15-5.転移門市
姿が完全に見えてくる頃には、カルマン達の周囲は無数の武装された機械仕掛けの人形に囲まれてしまっていた。
だが、カルマンはその瞬間、不安視しかしない自らの思考を止め、即座に行動に移る。
そして、人形の一体の懐へと飛び込み、手に持つ得物で<殺戮人形>を貫く。
芯、その核を貫き通した確かな手応え。
しかし、貫かれたはずの人形は、一切として怯まず、再びキリキリと音を立てては動き続ける。
更に別の人形達が、カルマンへと飛び掛るが、彼は冷静に突き立てた武器を引き抜き、身をひるがえした。
(コアは断たないとやはりダメね。…そうなると、アタシの技の相性、それに数、余りに分が悪すぎるワ。)
カルマンは瞬時に周囲を見渡し、自分達を囲むように迫り来る敵の姿を捉えると、退路が無くとも後退りをしてしまう。
―――<ルーンバレット>!!
そのとき、魔力の飛礫が<殺戮人形>1体の後頭部が砕かれ、その場に倒れ伏す。
更に続き、別の飛礫がもう1体の後頭部を撃ち抜くと、崩れ落ちるように倒れていった。
突然の出来事に呆気に取られるカルマンだったが、遠方に何かを抱えたなびく赤い影、グランの姿を発見すると、少しだけ表情を和らげる。
…
「あ、当たりました…!!」
「YOPO!」
左腕の楔を埋めた脚から放つ<フォース>により、赤いマントと襟巻きをなびかせ疾走するグラン。
それに抱きかかえられ、杖をかざし、魔力の飛礫を放ったフラナは嬉しさで興奮気味になっていた。
「上出来だ、嬢ちゃん。そうやって詠唱と無詠唱で放つタイミングを合わせれば間髪入れずに魔法を放てる。これがいわゆる…」
「ダ、<ダブルスペル>。…そ、それより!」
「悪い。乱暴するが我慢してくれ。」
グランはそう言うなり駆け足を止め踏ん張ると、抱えていたフラナを上方へ放り投げ、同時にその勢いで一気にカルマンを囲む人形達の中へ突っ込んでいく。
カルマンから見るそれは、まるで勢い迫る赤いカタパルト弾。
そして、なびく赤マントの中から抜かれる赤い剣、振り下ろされる赤い一閃が自分の傍らへ<着弾>と共に、周囲の<殺戮人形>を薙ぎ払い粉砕する。
刀身から火の精を散らしながら、赤マントの男の剣は吹き飛ぶ人形の残骸と共にまた別の人形達を次々と断ち砕いていった。
カルマンはその凄まじい破壊力を目の当たりにするなり驚愕し、口笛を鳴らしては笑みを浮かべる。
「<貸し>が1つ増えたわネ☆」
「…」
赤マントの男は「フン。」と鼻を鳴らし、残す1体を両断すると、剣を払って残火を消し去る。
張り詰めた弦のような音は消え去り、周囲が再び奇妙な静けさに包まれ、カルマンとペギーは緊張から解き放たれた事で、ホッとしたのか思わずため息を漏らし膝を崩した。
一方、自身の翼で着地をこなすフラナは辺りの様子を確認すると3人の下へと駆け寄って来る。
「さて、この状況に対して何か釈明はあるんじゃないか?」
4人の無事を確認し、赤マントの男、グランは鋭い視線をカルマンとペギーへ向けた。
「ウ、ウチは今回ばかりは断じて無関係です!ホンマです!」
「そうなると、必然的にアタシが疑われちゃうわネ。」
「心当たりは?」
「モチロン。自分の立場からしたらやぁ~~~ま程、<有る>に決まってるじゃないノ☆」
「…」
カルマンの言葉に対し、グランは眉間にシワを寄せたまま黙り込む。
その様子を見たフラナは不安げな顔でカルマンを見つめるが、当人は気にもせず、グランに笑いかけていた。
「赤マントちゃんが聞きたそうなのはまず<ココ>が何なのか。ってトコロかしラ?」
「あぁ。<異能>ではあるんだろ?」
「えぇ。こういった<亜空間>に隔離する<異能>。それをアタシ達は<ハウス>と呼んでいるワ。」
「か、<隔離>!?モチロン出る方法はあるんですよね!?カルマンはん!!」
「亜空間と<壁>を破壊するのがこっちからのアプローチとして最速最善ってトコロなんだけど…」
そう言いながらカルマンは立ち上がると、服についた埃を軽く払いながら周囲を見渡し、その異様な光景に表情が強ばった。
「ど、何処にその<壁>があるんですかぁーっ!?」
ペギーはただ視界一面に広がる空間とその闇に向かって震えた声を上げる。
「他は<異能者>自身か。」
「…だけど<ハウス>内に居るとは限らないワ。」
「じ、じゃあどないするんです!!」
「<異能者>が<異能>に対する意識か魔力を失うまで。要するに寝るか気絶でもするかを待つしかないわね。」
カルマンは両手を広げ、肩をすくめながら首を横に振る。
「…ようは根競べか。…移動はするか?」
「止めておきまショ。どこまでのここの座標が本来の空間と重なっているのか皆目検討も付かないワ。」
そう言って再びカルマンは床に胡座をかき、ペギーも声に成らぬ声を上げながらも同じように腰を落とした。
「ふぅ、それにしても緊張しちゃったから喉が渇いちゃったワ。この際、にがぁ~いポーションでもいいから飲みたい気分☆」
「あぁ!なら、旦那!旦那が何時も使ってないポーションがあるじゃないですか!」
ペギーはグランにそう言うと、ニヘヘとだらしない笑顔を浮かべて手を差し出す。
「商人やってるなら自前で水なり用意して置けよ…」
グランはそう言いながらも腰のベルトポーチから液薬の瓶を取り出し、それをカルマン、ペギーに投げ渡す。
残る1本を座って休むフラナへと差出し、彼女は両手でそれを受け取った。
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柑橘風味の甘味ポーション
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「やっだぁ~、おいしいィ~☆」
カルマンは受け取ったポーションを一気に仰ぐと、その甘さに表情をほころばせる。
「なぁにコレ、赤マントちゃん、一体何処の地ポーション?超、美味しいんだけどぉ?」
「ちがうんですなぁ、カルマンはん。赤の旦那のは土地土地の自家製ポーションでなくパダハラム…」
ペギーはそう言うなり、突如ハッとした様子で口を押さえ、グランの方を恐る恐ると見やる。
「パダハラム製のポーションですって!?でも、アレのシェアが取れているのは大陸西部も中央側の隅だけのハズだワ!?」
「…」
グランはそんな彼女をジロリと見据えた。
そしてペギーは慌てて視線を逸らす。
「…あ、あぁ~、え~っと、ソレはウチが以前に大量に仕入れたものを旦那へ推し付けたようなもんでして…」
「アラ、そうなの?しかし、アンニャロめはこんなものを開発してたのネ。無事に帰れたらアタシ達も負けじと開発に力を入れなきゃ☆。きっと女性冒険者に人気が出るワ。」
そう言いながら、カルマンはポーションの残りを飲み干すと満足気に息をつく。
「あ、あの、この<異能>は場や空間に効果のある魔法や儀式の<結界>とは違うのですか?」
「えぇ、違うワ。<異能>の中にも<魔法>や<魔術>と類似したものはあるけど、異なる点がいくつかあるノ。」
落ち着きを見計らってか、フラナはおずおずと尋ねるとカルマンは快く答える。
「お2人は<フォース>を使う事はできる?」
フラナは首を横に振り、グランは足元の残骸1つ手にするとそれを放り投げて撃ち抜いてみせる。
「フラナちゃんは何故<フォース>を使えないのかしら?」
「…<フォース>は適正者のみが自然と体得するもので、一応は訓練を積めば習得はできますが。その、あまり必要性を感じないそうで…。私は、その…」
フラナが言い淀むと、カルマンがポンッとその肩に手を置いた。
「そう、<フォース>は基本、先天性の体得。その点は<異能>に近いワ。でも、決定的な差が後に習得できるか、<伝承、継承>の点なの。」
「<伝承、継承>ですか…」
フラナの言葉にカルマンは深くうなずく。
「今、<異能>を巡って各魔法関連の組織が躍起に解明、研究してるのだけど、その最大の理由が<伝承、継承>の確立にあるの。」
「そんなもんで躍起になる事か?」
「当たり前ヨ。だって膨大な利益を産み出す<商品>ですもの。後から習得が可能という事は、誰にでも能力に対しチャンスがあるという事。誰もが<欲しがる>、需要ができるって事ヨ。」
「腑に落ちんが、情報、技術としての価値、か。」
グランは眉間に指を当てながら呟き、その言葉にカルマンは口角を上げて見せた。
「し、しかし、それなら既存の類似した<魔法>、<魔術>を提供し続ければいいだけで、<異能>に拘る必要は…?」
フラナの疑問にカルマンは腕を組み指を左右に振る。
「あるのか、習得の窓口を広げる以外の。<異能>だけの<専売特許>が。」
「えぇ、それがこの<空間操作>。<結界>による<遮断>ではなく、<隔離>された<特殊空間>を作り出すまさに<異能>ヨ。」
そういって先に振った指でカルマンは天を指し示し、他はつられて天にその続くのかそれとも巨大な蓋なのかもわからぬ闇を見上げた。
―――キリキリ、キリキリッ…
「こ、この音は!?またですかぁッ!?」
ペギーの悲鳴にも似た声が響き渡り、グランは身構えて辺りを見回す。
視界には変わらず果てのなく広がる闇の空間、だがそこの一部、遠方にはうごめく人影が無数に見える。
先の機械人形が隊を成し、こちらに向かってきているのだ。
「ひ、ひぃやぁ~~まだあんなぎょーさん出て来るんですかいなぁ!」
ペギーは腰砕けになりながらも必死に逃げようと後退りしてカルマンの後ろに隠れる。
「いけるか?嬢ちゃん。」
「は、はい!」
グランに促され、フラナは先陣に立ち、杖を構えた。
「YOPO!」
「その使い魔を通した無詠唱でいい。できるだけ数を巻き込んだ、散開させない発動のタイミングを考えるんだ。後は俺が合わせる。」
「は、はいッ!!」
―――キリキリ、キリキリッ
迫りくる多数の敵影に身を震わせ、フラナは息を飲む。
緊張からか背腰の翼が広がり、髪が魔力の流れを受け煽られ、波立つ。
グランはそんな彼女の背中をポンっと叩く。
敵との距離は更に縮まり、もはや眼前、最前衛の<殺戮人形>達が抜き身の武器で身構え、飛び掛かろうとしたその刹那。
「ヨポ!お願い!」
「YO、POo!!」
フラナの杖を持つ手の上でヨポが足を揃え両手を広げると、その身体が輝きを放ちだす。
「エルド!」
「…グライ!」
グランは札をポーチから抜き、フラナの魔法発動に重ねる様に精霊の名を唱えた。
「<マナクラッシュ>!!」
「<オシレイション>!!」
フラナの放った魔力の炸裂、激流の渦が敵を包み込み、 そしてその光が敵陣の中央で一気に膨張する。
同時にグランの魔法も発動し巻き上がる砂塵が<殺戮人形>に絡みつき床へと纏わり付かせた。
吹き飛ぶ事ができなくなった<殺戮人形>を魔力の激流が次々に呑み込んでいき、それらを削り、抉り、砕き、破壊していく。
爆心地にいた敵は跡形もなく粉々に飛ばされ、周囲にいた者も余波に巻き込まれ。砕かれ、崩れ落ちる。
そして、辺り一面は真っ白な煙と静寂に包まれていった。
フラナは決着が付くや緊張からか膝を落とし肩で息を、ヨポはフラナの腕の上で力尽きたのかぐったりとしだす。
グランはその赤い襟巻きと赤いマントをなびかせ、ただ立ち尽くしていた。
「やったぁッ!さっすがッ~赤の旦那です~!ウチが見込んだだけのオトコですわ~!」
カルマンの後ろからペギーは歓喜の声を上げその場でぴょんぴょん跳ねる。
「魔法のコンビネーション…。驚いたワ。口振りから即席みたいなのに…この威力…」
カルマンは驚きながらも、2人を褒め称えた。
「…今の札が最後の1枚か。こりゃ、まだ戦闘が続くと厄介…」
―――ィイィィィィィッ…
グランがフラナを肩に担ぎ上げ、カルマン達の元へ歩み寄ろうとしたその時、耳障りな金属音が辺りに鳴り響く。
それは<殺戮人形>の張り詰めた弦のような音ではなく、何かが高速回転し空気を切るような、そんな甲高い響きだ。
音のした方へグランが目を向けると、その先は粉々となった残骸の舞う煙の中を突き抜けてくるように黒い影が現れる。
巨大な筒状の胴、巨大な腕を持つ独特なシルエット。
―――ィイイィィィィッッッッ!! ギャギャギャギャギャッッ!!!!
巨大な腕の先の鉄車輪を地面に擦りつけ、残骸を砕き、火花を散らし、胴体からは高い怪音を鳴らし、先ほどとは違う大型の<自動人形>が姿を現す。
「カルマンッ!」
グランの叫び、迫る怪音に気付いたカルマンは、視界に入った宙を舞うフラナを抱える。
火花を噴き、舞い散らし、黒い影は周囲の煙を吹き飛ばしながら速度を、怪音を大きくし向かってくる。
フラナがカルマンの腕の中で意識の焦点を取り戻したとき、その瞳に映った火花の煌めきを放ち疾走する巨大な車輪と宙を舞う赤いマントを見た。
「…赤マントさんッ!!…ヨポッ!!」




