サーラの魔力検査 4
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「あ~あ、すぐに行っちゃったねぇ。サーラ、仕事は大丈夫?」
「は、はいっ。大丈夫・・・です。たぶん、ミリルさんは・・・」
とサーラが言いかけた所でミリルがバタバタと戻って来た。
「エルデさん、ありませんでした!」
「は?」
私はミリルの勢いに圧倒されつつも何とか平静を保とうとした。
「だーかーらー、エルデさん、私の教本を置く場所です。」
「え?良さそうな場所はなかった?」
「残念ながらそうですね。作業場だと材料の汁や水が教本にかかってしまいそうで嫌です。」
「別に教本用の棚に結界を張っても良かったんだけど。」
「そういったご配慮は私が気になるので、エルデさんはお気になさらないで下さい!それに更衣室でひっそりと読む方がいいアイディアが浮かぶんです。」
「ミリルがそれでいいのなら、今まで通りで構わないよ。それで、教本はどれだけ置いてあるの?」
「学校の教本全部と学院の教本1・2・10ですね。」
ん、学校の教本全部?
「あ~ミリル、学校の教本って全部で何冊あるの?」
ミリルはきょとんとして私の顔をまじまじと眺めた。
「え?エルデさんならご存知かと思っていたのですが。」
「いや、実は知らないんだ。私もロイも学校へは行ってないからね。面目ない。」
「それは意外でしたわ。エルデさん、学校の教本は全部で1~14までの十四冊ですわ。」
「ああ、そうなんだね。ありがとう。ちなみにロイにもミリルが何の教本を持っているか教えてもいい?」
「ええ、構いませんわ。私は学院へは進みませんでしたが、先祖返りですからその辺りは知識は卒業後の自分の身を守るためにも詳しく知っておいた方がいい、と学校の先生に言われまして。一部学院で学ぶ内容も学校にいる間に学ばせて頂きました。」
学校や学院を卒業した者達は、各人が持っている教本の種類でその能力が類推されてしまうため、何の教本を持っているかを他人に教えるのを嫌がる者もいる。ミリルは学校の教本全部持っているから、別に誰かに教えてしまっても問題ないのか。逆にオールラウンダーとも言えるな。
「学校にいる間だけで学校の教本十四冊に加えて学院の教本四冊か。それは凄いな。」
「まあ、エルデさんが褒めるなんて。後で何かありそうで怖いですわ。」
私がせっかくミリルを褒めたというのに、ミリルに驚かれてしまった。おかしいなぁ。
「そんなことないって。今更だけど、学院に行っても十分ミリルなら通用したと思うよ。」
「別に学院に行くつもりは毛頭ありませんでしたから。あの、そんなに褒めて下さっても何も出ませんよ。エルデさんってば大丈夫ですか?」
ミリルがクスクス笑いながら心配して私の顔を覗き込んできた。私はミリルに面食らい、少し後に下がった。
「ああ、私も優秀な従業員に恵まれて鼻が高いよ。」
「重ね重ねありがとうございます。でも、私は今の生活に十分満足しておりますのよ。出来たら子供も産んでみたいですし。」
「ああ、ミリルは結婚しているものね。子供が欲しくなったら教えてね。妊娠したらミリルの代わりを務めてくれる人の手配をしなとならないから。」
「エルデさん?あの・・・私ここを辞める気は全くありませんけど?」
「勿論、分かってるよ。私もミリルが妊娠したからと言って、それを理由に仕事を辞めさせるつもりはないさ。それでも、妊娠・出産には何が起こるか分からないと聞くからね。一経営者として心積もりをしておかないとね。」
「分かりました。このことは夫と相談してから改めてお話させて頂きますわ。」
「そうだね、愛しの騎士様と良く話し合うといいよ。さて、仕事の邪魔をしてしまったから私はそろそろ退散しようかな。ミリルとサーラ、引き続きよろしくね。」
「「はいっ。」」
私は台所を出ると再び魔法屋へ向かった。
「ロイ、ミリルに聞いてきたよ。」
「エルデ様、随分早いですね。」
「ああ。実はミリルは更衣室のロッカーに自分の教本を置いているんだそうだ。」
「ああ~だからミリルは時々仕事中に更衣室に籠るのか。」
ロイは深く納得したという表情で手を打ち合わせた。
「何だ、もしかしてロイは知ってたの?」
「ミリルが教本を更衣室に置いていたことですか?」
「うん。」
「いいえ、私が知っているのはミリルが仕事中に更衣室に籠ることですよ。」
「ああ~そっちかぁ。」
何だ、私の早とちりだったか。残念。
「ここは私とミリルで共用の更衣室ですからね。曲がりなりにもミリルは人妻ですし・・・お互いに着替えるタイミングが重ならないように、更衣室を使うときは名札を更衣室の入り口に掛けることにしてあるんです。仕事中時々ミリルの名札が更衣室に掛かっているので、ああ見えても実は調子が悪くて中で休んでいるのではないかと少し気にしていたんですよね。教本を読んでいたのなら問題なさそうですね。」
私の知らぬところでロイに余計な心配をかけていたようだ。ロイってやっぱり心配性か?
「それでだ。話を戻すと、ミリルは学校の教本十四冊全部と学院の教本の1・2・10を持っているそうだ。」
「おお~学校の教本全部ですか!それは凄いな。」
「ロイ。それって、やっぱり凄いことなのか?」
「ええ。聞いた話だと学院もそうですが、学校は学院よりも本人の適性に合わせて学ぶこと優先しますので、無理して教本全てを学ぶ必要はないんだそうです。むしろ、本人の適性のある分野を伸ばすために、特定の分野をじっくり深く学ぶんだそうです。学院もそうですが、学校の方がむしろ卒業後に自分の特性を生かした仕事に就くことを強く推奨していますね。」
「要するに、学校や学院の間だけでは全分野教育するだけの時間がないってことか。」
「有り体に言えばそうでしょうね。学校や学院も費用は王国持ちですし、それぞれ向き不向きもあるから一概に何とも言えませんが。」
「それから、エルデ様。」
「ん?」
「後でお話したいことがありますので、今夜、お時間を空けておいて頂けますか?」
「ああ、別に構わないよ。」
「それでしたら、私はミリルを送りがてら一旦、着替えを取りに家に戻ります。ついでに私の教本も確認して参ります。今日は突然のことですので、私の夕食は家で済ませてからこちらへ向かいますし、明日の朝食をこちらで頂く分、何か足しになる物を自宅からお持ち致しますので、エルデ様はご心配なく。」
ロイに良い笑顔で一気に押し切られた。俺、何かやらかしたっけ?
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いつものようにミリルを自宅前まで送り届けると、ロイは自宅に戻り軽く夕食を済ませた。また魔法屋に歩いて戻ると汗をかくだろうが、身だしなみとしてシャワーを浴びておく。
「そう言えば、エルデ様から俺が持ってる教本を確認してくるように言われてたな。」
俺は書斎に入ると、書棚から教本を取り出し、机の上に並べた。
王立魔法学院教本 魔法1
王立魔法学院教本 魔法2
王立魔法学院教本 魔法8
王立魔法学院教本 魔法10
教本は全部で四冊だった。表紙には「ロイ」と魔力で自分の名前が描かれている。
「俺もエルデ様に合わせて飛び級して授業も同じものを取っていたから、エルデ様と同じ教本しかないと思うんだよね。」
久しぶりに教本8を開いてみた。教本8は魔法陣についてのもので、パラパラとめくると普段使わない魔法陣もあって参考になる。今度試しに使ってみるか。つい読み耽ってしまったが、今夜はエルデ様にちゃんと話をしなければならない。
ロイは教本の番号を机の上にあった小さな紙に書くと、教本の表紙をそっと撫でて書棚に戻した。あとは着替えと食べる物を持つだけだ。
「さて、何から話すか考えながら行くか。」
ロイは明日の着替えと朝食用のパンと果物を持ち、魔法屋へ向かった。
次回からは再び『彼ら』の話です。彼らと言えば、読者の方は誰を思い浮かべるんでしょう。皆様のご想像と合っているかどうかは、二週間後にご確認下さい。




