臆することなく、堂々としている。
少年が、神になにかを進言しようというのだ。その姿を見たラキアは、安堵と不安が入り混じった感情に陥った。
「……なにかな、空?」
穏やかな笑みだ。だが、胡散臭い。というよりも、怖い。勝者の空に笑顔を振りまいても、隠せない圧。敗者に対する冷たい圧が、空に向けられずとも、それを感じ取れるほどだった。
「勝利をもたらした褒美に、なにか欲しいものでもあるのかな? 土地かい? 文明かい? それとも、人かい? 欲しいものを言ってごらん。一人だけ自由にできる権利でもあげようか? なーに、気にすることはない。地球に勝利をもたらした褒美だ。彼らから奪うすべての内、欲しいものをなんでも一つあげよう」
作り笑いに相応しい、不気味な提案だった。他の惑星のことを一切考慮していない。ゼウスの中では、三つの惑星は既に手中なのだろう。配慮というものが一切ない。
「……」
それにしても、流石神だ。空の欲しいものをよく理解している。あるいは偶々かもしれないが、人間の欲深さを狙う良い提案だと思う。だが、
「そんなものはいらない」
空にそのような欲は響かなかった。
「……じゃあ聞こうか。君は僕に、なにを進言するのかな」
全員の視線が一身に集まる。誰しもが空の言葉に期待した。「あるいは」、「もしかしたら」、そんな枕詞が、敗者たちの脳裏に浮かんだ。
そして、その思いは叶った。
「同盟を組むのはどうだろうか?」
「!」
喜びが湧き上がる。少年の口から救いの手が伸ばされたのだ。
ありきたりな方法だし、突飛な発想なんてものじゃない。だが、それでも、その言葉には希望が満ちて、思わず涙が出そうになった。
種族たちも、よく言った、という表情で、空とゼウスの生末を見守っていた。
「……」
一方で、ゼウスはなにも言わない。作った笑顔を一旦取り壊し、黙って人間の言うことに耳を傾けた。
「確かに地球は勝った。すべてを貰う権利はある。けど、わざわざ誰かの所有物として扱う必要はないんじゃないかと思う。手を取り合い、足りない部分を補いあって、共に進んでいく。ただ、それだけでいいんじゃないか」
周りがざわめき始める。
「確かにその通りだ」とか、「よくよく考えればそれが一番丸く収まる」とか、負けた惑星だけではなく、地球のメンバーたちも、皆好き好きに話を始めた。
「……流石、地球を救った英雄様は言うことが違う。自国だけでなく、他国の者も救おうとするとは」
話を聞いたゼウスは、再び作り笑いの笑顔を作り、空に向けた。
瞬間、作戦は失敗したと悟った。
「だが断る」
「⁉」
表情を再び崩し、空に言い張る。それを聞いた周りの者たちは、今度は驚きの表情を作ってみせた。
「……」
今度は空が耳を傾ける番となった。黙ってゼウスの言い分に耳を傾ける。
「君たちは、『財産』も、『土地』も、『人権』も、『誇り』も、『文化』も、『守るべきもの』も、君たちが持つすべての物を掛けて戦ったんだよ? そして、その所有権は戦いに委ねられた。例え勝者である空の言い分であっても、『やっぱり同盟にしよう』っていうのは虫のいい話じゃないかな」
もっともな言い分だった。確かに、すべてを掛けて臨んだのなら、すべてを掛けて敗北したのなら、すべてを奪われるのは必定である。
それを、敗者を救いたいがためにこの戦いを否定することは、敗者をなによりも侮辱することであると同時に、勝者の傲慢だった。
それでも、その傲慢や侮辱にあやかりたいというのが、ここにいる敗者たちの思いだろう。敗者たちは、「そんなことはない!」という目つきでゼウスを睨んだ。
「それに、それができない理由はもう一つある」
ゼウスは気にすることなく話を続ける。ただ、次の発言を行う前に、神の纏う空気が変わった気がした。
ゼウスはそっと目を瞑ると、人格が変わったように口調と目つきを変え、下等な人間に言葉を授けた。
「これは神が下した決定事項である。何人たりとも、その決定を覆すことは許さん」
喉が絡まった気がした。玉状になった糸が喉に引っ掛かって、言葉が出せない気分に陥った。
そもそも、ゼウスの風格を前にして、誰も発言しようとはしなかった。誰も、希望を持たなくなった。誰しも、助かることを諦めてしまった。
「本当に覆らないのか?」
別格な存在を前にしても、この男だけは引き下がらなかった。
全員の視線が一人に集中する。勝者も、敗者も、神も、種族たちも。
「言っただろう。勝者であろうと、神の決定は覆らない」
こちらも一歩も引かない。引くはずもない。なぜならば神だから。
神は、ただ淡々と現実を突き付けるだけだった。
だがこちらも一歩も引かない。目を反らすことも、のけぞることも、喉に糸を絡ますこともない。
約束を誓った少年は、神を睨みつけ言葉を返した。
「なら、人間が神に勝てば、決定は覆るのか?」
人間(空)は、神に喧嘩を売った。
次章 第三章 思考




