魔王城最深部――快楽の玉座
「はぁぁぁっ!」
戦士シンディの振るう両手斧が、鋼鉄の兜ごと黒騎士ガルムの巨体を両断した。健康的に日焼けした白い肌に、細マッチョの肢体。身長一八〇センチ。
茶髪のロングポニーテールが旋回し、紫の瞳が戦闘の高揚で鋭く光る。鎧の隙間から覗く豊満な胸が、斧を振り下ろす衝撃で大きく弾む。
「無駄よ。灰に還りなさい」
魔法使いピリカが冷徹な声で杖を掲げると、白銀の閃光が死霊術師モルガンの放った死の霧を貫き、その術者ごと跡形もなく消し去った。銀髪を長く垂らした細身の白い肌。身長一六三センチ。
緑色の瞳は知略そのもの。貧乳の胸元は戦闘中も乱れず、三百年超の知識がそのまま刃となって敵を裁く。
「皆、怪我はないわね?」
レベル九十九を誇る勇者クレアが、返り血一つ浴びていない聖剣を下段に構え直しながら振り返る。金髪が魔王城の灯火を受けて輝き、碧眼が仲間を確かめる。
一七五センチのモデル体型に、不釣り合いなほど豊かな胸。高潔な面持ちのまま、彼女は最深部まで辿り着いた。
その後方では、美しい黒髪をストレートに揺らす聖女ライラが、完璧な神聖防壁を展開したまま微笑んでいた。見た目は二十歳。実年齢は四十九。
聖女の力で整えた理想のセクシーな身体――一七〇センチ、しなやかな腰と豊かな胸、黒い瞳がクレアだけを見つめている。
「ええ、クレア。あなたさえ無事なら」
魔王城最深部。王の懐刀たる二人の幹部とのシリアスな死闘は、彼女たちの圧倒的な力の前に数分と持たず幕を下ろした。残るは邪悪の根源、魔王を討ち果たすのみである。
ドゴォォォォンッ!!
重厚な玉座の扉が、クレアの蹴り一発で轟音と共に吹き飛んだ。禍々しい漆黒の瘴気が立ち込める中、クレアは聖剣の切っ先を真っ直ぐに玉座へと向ける。
「お前の悪逆非道も今日で終わりだ、魔王アイリーン!」
だが、玉座で頬杖をついていたのは怪物ではなかった。豊満な胸元を惜しげもなく晒した漆黒のドレス。
見る者の魂を吸い込むような絶世の美女、魔王アイリーンは、無邪気な子供のようにくすくすと笑い始めた。
「あははっ、威勢がいいわねぇ。物理攻撃力カンスト、魔法防御力カンスト、状態異常完全無効……間違いなく、この世界で一番『硬い』勇者サマご一行」
アイリーンがゆっくりと立ち上がると、瘴気が一変し、とろけるような甘い香りが空間を満たした。
「でもね……本当に硬いのは、私のほうよ」
パチン、と。魔王が指を鳴らした。
玉座の間に仕掛けられた罠が発動する。淡いピンク色の高濃度魔力異常体――禁断の呪物『フタナリンドリンク』の気化ガスが、空間を淫靡結界へ変えた。空気がねっとりと舌に絡む。
脳の芯を直接撫でる匂い。
「なっ、この匂い……ライラ、浄化を――ひぁっ!?」
斧を構えようとしたシンディの身体が、大きく跳ねた。物理防御は意味をなさない。ガスは鎧の隙間からではなく、感覚そのものに直接入り込んでくる。
「んぁっ……!? な、なにこれ……っ、鎧が、擦れるだけで……ひぁぁっ!」
両手斧が床に落ち、茶髪のポニーテールが大理石を打つ。戦士は膝から崩れ、自分の身体を抱きしめるようにして、びくびくと震えた。
「こ、これは……伝説の魔法『快楽堕ち』……!? くっ、理論と、現実がっ――あンッ!?」
三百年の知識を持つピリカでさえ、杖を取り落とした。分析しようとする言葉は甘い悲鳴に変わり、緑の瞳から焦点が消えていく。
「ふぁぁっ……知、知識が、ぐちゃぐちゃに……っ! お、お腹の奥が、きゅんきゅんして……!」
「みんなを守り――あっ、クレア、クレアぁぁっ!」
ライラの聖なる防壁は、ピンクの魔力に呑まれて形を失った。祈りの言葉は熱い吐息に溶け、聖女は勇者の名前を呼ぶことしかできない。
「だめ、こんなの、聖女なのに……クレアの前で……んぁぁっ!」
三人は、もう立つことすらできなかった。
「……嘘、だろ?」
レベル九十九の最強パーティが、魔法を交えることもなく、数秒で全滅した。理解が追いつかず立ち尽くすクレアへ、アイリーンが蕩けるような笑みで歩み寄る。
漆黒のドレスは、薬の影響で、腰のあたりが不自然に膨らんでいた。
「抵抗は無意味よ、勇者サマ。その『硬い』身体も、中身はとろとろの女の子なんだから」
「くっ……! みんな、しっかりして……!」
聖剣の柄を握った瞬間、背筋に電撃が走り、足から力が抜けた。罠の魔力は、勇者の身体にも深く染み込んでいた。
「ひっ……な、なに、この感覚……っ」
膝が折れ、聖剣がカランと落ちる。魔王はその腰を抱き寄せ、首筋に唇を這わせた。
「ひぁぁぁっ!?」
「は、離して……っ、こんな、勇者の、私がっ」
「いい声。もっと出して。仲間が、ちゃんと見てるわよ」
顎を掴まれ、倒れた三人のほうへ顔を向けさせられる。
「み、見るな……っ、見ないで……シンディ、ピリカ、ライラ……っ」
胸当てが引き剥がされ、留め具が床に転がる音が、やけに大きく響いた。魔王はクレアを玉座の前の床に押し倒し、金の髪を扇のように広げさせると、その上に覆いかぶさった。
「や、やめ……っ、そんなの、無理……っ」
「無理じゃないわ。あなたの身体は、もう私を待ってるもの」
拒む言葉は、最後まで続かなかった。魔王の身体が沈み込み、クレアの喉から、声にならない悲鳴が押し出される。
「あ゛ぁぁぁっ……!!」
それは戦いではなかった。玉座の間に、肌と肌のぶつかる乾いた音と、勇者の乱れた息だけが規則正しく響く。罠に書き換えられた身体は、クレアの意志を裏切り続けた。
「いや……っ、いやなのに……っ、声が、勝手に……っ」
倒れた三人もまた、魔力の余波に呑まれていた。シンディは床に爪を立てて身をよじり、ピリカは銀髪を振り乱して喘ぎ、ライラはクレアの名前を何度も呼びながら泣いていた。四人の声が重なり、甘い匂いが玉座の間を満たしていく。
「ほら、言ってみなさい。何が欲しいか」
「そんな、言えるわけ……っ」
「言わなきゃ、終わらないわよ」
高潔な勇者の唇が震え、言いたくもない言葉が、薬に言わされるように零れた。魔王は満足げに笑い、いっそう深く身体を沈める。
「頂くわよ。身体も、声も、魂も」
「ま、待って……魂まで、そんな……っ、私、まだ、世界を……んむっ」
唇を塞がれ、最後の抵抗も届かなかった。魔王の腰が大きく震え、クレアの身体が弓なりに反り返る。
「あ……あぁ……っ」
意識が白く飛ぶ。耐えきれなくなった「魂」が、光り輝く淡い球体となって口からこぼれ落ちた。高潔だった勇者の核が、弱々しく揺らめく。
「あははははっ! 極上の魂!!」
魔王はそれを鷲掴みにし、丸呑みにした。膨大な経験値とエネルギーが爆発し、魔王城全体が激しく揺れる。
「美味い……っ、こんなに濃い勇者の魂、初めて……んふぅっ……」
クレアの身体は、魂を失ってがくりと脱力した。碧眼は虚ろで、汗に濡れた金色の髪が床に広がっている。
シンディも、ピリカも、ライラも、その光景をただ見つめたまま、小さく震えていた。言葉にならない吐息だけが、玉座の間に残っていた。
その地獄のような惨状の中、ただ一人。
(……クレア、私の、クレア……ッ!)
愛する者への執念だけで僅かな意識を繋ぎ止めた聖女ライラが、限界を超えた聖魔力を振り絞り、緊急転移魔法を発動させた。指先が光り、床に倒れた三人と、魂の抜けた勇者の身体を包む。
「まだ……終わらせない……クレアを、置いていけない……っ」
眩い光と共に勇者パーティは消え去り、後には快楽に酔いしれる魔王の嬌声と、玉座の間に残された甘い水音だけが残されていた――。
空っぽになった絶世の美女の身体は、このあと、別の魂を待つことになる。




