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異世界は壊すためにある!  作者: 加賀瀬 日向
第2章 少年と娘の大冒険
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第21話.秘密の冒険・後


 鼓動が跳ね上がる。それは声をかけられたことにではなく、気配もなく現れたことにだ。足音1つ立てずにこちらへ近付く女性に、思わず身体が震える。


「どうして怯えているの?」


 すると女性が足を止めた。

 コトリ、と小首を傾げると鈴の音が微かに響く。それはやけにリアルに感じ、女性の存在を一気に現実のものへと引き上げた。



「……アンタはゴーストじゃない?」



 自分でも失礼な質問だと思ったが、その問いかけに彼女はクスリと笑う。


「えぇ、違うわ。嘘だと思うのなら触れてみなさい」


 ちょっと迷うと彼女は再び近付いてきた。大丈夫、と呟くなり彼女は私の手を取り自らの頬に当てる。その感触はまるで傷一つない玉を撫でるかのように滑らかで、そして人の温もりがあった。


「……ね? 生きているでしょう?」

「うん、ゴーストって言ってごめん」

「良いのよ。私達は生きながら死んでいるようなものだから」


 逆に私の方が冷たくて申し訳ないな。愛おしそうに頬を擦り寄せたのち、女性は私の手を離す。改めて見るととても美しい人だ。ラーナは精巧な人形のようだが、彼女の場合は所作が美しい。歩き方、手の取り方、そして微笑む唇の角度。その全てが美しいと感じさせる方法を知っているようだ。こちらを見つめるアイス・ブルーの瞳も氷を閉じ込めたようで綺麗。

 メンバーの1人だろうか。そんな疑問が頭をよぎるも、彼女は再び歩き出す。


「ここにいる神骸は『休眠中』なの。いきなり触れたらビックリして起きちゃうかも」

「神骸は寝ているの?」

「えぇ、次の主が見付かるまで優しい夢を見ているのよ」


 ピンと来ないが、言われてみれば神骸は眠っているようにも見えた。ゆっくりと浮き沈みを繰り返すその動きが深呼吸しているように見えた、というだけだけど。

 鈴の神骸の前で止まった彼女の横に並び、同じように足を止める。


「ここにあるのは全部、回収した神骸?」

「の、一部。神骸は持ち主によって栄光も破滅ももたらす無垢の存在だから、オウマは回収した神骸を『浄化』したあと、こうして休眠状態にしているの。また辛い思いをして欲しくないから」

「そっか」


 無垢は何物にもなれる自由な存在だ。まるで真白のキャンバスに色を乗せるかのごとく、己を何色にも変えられる。けれど描き出される絵は書き手次第なのだ。例えキャンバスの意志にそぐわないものだったとしても、書き手が望めば如何なる絵も描かれる。オウマはそれを1つ1つ丁寧に真白へと戻しているのだ。


「優しいんだね、オウマは」

「えぇ、とても優しいヒト」


 女性が手を翳すと神骸はくすぐったそうに瞬いた。一体どんな夢を見ているのだろう。ふと視線を向ければ、女性が私を見つめている。


「……アナタは特別よ」


 光を孕んで煌めくアイス・ブルーの瞳は、鏡の如く私の姿を映し出していた。


「私達はこの先アナタを仮の主として認めるでしょう。無垢の魂核は私達と同じ存在……されど、()により産み落とされた原初の欠片は全てを従えることが出来るの。だって透き通っているから」

「……? どういう、意味?」

「ふふっ、いずれ分かるわ。真白のキャンバスに色を乗せるその時は……どうか私の名を呼んでちょうだいね。アイロ」


 最後に私の頬をひと撫でして彼女は身を翻した。


 咄嗟に引き留めようと手を伸ばすが、不意に神骸が強く瞬く。目覚めたのかと思うほどの眩い閃光に、私はつい反射的に目を閉じてしまった。

 瞼の裏が鮮明に見えるほどの光はすぐさま収まり、深い闇に包まれる。やがてぼんやりと淡い光に誘われ恐る恐る目を開けると――既に女性は、部屋の何処にもいなかった。


 まるで明晰夢でも見ていたかのような出来事だ。彼女はどうして私の名前を知っていたのだろう。急に怖くなってキョロキョロ見渡してしまうと、後ろから「アイロ?」という声が聞こえる。


「オウマ……」

「まーったく、このじゃじゃ馬娘。どうやってこの部屋に入ったんだい?」


 私以外がこの部屋にいることにホッとし、安堵の息を吐く。腕を組みながら微笑むのはオウマだ。流石にスーツではなかったけれど、灰色のワイシャツと黒のパンツは昼間とさほど変わらない。その物言いからして、この部屋は入っちゃいけなかったようだ。


「歌を辿ったら入れた。アイス・ブルーの目の女の人がいたよ」

「アイスブルー? ジジに会ったのかい?」

「ジジだったんだ」


 あのお花畑を育てている人なら不思議な雰囲気も納得である。小走りで彼の元へ近寄ったのち、ペコリと頭を下げる。


「勝手に入ってごめん」

「立ち入りは禁止していないから大丈夫だよ。さっ、キミも早く寝なさい。不安なら眠るまで傍にいてあげるから」

「じゃあ子守歌を歌って欲しい。いつも、そうしてもらっていた気がするから」

「えぇ? あまり得意じゃないんだけどなぁ……」


 じんわり苦笑いを浮かべつつも、彼は私が眠るまで子守歌を歌ってくれた。彼の故郷でよく歌われていたという、何処か遠い国の言葉で。



 夢で見た雪化粧の美しい山とピンクの小花が咲く木々は、不思議と懐かしさを感じさせた。


第2章、完結です! ここまでお読みいただきありがとうございます!

「面白い」、「続きが読みたい」と思った方は、是非ブックマークや評価などよろしくお願いいたします!

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