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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
74/246

17-2.己の立つ足元には

 <任務>、<怪人>、どちらも初耳かつ、この学院に似つかわしくない単語にエイミと男以外の4人は顔を見合わせて首を傾げ合う。

男とエイミは互いの説明不足さに咳払いをした後、席に座り、姿勢をなおしては説明を始めた。


―――かくがくしかじか。


ともかく、この学院では今、<赤マントの怪人>騒動が起きており、女子生徒達の犠牲が続いている事件が起きている最中だと男は口を開く。

「…アンタ、ここに来て、たった2日で大事件起こすとか、引くぞ…」

「ダーリン…。そんなに欲求不満なら、私をめちゃくちゃにしてからでも…♥」

「ちッがァーーーうッ!<怪人>は俺じゃない!それに話は途中だ、途中っ!」

ユートが冷やかな目を向け、ナナリナは頬を染めて色っぽい吐息を出し、それに男は腕を振り回しながら否定する。

そして、この女教諭エイミとの出会いから彼女の任務に同行した経緯を順を説明をしていった。


「まぁ、そんなワケで、俺はしばらくコイツの相棒代わりをやりつつ、俺の雇い主の目的を探してるって流れなの。」

「あぁ、だから今は何時もの赤いマントを着ていないのでござるな。」

「…そういうこと。」

何時もの身を包む赤いマントが無い代わりに、残った赤い襟巻きを手で弄りつつ、ソウシロウの言葉に男は肩をすくめて返答をする。


「しかし、フラナ殿だけが、その<任務>に就けたとして、拙者らは如何様にするでござる?」

「おい、<怪人>の話を飛ばすなよ。」

「別に<怪人>くらいいいんじゃねーの?冒険者なんて危険が付き物の稼業なんだしよ。再三血だるまになってるヤツが心配する事かよ。」

「あのなぁ…」

ソウシロウの問い掛けに男は眉間にしわを寄せながら反応をし、その言葉にユートは鼻で笑いながら返す。

事の理解を得られない様子に、男は溜息交じりに頭を掻きむしった。

「でも、ダーリン。こればっかりはフラナちゃんの意思を尊重してあげるべきだと思うわ。」

「そうは言うが、学院内に居る限り<怪人>の危険はあるんだぜ?」

ナナリナはフラナの何所か遠慮がちな仕草に気が付くと、諭すように口を開き、それに対して男は反論する。


「ふっふっふ、それに関しては私にいい考えがありますッ!」

そこにエイミが勢いよく手を上げては立ち上がり、皆の視線を集めながら自信満々と言った様子で胸を張りつつ、フラナへと笑顔を向けた。

エイミが言うに、ここレテシアの魔法学院にはおいて、冒険者ギルド直接の窓口が無いだけで冒険者への斡旋は行ってはいる。

ただし、それはあくまでも学院に属す者が仲介をする必要な為、フラナが<特待生>となれば仲介役を担う事ができるという。


「ふーん、要するに冒険者ギルドで<招請状しょうせいじょう>を発行できるのが学院関係者だけって事か。」

「フラナ殿が<特待生>となれば、魔法の勉強ができて収入も得られる。<任務>の仲介を得られれば拙者らにも収入、更には<怪人>からの安全も確保できる。まさに一石何鳥となるでござるかな。」

エイミの説明を聞いては、ユートとソウシロウはそれぞれの反応を見せ、エイミは少し誇らしげにうんうんと満足げにうなずいていた。

「…一石も何もまず<怪人>の騒動が本来あるべき事じゃないだろ。」

だが、男だけは納得いかないとばかりに腕を組み、エイミの言葉に対して否定的な態度を見せた。

「随分とフラナを心配するじゃねーか、赤マント。」

「俺はコイツの<相棒>がその<犠牲者>になる様を見てるからな。本来ならコイツが止めるべき立場のはずよ。」

男は親指でエイミを差しながら、何処か心配そうな目を向け、エイミはその言葉に心外だと言わんばかりの表情を浮かべていた。


「お前さん、まさか嬢ちゃんらを扇いで<怪人>の当て付けにでもするつもりか?」

「な!?そ、そんな事はないですッ!…ない、ですが…」

男の鋭い指摘にエイミは目を泳がせ、言い淀む。

「…ですが。今は人手が欲しい。あの<巨大蛾>は今まで見た事も報告にもなかったものです。叩ける内に叩きたいし、情報は集めたいです。」

エイミは何とか言葉を絞り出し、必死に自分の主張を男へと告げる。

「だったら、そこは改めて頭を下げて人手が欲しいと頼むべきじゃないのか?」

「う…。そうでした。そこは失念です。あ、でも新しい生徒、ましてや<特待生>が入ってくる事は単純に嬉しいですし、応援しますよッ!」

釘を刺されるエイミは素直に謝罪し、フラナに向かって照れ隠しのように笑みを向けた。


「…だとさ。ったく、気持ちなんぞ切り替えられてるのかね。」

そうぼやきながら、男もフラナへと決意の程を尋ねるかのように目線を向ける。

フラナは一瞬だけ迷いその表情には困った部分が残るも、顔を上げ、首を縦に振って見せた。

「お、お願いします…」

「いいのでござるか?ユート殿。」

「ま、フラナはオレに巻き込まれてるだけだからな…。そこはオレが決める事じゃないよ。」

ソウシロウは確認を取るようにユートの方へ振り向き、ユートもまた頭を掻きながら視線を外しながら答える。


「じゃあ、私は午後の講義はありませんので、早速手続き、ついでに任務がどんなものか体験ですッ!」

エイミが意気揚々と言った様子で立ち上がったとき、給仕の魔法人形がどこからともなく現れ、全員に皿と食器を配り終えると、テーブルにクローシュの被さった1つの大皿がテーブルへ置かれた。

そして、魔法人形がクローシュを丁寧に取り除くと、そこには大山盛りのスパゲティが乗せられており、思わず皆は言葉を失う。

ふぁ(さぁ)ふぃふぁふぁんも(皆さんも)ふぇんふょふぇふに(遠慮せずに)ふぉうほ(どうぞ)。」


***********************


学生向け昼の特大盛り肉団子スパゲティ


***********************


ふぁらふぁ(腹が)ふぇっふぇふぁ(減っては)ふぁんふぉふぁやら(何とやら)ふぇふふぁふぁ(ですからね)。ンゴフ。」

「もう、食ってるし。そして、飲み込んでから喋れ。だいたい何言ってるかわかるけども…」

既に口いっぱいに頬張るエイミに男は唖然となりながら指摘をするも、彼女はそれを気にする様子も無く、もくもくと大皿からフォークで巻き上げ口に運んでいた。

それを見る他一同は苦笑を互い合わせ、各々もエイミと同じよう、大皿から自分の小皿に取り分けていく。


「食べないのですか?」

「いや、食うけど。しかし、少なくとも今いる人数分以上の量を奢ってくるとは、お前さん随分と気前がいいなと…」

男は感心しながらも、どこか呆れたような表情を浮かべていると、エイミが口を拭いながら言う。

「えぇ、そこは心配なさらず!何せこの支払いは先日の任務の赤さんの報酬から出させて頂いてますのでッ!」

「…」

エイミは口周りにソースをつけながらも満面の笑顔で答え、男はそのエイミの皿に盛られたボール状のスパゲティの奪い取ると、自分の皿に移しては口に運んだ。


―――


一通り食事が終わり、一行は学院内にある事務整理を行う場所へと移す。

そこは広い部屋にずらりと窓口が並び、職員らしき男女がちらほらと座っては、書類仕事を行っている。

凛と張り詰めるその空間の中、エイミはどたどたと早速フラナの手を取って1つの受付口へと向かい、そこで手続きらしき事を始めだした。

他はその様子を遠目に見つつ、壁際に設置されているソファーに座り込み、手続きが終るのを待つ。

ユートはぼんやりながらも、何かを思うようにフラナの背腰から伸びる黒青の翼を眺めている。



しばらくして、エイミは嬉しそうに手を振り、フラナは恥ずかしそうな顔をしながら一行の元へ戻ってきた。

「じゃじゃーん!これでフラナちゃんはめでたく当学院の特待生の仲間入りですッ!!」

エイミはそう言いながら、1枚のカードを見せびらかした後、何所か偉そうな仕草でフラナへと伸ばすと、フラナはそれを大事そうに両手で受け取る。

そのカードは指でなぞると青白く発光し、まるでガラス細工のように透き通った物でフラナの名前と学生番号が刻まれていた。

「あ、ありがとうございます…」

フラナが耳を真っ赤にさせながら頭を下げると、エイミは満足そうに微笑み拍手を送り、他の面々も同様に拍手を送る。


「さーて、なら、これからはこの街でしばらくやっかいになれる場所を見つけないとな。フラナにはここで寮の一室くらいは宛がわれるんだろ、<先生>?」

ユートは手を頭の後ろで組みながら、エイミへどこか不貞腐れたような表情をして問いかけた。

「ふむ、しかし、流石に安宿でも長期となると宿代は馬鹿にならんでござるな。」

「フフン、その点にも抜かり無しですよッ!それに、フラナちゃんにも学院の案内をしないといけませんから好都合ですッ。」

そんな事など重々承知と言わんばかりにエイミは調子を良さげに先へと進んでいく。

「<相棒>の俺にも、しっかり案内してくれないものかね…」


―――


再び学院内を渡り歩く一行。

エイミの先導により、まず連れられてきたのは白塗りの壁に青い屋根が特徴的な円筒状の2階建ての一軒家。

ドアを開け、玄関を通り抜けるや、そこは広々とした吹き抜けのリビング出て、壁沿いに階段が伸びている。

そして、正面奥にある大きな窓からは陽光が差し込む暖かな空間となっていた。

「…ここは?」

「ここは私が間借りしている部屋のある家で、空き部屋もありますし、そこをフラナちゃんだけでなく皆さんにも使って頂こうかと!」

男がエイミに尋ねると、彼女は腰に片手を当て胸を張り自慢げに鼻息荒く語る。


「へぇ、それはありがてぇや。」

ぐるっと家の中を見渡しながら、ユートは素直に感謝を述べ、他も賛同するように相槌を打つ。


―――<皆さんにも使って頂こうかと>なんて、本来、貴方の一存で本来決められない事でしょう?


何処からともなく聞こえてくる女性の声。

きょとんとした様子で一行が辺りを見渡すと、階段の手摺りに手をかけたコボルド族の女性が1人、トランクを片手にこちらへ下りて来る。

「シータ!?休んでいなきゃダメですよ!?」

「心配しなくても。これから診療所の療棟に戻るわよ。それで…?」

慌てて駆け寄るエイミに対して、落ち着き払った態度で返答する彼女、<シータ>は男以外を値踏みするような視線で眺めていく。

「見たところ冒険者や旅人ってところだけど…?」

「えぇ、この度<特待生>として入学したフラナちゃんですッ!他は赤さん含め、彼女の同行者の方達ですね。」

エイミがそう紹介すると、フラナはぺこりと頭を下げるがシータからは余り歓迎されてなさそうな雰囲気が漂っている。

それどころかこめかみに手を当てて何やら苦悶の表情を浮かべている程だ。


「まったく、相変わらずの歩く特例事項ね…。貴方達、気をつけなさい。このコは昔から常識が通じないから。」

「「「「「知ってます。」」」」」

「だから、何で声が揃うんですかッ!?」


「でも、まぁ丁度いいわ。私はしばらく自分の研究室で寝泊りするから、騒がしくしても大丈夫よ。でも、部屋はそのままにしておいて頂戴な。」

「ど、どうして!?」

エイミは驚きと不満が入り混じったような表情で詰め寄っていくが、シータは特に動じることもなく淡々玄関へ足を進め言葉を続ける。

「あの毒と研究と検査の為よ。今後は任務に赴けない分は学院内で活動しないとね。そうなると、ここへ度々に戻っては来れそうにないもの。」

そう言いながらフラナらを掻き分け、玄関へと進もうとするが突如腹を抑えて姿勢を崩し、その場に膝をつく。

エイミが慌てて支えようとするが、それを手で制して自分で起き上がる。

「…ッ…大丈夫よ、コレくらい。それに他にも回るところがあるから休み、休み行くから心配しないで。」

「しかし、シータ…」

「…それじゃあね。」

シータは呼吸を整えるとエイミを押し退けるように立ち上がる。

そして、男の方へ目線を送り、男は彼女との約束を確認したようにしっかりと首を縦に振ると、シータは満足気な表情を浮かべて、軽く会釈をして去って行った。


「…」

「…ほら、空き部屋を割り当ててくれよ。」

パタンと静かに閉まった玄関のドアに向かい、何かを言いたげにしたまましょげるエイミに、男は肘でつきながら促す。


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