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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第六章 播種
29/50

25. 黎明と曙

こんばんは。

献立に鍋ものが続いても大丈夫。

take2、リターンズなどと命名してしまいましょう。





冷たく、鋭利な風が吹く季節は終わり、



柔らかくて暖かく、みずみずしい香りのする風が吹く頃。



ダルシの丘の窪地に、子供と、その対となる鳥が生まれた。



子供は、墨色の髪をして、(あかがね)色の目をしていた。



肌は僅かに光っている。


明け時の光の色


暮れ時の空の色




あれからもう、15回目になる種まきが始まる。







ユーマは闇のなかで目を覚ました。


そっと寝床を出て、窪地の底の集落からダルシの丘を駆け上がる。


息が弾んだ。



大地は未だ黒く沈み、川の流れの音が大蛇の徘徊に思えた。





夜明け。


夜明けの時、なぜ鳥は太陽に向かって飛ぶのだろう。




太陽が、金茶色の大地の果てから登る直前に聞こえる、

あの細かに震えるような音は、何だろう。





太陽が登り始め、鳥が一斉に羽ばたいて、宵闇が曙になって、

風が吹く。




やあ




憧れてきた精霊の王の声がする。




光の中に、風の中に、足元の土に、水に、いつもいて

人と暮らすことを選んだ精霊たち。





耳元に夜明けの光が差して、熱い。



前髪をふわりと揺らす風。



足元から螺旋を描いて登る太い光。

その光は青と金。


胸の辺りまで昇るとまばゆい珠になり、辺りを照らした。



目の前に横たわる川は、光を呑んで輝き始める。




少年の瞳は銅の色。


日の光が溶けて蜜色に染まる。



太陽の方角からやってくる銀の鳥。


全身に虹の色を纏う、巨大な鳥。


ユーマは空を仰いで声をかけた。



「ルゥーーーーー、ラァーーーーーー」



鳥はゆっくりと旋回し、ユーマの前に降り立った。


ユーマは鳥に駆け寄る。


前みたいに抱きつきたかったけど、やめた。



「ルゥ・ラァ、おはよう。たっぷり光を浴びたね」



「ユーマ、よい朝でした」



ユーマは、ルゥ・ラァの首の辺りの羽が自分を写すのを見て、

少し戸惑う。



僕はまた、大きくなっている。

もしかして、このままいくと、長のおじいさまのように

なるのだろうか。



「生き物は皆、毎日、年を取ります。あなたもそう。私には美しい調べにしか見えません。それぞれの色と音を奏でながら深みを増していくのです」


ルゥ・ラァが、ユーマの心の中の問に答えた。



「僕の色と音……そうだね、それがなければ何もできない」



「はい。その色と音は星にとっては構成するひとつの部分です。その一欠片は、等しく美しく、調べを奏でます」




夜がすっかり明けて、辺りが眩しい。



明るくなると、暗い中でのことが照れ臭くなる時がある。



川の音が、蛇の這う音に聞こえたなんて、ルゥ・ラァには聞かせたくないなあ…。



「ふふ、それもまた、人の美しさ。と言っておきましょう」




ユーマはもじもじとして、空を仰ぎ見た。




胸が熱い。“豊穣”が震えているのがわかった。

豊穣の力を使って、この土地を健やかにするのが僕の仕事。



今日も土の中の龍の道筋を見つけたら、豊穣を注ごう。


リ・ユウを連れていくのもいいかもしれない。


ルゥ・ラァの光とリ・ユウの穿つ力と、僕の声で、

詰まりをなくしていけるかもしれない。



あとで、水の王ユリムと話をしよう……。




「ユーマ」


ルゥ・ラァが、呼ぶ。



「ユーマ、……本当に大きくなりましたね。わたしは嬉しい」



「そうかな」



周りから成長を伝えられると、どうしてこんなに照れ臭いんだろう。



確かに背はどんどん伸びて、一息で走れる長さも、潜れる深さも、変わった。


水ばかり飲みたがって、夜はぐっすり眠って、

自分の腕が段々とゴツゴツしてくるのがわかる。





「僕とルゥ・ラァが生まれてから、15回目の種まきだもの。長のおじいさまみたいになるのもあとちょっとかもしれないよ?」



「楽しみです。ユーマ。ずっと一緒に飛びましょうね」




「うん。そうだとも。ずっと一緒に飛ぼう」




今日もよく晴れた。


昨日のうちから、桶に水を汲んで種を入れておいた。



祈りと共に、種をまく。


そんな一日の、始まり。








今日もお疲れ様でした。

寒くなってきましたね。

富士山はまっしろ。

息もまっしろ。

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