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第1話




「リオナ様!素敵!」


「リオナ姉様!見てください!」


「リオナ姉!このお洋服可愛すぎますわ!」



 店の姿見の前で、スカートをひるがえしてくるくると回りながら顔を紅潮させて喜ぶ彼女達にリオナも頬をにんまりと緩めた。


「そうでしょ!そうでしょ!

 なんせ普段は手に入りにくい南ヴァンスロプの宝石と呼ばれる貝殻たちが珍しく安価で大量に手に入ったから、たーーっぷりと生地に編み込んだのだもの。」



 リオナの言う通り、彼女達の着る水色のスカートやワンピースには、ショーウィンドウから入ってくる太陽光を受けてキラキラと青い石のような飾りたちが煌めいていた。


 これは南ヴァンスロプでしか生息しない美しい青貝の殻を砕き、その粉を丸く固め小さな糸通しの穴を開けたもので、それをこの織物店の主であるリオナが一粒ずつ丁寧に織りこみ生地を作り上げたのだ。



「あなた達の学生生活が素晴らしいものでありますように。」


 そう願いを込めて。



「ありがとう。姉様!!」

「ありがとうございます。リオナ様!!」

「この国一の織物師のリオナ姉様が作ったお洋服を着て入学できるのだもの!絶対楽しい毎日が約束されてるわ!またくるわね!リオナ姉様!」


 彼女達は口々にお礼を言い、包んであげた衣服を大事そうに胸に抱きしめて店から軽やかな足取りで出て行った。





「騒がしかったな。学院の新入生たちか?」


 彼女達が出て行くとすぐにカチャリと再び店の扉が開く音がして、白金色の髪の少年が嫌そうに顔を顰めて入ってきた。


「ゼティン」


 急な訪問に驚いたリオナだが、すぐに彼のお気に入りのソファーにいつものキルトのブランケットをしいてやる。すると彼はどかりとその場に座り込み背もたれに肘を乗せて脚を組んだ。

 優雅な見かけとは正反対なその無作法な座り方に思わず吹き出しそうになる。


「そうなの。来月から学院の一年生になる女の子たちよ。入学式用にお揃いの衣装を選んで購入してくれたわ。

 ちょうど貴方が商会に珍しい貝が手に入る情報をくれたから素敵な服を織り上げることができてそれを陳列していたときに彼女たちが入店してきてね。

 素敵な衣装が買えたと大興奮で帰って行ったわ。」


 ありがとう、とリオナが微笑むと何故かゼティンは「別に」と呟いてふいと顔を逸らした。


 相変わらずのぶっきらぼうだなとリオナは苦笑してしまう。


 リオナは店の奥の棚から菓子瓶を取ると、彼が座っているソファーの前のローテーブルにコトンと置いた。

 長めの前髪を鬱陶しそうに掻き上げていたゼティンは店の主を不思議そうに見上げる。


「まさか、リオナが作ったのか?」


「なに?そのびっくりした顔。私だってお菓子作りぐらいできるわよ。まぁ、簡単なクッキーぐらいだけどさ。織物しかできない女なんかじゃない......って、ちょ、ちょっと!?」


 いきなりソファーから、がばりと起きあがったゼティンが菓子瓶の蓋を開けようとしていたリオナから菓子瓶を奪い取ったのだ。


「なによ、いきなり!がっついてさ。そんなにお腹が空いてたの!?びっくりしたじゃない!」


「俺になんだろ!?」


 無愛想な性格に反して普段は穏やかな明るい空のような澄んだ青い瞳をしているのに、誰にも渡さないとでも言うように菓子瓶を抱える今のゼティンの瞳はやたらとギラギラしている。


「ま、まぁ、そうだけど。いつも織物の資材の入荷情報を回してくれるからさ。そのお礼に昨日焼いたの。いつも織物が仕上がったころにゼティンは現れるから、そろそろ来るかなぁって思って。」


 こちらの話を聞いているのかいないのか、まるでお腹をすかした子犬のようにガツガツと菓子瓶の中のクッキーを食べ始めたゼティンがなんだか可愛く思えてリオナは微笑んだ。


「貴方のおかげで、私が作りたい最高の織物がいつも作れるわ。感謝してる。」


 どうせ食べるのに必死で聞いてないだろうと小声でゼティンへのお礼をつぶやいてみた。

 しかし、声は聞こえていたようで、ぴたりと食べるのをやめたゼティンが顔を上げ、彼女をその青い瞳で見据えた。


「......それは違う。お前が最高の商品を作れるのはお前が最高の織物師だからだ。

 この国一の織物師リオナの作る服は着る者を幸せにできる。

 お前の作った服で......俺も(・・)、救われた。」


 そう言うと彼は下を向きそのまま俯いてしまった。


「ゼティン......。」


「............。」


「もしかして、ここにはじめてきた時のことを思い出してるの......?」


「違う。」


「え?」


「クッキーが最後の1個になってしまった。食べるかどうか悩んでいる。あぁっ、くそっ、食い過ぎた!せっかくのクッキーが!!」


「そんなにゼティンがクッキーが好きだったとは知らなかったわ。」


 目をぱちくりとしているリオナは何故ゼティンがクッキーに執着しているのか全くわかっていない。


「いや、俺が好きなのはクッキーじゃなくて......。」


「クッキーじゃなくて?」


 彼が何故服を買うわけでもないのにこの店に通っているのか。そこを何もわかっていないリオナにそうじゃなくてと言いたくて、顔あげると思ったより近くに彼女の顔がゼティンの顔を覗き込んでいて、彼は一瞬硬直してしまう。


「クッキーより好きなものがあるなら、次の時のお礼に用意するわよ?ケーキ?チョコ?それともタルトとか?」


「〰︎〰︎〰︎〰︎!!そ、そんなものが好きなわけじゃない!!」


 ぐいっと顔を寄せてきたリオナに真っ赤になった顔を見られまいとゼティンは思い切り顔を背けたのだった。


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