15-4.転移門市
<異能者>、その言葉に再び一同は顔を見合わせ、そして各々が首を振り、カルマンは溜息をつく。
だが、グランとソウシロウ、この2人は首を振らずに、カルマンに視線を向けていた。
「拙者は赤法師殿と一緒にその様な力を持つ者と顔を合わせたでござる。」
「俺は何人かと遭遇して、戦闘にもなってるが。…にしても、お前が知らないとはな。」
グランはペギーに冷淡な視線を向け、受けたペギーは慌てた様子をみせ、口を開く。
「ウチだって、知らんもんは知りませんわ!<異能者>どころか<異能>なんて、今、初めて聞きます!」
「人を散々危険な目に振り回しておいて良く言う…」
呆れ顔で呟くグランにペギーは口を尖らせ抗議をするも、カルマンが咳払いをして話を進める。
「…そう、いずれにせよ、まだ<異能者>って言葉、存在自体が定着、広まってはいないようネ。」
各々の反応を聞いたカルマンは腕を組み、こめかみに手を当て、考え込む。
「その<異能者>が何か問題でも起こしてるの?」
「それもあるけど、それだけじゃないワ。」
ナナリナの問いにカルマンは即答するが、その口振りにグランは眉を歪ませ、カルマンを見る。
「…<異能者>達が<狩られて>いるノ。」
そう、カルマンの言葉にその場の空気が変わった。
「…でも、問題ある連中なら互いに潰し合ってくれるんじゃないのか?<錬金術ギルド>が首突っ込む必要性あるのかよ?」
ユートの疑問はもっともで、他の面々も同意見なのか、無言のまま視線をカルマンに向ける。
「<異能者>が全員がケンカバカ前提ならそれで構わないのだケドぉ☆」
「<狩る>ってのは言葉通りなのか?それとも、<異能者>を集め、<錬金術ギルド>の<力>として取り込もうとか考えてたりするのか?」
含みのある言い方に対し、グランは率直に疑問をぶつけると、カルマンは肩をすくめ、真剣な眼差しになっていく。
「鋭いわね赤マントちゃん。えぇ、<錬金ギルド>だけじゃないワ。<四門魔法>に携わる機関は<異能>に対して今ピリピリしているのヨ。」
カルマンの返答に、グランは目を細め追求を続ける。
「…なら、<錬金術ギルド>自身が他所の妨害として<狩って>いるって予測もでるが。」
「んもぉ~エゲつない突っ込みィ~☆。モチロン、身内の内偵も行ってはいるケド、深い追求や確証までは得てないのが実情ネ。」
そうしてカルマンは茶をすすり、一息つくと、表情を再び緩ませ、笑顔を浮かべだす。
「それならば、何故拙者ら新参者に<異能者>の所見を聞くのでござる?土地慣れた者の方が情報を持ってそうに思うでござるが。」
ソウシロウはふと思った事を問いかけると、彼は少しばかり考える素振りを見せる。
「そういうベテランに成り出した冒険者ってのはね、活動域が定まって自分達の視野が狭くなっているものなのヨ。そして、経験が少ないルーキー達こそ情報と変化に敏感でもあるワ。だからアナタ達を選ぶ価値があるノ☆」
「そういうもんか?」
「まぁ、一理はあるか。定着しだした者に噂話は所詮娯楽であって、情報ではない。安定した環境において無闇に精査するのは藪を突き回る行為だしな。」
カルマンの答えにユートが首を傾げるも、グランは納得したようだった。
「そういえば、拙者が道行の酒場で赤法師殿の噂話を聞いたときもそんな感じだったでござるな。」
「アラ、実は有名な二つ名持ち?なんだか興味でちゃう☆」
その言葉にカルマンが食いつくと、グランはソウシロウを睨みつけ遮るようにする。
「ははは、当人が恥ずかしそうなのでこれ以上は勘弁してあげてほしいでござる。」
「…あ、あの、それでカルマンさん自身は<異能者>を探してどうするつもりなんですか?」
フラナが恐る恐るといった様子で口を開き、するとカルマンは真剣な眼差しを一同に向ける。
その雰囲気に釣られるように、皆は背筋を伸ばし、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「それ以上は止めておけ、嬢ちゃん。そこから先をこっち側から聞き出すと何に巻き込んでくるかわからん。ましてや商人の心得を持ってるヤツとなるとな。」
グランは厳しい口調でそう告げると、カルマンは微笑む。
「アナタが居ると会話が窮屈ネ。流石に<専属>ともなると腹芸の心得も身に付くのかしラ?」
「俺は何せ、そういう事にはた~んまり、経験値を溜め込んじまったんでね。」
「だから、なんでそんなにウチを睨みつけるんです!」
カルマンの言葉を受け流し、グランは視線を向けるとペギーはまたも抗議の声を上げた。
「さてと、それじゃあ互いに深く関わり過ぎないよう、楽しいお茶会はコレくらいにしておこうかしラ。」
「…なんだ?もういいのかよ。」
急に終わりを告げる言葉にユートは思わず疑問符を投げかけるも、カルマンは静かに笑う。
そして、テーブルに置かれたカップを持ち上げ、中身を一気に飲み干すと上着を伸ばす。
「えぇ、<異能者>の認知度だけならず、その接触者有りとで十分な情報ヨ。それにアナタ達だけからどんなに正確な情報を聞き出せても、結局は他との擦り合わせが必要になるもノ☆」
ユートの言葉へウインクを加えながら返答し、一枚の札にキスをするとテーブルに伏せ、階段へと歩き始めるカルマン。
「まして情報の対価が昼食だけでいいだなんて、酒を奢って機嫌を取るより安い投資ヨ。それじゃ、アナタ達の<貸し>はいずれ返させてもらうワ、困ったら頼って頂戴ナ☆」
そう言って黒の色眼鏡を鋭い仕草で掛け直すと、階段の手すりを掴み、そのまま立ち去って行こうとする。
「ま、待ってください!カルマンはん!、この後も<転移門市>を見て回るのでしたら、ウチをカルマンはんの横で勉強させて貰えまへんか!?」
ペギーは慌てて立ち上がり、カルマンを呼び止める。
すると彼は一瞬考え込むような素振りを見せ、色眼鏡を光らせ振り返った。
「いいの?アタシとあの人形の交渉の時間とれなくなるかもしれないわヨ?」
「フラナはんの<貸し>を無駄にしてしまって申し訳ないけど、ウチはまだ商人として未熟な所があります。だから少しでも早く、カルマンさんの近くで学ばせてください!」
彼女の申し出にカルマンは一瞬考える素振りを見せるが、すぐに了承する。
「ヤダァ~殊勝~☆。ならいいワ、あのコの<貸し>を考慮し許可してア・ゲ・ル☆。そうねぇ…それじゃあ…ついでに魔法が使えそうなそこの2人ちょーっと手伝ってもらっていいかしラ?」
カルマンは色眼鏡をずらし、グランとフラナへ視線を送る。
「幾らなんでもタダ働きはする気はないぞ。」
眉を寄せるも、カルマンはその瞬間に金貨を指で弾き飛ばして鳴らし、グランにそれを掴ませる。
「お駄賃はそれで満足?☆」
掌の中を確認すると、グランはそれ以上は何も言わずに階段へと向かい、その様子にフラナも続いた。
「じゃあ、ちょっぴり2人を借りていくわネ☆」
「待って、ダーリンが行くなら私も行く!私も<貸し>でついて行かせて!」
カルマンが手を振り、2人の後を追うように階段を降りようとすると、ナナリナが立ち上がって声を上げる。
「…じゃあ、俺の<貸し>でナナリナの同行を拒否しておいてくれ。またゾロゾロと歩き回っても仕方ないだろ。」
だが、先に階段を下りるグランの一言に阻まれると、彼女は膝から崩れ落ち、ソファーの上で丸くなりいじけ始めてしまう。
「…ゴメンなさい。そういう事で、しばらくの間待っていて頂戴ナ☆。んもゥ!それにしてもアタシの<貸し>の使われ方、安すぎィ~☆」
そして、苦笑いの軽い口調で謝りつつ、カルマンはフラナとペギーの背を押し、4人はその場から消え失せるのであった。
―――
「…<ハズレ>…ホイ、嬢ちゃん。」
「…私は<アタリ>…だと…思います。」
人気の無い、市場の適当な空きの一画。
グランとフラナはカルマンが<転移門市>で買い漁った品々を手にし、念じては手放し仕分ける作業を延々と繰り返していた。
「オホホホ、大漁、大漁☆。ご苦労様2人とも。」
カルマンは3つの袋に詰まった様々な古びた装飾品や貴金属類を見ながら、楽しげに呟く。
「あのー…私達は一体何を…?」
「魔力を通したちょっとした鑑定。こういう自由市の掘り出し物には、たま~にレアなモノが混ざってるノ☆」
フラナの質問にカルマンは不敵な笑みを浮かべながら答え、手元にある指輪を1つ手に取り、色眼鏡の奥で目を細める。
「それに残留した魔力が残ってる品ってだけでも再利用があるのヨ。」
「何に使うのやら…」
カルマンの足元に置かれた袋の中身を見つめグランは呆れた様子で溜息をつき、肩を落とす。
「それはぁ、ちょっとしたプ・レ・ゼ・ン・ト☆。に決まってるじゃな~い。」
「なるほど!お得意様に<特別な品>を贈る事でより信頼を深めようって事ですね!」
自慢げに答えるペギーの理解力の高さに感心しつつ、カルマンは笑顔で彼女にサムズアップする。
「アラ、なかなか解ってきたじゃないノ。これが経費を抑えた上で、また結構イイ手になるのヨ~☆。信頼関係は何よりも大事だもノ☆」
「…商魂逞しいこって。さて、用事が済んだならそろそろ帰るぞ。」
グランは重い腰を上げ背伸びをし、フラナに目配せする。
すると、カルマンは手にしていた指輪をグランへと投げ渡してきた。
咄嵯の事だったがグランはそれを受け取り、視線で疑問を投げかける。
「赤マントちゃんにあげるワ。」
「…なんでまた。」
「ドラグネスのあのコよ。いくらなんでも、あの一言は突っぱね過ぎじゃないかしラ?ねぇ?」
カルマンは意地の悪い笑みを浮かべながら、ペギー、フラナと共にグランを見据えだす。
「そうです。赤の旦那はただでさえ常にマントで身形が悪くて怖い顔ですよ。女の子なんてまず近付かないんですから、あんなベッタリなお方をあんな無碍な扱いはあきまへんて!」
ペギーはうんうんとうなずきつつ、グランへとまるで上から諭すように言葉を放つ。
「アンタ達が首を突っ込む事かよ…」
2人の言葉にグランはげんなりとした表情でフラナへと視線を向け、助け舟を請おうとする。
「わ、私は…赤マントさんに、もっとナナリナさんを優しくしてあげて欲しいです…」
だが、フラナはカルマン達と同じ意見らしく、彼の視線から逃れるかのように顔を逸らしてしまった。
「ホホホ、この際だから断言しておいてあげル☆。赤マントちゃんは自分にも相手を選ぶ権利があるとかそう思っていそうだけど、アナタに、そんなもの、微塵も無いワ!」
自信満々といった態度、不思議なキレのある姿勢を崩さずにカルマンは指を差しをグランへと向けて堂々と言い放つ。
「大人しく好意を全面に出されている間、さっさとお尻に敷かれておきなさいナ☆」
「大きなお世話だ!…ったく、帰るぜ、嬢ちゃん!」
カルマンからの言葉を受け、グランは一瞬硬直するも、指輪を投げ返すと早足でその場を離れようと歩きだしてゆく。
「やれやれ、案外お子ちゃまなのネ。…さて、暗くなってきたみたいだし、さっさと残りの仕事を済ませてしまいましょ☆」
「…暗い?昼下がりではありますが、まだ夕方前、日の入りにはまだ時間がありまっせ?」
カルマンの一言にペギーは辺りを見回し、頭上を仰ぐ。
頭上は既に一面薄暗く、それまで晴天だったはずが、いつの間にか灰色に染まりつつあった。
そして、空が徐々に色を落とし、先程まで賑わいを見せていた市場の喧騒は鳴りを潜め、周囲には誰もいない。
地面も、建物の屋根も、道端に転がっている木箱までも全て色を失い、土、砂の感触までもが消え失せていく。
「…まずい、待ちなさい!2人共!」
カルマンが異変に気が付き、2人を呼び止めたが既に遅く、周囲の光景は一変する。
何時の間にか、無機質の大小数々の柱が並び立ち、天井は無く、壁も無く、周囲は薄暗くなっているにも関わらず、ある程度の視覚認識は確保されている空間。
「カ、カルマンはん…!こ、これは一体、何の冗談なんです!?」
「落ち着きなさいペギーちゃん、呑まれた事が<攻撃>なら時点でアタシ達はおしまいヨ☆。地に足が着いて、呼吸が出来て、目と耳が機能しているならまだ慌てる必要は無いワ。」
そう平静を装いつつも冷や汗を流しているカルマンは、周囲を見回しながらペギーを落ち着ける。
「ともかく、あの2人と合流しましょう。恐らく近くにいるハズよ。」
カルマンとペギーは互いに頷き合うと、周囲に気を配りながらその場から離れる事にした。
…
―――キリキリ、キリキリッ…
どこからか、張り詰めた弦のような音が響き渡る。
「こ、この音はなんです…!?」
その音を聞いたペギーは途端に足が止まり、全身の毛穴という毛穴が開き、震え上がるような錯覚を覚える。
今聞こえている、この音は自分の死を告げるモノである事を、彼女は本能的に理解しはじめていた。
それは隣にいるカルマンも同じで、彼もまた恐怖を感じているのは明らかであった。
「…来るわよ!」
装飾品の詰まった袋を手放し、腰に下げる細身の突刺剣を引き抜くカルマン。
同時に音の正体が突如として、カルマン達の目の前に姿を現した。
無機質の床から、柱から、跳ね起きるかのように現れたそれらは、更なるキリキリと音を鳴らし続け、次第に輪郭をはっきりとさせていく。
「<自動人形>!?」
「…<キリング・ドール>!!」




