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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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書斎にて 1

 書斎へ入ると、私はサーラを奥の応接セットのソファーに座るように促した。

「飲み物は何がいいかな?・・・と言ってもここにはお茶しかないんだけれど、お茶は私の趣味と実益を兼ねて色々な味と香りの物を何種類も作っているんだ。うちの店でも扱っているけれど、今日はこんな物があるんだという感じで気軽に味わってくれれば十分だ。サーラは温かいものと冷たいものとどちらが飲みたいかな。」

「んー・・・温かいものを、お願いします。」

「細かいことはよく分からないと思うから、今回は私が選んでおくよ。昨日はお互いに色々あったから、気分が落ち着く物にしようか。」


 私は気分が落ち着く効能のある香草の入ったお茶を2人分用意して応接セットのテーブルに置いた。ポットにお替わりも用意しておこう。これからお互いに話をしなければならないからね。

「何か、つまむものがあった方がいいか?」

「つまむ・・・もの・・・ですか?」

「ああ、お茶と一緒に食べる食べ物のことだよ。うちには焼き菓子と果物位しかないが、それで良ければ持ってこよう。」

私は来客に振る舞う焼き菓子数種類を皿に乗せ、サーラの前に置いた。

「ええと・・・これ、食べて・・・いいんですか?」

「ああ、勿論だとも。好きなだけ食べていいよ。」


 お皿の上の焼き菓子を一通り見比べると、丸い形の焼き菓子に手に取ってサーラは一口かじった。


「!・・・おいしい・・・。」


 甘い物の力は偉大だな。サーラが無邪気に微笑んで食べる姿は可愛らしかった。美味しそうに食べる様子を見ると、私の気分も和んでくる。やはり、まだサーラ自身は若いのだろう。

「そうか、気に入ってくれたようで何よりだ。それでは、昨日のことから話をしようか。」

「はい・・・実は、わ、私も・・・、お・・・お聞きしたいことがあるのですが・・・。」

サーラが上目遣いに、私の方を恐る恐る見て来た。何か分からないことでもあったのだろうか。

「ん?そうか。私は別に構わんよ。遠慮なく言ってみたまえ。」


 サーラはおずおずと口を開く。何やらとても言いにくそうだ。私は怪訝な顔をしてサーラを見た。


「あのー・・・・・・ちょっと、今ごろ?今更?・・・と言われてしまうかも・・・しれない・・・のですが。あ・・・あなた様の・・・お名前を・・・お、お聞きしても・・・よろしい・・・でしょうか・・・。」

途切れながらも小さな声で何とか言い終えると、サーラは下を向いて俯いてしまった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 


 私の中で何かが一周回って、帰ってきた。


「えっ?!・・・・・・君、わ、私の名前、知らなかったのか?」

「はい・・・昨日はとても眠くて。昨日寝る前に、そういえば・・・私、あなた様のお名前を聞いてなかったなぁ・・・と、思い出しまして。今もこうしてあれこれ親切にして下さっているのにも関わらず、お名前をお聞きするのをすっかり忘れてました。本当にすみません。」

サーラが恐縮してぴょこん、と頭を下げた。


「そ、そうか・・・。私自身も動転して名乗るのを忘れていたということだな。それは大変失礼なことをした。部屋は別とはいえ、見ず知らずの男の家にいきなり泊まれと言われて、さぞかし戸惑っただろう。すまなかったね。私の名前はエルデ・ノーティスだ。付け加えると、ここは私の店と家を兼ねた建物だよ。」


まずい。動揺してうっかり下の名前まで名乗ってしまった。またロイに怒られる。


「ノーティスさん・・・ですね。分かりました。」

「いや、エルデでいい。店の者をはじめ、友人や知り合いは私のことを皆エルデと呼んでいる。」

「そうなんですね・・・。それでは、エルデ・・・さん、と呼ぶことにします。」

「ああ、そうしてくれ。ここではノーティスの名はほとんど使わないので、エルデの方が私も落ち着くんだ。」

「はい。わかりました。エ・・・エルデさん。まずは、色々とご親切にありがとうございます。」

ソファーに座っているのに深々とサーラが頭を下げる。そこまでされるとこちらが恐縮してしまう。


 「ああ、私が君をここに連れて来たのだから当然だよ。それでも君も運が良かったな。昨日君がいた場所に普通の人はまず来ないからね。私が君を一緒に連れて行かなければ、夕べのうちに君は魔獣の餌食になっていただろう。私以外であの森に行く人はほとんどいないんだ。」

「え・・・そうなんですか?」

「そうだよ。それに、私も毎日あの森へ行くわけではないからね。本当に、君を見つけたのは偶然としか言いようがないよ。」

「は、はぁ・・・。」

ファルドの森の話ばかりをしても先に進まないな。私はお茶を一口飲んで話題を変えることにした。


 「話を変えようか。君の名前は、サーラだったね。サーラというのは、何か他の名前を短くした呼び方なのかい?」

「いえ・・・私の名前は、サーラ・ファリュージャ・・・と言います。」

「サーラ・ファリュージャ・・・ね。ファリュージャ?うーん、聞いたことのない名前だな。どこの一族だ?」

「いちぞく・・・ですか?」

「ああ、君と同じ名前のファリュージャを名乗る他の者達はどこに住んでいるんだ?」

「え・・・?他の・・・ファリュージャ・・・?」

「分かりやすく言うとだね、君の家族や親戚といった血の繋がりのある者達はどこに住んでいるのか?と聞いたんだ。」

「ええっと・・・かぞく?・・・しんせき・・・?私・・・かぞくは・・・いたの・・・かしら?」

「えっ?」

「ごめんなさい、よく・・・わからない・・・んです。」

サーラは困った顔をして下を向いて向いてしまった。


「そうか、よく分からないんだね。まぁ、今すぐ無理に思い出そうとしなくていいよ。思い出せないということは、何か自分にとって思い出したくない出来事があった場合もあるからね。君の状況が落ち着いたら徐々に思い出してくることもあるだろう。何か君自身について思い出したことがあったら、私に教えてもらえると有難い。それと、夕べも聞いたことなんだが・・・もう一度君自身について確認したいことを聞いてもいいかい?」

「はい・・・何でしょうか・・・」

「君は現在エルヴァトラ王国の王都サーティス・・・の外れにいるんだが、君は本当にエルヴァトラ王国という国名や王都サーティスという地名を聞いたことはないのか?」

「はい。・・・たぶん、昨日エルデ・・・さんから聞いたのが・・・初めてだと思います。」

「そうか。それなら、ここサーティスに君の血族、血の繋がりのある家族や親戚は誰もいないと判断して問題はないね。」

「は、はい・・・そう・・・だと思います・・・。」

「くどいようで悪いけれど、王都サーティスという地名も初めて聞いたということは、ここに仕事の伝手があって働きに来たというわけでもないんだね?」

「はい・・・そうです。私・・・こ、こちらでお仕事を探さないといけないのでしょうか。少なくとも、こちらで、お世話になった分はお返ししないと・・・。ああっ!」

サーラが口に両手を当て、目を見開いた。


「どうかしたのかね。」

「わ、私さっきの部屋に忘れ物をして・・・今、取りに行って来ても大丈夫ですか?」

「ああ、構わんよ。そろそろ店で働く者も来る頃だから、洗濯物の出し忘れも無いようにもう一度確認してくるといい。ついでに、洗濯物以外の荷物を全部こちらへ持って来てもらえるかな。」

「わかり・・・ました。ありがとうございます。」


 サーラは慌てて立ち上ってお辞儀をすると小走りで部屋を出て行った。パタパタと足音が聞こえる。私が今までに見たことのあるサーラの中で最速だ。一応普通に動けるんだな、と思ってしまったのは内緒だ。サーラがこちらに戻ってくる前に、私も頭の整理をしておこう。

ロイはしばらく名前のみの登場です。

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