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扇動する者

「ミクスミャルム、何度来ても無駄だ。お前に俺は倒せない」


「じしんがあるみたいだけど、そろそろくずしてやるよ」


 <要塞の帝国>の北に位置する草原で、防衛部隊率いるギア・レイアと、アルケミスト・コミュニティ率いるミクスミャルムが相対していた。今は、まだ動きが無いが、開戦の緊張感というものは漂っている。一体、今までに何度攻撃された事だろうか。


「今回も、お前たちは敗退する。いい加減諦めろ!」


「たたかいってやつはさ、はじまるまえから、はじまっているし、めにみえることだけじゃないんだよ」


「何を言いたい……!」


「さてね? ああ、はなて!」


 ミクスミャルムは瓶を投げつける、それをギアは剣で防ぎ、大きな爆発が起きる。それに乗じて、多くの矢が迫り来るが、もう慣れたとでも言うように、防衛部隊がそれを処理している。


「解っている筈だ! お前は勝てない!」


 ギアは、爆発をものともせず、大きく剣を振るう。ろくな防具を着けていないミクスミャルムは、一撃でも受ければ両断されてしまうだろう。


「かてなくとも、まけはないよ。でも、さいごにしょうりはもらっていく」


 素早く重い斬撃も、その上を行く素早さで回避していく。ギアは休まず追撃を繰り出すが、その全てが当たらない。ミクスミャルムは、そうした動きの中でも、隙を見ては瓶を投げつける。


「何だ……? これは」


 ミクスミャルムが投げつける瓶は、基本的に割れると爆発起こすものだが、この瓶は割れても爆発をしていない。中に謎の液体が入っているようだが、割れてギアにかかっても、直ぐに消えてしまっている。


「おまえは、さむさにもつよいか?」


 何故かギアの鎧が冷えきっている。ミクスミャルムの投げる瓶は、様々なものが入っており、爆薬を好んで使うというだけで、多くの攻撃方法を持っている。どうやら今回は、液体を気化させることで熱を奪ったようだ。


「だからどうした。こんなもの、意味は無い!」


 生き物は、体温を奪われると動きが鈍るものだが、ドラゴンにもそれは当てはまる。寧ろ、ロア等と言った、寒さに耐性のある存在を除けば、その影響は寧ろ顕著に出てしまう。それで負ける訳では無いのだが、防衛側故に、それは避けたい事実でもあった。だからこそ、ギアは自身の権限で発生させた炎を自らにまとわせ、それを防ぐ。


「もういちど、やいてあげようか」


 炎をまとったのを確認したミクスミャルムは、まるで予定調和とでも言うかのように、黒い液体の入った瓶を放り投げる。だが、ギアもそんなことは解っていたとばかりに、その瓶が届く前に小石を投げ、砕かれる。


「同じことが、俺に通用するとでも思っていたのか?」


 あの黒い液体は、非常に可燃性の高い物であった。前回、ギアはそれを浴びてしまい、自らの炎で火傷させられるという屈辱を味わったのである。もちろん、ドラゴンの姿であれば、その高い耐性で火傷などはしない。しかし、あくまでも人の姿に拘っている。


「さすがはしゅごりゅう、とでも、いってあげようか?」


「お前は降参とだけ言えば良い」


 話ながらも、ギアは剣を振るう。ミクスミャルムは防戦に転じ、その攻撃を捌く事に集中する。その戦いは拮抗している。正確には、防衛部隊の方が攻勢に転じきれないと言える。何しろ〈要塞の帝国〉に攻め込まれることが敗北条件にもなるからだ。それを理解して、アルケミスト・コミュニティは遠距離攻撃に徹している。


「おまえほどのちからがあれば、たたかいはおわらせられるだろうに」


「それが出来ていれば、どれだけ良いだろうな!」


「わたしのことばを、ちゃんとりかいできるのは、くれいと、おまえだけだよ」


「全く嬉しくないな」


 ギアは何度もミクスミャルムの相手をしてきた。だからこそ、その稚拙な言葉も理解できるようになってきていたのだ。敵の言葉を聞き取れるようになったからと言って、別に得も何もない訳だが。


「わたしは、うれしいとも。だけど、それだとたりない」


「足りないだと?」


「そう、たりない。どんなに、すごいものをつくっても、わたしのことばは、つたわらない。だから、おおきなことがおきるよ。おおくのひとに、つたわるはずだ」


「お前が何を思おうとも、俺を止める事は不可能だ!」


 ギアの攻撃を避け続けていたミクスミャルムであったが、その肉体は人のものであり、疲労は蓄積する。そして、とうとう剣が肩に掠り、赤い血が流れる。


「そろそろかな?」


「今度こそ、逃がすか!」


 ミクスミャルムは瓶を足元に叩きつけると、煙が辺りに広がった。慌てたギアが捕まえるために手を伸ばすが、何も掴むことは出来なかった。


「おわるせかい、だからこそ、わたしはなにかをなさなくてはならない」

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