第2話
◇
「ゼティン?ゼティン?」
何度呼びかけても、くぅくぅと寝息を立てて起きない目の前の青年にふっとリオナは笑いが込み上げる。
「よくこんな他人の店で警戒もなしに寝れるなぁ。」
リオナはそっともう一枚の大きなブランケットをゼティンにかけて、商談用に使う間仕切りで彼が寝ているソファーを他の客が入って来ても見えないように囲んだ。
ちょうど囲み終わった時に、カチャリと店の扉が開き、「こんにちは。」と客が入ってきた。
慌てて振り返り、挨拶をしようとしたリオナは入ってきた客の顔を見て、目を丸くしてしまった。
「いらっしゃいませ......って、シルキール夫人!」
「お久しぶりね、リオナ。」
ほほ、と白いレースの手袋をした細い手を口元に優雅にあてて微笑んだこのご婦人は、シルキール夫人。
身に纏っているクリームイエローの細身のワンピースに白いヒール靴は彼女のハニーブラウンの髪色にしっくりと似合い、彼女のセンスの良さを物語っている。
「お久しぶりです。本日は何をお探しですか。どうぞこちらに。」
リオナはゼティンが寝ているソファーとは逆側にある椅子とテーブルにシルキール夫人を案内した。
椅子に腰掛けた夫人にリオナはお茶を出す。
「今日はあなたにドレスの注文と、あと少し相談もあってきたの。あぁ、前回作っていただいたテーブルクロスとランチョンマットは婦人会で大好評だったわ。ランチョンマットは皆さんのお土産に配ったのよ。リオナの作ったランチョンマットでお茶を飲むとお茶やお菓子がとても美味しく感じるってお礼のお手紙が沢山きたわ。」
夫人は以前、大量のランチョンマットと夫人の家のお茶会で使うテーブルクロスを注文してくれたのだ。
大好評だったと聞いて、リオナはとても嬉しくなった。
「それは良かったです。またいつでもご注文くださいね。
それで、今回のドレスのご注文ですが、パーティーで着用されるものですか?ご自宅用でしょうか?パーティーで着用されるものだと少しお時間をいただくことになります。」
「パーティーで着用するものではないわ。あぁ、でもいずれはパーティー用もいるかもよね。」
シルキール夫人が小さく首を傾げる。
リオナは夫人の素性は詳しくは知らないが所作の綺麗さからおそらく身分の高い方なのだろう。
「では、一度採寸をしても構わないでしょうか?」
「あらあら、私ではないのよ。リオナ。」
店の奥の棚からメジャーを取ってこようとしたリオナをシルキール夫人が引き止めた。
「貴方ぐらいの女の子が家で着るドレスなの。」
「私ぐらいの?その方へのプレゼントですか?」
今度はリオナが首を傾げる。
たしかシルキール夫人には子供はいなかったはず。ご本人が話していたような、姪っ子さんか誰かへのプレゼントだろうかと不思議に思っていると、夫人は嬉しそうな顔をして頷いた。
「ええ、ええ。プレゼントのようなものね。私には子供がいないでしょう?今度、養子を迎えようと思っているの。それで、貴方にその子用のドレスの注文と......1つお願いがあって今日は来ました。」
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