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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
76/246

17-4.己の立つ足元には

 ナナリナは一定の歩幅で歩きつつ、周囲の気配を探り、時折立ち止まり、耳を澄ませ、また歩き出す。

そんな動作を繰り返しながら、探索範囲を広げていき、やがて彼女の足はある場所で止まる。

そこには一見すれば何の変哲もない木立で、しかし、ナナリナには不自然なモノを感じ取っていた。

近付くべきか否か、彼女は背負った大弩に矢を装填しては構え、その木を睨み付ける。

「…枯れ木?いえ、枯れ蔦?」

ナナリナの眼前に在るものは枯れ果てた木の様に枝葉は無く、その茶色に乾き変色した蔦であった。


よく見れば、それは1本ではなく数本の蔦が絡み合って形成され、上へ上へと伸びている。

蔦の先を目で追いながら、歩み近付いていくと、直感した不自然さの正体をナナリナは理解した。

「<伸びて>いるんじゃない、コレは<垂れて>いる…?」

絡み合った枯れ蔦は地面へ僅かに触れておらず、その先は地面に着かず、ただ空中を漂い揺れた蔦。

ナナリナはその事実に気付き、蔦の先を一気に追うも、それは上空彼方の暗闇、周囲の瓦礫等から木々も絡まる事なく、それだけが宙高くへ伸びている。

だが、<伸びた>、<垂れた>は既に問題ではなくなっていた。

彼女が蔦の先、いや、元を追う事に夢中になり、大弩が蔦に<触れて>しまった事が新たな問題を引き起こす事と成る。


空気の流れ、音、何かが落下してくる事を肌で感じ取り、ナナリナは後方へと飛ぶ。

次の瞬間、轟音と共に土煙が巻き起こり、その中には3つの影が浮かび上がる。

土煙が四散し、現れたのは四方八方に張り巡らされたナナリナよりも巨大な植物らしき<針棘の玉>。

それが突如として頭上から落ちてきたのだ。

そして、ナナリナが身構えだすと同時に<針棘の玉>も蠢き出し始めた。


ナナリナは即断即決し、3つの内1つに装填していた矢を放つ。

放たれた矢はそのまま一直線に飛翔し、<針棘の玉>の内1つは見事に射抜かれそのまま沈黙した。

残り2つはその攻撃に反応したか身体を小刻みに揺らし、地面に突き刺さった己の針を抜きながら、ナナリナへとにじり寄る。

奇妙な静寂が流れ、ナナリナは唾を飲み込むと、武器を構え直しては後退りをしながら様子を伺う。



そして、互いの動きが止まり、風が吹き抜けた瞬間、ナナリナは後方へ後方へと飛び下がっては距離を空ける。

その動きに応じ、<針棘の玉>はその場で高速回転を始めると弧を画きながらナナリナの元へと向かい、加速しだす。

ナナリナは次の矢を装填、引き絞り狙いを定め、即座に放つ。

しかし、矢は<針棘の玉>を捉えるが、その回転が加わった周囲の針に阻まれて、本体まで届くことはなかった。

玉は更に勢いを増して回り始め、ナナリナを追い掛けだす。

このままではいずれ追いつかれると判断し、ナナリナはともかく2人の元へと戻る事を最優先として脚を駆った。


―――


赤マントの男はエイミと共にナナリナの帰りを待つ中、ふと慌しい気配を感じ、ナナリナが消えた方へと振り向く。

「な、なんじゃありゃーーッ!?」

「タ、<タンブル・アーチン>!!しかも、かなりの大きさですッ!?」

男の視線の先には疾走するナナリナ、それに周囲の砂塵を巻き上げ、猛スピードで迫り来る<針棘の玉>。

「はぁッ、はぁッ!2人ともッ!!」

ナナリナの呼び声に反応し、エイミが慌てて駆け寄ろうとするも、男は片手で制し、赤い剣を引き抜くと前に出る。

「ナナリナ、手前のを仕留めろ!」

次にナナリナは赤マントの男の指示と姿勢を飲み、即座に方向を振り返ると大弩を構え、応戦を決意する。

「そんで、ナナリナが撃ったら<アレ>から退避させてやってくれよ<相棒>!」

エイミにそう言い残すと男は<針棘の玉>へ向かい走り出していった。


ナナリナは荒れた気合で呼吸を整え、構えた大弩の標準を合わせると、矢を放つ。

矢は一直線に飛び、<針棘の玉>の中心を捉えるが、またも<針棘の玉>の勢いに弾かれてしまう。

だが、<針棘の玉>は僅かに跳ね上がり、それを見越していたのか、空中で回転が緩んだ<針棘の玉>は次の矢で見事貫かれる。

されど、回転と勢いまでもがすぐさま殺されるわけでもなかった。

仕留められ地面に落下した<針棘の玉>はその身体の質量と速度を乗せ、ナナリナへと容赦なく向かう。

ナナリナの脚はもはや限界でその場で崩れそうになったとき、エイミが彼女へと突進し、そのままナナリナを抱き抱えてはの場から離れる。

直後、<針棘の玉>は2人の元居た場所を轢き荒らすと地面に針を詰まらせ沈黙した。

そして、もう一方の玉も何時の間にか動きを止め、沈黙している。


「ダーリン!」

ナナリナが赤マントの男を呼び叫ぶと、もう一方の<針棘の玉>の頂から火柱が噴き上がる。

ナナリナはエイミを押し退け、膝に手を当てながら立ち上がると、よろけながらも赤マントの元へ向かった。

2人がもう一方の沈黙した玉に近付くと、その底下から赤マントの男が仰向けに這い出す。

しかし、その様子はおかしく、よく見れば左腕には<針棘の玉>の、もはや剣の穂先にも等しい針が貫いており、それは腕を貫通し身体にまで達している。

エイミは思わず息を呑み、言葉を失う。

一方で男は苦悶の表情を浮かべながらも、右腕で身体を起き上がり、小さな赤い水溜まりを作りだしながら、男は痛みを堪え、歯噛みしながら<針の玉>から抜け出していく。


「い、今<ヒーリング>を…!」

エイミは慌てて傷口へ手をかざすも、男は右手を上げ制止する。

「心配…ない…というか、効かないから…」

荒れた呼吸、擦れた声で呟くと、男はまず胸に突き刺さった針の先を引き抜いていく。

引き抜くと同時に血が流れ出し、男は苦痛に顔を歪める。

それでも男はまだ針の残る左腕で胸の傷を押さえながら、呼吸を整えだす。



「…あー、死ぬかと思った。」

そして突如、男は胸を押さえる腕を下ろし、その場に胡座を組むと先の苦悶とは打って変わり笑みを浮かべては軽口を叩く。

エイミは余りの豹変振りに唖然としながらも、回復魔法を施すべく再び手を向けるがまたも制止され、目を丸くする。

「えー、あー、アレよ、アレ。簡単に説明すると<不死身>ってヤツ?」

「全然ッ、説明になってませんよッ!?明らかに急所に入ってましたよね!?」

男はエイミの指摘を受け流しつつ、左腕を貫通する針に手をかけて引き抜こうと試み、苦戦している。

「アレ?くそッ、抜けないな…。いや、説明しろっても、こういう身体だからとしかな…」

「…ッ!?」

男のあまりの理解不能さ、更に自身の事への無関心さにエイミは驚きを通り越して呆れ果てた。


そして、ナナリナに意見を求めるように視線を向けるが、ナナリナはただ首を振ってしゃがみ込むと男の針に手を触れる。

「お、悪い、そっちから引っ張ってくれないか。」

言われた通りにナナリナは両手で針を掴み引っ張ると、男は貫通した方から針を押し出す。

すると、針は血を滴らせながら抜けていき、針が抜けきると男は大きく息を吐いて、腕を回したり、身体を捻ったりと調子を確かめる。

「…悪い、助かった。」

「と、とにかく傷をちゃんと見せてくださいッ!」

エイミはそう言うと、半ば強引に男の左腕に飛び掛り、その腕に巻かれている包帯を外し始める。

男は抵抗するが、それが余計に包帯が緩む原因となり、やがてはエイミの手により全て解かれてしまった。

露わになった左腕を見て、エイミはまたも絶句してしまう。

そこにあったのは明らかに普通ではない、異質な漆黒の腕が覗かせ、男は右手で頭を抱えた。


「…あー、えーっとホラ、ヒューネスと思われがちだが、所謂<ウィザーク>って種族らしいんだわ、俺。」

「だから、全ッ然ッ、説明にならないんですッ!?」

「…じゃあ、生まれ付きって事で…」

「ですからぁッ!!」

まるで他人事のように話す男に、エイミはますます納得は出来ず、問い詰める姿勢が強くなり、それに気圧され、男は頭を掻く。

「まぁ…ともかく!ともかくだ、お手柄じゃないか、ナナリナ!この見事に仕留めた移動植物!後はこの玉コロの胚か種から晶石を取り出せば<任務>とやらはおしまいだな!わははは!」

男はあからさまな笑い声を混ぜ、ナナリナへ労いの言葉を贈りながらエイミから逸らすかのように話題を変えた。


「じゃあ、ダーリン、ご褒美頂戴♥」

ナナリナは屈んだ姿勢、手を両頬に当てて満面の笑みを浮かべては男を見る。

「な、何がよろしいので…」

「ハグ♥」

硬直し、返答に困っている赤マントの男へ、ナナリナは即答する。

男は暫くの間、困惑した表情を浮かべていたが、すぐに苦い顔へと変えていく。

しかし、そんな事はお構いなしとばかりにナナリナは男の元へ歩み寄り、両手を広げる。

そして、男は観念したのか、一呼吸の後どうどうと両手を広げてはナナリナと対峙し合う。

「…わかった、さぁ、どんとこいッ!あ、でも痛みはあるからそっとね。」



2人は互いに両手を広げたまま、向かい合ったままに沈黙が流れる。


「…だから、ダーリンから来てよ。」

ナナリナは頬を膨らませては不満げに告げる。

「…だから、何時もみたいにすればいいだろ?お前はハグされたい。俺はハグされてもいい。身体が触れ合う点では何の違いも…」

「だから、あるのッ!!」

ナナリナは大声で叫ぶと、更に頬を紅潮させ、子供のように泣き出しそうな顔をする。

そして、何かを言おうと口を開くも、感情だけが空回りしてるようで言葉にならぬ言葉を漏らすだけだった。

「…いや、だって傷治ったばっかで動くと痛いし…そういの加減わからないし。」

対し、男は一応は人目のあることに配慮してか小声ながらも反論をする。


―――シャクシャク


「……じゃあ、また貸しにしておいてあげるッ。」

「支払えるうちに払わせてもらえるのが一番なのだが…」

ナナリナは両手を下げては膝を抱えてはそっぽを向き、男もまた両手を崩し、後頭部をくしゃりと掻く。


―――シャクシャクシャク


「…ハァ、何ですかね。こののろけ茶番…」

エイミは2人のやり取りを呆れながら眺めていた。


―――シャクシャクシャク


「<相棒>~。そう何か食って音を立てて邪険にしないでくれよ。俺自身の説明は俺にだってな…」

エイミの言葉に男は目頭を抑え、嘆くように呟く。

「いえ、別に何も食べてませんよ?」

エイミは不思議そうに首を傾け、その様子に男は虚を突かれたような顔へと変わる。

「でも、シャクシャクと…シャクシャク…?」

そして、頭上に疑問符を浮かべながら3人は同時に視線を音のする方へ向けた。


「GUMO…?」

「ぐ…も?」

「…ぐも?」

「ぐもって…」


「「「何か居るーーーッ!?」」」

3人の声は綺麗に重なり合い、遺跡内に響く。

そこにはまた新たな、そして別種の魔物が先の<針棘の玉>を貪っていた。

それは人間に近い姿をしており、全身は根、茎らしきものに覆われ、その肉体は筋肉質な体型をしている。

その頭部、核らしき部分からは葉っぱが生え、先程までいた移動植物に近しいものは想像に容易い。


「GUMOMOMOOOO!!」

<植物鬼人>は声をあげる3人に気付き、食事を中断された事に怒ったのか吼えると、両腕で身体と地面を小刻みに叩きながら、戦闘態勢へと入っていく。

そんな姿には目も暮れず、もはや無残な食べカスとなった<針棘の玉>の骸を3人は見つめた後、互いに頷き合った。


「GUMOMOMOMOOONN!!」

そして、<植物鬼人>が3人へと襲い掛かる。

だが。


「何、こっちの獲物を!」

ナナリナは男の引き抜いた針を手にすると大弩に装填し、<植物鬼人>の核へと撃ち込む。


「横取りしてんじゃぁッ!」

次に、赤マントの男は地面に突き刺していた赤い剣を手にすると懐に飛び込み、脚を断つ。


「ない、ですよーーーッッッ!!」

最後、エイミは闘気を爆発させ、纏った風の闘気がバチバチと雷を帯びては上空高く飛び上がった。


―――<ディアウス・ムルド>ーーーッ!

エイミは<植物鬼人>に向かって蹴りを放つと、突き刺さった針へ直撃させ、風の闘気が針を伝って、<植物鬼人>へと注ぎこまれる。

3人の連続攻撃、そして、体内を駆け回る風の闘気にもがきながら<植物鬼人>は後退、表面から稲妻を迸らせながら爆発四散した。


爆発音の響くなか、エイミはくるりと宙で身を翻しては着地し、真正面のナナリナに向かって親指を立て、ナナリナも同様に応える。

「ま、赤さんの正体とか、細かい事は後で考えるとしましょうッ!」

「…そいつはどーも。」

そして、振り返っては赤マントの男の横に並び立つと<植物鬼人>の残骸を見つめ、誇らしげに男へと拳を突き出し、男は苦笑いを浮かべるとその拳に応えた。


「…」


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