40. 揺無
水のおはなし。短いですが。
いつからここにいるのか、わからない。
わたしはあらゆる生き物と生命を知っている。
あなたの内にあるわたしは、かつて誰かの内にあった。
生き物の間の共通の言語として、わたしを役立ててください。
わたしは何も覚えてはおりませんが、いつでもお繋ぎする門扉として、ご活用ください。
あの源の密度高い場とわたしとは、裏表なのですから。
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水と清流の精霊王、揺無は水そのもの。
人と交わり言葉を語る時に、人形をとる事もある。
人のアタマという臓器のひとつを介して、又は人の肉体を涵養する経路を通して、揺無は姿を人の前に顕す。
つい先程まで人形をとっていた水は、水そのものに還り、星へ抱かれる。
星の意志は星へ配置された石により共鳴する。
共鳴は水を揺らす。
水は植物の根へ星の意志を伝える。
根は菌と共に星の意志を周囲へ伝播させる。
梢の先から放たれた意志は、微細な光の粉となって放出される。
太陽の熱と光は大気と土と水を暖め、熱量の高低差を生む。
高低差は大気に風と流れを生む。
大気へ放たれた意志の光を風が抱き、そして拡散していく。
“ユーマ、ユーマよ。預かり手”
揺無は人形を解きながら、水である自身へ告げた。
“わたしたちはいつも、あなた達のそばにいる。
あなた達の身の内の、石と水、熱と光、風と流。
血と骨と、鼓動と吐息。いつか私達を忘れるときが来ても、わたしたちはあなた達の…そばにいる”
水と清流の精霊王は、自身へそう刻む。
人から水へ移る時、向こう側に記録するのを見届けた。
あの虹色の暗闇へまたひとつ、可能性が記録された。
豊穣は、人を通して現される。
あの虹色の暗闇は、人を選んだ。
水は永遠に、この星を巡る。
どこかの命、どこかの生き物の間を巡り続ける。
水は記憶する。はたしてそれはどういうことなのか。
本当かウソかを疑うのではなく、どういうことなのか?と思考してみる。