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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
71/247

16-3.怪人現る!魔法学院を襲う赤マント

 「お待たせェ、しましたァッッ!」

勢い良く扉を開け、滑り込むように入ってきたエイミの声が室内に響く。

しかし、返事は無く、室内は静寂に包まれていた。

エイミは不思議そうに小首を傾げ、キョロキョロと見渡す。

「おかしいですね…、待機、てっきりこのソファーでいびきでもかいて寝てると思ったのですが…。これは…まさか事件…!!」

エイミは目を閉じて鼻をクンクンと鳴らし、部屋の匂いを嗅ぐ。

すると、微かに鉄錆臭がする事に気が付き、エイミの眉間にシワが入ると匂いを追跡していく。

鼻先に布が当たり、そこから強く漂う鉄錆臭にエイミは思わず手に取って嗅ぐ。


「そ、そうかこれは、きっと…」

「それは、私の襟巻きさんだ。」

突如として背後から聞こえた声に驚き、エイミは慌てて振り返った。

そこには呆れた表情をしたグランの姿があり、エイミの手にある襟巻きを取り上げて首元へ巻いた。


「おわーッ、ったーッ、とぉ~ッ!!って、何時からそこにッ!?」

「今、<戻ってきた>ところだが。」

驚くエイミに淡々と答えるグランだったが、その肩で息を整える様子から全力疾走してきた事は容易に想像がついた。

「今…。って、あの中庭から今になって戻って来れたんですか!?」

「だから、アンタが居なきゃ、俺はここがどんな構造なのかわかるわけないだろっての…」

その言葉にキョトンとしたエイミは廊下に出て、向かい側の壁にある1つの扉を開く。


「ここから中庭と直通ですよ。」

「だーッ!わかるか、チクショーッ!!」

グランは頭をかきむしり、叫び声をあげた。



「それでは、気を取り直して<任務>、つまりは遺跡内へと向かいましょうッ!」

「少しは休憩させて欲しいのだが…」

「あ、今の時間帯の遺跡内なら生徒に見られる事はまずないので、あのマント姿に戻ってもらっても構いませんよ。」

「俺は昼飯食うためだけに着替えたのか…」

エイミの言葉にグランは大きな溜息をつくと、手早く自分本来の衣服と装備へと戻す。


―――


「さぁ、シータ。今日も張り切って行きましょう。」

「全力疾走でルーズなのは何時も通りね。それで、そちらも準備はいいかしら?<赤マント>さん。」

「やはり普段の格好のほうが俄然落ち着くな。…あぁ、構わない。」

エイミは着替えたグランを案内し、とある部屋へと辿り着く。

赤いマントと垂れる襟巻きをひるがえし、グランは他とはどこか雰囲気が異なる扉を手にして開ける。

狭い、まるで卵の中のような流線的な造りの部屋の中には、既に<シータ>が待っていた。

部屋の中央はシリンダーが配置され、中には光を放つ半透明のゼリー状の何かが見える。


「ダメです、シータ!このヒトは<赤マント>ではなく<赤>さんと呼んで、以後は怪人とは区別しなければ!」

「<件の怪人>が出たら出たで<怪人>でいいじゃないの。そもそも私達は正確な姿をまだ知らないのよ?あと学院内を襲っているのなら、この遺跡には出ない事になるわ。」

シータは唐突なエイミの要求に呆れながらも冷静に返す。

「ふむ。どうしてそう考えるんだ?」

「<穴>の周囲がどうなってるかは聞きまして?」

「それはもうバッチシ。私が説明しておきましたッ。」

グランが質問を投げかけると、それを遮るようにエイミが前に出ては胸を張り、得意げな顔を浮かべながら腕を組んだ。

シータは額に手を当てて、小さく溜息をつくと話を続ける。


「<怪人>が遺跡を根城にしているなら、意図的に穴の外と内、<両方の幻惑>を避け<往来>が出来るという事に繋がるわ。」

「…だが物事に完璧なし、ましてや規模が大きくなれば、綻びは必ず出てくるものだろう?」

グランはアゴに手を当てると、考えを口にする。

「否定はしない、しかし違うわ。綻びを前提するのでなく、<機能>を前提とした<事実>を確認するのが大事なの、前提を崩すのは綻びを確認できた後。」

「なるほど…。杞憂、深まれば鞘中の名剣もまたナマクラ也か。」

グランの言葉にシータは満足げに口角をあげ、エイミは首を傾げる。


「えー、でもシータは何事も<想定外>を考えろって言うじゃないですか~。」

「それは<機能>を組上げる際の話よ。今日の<任務>はただの巡回、先人達が積み上げてきた<機能>を遵守する事よ。」

シータはエイミに向き直ると、年長者が年少者を諭すように語り掛け、グランはその様子に肩をすくめた。


―――


転移を経て、3人は遺跡、そのレテシアの大穴の内部へと足を踏み入れる。

遺跡内は古い1つの街が丸ごと収まったかのようで、地面を覆う石畳の床は、今でも人々が行き交ってるかのように錯覚してしまう。

しかし、その街並みは朽ち果て、壁も崩れ、瓦礫だけが散乱していた。

街の中は所々に青白い光が灯っており、それが無人の街をより一層不気味に見せている。

そして、先に見下ろしていた<穴>を今度は見上げる形で仰ぐ。


「ほー、この光景は<グランロード>の縦穴じゃ拝められないな。」

グランはそう天上の<穴>を見上げながら、呟く。

僅かに覗かせ差し込む双子月の明り、水エーテルの青く儚いオーロラがかかる煌めく夜空。

その神秘的な景色に、グランは思わず声を上げる。

「遠足気分はそこまでにして頂戴な。私達は<任務>としてあたっているのですから。」

手を叩きシータは注意を促し、その言葉を受けてグランはマントと襟巻きを調え気を引き締めなおした。


「それで、何処へ向かうってんで?」

周囲は、壁や天井が崩れた建物が並び、倒壊こそしていないものの、建物の殆どが風化し、苔に覆われていた廃墟が広がる。

「先も言った通りの<巡回>よ。指定場所の順を追って見て回ればいいだけ。ともかく、足を進めましょう。」

シータはそう言い先頭を切ると、エイミも続き、グランは天上の<穴>気にしながらその後を追う。



「しっかし、久々に見ると穴の位置が高いですねッ!」

エイミがまるで<穴>を見上げながら覗き込むような姿勢で感心するように声を上げる。

彼女の視線の先は、この遺跡の空間の中心であり、上空高くにある為、この遺跡内のどこからも見えていた。

「久々?」

「あぁ、私達はだいたいここより下の層の任務を請け負う事が多いのでッ。」

グランは疑問に思い尋ねると、構ってくれた事にエイミが目を輝かせて答える。


「高さにして150身程、建築物にしたら50階以上になるわ。そして、この層にはそんな高さに届くモノはない。」

「いや~、でも飛行系魔物とかなら案外届きそうですよねッ!怪人は魔物を操って外へ出たとかッ!」

シータの言葉を受けて、エイミはそう楽しげに語ると、シータは少し呆れた表情を浮かべながら、溜息をついた。

「ここにいるヒト程の大きさで飛行系の魔物はせいぜい<ワイド・バット>くらいよ。それに彼らは飛行というよりできるのは滑空ね。」

シータはそう言うと、指を差して見せる。

そこには崩れかけた建物の上に2体の大きなコウモリの影。

平均的成人男性を超える程の大きさの両翼を広げ屋根と屋根の間を飛び回る姿が見える。


「しかし、その、俺が聞くのもなんだか変なんだが…<赤マントの怪人>ってヤツからはどんな被害が出ているんだ?」

「お、やっと興味を持ってくれましたか!?」

「俺はアンタからの言うなれば二次被害者なんだが…」

グランがそう口にすると、エイミは嬉々とした顔で食いつき、その様子を見てグランは額に手を当てながら複雑な顔を浮かべた。

シータはその様子に小さく肩をすくめ、話を続ける。


「被害者が現れたのは半月ほど前、1人の女子生徒が行方不明になった事から始まったの。」

「確か私の古巣。真聖魔法科の生徒でしたね。」

そして、被害者が見つかったとき、幸い一命は取り留めものの、失血と特殊な毒による衰弱が激しく、今も半ば昏睡状態だという。

以後も被害者は続発し、発見場所の不規則性から警備が定まらず日を追う事に増していき、そして現在も犯人を掴めない状態でいる。


「共通しているのは被害者が女性、1ヶ所の刺し傷、失血に特殊な毒の滞留、そして失血量に対して血痕が極端に少ない点。」

「…ん?<赤マント>は何処へ?」

「<赤マント>を見たというのは被害者の内でもしばらく意識を残せた一部の証言。しかも内1人は目の前で刺され、それが何時の間にか<赤マント>が現れたと証言しているの。」

「じゃあ、<赤マント>ってのは…」

「今の所、噂に尾ひれがついた偶像の怪人ってヤツなんですよッ。」

「よッ、じゃねーよ。」

グランは2人と初めて顔を合わせた時を思い浮かべ、呆れた表情をエイミへ向ける。


「あはは、いやぁ、すみません。」

「それについては私達の早合点であるから謝罪するわ。でも教諭達にこの情報が共有されだして1週間と経っていないの。おこがましいかもしれないけど、察しては頂けないかしら?」

「俺は間抜けにも正体を現した不確定の怪人って事ね…」

シータは申し訳なさそうに頭を下げながら説明すると、グランは納得しつつ自嘲気味な笑みを見せた。


―――


3人はそう会話を続けながらも巡回を進めていく。

瓦礫を乗り越え、時に道なき道を、時には魔物を警戒しながら、ただ続く廃墟を歩く。

その途中、シータがある地点で足を止め、鼻をスン鳴らす。

「どうかしました?」

エイミの問い掛けに対し、シータは無言で鼻を抑え、周囲を見渡していた。

そして、彼女に倣ってグランも匂いを確認すると、僅かだが確かに空気中に漂う、道中には無かった何かの<異>を感じる。

「…コボルド族特有の嗅覚ってヤツか。」

「あ、シータ!待ってくださいッ!」

グランがそう呟くと、エイミが慌ててシータを追いかける。



2人が追い付いくとシータは物陰に身を潜み先の様子を伺っている。

彼女が見つめている先には、とある小さな建物の壁、その奥へ入る為の入り口。

しかして、その一面には無数の蛾が止まっており、エイミは思わず顔をしかめた。

「エイミ。地図にはなんて?」

シータの言葉にエイミは慌てたように懐から羊皮紙とコンパスを取り出し広げてみせる。

それはこの遺跡内の詳細な地図で、上から下までびっしりと文字や記号で埋め尽くされていた。

「巡回記録だけで、その場所に特別な記しはないですね。」

「調べるか…。エイミ、私と来なさい。赤マントさんは私達の後ろを警戒して貰えるかしら。」

グランが頷くと、シータは立ち上がり、エイミは少し驚いた表情を浮かべるもすぐに笑顔で頷くと、彼女の後を追った。

シータは歩く速度を落とし、時折立ち止まりながら周囲を警戒しつつ、注意深く進んでいく。


エイミもその後に続き、グランも2人の後方を向きながら距離を詰める。

シータが蛾の群れに覆われた先の見えない入り口を前にすると、彼女は鞄から透明の管を取り出し、勢い良く振った後に入り口へと投げた。

パリンと管が割れ、液体が床をぼんやりと照らす。

エイミ、シータは互いに視線を合わせると頷き、そのまま中へと入っていく。


中は見覚えがある部屋の風景だった。

そう、この遺跡に訪れる際に利用した転移門のある部屋。

流線的な意匠に中央にあるシリンダーが特徴的な形の部屋だ。

異なる点といえばこの部屋は大きく、中央の輝くシリンダーの色が違うという事。

「まだ、発見のされていない部屋があった…?」

エイミがそう口にすると、シータは周囲を警戒しつつ部屋の中央に歩み寄り、シリンダーへ軽く手を触れる。

すると、シリンダーは光り輝き、まるで生きているかのように脈動を始める。

その様子を見てエイミが息を呑み、シータは静かに口を開いた。

「この転移門、生きてるわ。いえ、休眠状態…?じゃあ誰かが最近使ったとでも…?」

シータは独り言の様にブツブツと言葉を口にしていると、エイミは何か感じ取ったのか、ハッとした表情を見せる。

「シータ!離れてッ!」


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