そして朝が来た
エルデ、サーラ、エルデの順に一人称が入れ替わります。
そろそろ夜が明ける頃だ。昨日は色々とあって疲れたはずなのに、いつもより随分早く目が覚めてしまった。ベッドの上でもう一度眠ろうとしたが、どうも寝付けそうにない。私はもう一度眠ることを諦めて起きることにした。軽く身支度を済ませてからサーラが眠っている間にと思って台所へ水を飲みに来たのだが、衝立の向こう側をちらっと見ると・・・ベッドの上には・・・誰も、いない。
まさか。
何も言わずに出て行ったのか?行くあてはないと言っていたはずだが・・・。私は慌てて衝立のすぐ傍まで移動した。
衝立の裏側を覗き込むと、衝立と簡易ベッドの隙間で毛布にくるまって幸せそうに眠っているサーラがいた。私はサーラがここを出て行ってしまったと一瞬でも勘違いした自分にげんなりして肩を落とした。よくもまぁ、こんな狭い所で熟睡できるものだ。ベッドから落ちたことすら気付かないで眠っているとは、余程疲れていたのだろう。まだ時間は充分あるから、彼女が起きるまで寝かせておくとするか。
私は衝立を少しずらして隙間を作り、毛布と一体化したサーラをそっとベッドの上に戻した。衝立の隙間を元の幅に戻して、テーブルの上の水差しから自分のカップに水を汲んで飲み干すと、なるべく音を立てないようにして台所から寝室へ戻った。
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部屋の中が明るくなっている。朝・・・なのかな?私はゆっくりと目を開けた。多少ぼーっとしているが、昨日よりは少しましみたい。右の頬がじんわりと痛い。そういえば、昨日起こされた時にむにーっと引っ張られていたんだっけ。何か顔を冷やせるもの、鞄に入っていたかな・・・。私は鞄の中に使えそうなものが無いか探してみた。元々鞄の中には大した荷物が入っていた訳でもないが、小さな布きれがある。これなら使えそうかな。
私は食卓の椅子に座り、テーブルにある水差しの水を取って布きれを濡らして頬にあてた。水はそれほど冷たくはなかったが、冷やさないよりはいいだろう。濡らした布きれを頬にあててしばらくぼーっとする・・・すうっと気持ちよくなりかけた。もう一度椅子に座ったまま眠ってしまいそうだった。さすがにこれはまずいわよね。寝てしまわないようにテーブルのパンとミルクを頂こうかな。
・・・そういえば、私、最後にご飯食べたのいつだっけ?ここに来る前、私は何をしていたんだろう?
寝起きの頭でぼーっとしていたのもまずかったのか、何一つ思い出せなかった。
とにかく、お腹に何か入れておこう。私はコップにミルクを注ぎ、パンの籠を目の前に持って来てから椅子に座った。ごはんを食べる前に何かしていたような気がするんだけれど、それが何だったかが思い出せない。何か・・・に感謝していた?何かって、何だろう・・・?とにかく、今は目の前の物が食べられることに感謝しよう。
ミルクはよく冷えていて、パンは素朴な味だが噛み締めていると懐かしいような、ほっとする味がした。
ガタッと扉が開いて男の人が入ってきた。あ・・・昨日の人だ。
「お、起きたか。昨日はよく眠っていたが、身体の方は大丈夫か?」
「はい。まだぼーっと・・・していますけれど、大丈夫・・・だと思います。パンとミルク・・・とお水を少々頂きました。ありがとうございました。」
「他には何か食べなくてもいいのか?夕べは何も食べずに眠ってしまったようだが。」
「まだ・・・あまりお腹が空いていないみたいで。あとで飲み物を少しもらえれば平気・・・です。」
「そうか。それなら、書斎に移動して詳しい話をしようか。今はまだ店を開ける時間ではないから、君と話をする時間が取れる。いきなりで申し訳ないが、書斎まで一緒に来てくれないか。」
「はい、分かりました。」
と私は椅子から立ち上がって歩き始めると、男の人が私の姿を見るなり口元に手を当てて固まってしまった。
「あの・・・?」
「・・・す、すまない。昨日、君が一番上に着ていた茶色いローブはあるかな?それを上に羽織ってきてもらえると助かるのだが。」
「・・・・・・はい?」
「ええっと、だな。今、君が着ているのは、私のシャツだ。非常事態だったとはいえ、君が私という男の家で私のシャツを着ている。私達の間に何かがあった訳ではないし、実際何も無かったのだが、若いお嬢さんである君があらぬ噂を立てられるのは、私としても本意ではないのでね。」
「そう・・・なんですか?・・・ローブを羽織ればいいんですね。」
「ああ。それから、昨日着ていた服はどうしたんだ?脱衣所には置いてなかったようだが。」
「はい、自分の鞄の中に・・・しまってあります。」
「後で洗うから、ベッドの上に出しておいてくれないか。私が洗うのではないから、遠慮はしなくていい。もう少ししたら、うちの店で働いている女性が店に来る時間になるから、その女性に君の服の洗濯を頼むつもりだ。君の服をそのままベッドの上に置いておくのに抵抗があるのなら、何か袋にでも入れたほうがいいか?」
「・・・できたら、袋に入れておきたいです・・・。」
「そうか。野菜を入れている麻袋くらいしかないが、こんな物でもいいか?野菜が入っていたとはいえ、土を落として水洗いした野菜を入れていた袋だから、袋自体にそれほど酷い汚れはついていないだろう。では、これを使ってくれ。」
私はサーラに洗った人参が入っていた麻袋を渡した。サーラはそれを受け取ると、衝立の向こう側へ行った。衝立と言っても、長身の私が立っていると衝立の向こう側が丸見えなので、しばらく後ろを向いておく。バサバサと音がするのは、サーラがローブを羽織っている音のようだ。
サーラのいる方向から音が止んだので、私は身体の向きを元に戻した。しばらくして、衝立の奥から茶色いローブを羽織ったサーラが戻ってきた。
「これでいいですか?」
「ああ、そうだな。できたらローブの前をしっかり閉めてもらえると助かるよ。それはそうと、さっきの袋に君の着ていた服は全部入ったか?」
「はい、なんとか。あの・・・服を洗うんだったら、別に私でも、できる・・・と思いますよ?」
「いや、今日は急ぐから、店の者に任せよう。とりあえず、書斎に移動しようか。書斎はこっちだ。私について来るといい。飲み物もそちらで用意しよう。」
「そ、そういえばそうでしたね。ではよろしくお願いします。」
私はサーラを連れて書斎へ向かった。さて、飲み物は何にしようかな。
個人的には毛布と一体化したサーラちゃんがとても気になります。




