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後悔する散策

 フィクターが会議に参加している間。ムアは完全に暇になってしまっていた。そもそも、ここに何かをしに来たわけではないので、特に何もすることがないのは必然であった。


「ここに居座られても迷惑です。自分で何かをしようという気もないのですか?」


 シャルサーに笑顔で毒を吐かれて、しぶしぶ外へ出たムアではあるが、だからと言ってやることがある訳が無い。結局のところ、ただ外をぶらぶらしているに過ぎないのである。


「お? お前最近ここに来た奴だろ?」


「私に何か用なの?」


 外を適当に歩いていたムアに話しかけてきたのは、暑苦しそうな筋肉質の男。だが、そいつには、悪魔である事を象徴する、尻尾、翼、角、が生えていた。本当に気軽に話しかけてきた事に警戒するが、どうにも気にしていないようだ。


「ハッハッハ! まぁ、警戒すんなよ。お前の事は〈要塞の帝国〉の上層部は把握してるし、俺は偶然行き会っただけだろう? 俺はファーアっていうんだ、よろしくな!」


 ファーアは手を差し伸べるが、その押しの強さに引き気味になってしまう。ムアとしては、どうしてこんなよくわからない暑苦しいやつに絡まれないといけないのか、勘弁してほしいという思いであった。


「ええと、知ってると思うけど。私はムア・ライア。あまりよろしくしたくないけど」


「ハッハッハ! 手厳しいな! ドラゴンにとって、悪魔はあまり良いものじゃないのか?」


 ムアは顔を引きつらせながら返事をするが、ファーアは笑い飛ばしてしまう。どうも、あまり深く考えないような性格に見える。それとも、ただ豪快なのか。少なくともそこまで気にしてるようには見えない。


「いつでもドラゴンは中立で、敵になるのは人間だけ。私は在り方なんてよく知らないけどね」


「それなら警戒しなくてもいいだろう?」


「この場所で、悪魔に関わるのは面倒事の予感しかしないんだけど」


「ハッハッハ! それは違いないな!」


 悪魔の支配する〈要塞の帝国〉で、悪魔と関わるというのは、この場所の上層部と関わっているのと同じこと。確かに面倒事になりそうではあるのだが、そもそもフィクターがその関係者である以上は、もう既に手遅れである。


「そう言う訳だから、私は帰るね」


「まぁ、少し待てよ」


 この場を離れようとしたムアは呼び止められる。怪訝そうにファーアを見るが、その表情は一貫して楽しそうであるため、読み取る事は出来ない。悪い事を考えているようには見えないが、だからと言ってやはりあまり関わりたくない。


「別に用は無いでしょ?」


「少し聞きたいことがあるだけだ。お前は何をするつもりなんだ?」


 ファーアのその言葉にムアはウンザリしてしまう。シャルサーに似たようなことを言われたばかりであるし、そもそもドラゴンの価値観とは合わないのだ。むしろ、ギアのようなタイプはかなり珍しいと言える。


「またその話なの?」


「またってなんだ? まあいいか。結末が変えられないなら、俺たちはどうやって満足したら良いのかって話だ」


「うん? 意味わからない」


 急にそんなことを言われても話についていけない。ムアにはファーアの言いたいことが全然伝わっていないようだ。むしろこれで伝わる人が居るのかどうかというところでもある。


「ハッハッハ! まぁ、そうだな。自分で決めたことなら、ある程度は妥協出来るだろ? 受け入れられない事は多くあるだろうけどよ。少しでも受け入れる事が出来るように、やれることはやっておけよ」


「なにそれ、本当にイニシエンの従者なの?」


 何が何でも理想を押し通そうとするイニシエンの考えとは、大きく逸れ過ぎた考え方である。まるで、これからの運命をそのまま受け入れる、諦めるような言い方だとムアは感じた。悪魔は意思を押し通すものであるという考えがあっただけに、驚いてしまったようだ。


「俺の在り方は暴食だ。そして、それは満たす事で、俺にとっては満足する事。魂の無い俺達にとっては在り方が全てだろう? 言っとくけど、これは諦めてる訳じゃないからな、満足する為に必要な事なんだ」


「なんか、言い訳みたいだね」


「ハッハッハ! お前容赦ないな! まあいいけど、後悔だけはしないようにしろよ? 今は諦める事が出来ても、後から悔いるからな。変える事が出来なくても、変えようとすることは出来るはずだ。だからさ、それでとりあえずは満足しようぜ」


 ファーアはハッキリと、何かを伝えるつもりは無いようだ。だが、ここまで言われて、ムアはなんとなく察してしまった。そして、返答をしようとしたその時。爆音が鳴り響いた。


「何が起こったの!?」


「おお? 襲撃か? 多分北のほうだよな? ギアが居るから問題ないと思うけど、とりあえず行ってみるか。お前はフィクターの所に帰ってな」


 ファーアは爆音の方へ走って行った。その場に残されたムアは、慌ただしくなる周囲とは裏腹に、言われた通りに、フィクターの屋敷の方へと歩いていく。動いている時間の中の、止まっている時間のように。

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