カエデとの電話5
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
「あ、そういえば、その『旧第二東京都市』って、北海道だったよね?」
『ええ、そうよ。ねえ、スズ。そういえば、あなた、北海道出身よね?』
「うん。釧路だよ。小さな街だけど、いい所だよ。トシヤさんとオウカさん——あ、育ての親代わりの二人も、優しい人なんだ」
『春風夫妻ね。知ってるわ』
「え? あー……確か、私たちって、なんか報告書に書かれるんだっけ? ちょっと恥ずかしいね」
スズは、片手でうなじに触れる。
パイロットの個人情報は、分厚い報告書にまとめられ、一括して『資料室』に置かれるのだ。
『報告書に書かれる私の情報なんて、ただの文書だから、感情なんて抱かないもの——そうだと思っていたのだけれど、違ったのね』
スズは呆気にとられて、口走っていた。
「感情なんて抱かない……」
すぐに彼女は思い直すと、再び、カエデに尋ねた。
「あ……ユキ、今日、どこいるか知ってる?」
『ユキ? 彼女、今日も検査よ。今はきっと、林主任と一緒にいると思うわ。
ところで、スズ。私たちのことを名前で呼ぶことにしたの?』
「ん……あ、うん……」
スズは気まずそうに、片手をもじもじさせた。
「カエデ。あの……本当に、ユキは、私のお母さんを殺したの?」
少しの沈黙のあと、カエデは静かに話す。
『あのとき、ナギサ主任たちを助ける方法はなかったわ』
「たち? お父さんたちって——ユキも言ってたけど、私のお父さんもそのときいなくなって……」
スズはカエデの話を聞いていたが、耳鳴りがうるさくなっていた。
「カエデは……?」
スズは、あの日のカエデの行動を、どうしても彼女本人に尋ねたかったのだ。
『私はいなかったわ。じゃあ、また明日ね』
「あ、うん……また明日」
彼女は不自然さを覚えながら、携帯電話を切った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




