33. 青よ、青
短いですが投稿します。
書き終わり、ちょうど888文字。
縁起良すぎ。
ユーマは走る。
集落に巡らされた白い路を走る。
すれ違う人々と手を振り合ってゴートへと向かう。
目の端に流れ去るのは、路に飾られた花の色や家の白い壁。
こんなに走っていても息が苦しくないことが楽しい。
自分がますます丈夫になっている気がした。
こうやってみんな大きくなっていつか長のおじいさまのようになるんだな、とユーマは思った。
ゴート。
震える場所と呼ばれるこの建物は、集落の中心部にある。
試みを繰り返して検証を行う場所。
若者たちが自分の性質を知る場所。
集落に古くから伝わることを記録したものをしまう場所。
憩う場所。
体や精神を整える場所。
作物を保存用に加工し保管する場所。
作物の種を眠らせておく場所。
糸を紡ぎ布地を織り衣服などにする場所。
ゴート。
そこには長と呼ばれる者がいて、見守り、見届けた。
長は一生をかけて見届けたものを、この世から離れる前に歌にして詠唱する。
帰還前に、こちらへ残しておけるものを集めて歌う。
しかしそのほとんどは表すことはできない。
歌えば歌うほどに零れてゆくあれもこれもが、歌の狭間に揺れている。
形、象、貌、容……
かたちにすれば、同時にかたちにできなかったものができる。
かたちにすればするほどに、かたどられなかったものが後ろに控えている。
長たちはそれを承知で残していく。
長たち。
ユーマが会いに行く長は、濃く深い青の染料で染められた衣服を纏っていた。
あなた方にわかる言い方で表すと、藍色だ。
実際、この染めは植物の根で作る。
なぜ深い青を纏うのか。
それは、青を生むために沈んでいった全ての色を、大切にしているからだという。
長達は、見守り、見届けた者達。
今回の長は何を見守り見届けるのだろう。
これは、未だ世界が熱く、猛々しく、若かった頃の物語。
私はこの物語を預かっている。
ありふれた話だが、何かの役に立つだろう。
さあ、書こう!