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泉のほとりで

 スオウが去った後、四人は一気に脱力した。緊張状態が解けたのだ。だがただ一人、芹也だけは怒りの表情で立ち尽くしている。

 

「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる。」


 芹也はそう言うと、一人で進んできた道を戻り始める。


「芹也、どこに行くんだ!?」


 アルスが慌てて声をかけると、芹也は振り返ってポツリと呟く。


「この近くの泉。昨日あったの見かけたから。」


 そう言うと、また一人でどんどん進んでいってしまう。心配になった葵はアンディを抱えたまま慌てて芹也の後を追った。


「高田さん!」


 葵が追いついた時、芹也は泉の脇に座り込んでいた。声をかけた葵を見て、驚いた表情になる。


「大沢さん?」


 アンディを抱えて小走りで走ってきた葵は肩で息をしていた。


「高田さん、足早すぎですって。」


 葵はそう言うと、芹也の隣に座る。


「葵はこれでも毎日俺の散歩の後軽くジョギングするくらいには鍛えてたんだけどな。」


 アンディが不思議そうに芹也の顔を見ると、芹也は苦笑する。


「そりゃ俺は高校まで30分自転車、部活で走り込み、あと楽器がでかいから筋トレも欠かさないし。軽いジョギングくらいじゃ追いつかないと思うよ。」


 それを聞いてアンディは「へえ」と声を上げた。芹也はどちらかというと細身なので、そんなに鍛えているようには見えなかったのだ。


「それにアンディが地味に重いんですよね、四キロあるから。」

「ああ、それじゃいい鍛錬になったんじゃない?」


 葵がはあ、とためいきをつくと、芹也がふふっと笑って軽口を叩く。葵はよかった、と思った。軽口をたたけるくらいの余裕はありそうだ。

 そんな芹也に、葵はあの、と声をかける。


「さっき、スオウにすごく怒ってたじゃないですか。あれってこの間話していたことと関係ありますか?」


 気持ちが鈍らないように一気に吐き出すように喋る。そんな葵を芹也は驚いた表情で見つめた。


「なんでそれがそうだって思ったの?」


 葵は芹也を見つめ返し、目をそらさないようにして返す。


「高田さんが、辛そうだったから。」


 そこまで言って、葵は目をそらした。そして慌てて言い募る。


「あの、話してほしいとかじゃなくて。もしかしてそうなのかなって思ったのはそうなんですけど、でも、言いたくないことを無理やり聞き出そうとかそういうことじゃないですから!」


 そう言った葵を、芹也は優しく見つめた。


「ありがとう。大沢さんは優しいね。」


 そして、ため息を一つ落とし、ぽつりぽつりと話し始めた。


「俺、高三でしょ?部活も中学から吹奏楽やってて、強豪校に入りたくて必死で勉強してさ。やっと志望校に入れたんだけど、俺達が入学した代から全国大会に行けなくなっちゃったんだ。だから、俺、去年部長になってからずっと思ってた。絶対俺達がまた全国大会に行くんだって。俺達が連れて行くんだって。」


 そこまで言って、芹也は泉に視線を落とす。


「でも、高三に上がってすぐ、俺はスオウのせいでこっちに来ることになってしまった。部活の皆が困ってないか心配だし、俺にとっても最後の大会だったのにぶち壊しにされてしまったことが悔しくて。それでずっとスオウを倒して元の世界に戻らなきゃって思ってた。それが、さっきみたいに目の前ポンと現れてめちゃくちゃ動揺したんだ。ごめん。みっともないところ見せて。」


 葵は芹也の気持ちがわかるような気がした。今自分は中学の頃打ち込んでいた陸上部が通っている高校にないから帰宅部だけれども、中学の頃は大会で良い結果を残すことに向けて頑張っていた。それを途中で摘み取られてしまった芹也の心境はいかばかりか。


「みっともなくなんてないです。」


 葵はポツリと呟いていた。


「高田さんがそれだけ打ち込んできた証じゃないですか。私は今はもう帰宅部ですけど、中学までは私も部活に打ち込んでましたし分かります。絶対帰りましょう。元の世界に。」


 葵がそう言うと、芹也ははじめは驚いた表情をしていたが、そのうちふわりと微笑んだ。


「ありがとう。大会に間に合うかはわからないけど、それでもやってやるって決めたから、一緒に頑張ろう。」


 二人がそう言って微笑みあうのを見て、アンディもワン!と嬉しそうに返事をしたのだった。

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